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5話 【忌憚の魔女】モニカ・フローリア

 




 ◆ノウェム視点





「ノウェムちゃんありがとう! これで依頼は達成だよ!」

「はいはい。今日は少し早いが街に戻ろうか」


 ノウェム達はリッツバーグの街へと戻る帰路についていた。ヒール草とキサラの実を集め終えギルドの報告へ向かおうとしている。


「マリアもフランも鍛えたらきっと強くなるな。よし、明日からあたいが稽古付けてやるぞ!」

「わんわん!」

「お、フランもやる気だな! よしよし♪ 本当に可愛いやつだなお前は♪」


 フランを抱っこして愛でているとマリアが慈愛に満ちた暖かい目でこっちを見ている。あたいは今年で19歳だ。もう立派な大人だ! 出会ってたからまだ少ししか経ってないけど、分かった事がある。マリアはお節介焼きで、同性愛者の上にアホだ。しかも、狂精会に狙われてると言うのに他人事のような感じで危機感も無い。


 この先不安だ。勿論マリアの事は守るが、敵は大陸の裏社会を牛耳る巨大な裏組織だ。あたい一人では厳しい場面が来るかもしれない。そうなれば、盟主様にお願いしてナイトメアの仲間を頼るのも選択肢に入れておく必要があるな。でも、他の幹部は実力は確かだけど癖が強いと言うか何とやら……絶対にあのセクハラ変態ピエロだけには助けを求めたくないな。


「ノウェムちゃん? どうしたの?」

「あぁ、気にするな。大丈夫だ。だ、だから頭撫でるな! あたいはこう見えて19歳! 立派な大人だっつーの!」

「くすくす♪ じゃあ私の方が歳上だから、ノウェムちゃんは妹だね♪」

「全く……マリアと居ると本当調子狂うな……」


 そんな茶番劇を繰り返しているとリッツバーグの街へと辿り着いた。門を通って中へ入ると一通りも多くて街並みも綺麗だった。あたいはこの街に来るのは初めてだ。だからワクワクもする。このリッツバーグの町は水の都とも言われているしご飯も美味しくて、観光スポットとしても有名だ。時間があればゆっくりと観光してみたいけど……




【メッセージを受信しました:セプテム・ケレブレム】



 ん? セプテムから? 珍しいな。何か緊張の案件でもあるのだろうか?


「マリア、悪いが少し外す」

「ん? どうしたの?」

「あたいの仲間から連絡が来てるんだ。金貨渡すから好きな物でも買って食べてろ」

「ふぁッ!? 金貨……こんな大金受け取れないよ!?」

「気にするな、ほらほら。釣りはいらねーから。後で冒険者ギルドで落ち合おうぜ」


 ノウェムはマリアの懐に、強引に金貨を1枚入れるとマリアは【ありがとう】と言った後に、フランを抱っこして屋台の方へと目を輝かせながら走って行った。ノウェムは暖かい目で、マリアとフランを見送ると人通りの少ない小道へと入って、周りに人が居ない事を確認してから魔道具を起動させる。


【メッセージ受諾:ノウェム、聞こえるかい?】

【あぁ、聞こえるぜ。セプテム、どうしたんだ?】

【盟主、レオノーラ様が緊急幹部会を開くとの仰せです。場所はシャルマーレ城、円卓の間。他の国で動いている執行者達全員に招集を掛けております】

【執行者全員が集まるという事は、重大な案件が起きたのだな?】

【はい、内容は全員が集まってから話します】

【了解した。直ぐに向かう】


 ノウェムはメッセージを切って顔を顰める。


「盟主様が参加されるとなると……これは恐らく狂精会(リビド)絡みの件か?」


 留守の間、マリアの護衛はモニカに任せるとするか。優秀ではあるけど、性格に多少難が……まぁ、マリアとなら気が合いそうな気もするけど。


【メッセージ:モニカ、聞こえるか?】


 ノウェムがメッセージをした相手は、ノウェムの直属の配下……【忌憚の魔女】モニカ・フローリアだ。


【は〜い、ふわあああぁ……ん。なんれすかぁ?】

【もしかして、モニカ今寝てた?】

【昨日は夜遅くまで仕事をしてたのですよぉ? もう、ネムネムにゃんこですよぉ〜】


 そうか、モニカにも無理をさせて居たのだな。これは仕事量を考えないと行けないな。配下の体調も気遣うのは上司の務めでもあるからな。


【昨日は買い溜めしておいた恋愛小説を読むお仕事してたら、いつの間にか寝落ちしちゃって……あ、ノウェム様。用件は何でしょう?】

【おいこら、あたいの心配を返せ! 全く、お前と言う奴は……そんな下らない本を読む暇があるなら、少しは他の……】

【ノウェム様! お言葉ですが、恋愛小説は奥が深いのです! 恋愛小説を読むと副交感神経が和らぎ、ストレスの緩和と妄想力……想像力が鍛えられて、更には相手の殿方を落とす心理学も学べるのですよ!? これは敵を調略する際に大いに役に立つものなのです! 恋愛に無頓着なノウェム様も一度読んで見て下さい! きっと世界観が変わりますよ? 女の子同士の恋愛小説もあるので、今度貸して上げます♪ 私のオススメは、〈禁断の恋、真夏の夜のアバンチュール〉と〈純潔の姫はドSの女に汚される〉や他にも……】

【分かった! 分かったから! モニカ落ち着け!⠀話が逸れたけど、お前にお仕事だ】


 あたいの配下にまともな奴が……うん、居ないな。モニカの他にもアイリス、シャロン、エリカ、エレノア、ジャンヌが居るけど、どいつも癖が強いんだよなぁ。その中でもモニカはまだマシな方だと思って選んだけど、人選ミスったか?


【マグリウス共和国のリッツバーグの街に来てくれ。今回の仕事は護衛だ。あたいの留守の間だけ頼む】

【了解しましたぁ。して、その護衛はどんな方で?】

【一言で言うとバブみが深い頭お花畑の美人なお姉さんだ】

【ぐふぉ!? 百合展開きたああああぁぁぁっ……!!! 身支度整えたら直ぐに向かいます! 美少女ちゃんの護衛はこのモニカにお任せ下さい!】

【お、おう。じゃあ、待ってるぜ……】


 ノウェムはモニカとのメッセージを切って、深い溜息を吐いた。





 ◆マリア視点





「ノウェムちゃんから金貨一枚頂いてしまったけど……本当に使って良いのかな?」

「わんわん!」


 まあ、厚意は素直に受け取るべきだよね! お金を前にすると私の貧相な罪悪感何て吹き飛んじゃうもん。金に汚い女と言われようとも私は構わない。今あるこの金貨があれば屋台の食べ物を好きなだけ飲み食い出来るし、生活用品も沢山買える……下着もそろそろ新しいのを新調しちゃおうかしら♪


「ぐふふ……」

「わふ?」

「フランちゃん、何でも無いよ〜気にしないで♪ さて、ノウェムちゃんの分も買ってみんなで一緒に食べよう♪」


 でも、フランちゃんには何を食べさせたら良いのかな? まだ赤ちゃんだからお肉はあんまり良くない? ミルクの方が良いのかしら? ホワイトウルフの赤ちゃん何て育てた事無いから分からないわね。


「フランちゃんは何食べたいでちゅか?」

「わんわん!」


 フランちゃんの視線の先には、美味しそうな音をジュージューと立てて焼かれているお肉の串焼き屋台がありました。あれはオークの串焼き肉ですね♪ まずは串焼き肉を沢山買いましょう!


「すみません、オークの串焼き30本下さい!」

「いらっしゃい! 毎度有り……」

「わふ?」


 ん? どうしたのかしら? 私の顔を凝視してる。何か付いてる? え、顔は今朝しっかりと洗った筈……


「あ、あのぉ……」

「美しい……はっ……!? すみません、串焼き300本ですね!」

「桁が一つ増えてますよ!?」


 屋台の店主は、何だか優しそうな赤髪の好青年と言った感じの方です。顔を赤くして熱でもあるのでしょうか?


「大丈夫ですか? 顔が赤いですけど……」

「だ、大丈夫ですよ! あ、良かったらサービスしますよ!」

「え、本当ですか!? ありがとうございます!」


 ここの屋台の店主さんは太っ腹ですね! 代金は半額で良い何て……このオークの串焼き美味しそうです! 脂が乗ってて食欲をそそりますね♪


「あ、あの! お、俺カリムって言うんだ! 良かったらお名前を教えて貰っても?」

「私はマリア。マリア・ステイシアと申します♪」


 珍しいですね。大半の殿方の人は、私の胸ばかり見る方が多いのにカリムさんは、私の目をずっと見てる。ここの店主さんと仲良くすれば今後とも串焼きをサービスしてくれるかもしれないわね♪ 人との繋がりは大切にすれば良い事がありますから♪


「マリア……マリア・ステイシアか」

「えと、お会計は……?」

「も、持って行って下さい……お金はいりません」

「ええぇ!? さ、流石にそれは申し訳無いと言うか……」

「良いのです! さあ、どうぞ!」

「ありがとうございます。次はちゃんとお金を払わせて下さいね♪」


 やったね! 半額からいきなり無料になるとは思いませんでした。これでお腹いっぱいお肉が食べれます♡ 久しぶりのまともな食事ですよ!


「わんわん!」

「あらあら♪ よしよし♡ 向こうのベンチに座って少し食べましょうか♪」


 ノウェムちゃんの分は残しておいて、後で冒険者ギルドで合流した時に渡すとしましょう。お腹ペコペコなので、フランちゃんと先につまみ食いです♡


「フランちゃん、熱いから気を付けてね」

「わふ!」


 可愛い過ぎる! 尻尾フリフリさせちゃって♡ 私を悶え殺しにしたいのでちゅか? フランちゃんは罪な子ね♡


「わふ?」

「ん? どうしたのフランちゃん?」


 フランちゃんが見つめる先には、裏路地の方から小さな子供達が私の方をじっーと見つめています。年齢はバラバラですが、みんな薄汚いボロボロの衣服を身に纏っています。よく見れば獣人族の小さな女の子も居ますね。可愛い♡


「そっか、お腹空いてるんだね♪」


 私は子供達の方へと笑顔を浮かべながら近付いて行きました。私の事を凄い警戒していましたけど、小さな女の子が涎を垂らしている様子を見た最年長であろうお姉ちゃんが、申し訳無さそうにこちらに声を掛けて来た。


「す、すみません! 余りにも美味しそうでしたので……こんな事をお願いするのは烏滸がましい事だと重々承知です。そのオークの串焼き肉を少し分けて頂けませんでしょうか! この子達が食べる分だけでも!」

「顔を上げて♪ お姉ちゃんはさっきご飯食べたばかりだから、これは皆んなで分けて食べて♪」

「え、良いのですか!?」


 この子達はきっと親に捨てられた孤児の子なのでしょう。最年長のお姉ちゃんであろうこの子も年齢は恐らく10歳にも満たないくらいでしょう。成長期なのに痩せこけて可哀想に……


「うぅ……ぐすんっ……」

「まともなご飯……」

「お、お姉ちゃん……久しぶりのご飯だよぉ」

「ふぅええええんんん!!」


 あらあら、これは大変! こういう時は抱きしめて頭を撫でて上げるのが一番ですが、人数が多いのでこれは困りましたね。


「わんわん!」

「あら、フランちゃん?」


 フランちゃんがトコトコと子供達の方へと近付いて行き、身体をスリスリと擦り付けています。泣いていた子供達が次第に泣き止んで行きました。


「可愛い……」

「もふもふさん!」

「なでなでしてもいい?」


 フランちゃんは凄いです! あっという間に子供達の人気者になってしまいましたね♪ とりあえずこれで一安心です。


「本当にありがとうございます。私の名前はミレーユです。この子達の面倒を見てるのですが、もうこの生活も限界で……」

「私の名前はマリアだよ♪ 宜しくねミレーユちゃん♪ そっか、大変な思いをして来たんだね」


 私はミレーユちゃんの小さな震える身体を優しく抱きしめました。ミレーユちゃんだって、まだまだ親に甘える年齢の筈なのに強がって無理をして来たのでしょう。


「あ、あぅ……そんな、私は汚いので……汚れちゃう」

「そんな事無いよ、ミレーユちゃんは綺麗ですよ〜」

「うぅっ……私……そんな事言われたの初めて……」


 大人の都合で身勝手に捨てられる子供達。それは余りにも理不尽過ぎます。親の温もりや愛情に触れる機会が無いのは可哀想です。こんな事をしても周りからは偽善だの何だの言われるかもしれませんが、動かないで何もせずただ傍観している大人達よりは、少なくともマシです! この国の貴族達は腐敗している。中には良き人も居るでしょうが、民を苦しめて私腹を肥す人達の方が大勢いる。しかも、孤児院で暮らしていると言うのにこんなみすぼらしい格好で痩せこけて……いくらお金が無いとは言えこれは流石に……


「よし、お肉好きなだけ食べなさい! 遠慮するのは駄目! これはお姉ちゃんからの命令よ♪」


 すると子供達は目をキラキラと輝かせながら、お肉を美味しそうに頬張って食べています。成長期何だからもっと食べないと駄目なのです!




 ―――10分後―――




 子供達がお肉を食べた後に、マリアは子供達の話しを聞いて苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていた。


「それで、孤児院の先生から暴力を受けて、更にはご飯も食べさせて貰えないと……」

「うん、私より上のお姉ちゃんは毎晩先生のお部屋に呼ばれて……部屋からお姉ちゃんの悲鳴や泣き声が聞こえて来て……私、どうしたら良いか……」

「何よそれ……そんな横暴が許されて良い筈が無いわ!」


 何とかしてあげたい……でも、私一人の力ではどうする事も出来ない。



 マリアは拳を握りしめていた。マリアはこの街を愛している。愛しているからこそ、裏でそんな横暴な事をしている人達に憎悪と怒りのような許せないと言った感情に包まれていた。


「大丈夫、お姉ちゃんに任せて」


 ノウェムちゃんに頼るのは情けないと思うけど、ここはこの子達のためにも相談しよう。私に力は無くとも出来る事はある筈です!






 ―――――――――――――――






「わんわん!(マリア……)」

「…………」


 気持ちは分かるが、世の中綺麗な事ばかりでは無いのだ。俺も暗殺者として、様々な裏世界の仕事を請け負って来たが、孤児や奴隷に胸糞悪い奴等何て星のように居る。弱肉強食がこの世の理だ。弱者は強者や権力者に淘汰されて行くのが現実だ。


「お? マリアこんな所に居たのか。てっきり冒険者ギルドに向かったのたかと……」

「おやおや? 貴方がバブみの深いお姉様ですかぁ?」


 誰だ? ノウェムの後ろに銀髪の魔女っ子の格好をした女の子が居る……ノウェムの仲間か? 何だか間抜けそうな魔女っ子だな。人生に悩みのなさそうな顔をしているぞ。


「ノウェムちゃん! えと、そちらの可愛い女の子は?」

「あぁ、こいつはあたいの部下の変態だ」

「ノウェム様!? 私はモニカですぅ! モニカ・フローリア! 人を変態呼ばわりするなんて酷いですぅ〜そう言うのをパワハラと言うのですぅ!」


 モニカはしくしくと泣いた素振りをしていた。そしてポケットから、何やら白い布をゴソゴソと取り出して自分の目元を拭う。


「なぁ、モニカ。その白い布は何だ?」

「へっ? 普通のハンカチですよぉ〜♪」

「ほう……嘘付けっ! それ、あたいのパ……パンツじゃねーか!! れっきとしたセクハラだぞ!」

「あちゃぁ……本当だ! まあ、女の子同士なのでセーフですよぉ♪ てへぺろりんこ♪」

「モニカ、おまえ今月の給料減俸な」

「ほんとまじ調子乗ってすみませんした! お願いしますぅ! 神様仏様ノウェム様! 今月は予約している魔導書(恋愛小説)が沢山あるのです! どうか! どうかこのモニカにご慈悲を!!」

「ほう、モニカが魔導書とな……どうせ如何わしい物なんだろ?」


 何だ……この茶番は……子供達もポカーンと口を開けて見ているぞ。と言うか俺もどう反応して良いのやら……


「ノウェムちゃんがそんな可愛いパンツを履いていたなんて……」

「わんわん!?《マリア、突っ込む所そこで良いのか!?》」


 マリアとモニカ……アホが2人か。これは苦労しそうだな。


「あたいのパンツの話しは止めろ! 返せモニカ!」


 ノウェムはモニカの手から白い布を強引に奪い取る。


「全く……これだからモニカと居ると疲れるんだよ」

「ノウェム様、今夜は寝かせないZE!」

「あほ」

「ふげぇ……!?」


 モニカの頭にノウェムのゲンコツが直撃して、モニカは涙目になりながら頭を押さえていた。そして、俺達の方へと向き直った。モニカが急に真面目な雰囲気になったぞ?


「ごほんっ……改めて名乗ります。私はノウェム様直属の配下、【忍影(ファントム)】の二番隊隊長を務めるモニカ・フローリアと申します」

「あらあら……うふふ♡ 何か凄そうな肩書きだね。私はマリア。マリア・ステイシア、宜しくねモニカちゃん♪」

「なっ……!? なんと言う……眩しい。ママ属性強すぎぃ! これがバブみと言う私の知らない未知の世界。あ、マリアお姉様と呼んでも?」

「うん♡ 好きに呼んで良いからね♪」


 マリアとモニカはお互いに似た所があるのだろう……何だろうこの気持ちは……まるで自分の娘に友達が出来て嬉しいような……まあ、俺には子供や家族が居ないから分からないけどな。


「なぁ、マリア。そこの子供達は何だ?」

「ノウェムちゃん、実はね……」


 マリアはこれまで子供達から聞いた話しをノウェムに伝えた。ノウェムもまた苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


「何処まで行っても、そういう輩は有象無象に湧いて来やがるな。本当に胸糞悪い話しだぜ」

「ノウェムちゃん、私この子達を助けたい……力を貸してくれる?」

「あぁ。あたいに任せろ。だが、まずは情報を集めなければ行けないな。孤児院と繋がりのある関係各社を洗い出して見よう」


 ふむ、暗殺なら俺の本業だが、今の俺の身体では無理だな……今の俺に出来る事はあるのだろうか?


「モニカ、あたいはこれから用事があるからマリアの護衛を頼む。人手がもし足りない様なら他の仲間を呼べ」

「はぁ〜い♪ 了解ですぅ♪ マリアお姉様に近付く羽虫は、全身滅多刺しにして、バラしてから回復魔法を掛けながらこの世のありとあらゆる苦痛を与えて、灼熱の業火で燃やして殺します♡」


 この魔女っ子笑顔でさらっとトンデモ無い事を言ってるぞ!? まあ、いざとなれば俺がこの身を盾にして守ってやるけどな。それくらいしか今の俺には出来なさそうだ。


「ノウェムちゃん、夕飯までにはちゃんと戻って来るんだよ? ハンカチ持った? あ、スカートの裾捲れてるよ」

「マリアはあたいのオカンか!? ちと仲間に会ってくるだけだよ」


 そうえばノウェムの所属していると言う組織が気になるな。確か、ナイトメアだったか? その中でもノウェムは最高幹部の執行者と言う立場らしいが、今の現状では何も分からないな。ノウェムともっと親しくなればいずれ全容が見えて来よう。どの道今の俺では、人間の言葉を聞くことは出来るけど返す事が出来ないからな。


 言葉のキャッチボールで例えるなら、飛んできたボールはキャッチ出来るが、相手に投げる事が出来ない。俺のスキル、万能言語のレベルを上げたら話せるようになるのだろうか? その前にスキルの上げ方もイマイチ良く分かっていない。


「じゃあ、モニカ頼んだぞ」

「はい、ノウェム様行ってなさいませ!」


 ノウェムは薄暗い路地の奥へと消えて行った。


「ごめんね待たせちゃって」

「ううん、マリアお姉ちゃん。串焼き肉ありがとね! 私達は町外れの孤児院に住んでるから」

「分かった。待っててね。お姉ちゃん達が何とかするから」


 マリアは子供達を暖かい目で見送った。マリアの目は決意に満ちたような目をしている。


 マリアは本当に優しいな。俺は沢山の人達を殺めて来たが、これからは真っ当な道を歩けるように努力をしよう。マリアの事は俺が命を掛けて守る。そして、沢山の人間を救ってやろう。それが今の俺に出来る罪滅ぼしだ。


「マリアお姉様、これからどうします?」

「冒険者ギルドにヒール草とキサラの実を納品してから、孤児院の事について調べて見ようと思う」

「分かりました。私の部下を総動員させましょう」

「モニカちゃんありがとね。ノウェムちゃんやモニカちゃんにまで迷惑を掛けちゃうけど……」

「マリアお姉様、大丈夫です。それに、私も孤児でしたので、子供達の気持ちは分かるのです。ノウェム様やアシュリア様に拾われた身ですし……」


 モニカも孤児だったのか……こんな人生に悩みのなさそうな子でも過去はきっと壮絶だったのだろうな。辛い事を乗り越えて今があるのだろう。


「わんわん《モニカ宜しくな。俺の名はフランだ》」

「きゃわいい♡ 魔物の赤ちゃん?」

「うふふ♡ 私の家族のフランちゃんよ♪ もふもふで可愛いの!」


 どうして俺はこうなるのだ……この見た目のせいで暗殺者の頃の貫禄も風格も全てが台無しだ!


「わんわん……わんわんわん!《こら、モニカ! 離せ! 俺は自分で歩ける!》」

「おお! フランちゃん喜んでるのかな? 凄いもふもふして気持ち良いですぅ♡ 少しひんやりしてて最高!」

「がるる!?《俺は抱き枕じゃないわ! 離せ!》」


 俺は魔女っ子娘のモニカに抱かれて、冒険者ギルドへと向かう事となったのであった。マリアに助けを求めてもくすくすと穏やかな笑みを浮かべるだけで、俺の事を助けてくれなかったのだ。せめて、もう少し優しく抱いて欲しい。とほほ……


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