3話 受付嬢♂
(俺が可愛いだと……?)
冒険者ギルドに入ると有象無象の輩達が、寄ってたかって俺の頭を撫でて来るのだ。確かに身体は小柄になったが、可愛いと言う自覚はあまりないぞ……まだ自分の姿を鏡で見た事ないし……だって、俺の中身は32歳のごくありふれた普通の暗殺者だぞ?
「わんわん!《早く散れ! 見世物じゃ無いんだよ!》」
俺が声を出したのが間違いだった……冒険者の男女達は全く持って、俺を怖がって等居ないのだ!
「きゃあああああっ♡ 可愛い鳴き声♪」
「ちょっとモフらせてくれ!」
「マリアちゃん! この子頂戴♡」
ま、マリア! た、助けてくれぇ〜
「皆さん! 落ち着いて下さい! フランちゃんも怖がってるので!」
俺はマリアに抱かれながら受け付けへと向かった。背後をチラっと見ると冒険者達がギラギラとした目でこちらを見ているのだ。何だか俺の身体がこうなってから、精神も幼子の様に退化したような気もする。昔の俺なら人睨みするだけで、誰もが恐怖するような覇気を身に纏って居たのだが、今ではもう……
「きゅうん《とほほ……早くおうち帰りたい》」
「よしよし♪ 用件だけ済ませちゃおうか」
俺はまたしても驚く事になった。受け付けの奥の部屋から、筋肉マッチョの身長は190cmはありそうなゴリラが出て来たのだ。しかも、そのゴリラの格好は、アフロに厚化粧をしており、受け付け嬢と同じ制服を着ていたのだ!
「あんらぁ? マリアちゃんじゃないのお!」
「みさりん! やっほ〜♪」
みさりんと呼ばれた乙女? 多分男かな? 身体をくねくねとさせて奇行種の様な動きでこちらへと近づいて来た。多分、こいつは只者では無い。動きに無駄も無く洗練されている。鍛え抜かれた鋼のような筋肉。格好も網タイツにOLみたいな服装をしている。服がはち切れそうだ。
「今日もお仕事の依頼かしらぁん?」
「うん! それとこの子と契約を結びたいの! ホワイトウルフの赤ちゃんのフランちゃんです!」
う〜ん。一応俺の種族は、ステータスにホワイトウルフでは無くアイスウルフと書いてあったのだが……似たようなものなのか?
「きゃぁあああああ♡(野太い声) べりべぇ〜りキュートなキャンディーちゃんねぇ♡ アタシも抱いてみたいわぁん♡ テイマー契約の手数料を無料にするから少しモフモフさせてくれないかしらぁん?」
「ええ!? まじですか! もう、思う存分いくらでもモフモフしてやって下さい! はい、どうぞ♪」
マリア、貴様裏切りやがったなぁ!? 手数料がいくらか知らないけど、俺を売るなんて許さないぞ!? ふざけるな! ま、待て! みさりんとやら落ち着くのだ。一度話し合おうではないか。だ、誰かぁ! 助けてくれぇっ……!?
「わんわん!?《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?》」
「はん♪ もふもふしてて気持ち良いわね♪ そんなに震えちゃって〜きゃわいいわねぇん♡」
せめて髭そってくれよぉおおおお!! くそ! 身動きが取れねえ! うわぁあああああ……!?
―――10分後―――
「何だか肌に艶が出たような気がするわぁん♡ マリアちゃんありがとね♪」
「いえいえ♪ どう致しまして♪」
俺は満身創痍だった。俺のトラウマになりそうなレベルだよ!
「フランちゃんそんなぐったりしてどうちたのでちゅか?」
やはり、マリアの腕の中が一番落ち着くな。くそ、この伝説の暗殺者、【フーレンの死神】と恐れられたこの俺が! みさりんの前では、何も太刀打ちが出来なかった……むしろ、先程のじゃれ合いがフラッシュバックして、今日の夢の中にも みさりんが出て来そうで怖い……
「おまたせ〜♡ じゃあ、この魔道具をあげるわね♪」
「こ、これが噂に聞く【つながりオーブ】ですか」
「そうそう、【つながりオーブ】は使用すると消滅しちゃうから1度切りのアイテムね。そして従魔契約する際にはこの子に【スペル紋】を刻まなくては行けないの」
聞き慣れない言葉が出て来たな。まあ、マリアの従魔になるのは別に良いけどさ。べ、別に嬉しく何て無いんだからね!
「あらあら♪ フランちゃん尻尾フリフリさせちゃって〜ご機嫌だね♪」
「わんわん!《う、うるさい!》」
と言うかここから早く出たい。冒険者ギルド怖すぎる……ここは魔界だ。特に大魔王みさりんとは今後エンカウントしたく無い。
「じゃあ、行くわよ〜って……ええ!?」
「みさりんどうしたの?」
「スペル紋が弾かれた……ですって? こんな事は初めてよん!」
何やらトラブルが発生したようだ。みさりん、お願いだからそのくねくねした動きをやめてくれ……みさりんが居るだけで魔物みんな逃げるのではなかろうか?
「え、じゃあどうしたら良いのかな?」
「ん〜この子本当にホワイトウルフよね?」
「え、多分そうだと思いますが……」
「ちょっと失礼するわねぇ。スキル発動【審美眼】」
何だかモゾっとする。身体の至る所を見られているような感覚だ。みさりんのスキルなのだろうか?
「あ、ありえない……私の【審美眼】が無効化されるなんて……マリアちゃん、ちょっと待っててね。ギルドマスター呼んでくるから」
大魔王みさりんはそう言い残して、奥の部屋へと引っ込んで行った。
「まあ、フランちゃんが何者でもフランちゃんはフランちゃんだよ♪ 私のかけがえの無い大切な家族よ♪」
「わん《マリア……》」
でも。さっき手数料と引き換えにさらっと俺をみさりんに売った事は決して忘れないぞ?
『Lvが上昇しました』
あれ? 何だ今の声? 機械音声の様な無機質な声が俺の脳内に響いたぞ? 何か変な感覚だ。もしかして、ステータス絡みで何か変わったのだろうか?
(ふむ、とりあえずステータスオープン)
◆ステータス◆
―――――――――――――――
【名前】フラン (名付け親・マリア)
【性別】♀
【種族】アイスウルフ
【年齢】0歳
【レベル】2
【称号】無し
【HP】29
【MP】396
【物理攻撃力】18
【物理防御力】19
【魔法攻撃力】229
【魔法防御力】190
【素早さ】22
【状態異常耐性】600
【魅力】389
【運気】32
【スキル】
氷神狼の御加護
万能言語
暗殺Lv6
成長率2倍
病魔耐性 Lv1
鑑定 Lv5
氷属性 Lv1
嗅覚向上Lv5
―――――――――――――――
ステータスも上昇してるけど、鑑定Lvが一気にLv1からLv5になってる!? まさか、みさりんの【審美眼】の影響か? 分からないけど。
「おまたぁ♡ ギルドマスター連れてきたわよん♡」
丁度良い所にみさりんが戻って来たな。よし、試しにみさりんのステータスを覗いて見ようでは無いか。
(スキル発動! 鑑定Lv5!)
◆ステータス◆
―――――――――――――――
【名前】レイノック・ミルザベータ(みさりん)
【性別】♂
【種族】人間
【年齢】36歳
【レベル】129
【称号】男喰い
【HP】8900
【MP】260
【物理攻撃力】1500
【物理防御力】1200
【魔法攻撃力】98
【魔法防御力】20
【素早さ】820
【状態異常耐性】2000
【魅力】3
【運気】690
【スキル】
熱源感知
魅了Lv3
痛覚鈍化
物理耐性
穴を掘るLv MAX
弁舌の練達者
審美眼
精神攻撃無効化Lv9
背水の陣
―――――――――――――――
「わふっ!?《ふぁっ!?》」
「ん? どうしたのフランちゃん?」
レイノック・ミルザベータ……みさりん全然ちゃうやんけ! てか、みさりんやべぇ……Lv高すぎないか? 他にも色々とあるけど……鑑定スキル使うと身体がふわふわするんよなぁ。MP結構消費すると疲労感や倦怠感を感じる。ほいほいと鑑定スキルは使えないな。そして、大魔王みさりんが連れて来たのは、壮年のくたびれた様な男性だった。髪の毛も薄らと禿げている。どうやらこの人がここのギルドマスターらしい。
「マリア君、例のホワイトウルフの赤ちゃんはこの子かね?」
「はい、ハゲリーさん! 名前はフランちゃんです♪」
ギルドマスターの名前が、ハゲリーだと……? やべぇ、思わず笑いそうになってしまった。
「珍しいねぇ。ホワイトウルフは人間には決して懐かない魔物だし、ホワイトウルフは自分の子供や家族を物凄く大事にする種族だから、赤ちゃん何てそうそうお目にはかかれないよ」
「そ、そうなのですか……この子、アルメニアの森で倒れていたのです」
「ふむ、アルメニアの森でホワイトウルフは生息してない筈なのだが……ホワイトウルフは寒冷地帯に生息する魔物だからね。どう言った経緯でアルメニアの森に居たのだろうか? マリア君、その子は本当にホワイトウルフなのかね? みさりん君の審美眼で鑑定出来ないのは初めてだよ」
その後もマリア達は、色々話しをしていたけど俺は途中で眠くなってウトウトして来たので話しをまともに聞いていなかった。ふかふかのベッドの上で寝たい……それと1つ分かったのが、みさりんは元A級の凄腕冒険者だったそうです。異名は泣く子も黙る【歩く災害】と呼ばれていたらしい。
「フランちゃん〜首輪しますよ♪」
「わん?《え、首輪?》」
「街を歩く時はこれをしないと行けないの……」
ふむ、仕方ないか……でも、マリアがニヤニヤしているのが気になる。マリアに首輪を付けて貰った後に何とリードまで付けられてしまった。
「これでフランちゃんが迷子になる事は無いね♪ お外出る時は、毎回リードも付けますからね〜♪ これで私からは逃げられないよぉ〜うふふ♡」
ついに俺は犬と同じような扱いを受ける事となったのであった。