[短編]オーパーツの謎よりも神木先輩の謎の方が僕は気になって仕方がない
オーパーツ。
それは場違いな工芸品。
水晶のドクロとか、ナスカの地上絵とか。
この時代になんでこれが?という謎だ。
それが、職場の倉庫から見つかった。
この場所になんでこれが?という謎だ。
「…明日は、テレビ局が社長に取材予定です」
「対応は任せた」
「…電話もメールもたくさん来てます」
「返信は任せた」
「…先輩もやって」
「いや、海野に任せる」
「お願いしますよ、研究開発より対応業務をやって下さいよ!」
唯一の女性社員の神木先輩に僕は泣きついた。
先代社長が旅行先で買ってきた汚い布の塊が倉庫にあった。それを開いてみれば美しい飾りの何か。
調べてみれば、縄文時代に作られた彫漆の髪飾り。
何年もずっと調査中ですっかり忘れた頃に出たとんでもない結果。
おかげで、小さな会社はてんやわんやだ。
発明バカの社長が思いつきを商品にして、なぜかヒットを繰り返して存続している小さな会社。
研究開発員は神木先輩の1人だけ。
1週間くらい手を止めても支障はない。
「もう手一杯なんですよ。先輩もメール返信手伝って下さいよ」
「大丈夫だ。海野なら、切り抜けられる」
不敵な笑みを浮かべて僕を見上げる先輩。
いつもこの笑みに背中を押されて僕は動いてしまう。
営業成績が伸びない頃、商品と説明書と地図に囲まれて、1人残っていた夜。
ふらりと白衣にサンダル姿で先輩がやってきた。
「改良機出来たから、試しに」
「…あ、はい。行きます」
椅子から立ち上がろうとして、腹から盛大な空腹音。
「…ちょっと待て」
怒った声で先輩は部屋から出て行った。
何かやらかしたと僕は机に突っ伏した。
近づくサンダルの足音と、ことん、がさりという音。
机に伏せていた顔を上げると、
「飯を食え。それから、来い」
甘い缶コーヒーと、コンビニのパン。
そして、不敵に笑う先輩の顔。
それを美しいと僕は思った。
それから、困ると先輩に泣きつく癖がついた。
別に先輩は助けてくれない。
いつも話を聞いて、不敵に笑うだけだ。
「海野なら、大丈夫」
その言葉と笑みだけで、僕はやる気を出すと知っているようだ。
その通りなんですけどね。
その不思議な現象の方が、オーパーツよりも僕にとっては長年の謎だ。
いつか、その謎が解ける日がくるのだろうか。
「せめて一緒にメール返信だけでも。隣の机貸しますから」
「…1日だけ。ただし、海野が1日コーヒー淹れてくれるなら」
「本当ですか?もちろんです」
先輩が助けてくれる。
どうして急に?
謎は深まるばかりだ。
〈補足〉
彫漆:漆を何十回も塗り重ねたものを彫り、立体感のある模様を作り出す技法。
中国の唐時代(約1,200年前)に始まったとされる。もちろん、日本の縄文遺跡から発見はされていない。