01:一度目の死。
「ここか……」
目の前には都市に馴染んで存在しているダンジョンがあった。
このダンジョンのランクはFで、子供が入ることが許されない場所だが、大人であれば難なく入ることが許されるダンジョンだ。
Eランク以上であれば、都市にダンジョンがあることはあり得ない。Fランクだからこそ都市に溶け込んでいる。
昨日は願掛けをしておいた。こんな世界なんだから神さまだっていてもいいだろ。
Fランクダンジョンの入り口にはギルドの人間が立っているが、よほど子供ではない限り止められることない。
これで何もでなければと思ってしまうと一歩踏み出すのにためらったが、決心してダンジョンの中に入った。
『スキルを獲得しました』
「おぉっ⁉」
周りに俺と同じような人たちがいるし、嬉しそうにしていたり残念そうにしていたりする人たちがいるから俺が少し声をあげても気にされることはない。
俺の目の前にその文字が現れたということは、少なくとも俺はハンターとして生きられる可能性は出てきたわけだ。
さてさて、どんなスキルなのか。ここに来るまでに調べてはきたが、Bランクくらいがいいなぁ。
武器のスキル、格好良さで言うなら『双剣』とか『大剣』は良き。
職業スキル、『剣士』なら他のパーティーに入れるだろうし『鑑定士』なら高給取りになることは間違いない。
魔法スキルも気になるところではあるが、それはさすがに高望みし過ぎだ。
ドキドキする心を押さえ、文字をタッチする。
『スキル≪生者≫を獲得』
「……せいじゃ?」
全く聞いたことがないスキルだから、これはまさか未知のスキルかと思って≪生者≫の部分をタッチする。
『≪生者≫
生きることに何不自由なく生きている』
生きている? それは確かに俺は今生きているけど……えぇ?
ハンターとして必要なステータスとスキルを手に入れたけど、それだけだった。
☆
スライムダンジョンでスキルを手に入れてから早一年。
一年、いや三ヶ月もあればその人がハンターに向いているかどうか何て分かることで、一般的に見れば俺はハンターに向いていない方だ。
「今日もこれだけか……」
スライムとかダークキャットを一日中倒しても、上層のモンスターからではお金になる魔石の大きさと純度にはならない。
これでようやく五千円くらいか。これならまだバイトをしていた方がよかったし、こっちは命がけだから割に合わない。
だがリスクがあるからこそ、リターンがあるのがハンター。
「おい、あいつまたいるぞ」
「もう諦めたらいいのに」
袋に魔石を入れていると、俺のことを言っているであろうハンター二人が笑いながら通り過ぎていった。
おそらくこのダンジョンの上層で俺以上に有名な人はいないだろ。この三ヶ月で俺は三階層までしか行けていない。四階層に行けば、三階層でもかなり危なくなるから死ぬのはまず間違いない。
他の人から見れば、こんなことを続けている俺がバカみたいに見えるんだろうな。
そして、これから俺がダンジョンにモンスターを倒し続けても成長することはまずあり得ない。
「ステータス」
ぼそっと言うと、目の前に俺にしか見えないステータスプレートが現れた。
『九条理央
Lv:2
HP:(40/40)
MP:(40/40)
STR:39
VIT:42
AGI:38
INT:45
RES:42
DEX:44
LUK:58
EXP(300/300)
≪生者≫』
レベルとステータスだけを見ればかなりのハンターギルドから声はかけられるだろう。レベルが1上がっただけで全ステータスが30も上がっているからな。
だが、人にはレベル上限というものが存在している。どういう条件なのか、未だに規則性がなく解明されていないが、上限になればいくらEXPを積んだとしても無意味だ。
俺のレベル上限は2。つまりこれ以上レベルが上がることはないし、ステータスも上がることがないことになる。
レベルが一つ上がって全ステータスが30になったとしても、レベル上限が10以上の人なら余裕で飛び越えられる。
頼みの綱のスキルでも、生者という意味がわからない、当たり前のスキルだ。今のところそれの効果はわかっていない。
「はぁ……」
これをずっと続けていても、レアアイテムがドロップしない限り命をかけるには安すぎることは分かっている。
せめてレアアイテムで、武器や防具が手に入れば少しはマシになるだろうが、ステータス値やレベルで装備できない可能性の方が高い。
だからいい加減ハンターをやめて働くことを考えているけど……ダメだな、俺は。小さい頃にした約束をいつまで引きずっているんだ。
「ん?」
これ以上はさすがにしんどいと思い、きびすを返そうとしたところで、四層に向かうための階段から騒がしい音が聞こえてきた。
人の声やモンスターの鳴き声が入り交じった音がだんだん近づいてきているのが分かった。
「まさか……」
嫌な予感がしてすぐにその場から走り始めた。だが、俺よりも確実に早く四層から三層へと大きな音を立ててその一行が現れた。
男二人に、女三人の五人パーティーのハンターがそれに追われていた。
人間など簡単に潰せそうな大きさの拳、逆立った黒い毛に、すさまじい体つきのゴリラを大きくしたモンスターがハンター一行を追っていた。
あんなモンスターは見たことないぞ……いったい何層のモンスターなんだよ。
走りながらモンスターを少しだけ観察していたが、その一行は明らかに俺よりも早い。そして二層へと繋がる階段とは別の方向に向かっている俺に向けて、ハンターたちは走ってきていた。
「ふざけんなよ……!」
つまり、擦り付けをしようとしてきているのだ。
そんなことさせないために必死になって走るが、あちらの方がステータスが高いだろうからどんどん音は近づいていき、俺の横をハンターたちは通りすぎる。
「悪いな、ここはダンジョンなんだ」
おそらくリーダーの男がそう言い残して、パーティーたちは俺の前に行った。必死で逃げようとするが、なにかにつまずいてその場でこけてしまった。
すぐに起き上がろうとするけど、ドスンっと鈍い音と振動で思わず振り返る。
そこには今にも俺にその大きな腕を振り下ろそうとしているゴリラのモンスターの姿があった。
☆
「んっ……?」
……あれ? 俺、どこにいるんだ?
「ダンジョン……?」
天井はあまり見ないが知っているダンジョンの天井だった。
ということは俺はダンジョンで寝ていたのか? そんなバカな、そんな命知らずのことをできるわけがない。そんなことをしたら死ぬのはわかりきっている。
それならどうして俺……!
「そうだ!」
俺はあのゴリラみたいなモンスターをクソハンターたちに擦り付けられて、それからこけて……それから、腕を振り下ろされたところだったはず。
「あのゴリラが俺を見逃したのか……?」
気絶した俺を見逃したのか、あのゴリラ。願わくばあのクソハンターたちを追いかけてほしいものだ。
「……えっ?」
額から汗が垂れてきたのかと思って手で拭おうとしたら、手が真っ赤に染まっていた。よく見ると座っている場所も血だらけで、俺の服も体も血に染まっていた。
「……は?」
どうしてこういう状況になっているのか、全く理解できていない。
は? どういうことだよ。……これは、俺の血なのか?
俺が生きているかどうか確認するために立ち上がってみるが、すぐに立ち上がることができたし体が軽い感じがした。俺が座っていた場所も含めてかなり赤いものが広がっている。
においも血だ。……俺の血なのか? それならこの出血量は死んでいないといけないはずだ。
「あぁっ‼?」
他に何か手掛かりになるような変化がないかと見ていたら、十万もして勝った短剣が鞘ごと折れて、魔石を入れていた袋がぺちゃんこになっていた。
急いで袋の中を見たら魔石が粉々になっているし、短剣も抜いたら折れてるし……本当にどうしよう。
とりあえず武器もなしにダンジョンにいるのは良くないから急いで出よう。
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