武器でも作ろう
はぁ.....
こんなにも変化のない景色の中を進むのは楽しいのだろうか?
まぁ、彼女らは外なんて見ずにのんびり楽しそうに出かける前に僕の作ったお菓子を食べながら話してるだけだから景色なんて関係ないのかな?
あれか、自然の中でお茶をするのがいいんです!みたいな?
それはわからなくもない。
でも、そうするならそうするで僕のいないところでお願いします。
なんで僕は一緒にいるのやら。
執事じゃないんですよ〜、夫なんですよ〜、扱い雑じゃないかな〜.....
まぁ、別に手間でもないし、世話するの好きだからいいんだけどさ。
これも惚れた弱みってやつですかね?
それはともかく、そろそろ屋根の上も飽きたし馬車の中に戻ろうかな?
走る馬車の扉を開けて入るのは流石にどうかと思うので転移して空いてる椅子に座る。
「「「っ!!」」」
案の定驚かれた。
いや、悪気はないんです。
そんな睨まないで.....
♢♦︎♢
「で、急にどうしたの?」
驚かせちゃってとりあえずご機嫌取り?をして少しした後藍がまだちょっと不機嫌そうな顔でそう聞いてきた。
そんなに怒ることだとは思わないけどなぁ〜。
いや、逆の立場で考えれば楽しく談笑してたら突然車内に人が現れたわけだからまぁ、心臓に悪い登場の仕方だな.....
それはともかく
「いや、屋根って結構砂とか飛んでくるし風が服の中入ってきてうざくて居心地悪いし、特に景色の変化もないからつまらなくてね?戻ってきちゃダメだった?」
「ただ飽きただけですよね?」
「はい」
いや、まぁ、飽きるのも当たり前だと思う。
もう家から連れ出されてからかれこれ3日ほど。
延々と木々を見るだけな時間はいくらなんでも苦痛である。
そもそもなんで遠回りでこの魔境沿いを行くのかが不思議だ。
この世界の大陸が大体地球のユーラシア大陸ほどだとしてこの魔境、なんとその五分の一ほどもある広大なものなのだ。
どう考えてもこのルート行くとか時間かかるに決まってんじゃん!
景色もずーーーーーーと木のみだし!
だから僕が飽きちゃうのも仕方ないよね!
てなわけでつまらないし、寂しくなって戻ってきました!
「まぁ、仕方ないよね〜。でもちゃんと戻ってきてくれてよかったよ〜。そのまま転移で向かっちゃうこともできたのに」
微笑みながらこちらを見つめるエリーさん。
僕はちょっとやましいことがあるので明後日の方向を見た。
本当すいません!
実はバレないと思って馬車ごと時々転移させてたなんていえない。
その内心を察してか、それともただ単に座標がずれていたのを知っていたのか藍とアスタとパンドラのジト目が僕に突き刺さる。
エリーとシャルもその視線で僕が何かしたと察したのかジト目でこちらを見る。
本当にすいませんでしたー。
「はぁ〜。まぁいいわ」
お許しをいただけたのかな?
藍の顔色をうかがおうと隣に視線を向けると太ももをぽんぽんしていた。
膝枕ですね!ありがとうございますっ!
僕は遠慮なく、ゆっくりと頭を藍の太ももに乗せて力を抜いた。
やっぱりなんか安心するなぁ〜。
さりげなく優しく撫でてくれる藍に母性を感じる。
まぁ、見た目ちみっこなんだけどね。
けど、喉をこしょこしょと撫でるのはやめてほしいかな?
猫じゃないんだよ?
「猫扱いなんてしてないわよ?」
「っ!!」
目を見開きびっくり仰天。
なんで内心読めんだよ。
「妻ですから」
あ、そうですか。
もう何もいうまい。
「ごほんっ、いきなりイチャイチャし出さないでください....」
シャルの咳払いで他のみんながジト目を向けているのに気づき慌てて視線だけはみんなに向ける。
え?体も起こせって?
いやだよ、もったいない。
「はぁ〜、本題を忘れてないですよね?」
「「本題?」」
「ちょっと前に話してたよね〜」
「智明さんが暇だって話してました?」
「も、もーう、やだなぁ〜。忘れるわけないじゃないですか〜」
ちょっと考えが逸れてたっていうか、思考停止してただけでさ、忘れてませんとも。
さ、流石に3日間こんな暇な状態が続いていたのにただ膝枕されただけで忘れるわけないよ。
「そうよね!」
「智明様ってイチャイチャするのは恥ずかしいみたいな態度取ってもなんだかんだで藍さんとはところ構わずイチャイチャ、イチャイチャ。あった当初は誰がやっても恥ずかしがってたのに!差別を感じます!大体ですね「わ、わかった!もう僕が悪かったから!」.....そうですか。では、態度の改善、期待してますね?」
「あ、ハイ」
流石に悪いとは思ってるので改善の努力をしようと思います。
決してシャルの暗い瞳に怯えたわけじゃないヨ?
「そ、そうね。暇だって話よね」
藍も蹴落されたのかシャルから目を逸らし、話題を変えようとしている。
あの目は怖いですよね〜。
わかります。
「で、どーしようか〜。私たちのわがままのせいで愛しの智明君が暇してるわけだしね〜」
「.....?甘やかす?」
「いいわね、それ」
「じゃあ交代してください!なんで藍さんが独占してるんですか!」
なんかまた話が逸れそう。
まぁ、原因は僕の態度なんですけどね?
「じゃあもう、転移で王都まで跳ばしていい?」
『『『それはダメ!』』』
全員がなんの躊躇いもなく否定の意を表明。
「なんで!?」
「それは.....」
僕以外のみんなが目を合わせて頷く。
ただ内緒話などはしないようだ。
僕の能力でいくら小声にしてもバレるのはわかってるからだろう。
計画的犯行だな。これ。
どうやらこんな面倒な道のりを選んだのは何やら別の目的があるようだ。
はぁ.....まぁいいんですけどね。
何企んでんのか知らないけどなんとかしますよー。
嫁さんの望みみたいだし。
最近の僕の日常はダラダラと過ごしてただけだからねー。
実は結構前からこの世界には戻ってきてはいたんだけどまぁ、家作ってからのんびりしてたら一、二ヶ月は経ってたんだよ。
世界の皆様すいませんでした。
まぁ、この情報知ってるのこの世界の神と僕の配下くらいだけどね。
「そ、そうです!暇なら智明さんの武器を作成してみてはどうです?」
パンドラが可愛くぴょんぴょん跳ねながらそんな提案をする。
それなりにあるお胸もポヨンポヨン。
でも、露骨に話題逸らそうとしてんのわかってますからね?
「そうですね。智明様も虚空に私たちと篭ってた間色々考えてたじゃないですか?今の武器だと手加減できない等々。どうせ長い旅になりそうですし、みんなで意見の出し合いなどしてみませんか?」
「いいね〜。私も色々考えてたんだ〜」
シャルの提案にエリーが同意する。
ただエリーの案を採用したくない。
エリーはのほほんとしてるように見えて意外と腹黒さんだからな。
いつのまにか僕の言うことを聞かない武器になりそうで怖い。
なんの違和感も持たれずいつの間にか僕の隣に腰を下ろしてるのがその証拠。
きっと今のゴタゴタの中でならあまり注目を浴びないと思っていたのだろう。
あ、ちなみに虚空って言うのが僕の作り出した固有空間。
僕の関係者以外は絶対に入られない世界です。
まぁ、その辺のことはおいおい。
「......私が一番の案を出す」
「ふふぅん、こういう時こそ一番の理解者である私の出番ね!」
アスタと藍もやる気満々のよう。
まだ僕何も言ってないんだけどね?
『『『いいですねよ?』』』
「ハイ」
まぁ、僕に決定権なんてないんだ....
本気で嫌がったらやめてくれるだろうけどね。
♢♦︎♢
「では、まず私から」
そう言って挙手をするシャル。
元王族だからなのかこんな時でも姿勢が崩れない。
もっとだらけようよ。
「あ、智明くん〜そろそろ真面目な話だからちゃんと座ろうか〜?」
なんか悪寒がしたので背筋をピーン。
「じゃあ、発表します」
シャルはこほんっと可愛く咳払いをしてからキラキラとした瞳で語り出した。
「まずこれは私の願望ですが形状は刀がいいと思います」
「はい!なんでです?」
「いい質問ですね、ドラ。それは簡単です!みんなにも散々言っていますが私を救ってくれたときの武器がそれだからです!」
「我が妹ながらなんて自分勝手な要望かしらね〜。せめて機能性なんかの話をしなさいよ〜」
うん、エリーの言う通りだと思うよ。
まじで。
「だってかっこよかったんですよ?裏切り者に斬られそうになり生を諦めた瞬間にスッと現れなんでもないように相手の刀を受け止め“大丈夫だよ”って、えへっ、えへへへ」
「はいはい、惚気はまた今度にしなさい。もう聞き飽きたわ。大体今更形状なんて関係ないわ。みんな智明の武器は知ってるでしょ?」
その藍の言葉で視線が僕の頭上に集まる。
ちょうどその位置に移動していた球体に。
今の僕の武器はいつも僕の周囲を旋回してるこのビー玉大の白黒のマーブル模様の玉だったりする。
だから形状はどうでもいい気がする。
「.....確かに。形状は関係ない」
「智明さんの思い通りに変化しますしね、それ」
「.....機能性も異常。今更だけどなんで武器?」
「あー、それはね。これ、下手すれば存在抹消じゃん?だからある程度法則に則った攻撃ができ、加減もできる武器が欲しいわけで。まぁ、僕の中ではもうほとんどイメージ固まってるんだけどなんか話し合いになったからどうせならみんなの意見聞いてみるのもいいなぁーと思ってます。だから、真面目な性能のお話を望みます!」
僕は頭上のそれを掴み、みんなの方に突き出してそんなことを言った。
まぁ、本当にイメージはほとんどできてんだけど、やっぱり人の意見聞くのも重要だしね。
そもそも僕の意見なんて無視されそうな雰囲気でしたけどね!さっきまで!
「なるほどね、ちゃんと意見反映しなさいよ?」
「あー、少なくともシャルの意見は入るかもね?」
「それってどう言うことでしょうか?」
「です、です」
まぁ、シャルとパンドラもこの玉知ってるから別に少し考えればわかることだけど
「そもそも、利便性を考えて形状は、というか仕様はこの玉と同じように僕のイメージによって自由に形状を変えられるようにしようと思ってるからそのイメージのうちの一つに刀も入るでしょ?」
「そう言うことですか.....なら、もう私の意見はないですね」
「......私も出会った時の武器、鎌を提案しようと思ってたけどそう言うことなら特に意見はない」
僕の一言で二人も脱落者が出た。
いや、もう少しさぁ.....
「じゃあ次は私かな〜」
ポワポワした雰囲気で話し始めようとするエリー。
まぁ目が細められ、獲物を狙うようにこちらをみているから結構マジな提案なのだろう。
きっとエリー関係することなんだろうなぁ〜。
やだなぁ〜、怖いなぁ〜。
何が怖いって、言ってくる意見が本当にエリー関係かわからず、利点だけで採用しそうになるから怖い。
今まで何度やられたことか.....
その後の他の妻へのケアまでがセットなんだよ。
「私がいいと思うのは〜四元素を表裏で使うことができる武器がいいと思うの〜」
「ふぅ〜ん、何で?」
エリーの意見は僕のイメージとほぼ一緒だった。
唯一違うのは表裏について。
まずどう言うことかも分からん。
「簡単な説明をすると〜、水は普通分けられないでしょ〜?だからその裏の作用として、絶対の分離とかもできるようにとかどうかな〜と思ってね〜」
「なるほどね、反対の作用をもたらすことのできる武器ってことね?いい意見じゃない。と言うより、もう決定かしら?」
うん、僕も賛成。
「それはいいね。うん、こうなると別に四元素というより、自然現象をもとにその反対作用ももたらせる武器みたいなのがいいかもね」
「......私もいい。雷を纏いながら戦う智明。うん、カッコいい」
「自然現象を操る武器です?すごいです!」
「私もいいと思いますよ?」
これなら強弱もつけやすいしね。
強風と微風みたいにね?
だからたとえ一瞬エリーがニヤリも笑った気がしても気にしないことにした。
そのあとも色々話し合い、完成形のイメージを確定させた。
♢♦︎♢
さてさて、あらかた話し終えたところで制作に移ろうか。
話し合いだけであのあとあーだのこーだの言い合ってすでに2日ほど経過した。
何で?って思ったけどまぁ、エリーが大まかな提案した後細かい意見が出るは出るは。
まぁ、それは置いておいてちゃっちゃっと作っちゃおう。
これが普通の刃物だったなら鍛治道具が必要になるが、まぁ、今回はどちらかと言うと錬金術の範囲になる。
形状不定だしね。
「じゃあ、はじめまーす」
『『『はーい』』』
「まずは.....」
「まずは?」
「外出ようか?危ないし」
「何でです?」
可愛く首を傾げているパンドラの質問に答えようじゃないか?
まぁ、簡単な話なんだけどさ。
「災害レベルの術を操る武器を何で馬車内なんて安定しない空間で作るんだよ?そもそも僕のサブウェポンだって本来なら自宅のしっかりとした設備で作る予定だったんだからね!?」
「そういえばそうね、智明ならできるかと思ったわ」
「......うん」
「まぁ、出来なくはない気がするけどさ、流石に万が一を想定しないのはバカでしょ?大体みんな忘れてるみたいだから言うけどさ、僕今能力で能力を押さえつけて制限している状態だからほとんどの能力は一般人なみなんだよ?だらだらと今まで過ごしてた僕も悪いけどさ」
「あー、そういえばそうでしたね、智明様」
そうそう、普通に暮らしてれば神々レベルの力なんて必要ないのにそれ以上の力なんていらないからね。
「で、今回作るのは神器なんて超えた代物になりそうじゃない?」
「そうね〜」
「だから、力を一時的に解放しなきゃいけないのさ。どこの誰が一般人の力で神器なんて作れると?」
どんな化け物だよ。
神器を作れる一般人って、もうそれ一般人じゃないからね?
「.....智明なら出来そう」
「少なくとも大抵の魔物はその体で殺れますからね.....」
「......それはともかく」
「あ、話逸らしました!」
「逸らしたわね」
「逸らしましたね」
「逸らしたね〜」
「......逸らした」
うるさいよ。
別にいいじゃない。できるんだから。
「それはともかく!能力解放しなきゃいけないのさ!その抑えてた力の余剰分が噴き出たらどうなるかわからないから外でって言ってるの!外でなら飛び出した力も消せるし!わかった!」
『『『はーい』』』
本当に大丈夫かな.....
とりあえず馬車を止めて外に出る。
木々ばかりの森と何もない草原に挟まれた場所でよかったよ。本当。
「じゃあやるか......といっても一瞬で終わるけどね」
「創造で作れる範囲なのね.....」
「まぁ、いいじゃないですか。見た目とても幻想的でしょうし」
「楽しみです!私何気に初めですからね!」
「じゃあ、ちゃっちゃと行くから。とりあえず......
【能力全解放】」
体から溢れ出る力を感じ全能感に酔いしれそうになる。
まぁ、なんでもできるんだけどね?
そして、溢れ出した漆黒の魔力が竜巻のように僕から放出される。
どうせならこれも使っちゃおう。
その場で【操】のスキルを使って魔力を掌握しておく。
「からの【慧】による演算処理で精密な完成形の図をイメージして【夢幻創造】!」
人差し指を立ててその場でぐるぐると回すとそこを起点に七色の光が形を形成しながら纏まっていく。
「ついでだ!持ってけ!」
さらに、先程掌握した僕から溢れ出した魔力をそこに注ぎ込む。
川のように七色の光の束に向かい走る漆黒の魔力は確かに幻想的だ。
結構な時間が経って全ての魔力を吸収し終えたのか光が落ち着き創造したものが姿を表す。
人差し指の先に浮いているそれはやはり球体で、虹色の光沢を持った美しいものだった。
「綺麗ですね、智明様」
「そうね。で、どうなのよ。ちゃんと出来た?」
藍の言葉で確認していなかったのを思い出してその球体を掴み取り【慧】と【覚】を駆使して解析していく。
「うん、大丈夫そう」
「やったね〜。これなら回復とかもお手の物ね〜」
「ん?」
「だってそうでしょう〜。炎はときとして死の象徴とされるし〜、ならその逆は生や再生といったところかしらね〜。私があったときは死に体だったけど智明くんが治してくれたなぁ〜」
そのエリーの話を聞いてみんなが口を揃えて言った。
『『『こじつけじゃねーか!』』』
本当にこんなんで大丈夫なのだろうか。
僕は再び能力を制限しながらそんなことを思った。
まぁ、今は平和な世の中だし大丈夫だろう。
そう、自分に言い聞かして再び馬車に戻るのだった。