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転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
7/26

第6話 3日で修理せよ

滑り込みで失礼します。

1942年5月26日1500時 ハワイ


太平洋艦隊司令部の広い会議室において十数人の将校が思わしくないような表情で一人の佐官からの報告を聞いている。一通りの報告を受けたチェスター・ニミッツ大将は渋い顔でエンタープライズのダメージレポート(損害報告書)と睨めっこする。


「酷くやられたな.......どのくらい時間がかかるんだ?」


「報告では完全修理に3ヶ月、突貫工事で急いでも2週間は欲しいとの事です」


その返答に渋い顔のニミッツは余計に渋みをきかせる。


「提督、この際エンタープライズは作戦から外した方が.......」


「すまないがそれはNOだ。敵は空母6隻、ただでさえレキシントンも機関異常でドックに入っているんだ、エンタープライズは何がなんでも出せるようにしてくれ」


ニミッツはそう言うと司令部ならではの上品な香りのするコーヒーを呷る。艦艇に乗船しているとかなり苦かったりするので余り好きではないようだ。




1941年12月7日。ハワイ


真珠湾が奇襲攻撃を受けた事によって太平洋艦隊主力は壊滅。戦艦4隻沈没、4隻が大破着底という大損害をうけ、太平洋艦隊の当分の作戦行動は不可能と思われていたが、当時補助戦力とされていた無傷の空母が反撃の要として注目を集める事になる。


この時太平洋にいた空母はヨークタウン級3隻、レキシントン級2隻、そしてワスプであったが、ワスプは戦況が芳しく無い欧州戦線においてイギリス軍を支援する為レンジャーと共に、ハワイが攻撃された時にはパナマ運河目前でありそのまま大西洋へと派遣される。

ヨークタウン級の3隻はそれぞれウィリアム・ハルゼー中将の第16任務部隊、フランク・フレッチャー少将の第17任務部隊のいずれかの指揮下に入り初戦におけるヒット&アウェイ戦法において活躍を見せた。

ヒット&アウェイ戦法とは南太平洋における日本軍の拠点に接近しこれを攻撃。一通り爆撃を行ったら日本軍の反撃が行われる前に撤退するという日本からしてみれば厄介な戦術である。


レキシントン級の2隻は上層部による日本軍のハワイ、果ては西海岸への上陸を警戒して航空機の輸送任務に従事。おかげでハワイは3月末には戦闘機、爆撃機等合計500機を数える程の大所帯となった。

だが、苦戦し続けているアメリカ国内では厭戦感が漂い、欧州の戦況も相まって何とかして日本に一撃を与え、国民の士気を高める必要性に迫られたアメリカは日本本土の爆撃を計画。

見事にこれを成功させ目論見は達成されたが、次に行動するであろう日本軍の目標が分からずでいたのだ。


ヒット&アウェイ戦法にも欠点があり補給や休養、警戒する日本軍の関係で頻繁に行う事は出来ず、唯一分かっている頻繁に交わされる日本軍の暗号を解読する事に全力を傾けることとなった。

変わり者の集まりと言われている諜報部を束ねるロシュフォート中佐の部下の活躍により日本軍の次の目標がミッドウェーである事が分かったのはつい先日だが、そこに来て警戒任務中だったエンタープライズが日本軍航空隊の攻撃に会ってしまう。


この時エンタープライズを攻撃したのはラバウルに進出していた三沢空の一式陸攻16機、九九艦爆12機。対するエンタープライズは雲量が多く奇襲という形でこれを迎え撃った。

護衛の重巡ソルトレイクシティ、ノーザンプトン、駆逐艦6隻による対空砲火は統制の取れた弾幕であったものの陸攻隊8機はエンタープライズに向けプロペラが海面を叩く様な非常に低い高度で肉薄。

機銃弾がサァーッと海に縫い目を付ける中で3機が被弾し墜落。1機がエンジンに被弾し火災しつつも投下。

しかしこれはエンタープライズの32ノットという速度には追い付かず全て回避された。

遅れて突入した陸攻隊も非常に低高度で狙いを定めるも濃密な弾幕により2機が墜落。2機が被弾し炎上。内1機が運悪く海面に跳弾した機銃弾が魚雷に命中し爆発四散した。


しかし最後尾にいた陸攻3機は対空砲によって形成された黒煙と立ち上る黒煙に紛れて要領良くエンタープライズに接近。必殺の魚雷を投下する。

投下された3本の魚雷は日本側にとっては運良く、米側にとっては運悪く放射状となって接近しつつあり、エンタープライズは先程の陸攻隊を避けた32ノット面舵のままでこれを避けようとする。

2本は躱したものの、3本目の魚雷は艦中央部に命中。巨大な水柱を作り出し、対空攻撃を弱める。

魚雷は右舷水線下に穿孔を生じさせると同時に海水がどっと流れ込む。付近の破壊された水密区画はあっという間に一杯になり、8度の傾斜が発生。約600トンの浸水により速力は28ノットまで低下する。


果敢にも攻撃をかけた陸攻隊。戦果はこの1本だけとなってしまうがこの陸攻隊の犠牲のおかげか、余り邪魔を受けること無くエンタープライズを狙っていた艦爆隊は悠々と急降下を開始。12機が一本棒となりエンタープライズを狙う。

途中2機が被弾しキリキリ舞いながら海面へと落下していくも残った10機は次々に腹に抱えていた250キロ爆弾を投下。

第一機動艦隊程では無いものの、この時の艦爆隊はかなりの練度を持ち合わせており、このエンタープライズを狙った高雄空に配属されていた艦爆搭乗員もそれなりの腕前。

最初の3発を躱したエンタープライズも4発目を避ける事は叶わなかった。


1発はまず飛行甲板後部に命中。38ミリの甲板装甲を簡単に破り6メートル程の大穴をこじ開けさせた。これによりエンタープライズは発着艦能力を失い、哨戒に出していたSBDドーントレスを6機失う事になる。(搭乗員は救助)

続いて5発目は避けたものの6発目が後部エレベーターに命中。格納庫内で爆発し生じたエネルギーはエレベーターを上空10メートル程まで吹き飛ばし、格納庫内の側面隔壁をも吹き飛ばしたが爆発のエネルギーはそこで飛散し格納庫内でのそれ以上の損害を減らした。


これは米空母ほぼ全てに共通するシステムで、甲板を貫通して格納庫内で爆発した場合エネルギーを外へ逃がす為に隔壁を解放出来るようにしているのである。

だがこれはヨークタウン級においては副次的な効果で、本来は格納庫内から戦闘機をカタパルトから発艦させる為のものであった。後にこのカタパルトは効果無しとして撤去されている。


その後の爆弾は回避したものの最後の10発目が艦尾付近の海面に着弾。爆発したそのエネルギーは左舷側のスクリューを歪ませ速力は更に14ノットまで低下する事になった。


何とかハワイに到着したエンタープライズの損害状況にニミッツが頭を抱えたのは冒頭の通りである。


当初この会議では日本軍の迎撃に参加させるのは4隻でも十分では?という意見も出ているのだが、ニミッツは良い顔はしなかった。

日本軍が主力6隻を出してきているのに、互角に持ち込めるかすらも怪しいであろう4隻では到底勝てないと踏んでいたのである。


ニミッツの不安は半ば正しく、アメリカ軍空母はヒット&アウェイ戦法でそれなりに練度は詰んでいたものの満足いく程のものではなく、特に魚雷の信頼性に関しては攻撃手段としてはニミッツは論外と判断している。

この時米軍が使用していたMk13航空魚雷は信頼性が低く、投下してもそのまま沈んでいく、命中しても信管が作動しないなど散々なものである。

年々その信頼性は劇的に改善されていくのであるが、現時点においては使い物にならない代物。

加えて、炸薬量は約270キロとこの時の米軍は知る由もなかったがこの時期に採用されていた日本軍の九一式航空魚雷は炸薬量約150キロと威力においてアドバンテージがあったのにも拘わらず戦力外と見なしていたのである。


「提督のご判断は納得のいくものですが、艦爆隊だけでは敵艦を沈める事は難しいかと.......最低限雷撃隊を参加させるべきです」


驚く事にニミッツはあまりの不調気味に信用不信気味にまでなり、雷撃隊を載せずに爆撃隊だけで日本艦隊へ攻撃を行わせようと考えていたのだ。


「使い物になるのか?現状信頼性にも問題があるだろうし、付け焼き刃的な事にならんか?」


ニミッツの雷撃隊に対する不信感は異常なものだと思いつつも参謀らは説得する。結果としてはニミッツは考えを改め雷撃隊の作戦参加を決定したのだがこの雷撃隊が意外な活躍するのは後の話である。


それよりもと、エンタープライズが負った爆撃による損傷を何とかしなければならないと話を戻す。


「優先すべきは魚雷によって開いた穴とスクリューだな.......この際エンタープライズへの着艦はしないものとして考える。そしてスクリューを何とかして戻さねばなるまい」


ニミッツの応急策はいくつかの妥協を含んでいる。

まず後部の欠落した飛行甲板は切り捨てる事にした。着艦は出来なくなってしまうが、発艦出来るのならば少しでも多くの艦載機を持っていく事を選んだ。

そしてスクリューだが、シャフトが曲がっている為これを引っ張って戻す事は出来ず、これを抜いて新しいシャフトと交換する必要性があると報告が上がった。


「ハワイに作業員は揃っているのか?」


ニミッツが不意にそう口にする。


「作業員なら、沈められた戦艦群の引き揚げや損傷したドック等の修理の為に多くいますが.......」


この時米海軍では着底した艦艇の内引き揚げ修復が可能な戦艦が数隻調査により確認され、これを再利用するために水上クレーンやその作業に従事する作業員ら約2千名近くの人員が真珠湾に集まっていた。


「よし。ならばそこから少し抜いてエンタープライズの修理に回せ。それとオアフ島全体の発電施設から真珠湾への電力供給を優先させて一部は停電、エンタープライズの為に出来る限りの事をやるんだ」


何としてでもエンタープライズを参加させるというニミッツの強い意志に参謀らも意を決して動き始める。


「ところでジャップ共の動きは?」


ニミッツの問い掛けに一人の参謀が思い出したかのように立ち上がる。


「提督。その事でご報告がありまして、日本軍の暗号が先日更新されたらしくミッドウェーへの参加兵力が分かって以来情報が掴めなくなりました」


「何?ではどの進路から来るとかは判断がつかないと言う事か?」


参謀が頷く。


「ついてないときはとことんダメだな.......仕方ない。凡その進路を計算して予測地点を纏めてくれ」


そういうと彼女は腰程まで伸ばしている自慢の金髪を揺らしながら立ち上がり、窓からドックに居座るエンタープライズを見る。

後部飛行甲板は爛れており、とても着艦出来そうにはない。その付近には大穴が空いており、鉄板で繋げれば何とかなりそうかなと考える。

だが水線下の穿孔は深刻そうだ。痛々しい程にぱっくりと開いている穴には多くの作業員が入って溶接しており、必死の作業が行われている。

そしてエレベーター。こちらは完全に格納庫まで脱落しており使い物にならず、撤去しなければ格納庫での運用に支障が出るだろう。

スクリューの様子が見えないが、後で見に行こうと思うと椅子へと座り直す。


「諸君いよいよジャップへの反撃だ。エンタープライズもレキシントンも手負いだが、ここで奴らに泡を吹かせてやろう」


参謀らは一斉に敬礼すると、副官に指示を出したり自ら動き部屋を出ていくなど会議室が慌ただしくなる。

ニミッツはそれを見てこいつらならやり遂げてくれると、葉巻に火をつけ一つ吹かすと再びダメージレポートに目を通し始めた。






葉巻を吸い終わったあとにドックへと足を運んだニミッツは作業指揮官から驚きをもって出迎えられた。


「閣下!よくぞこんな所へ」


「気にしないでくれ。元作業員としてエンタープライズの被害を自分の目で見たくてね」


ニミッツはそういうと指揮官の案内で甲板の被害を確認しに行く。


「我々の見立てではエレベーターが特に深刻です。格納庫内に落下したエレベーターを引き上げて新しいものに交換。後ろの穴は何とかなりますが、問題はスクリューです。シャフトが根元から曲がっていますので、交換しないといけません」


指揮官はそう言うがニミッツは半ば聞き流しつつ損害状況検分を行う。エレベーターは指揮官からしたら深刻ではあるが、ニミッツからすると水線下の穿孔の方が余程重要である。

この時指揮官はレポートに目を通していなかった為に知る由もなかったが、水線下の被害はは艦内隔壁も吹き飛ばしており、そう簡単にはいかないものである。むしろ、下手な継ぎ接ぎで応急処置したら再び浸水が起こる可能性もある。


指揮官の言うエレベーターは格納庫内まで脱落しており、最早瓦礫として撤去した方が早いまでにボロボロである。その周囲には巻き込まれたのであろう、横転したりしている艦載機が複数ある。

これならばスクリューと水線下さえどうにかしてしまえば戦線復帰は可能だ。


「指揮官、3日でやれと言ったらやれるか?」


目をまん丸に開いてニミッツを見つめる。正気ですかと言わんばかりに。


「到底無理です。水線下のもそうですが格納庫の隔壁も吹き飛んでいてそれも塞がなくてはいけませんし、なによりスクリューも交換しなくてはなりません.......」


指揮官はそう訴えるが、ニミッツはいくつかの妥協と間に合わせで何とかなると踏んでいた。

ニミッツは今年28になるが10代の頃にニューヨーク海軍工廠に所属し勤務していた事があり、その経験からいくつかの損傷を直せば戦線に復帰出来ると判断していたのだ。


「今は時間が惜しい。かなりの部分は妥協して浮かぶようにだけでもしてくれればいい」

「まずエレベーターだが、そこはもう鉄板で塞いでしまえ。何としても戦線に出さねばならない状況にある。前部と中部のエレベーターが使えればそれでよしとする。後部の大穴も同じ様に鉄板で塞いでくれ。そうすれば最低限の運用は可能になる」


ニミッツがそう説明すると確かにと指揮官は唸る。


「ですが、格納庫はどうしますか?両舷の隔壁が吹き飛んでいて快適ではありませんが開放的になってますが」


「隔壁は修理しなくても良い。作戦海域なら波も穏やかだ。加えて海軍籍の者に海域へ向かう途中でも修理させながら参戦させる」


ニミッツは外洋を航行出来さえすれば後は艦内からでも修理出来る、そう考えていた。


「そして船体の穿孔だが、ここは優先的に取り掛かって欲しい。ただでさえ水雷防御が弱いから、なるべく頑丈にして直してもらいたい。それさえ何とかしてしまえば後は洋上でも修理が可能だ」


指揮官は頭の中で凡その作業進行率と日数、その都合からなるべく無駄を排除した。


「スクリューだが、どこが曲がっているんだ?」


「左舷外側、4番スクリューです」


「そしたらそのスクリューは外せ。速度は落ちるが修理するくらいなら外して穴を塞いだ方が手間も時間も省ける」


驚く事にニミッツは曲がったスクリューを外し、3軸での航行を企んでいたのだ。だが確かにそれならば交換する時間よりも遥かに少ない時間で済む。


「宜しいのですか!?艦の性能を出し切れないと思うのですが.......」


指揮官の言う事は最もである。

日本空母に限らない事だが、条約の枠内で建造されたレキシントン級、ヨークタウン級はこの時甲板にカタパルトは装備しておらず、日本空母と同じように風上に向かって艦首を向け、風力を利用し発艦させている。

その風力を最大限利用する為に空母の速力は非常に重要なものであり、エンタープライズの4軸が3軸に減るのは相当な速力低下を招く事になる。

更に敵航空機の攻撃を受けた時に当たり前だが標的が遅ければ命中率も上がる。エンタープライズが更なる損害を受ける危険性もあった。


「提督がそこまで仰るならば、私としても全力を尽くさせて頂きます」


「頼んだぞ。エンタープライズだけでも戦線に復帰させねばならない。必要なバックアップは私の権限でいくらでも回そう」


そう言い終わるとニミッツと指揮官は互いに手を差し伸べ、固い握手を交わした。


そうなるとニミッツの行動は早かった。まず引き揚げ作業員らを約200名程エンタープライズのドックへと回しこれの修理作業に従事させる事にした。

更にはハワイの発電所へ赴き事情を説明。一部の地域を停電させて電力をエンタープライズの為に集中させる事に成功させる。

更にダメ押しとして陸軍と海兵隊にも掛け合い各施設の修理に必要な鉄板等の資材を提供してもらった。

資材、器材共にニミッツの尽力によってかき集められ、24時間三交替性でいよいよエンタープライズの突貫工事が始められた。近くの街からは昼間のように明るいドックが見えたという。




「無茶やったようだな大将」


ニミッツに親しげに話しかけたのは第16任務部隊司令官のウィリアム・ハルゼー中将だ。

彼女は今年23になるが、若さ故か攻撃精神旺盛で、「常に攻撃せよ!」をモットーに部隊を指揮している。

だが如何せんその性格は度々上層部とのトラブルを起こしてしまい、ニミッツが指揮能力を買って部下にしたのも本当は手綱を握る為ではないかと噂される程に酷いらしい。

しかしその実力は本物であり、ラバウルやカビエン等の日本軍拠点をヒット&アウェイ戦法で戦果をあげ続けているのは殆ど彼女の活躍である。


ところが先日のエンタープライズの損害によって一時補給と休養の為にここハワイへと戻っていた。


「それはこっちの話だウィル、エンタープライズを派手に壊して」


意地悪そうに笑いながらニミッツはハルゼーの手を握る。


「勘弁してくれよ、今回はしてやられたが次は倍にして返してやるつもりさ」


ハルゼーは大袈裟に肩を竦めて笑ってみせる。


「そうでないと困る。座ってくれ、説明しよう」


ハルゼーは従者が運んできたコーヒーを飲みながら書類に目を通しながらニミッツの説明に耳を傾ける。


「.......という訳で、日本軍は空母6隻を主力に総力を挙げてミッドウェーに来るだろう。そして君の仕事はこの機動部隊を迎え撃つ事だ」


「敵の指揮官はわかってるのか?」


「ナグモという指揮官らしい」


やり甲斐があるなとボヤきながらコーヒーを飲み干す。彼女は無類のコーヒー好きで海軍内では有名であり、ハワイに限らず本土でも時間があれば自ら車を飛ばして地元オススメのカフェでコーヒーを飲む程だ。


「レキシントンはどうにもならなさそうなのか?」


「レキシントンは機関異常の原因が分かったから修理もスムーズに進み始めたそうだ。恐らく明後日にはドックから出れるだろう」


「そうなると4隻。ジャップの精鋭が相手ならば確かにエンタープライズも欲しい所だな.......」


ハルゼーは渋い顔をする。


「3隻だと基地航空隊も含めてやっと互角程度だろう。厳しい戦いになりそうだな」


「いや、基地航空隊が参戦してくれるならこれ以上に心強い味方はいないだろう。向こうは爆弾が当たれば戦闘能力を失うんだ。地の利もこっち、慎重にかかれば負けないさ」


ニミッツは不安げだかハルゼーは外見でもわかる大きな胸を張って自信満々に答えた。

だが瞬間、ハルゼーは少し顔を歪ませながら腹部を押さえる。


「どうしたんだ?」


「大した事は無い。腹の調子が少し悪いだけだ、すぐ治る」


そう言いながらハルゼーは新しく持って来てもらったコーヒーを飲みながら葉巻に火をつける。


(コーヒー飲みすぎやしないか.......?それで腹を壊したなんて洒落にならんぞ.......)


ハルゼーの飲むコーヒーは既に6杯を数えていた。


案の定と言うべきか翌々日、書類に目を通していたニミッツの下にハルゼーが緊急搬送されたという報せが入った。だがニミッツはハルゼーが腹部ではなく皮膚病で入院したという事で幾許か安堵する。

大事な作戦を前にしてコーヒーが原因で入院などしたら笑い話ではすまなくなる。


「それで、代行は?」


病室へ見舞いに来たニミッツはハルゼーに尋ねる。


「代行はレイに頼んだ。あいつは慎重気味だがやる時はやる、状況判断に優れた奴だ。きっと勝ってくれるだろう」


レイと呼ばれるレイモンド・スプルーアンス少将は元々第16任務部隊麾下の第5巡洋艦戦隊司令官で航空とは縁の無い水上部門出身の将官であったが、几帳面で規則正しく、かつ状況に合わせて柔軟に対応するというスタイルの人物である。

ハルゼーは攻撃型の指揮官ではあったものの、ニミッツ同様人を見る目は確かであり史実ではスプルーアンスによってミッドウェー海戦を勝利へと導いている。

ハルゼーのスプルーアンスに対する信頼は意外にもかなりの物で、駆逐艦オズボーン艦長時代に、戦艦ワイオミングの副長就任の為後任がスプルーアンスになる時乗員にこれ以上公正で有能な艦長には出会えないと言った程である。


「レイモンドか、私はまだ挨拶をした事が無かったな。早い内に挨拶しておかないとね」


ニミッツはそう言って病室を出ようとする。


「大将。こんな時に、申し訳ない」


やけに汐らしいハルゼーに驚きつつもニミッツは気にするなと返す。


「君らしくない。なら、早いとこ病気を治して復帰してくれ。仕事はたんまりあるぞ」


そう言ってハルゼーと共に笑うと、病室から出る。いよいよ間近に迫る強敵を相手に、ニミッツもまた胸の高鳴りを自覚せずにはいられなかった。




一方のエンタープライズ修理現場は非常に慌ただしいものであった。

ニミッツの指示により効率を優先する為民間人の作業員に兵隊を指揮監督させながらの作業で、この監督官は先程の指揮官の指示に従っている。

監督官からの進言により4番スクリューは引き抜くよりも溶断する事となり、2人がかりで両側から作業するというかなり乱暴なものになっている。

甲板もまた瓦礫を一度ドックにいる作業員を全員退避させてからこれを直接落とし、穴が空いている箇所を鉄板で無理やり塞いでいく。


水密区画は非常に狭い中での溶接作業となり、勿論の事換気は不十分で昼時にはなんと48度を超える蒸し風呂状態になる。

このような乱暴な環境でありながらも、全員が日本軍へ打撃を、エンタープライズを復活させるという固い意思の元団結してこの作業に取り掛かっている。


また、物資の補給も大掛かりなものとなっている。エンタープライズは約3ヶ月もの間正規の補給を受けないままで作戦行動をしていた為にかなりの種類と量があと僅かというまで減っており、これを補充するのはかなりの時間を要するだろう。

更には艦載機の問題も挙げられた。エンタープライズに搭載していた艦載機は後部に爆弾が命中した影響もあり、F4F戦闘機は無事であったがSBD爆撃機、TBFやTBDといった雷撃機は日本軍拠点攻撃の際の分も含めて相当数失っており、これの対策も行わなければならない。




様々な問題を抱えつつも、全員妥当日本軍を胸にこの困難に立ち向かった。

大変お待たせ致しました。

今回は米軍サイドと言う事もあり、暫くミリタリー関連から離れていた事もあって奥底から資料を引っ張り出したり漁ったりとかなり時間を取られてしまいました。

おかげさまでギリギリの登校となり、申し訳ないと思います。

ですが資料もある程度集まり、次話からまたスムーズにかけると思います。

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