第3話 怪しい奴
この話より彰が転移した時間帯に戻ります。少しばかり執筆に遅れが生じるかもしれませんがお付き合いの程お願いします。
誤字脱字ありましたらご報告の程宜しくお願いします。
1942年6月3日1330時 空母赤城
特別顧問として予備の制服を支給され、それに袖を通した彰は緊張しながら艦橋へと上がる。
「敬礼!」
南雲が入ると全員が振り返り敬礼する。
「楽にしていいよ」
微笑みながら短く答礼する。
「作戦中で申し訳ないけど、大山君の事について説明するね」
南雲は全員が一応納得するように山本の名前を出し、特別顧問として極秘に乗り込んでいた諜報員であると説明した。先程の服装もいざと言う時に民間人として対応されるようにとの配慮である事も付け加えた。
それでも一人の参謀が異議を唱える。
「そうだとしてもですよ長官。いくら諜報員だとしても長官の姿名前はご存知の筈です、それを今日の日付まで聞くような三文芝居を打つ諜報員なんて聞いた事がありません。本当に諜報員なのですか?」
彰はそれにうっと言葉を詰まらせやや俯いてしまう。
「民間人として装うようにとの長官からの命令だからね.......その通りに従ったまでだろう?」
南雲の助け舟に彰も少し大袈裟に首を振る。
「そうです。怪しまれてもなるべく民間人として振る舞うようにと.......ぼ、私もまだ諜報員になってから月日は浅いので.......」
咄嗟の言い訳だったが、何故かその場にいた参謀らは一気に納得が行ったように頷き始める。
彰は知る由もなかったが、南雲に限らず女性指揮官というのはまだ街中で出歩いているような少女と何ら変わらない歳で部隊の指揮を執るという重責を担うようになる。
家系の都合もあるのだが、陸軍も変わらずである。しかし海軍では女性指揮官に対する信頼は厚く、血筋に関わらずその能力によっては飛び級昇進も当たり前の世界であった。
ちなみに、陸軍はいまだ男性優位という差別観は拭えず、女性指揮官と言えどもその意見や階級は軽視される傾向にある。
海軍ではまだ若い少女達は幼い時期から立場に相応しい言葉遣いや振る舞いを求められる為、その過程、指揮官としての成長を多くの将兵は目撃するし、兵は未来の自分の上官を、将は未来の後任の育つ姿を見守っているのだ。
そのような事情がある為か、彰の僕から私に咄嗟に言い換えた姿を見てやはりまだ諜報員としては未熟、成長途中であると彰にとって都合のいい方に解釈されたのである。
彰はそうとも知らず、参謀らの反応が少しばかり良くなったのを見て軽く自己紹介する。
「大山彰と言います。先程は混乱を招くような真似をしてしまった事お詫び致します。長官からの命により、以降は特別顧問として皆さんと職務に当たらせて頂きます」
ほう、礼儀作法はなっとるじゃないか。
南雲はほくそ笑みながら彰を眺める。
「失礼ですが、特別顧問とは言え分野はどちらですか?」
航空参謀.......源田実中佐が質問する。それに南雲が辻褄合わせに適当に答えようとしたが、その間に彰が口を開いた。
「はい、素人知識ではありますが航空、海戦、陸戦等幅広く学んではおりますが、何分研修や実地任務等が多かったので皆さんの想像するような活躍は出来ません。早速ですみませんがお手を借りる事になります」
これは彰が考えた事では無く、オタクとして集めていた知識を存分に活かせるかもしれないと思っての発言だった。
しかし彰の悪い点があり米軍の数やその時日本軍がとった行動等はわかるものの戦術等は三流程度の知識である。
即ち、ミッドウェーを例えにあげるなら敵味方双方の戦力は分かり、その時どのような行動をしたか、どのような戦い方をしたかなどは分かるものの実戦における細かい戦闘.......対空戦闘や艦隊行動は分からないのだ。
しかし、陸海空と三分野において学んでいるという発言は受けが良かったのか、源田だけでなく南雲までもが感嘆としていた。
「失礼ですが、南雲長官と同い歳に見えますがお幾つなのですか?」
「今年で17になります。まだまだひよっこですよ」
日本人特有の謙虚であったが、ある人物から少しばかり不評を買う事になる。
「あら、私は今年で18よ。草鹿君も同い歳、ひよっこに見える歳ですみませんね」
意外な所から不満が出てしまう。彰は驚き後ろを振り返ると草鹿は笑みがこぼれないように必死に真顔で誤魔化そうとし、南雲は頬を膨らませてこちらを睨んでいる。
.......ああ、外見を気にしているんだな。
よく見てみると、南雲はスタイルこそ良いものの、顔は所謂童顔に部類される人相だった。一個上というのは言われないと分からない程で、下手をしたら中学生程に見間違えるくらいである。
そんな彼女が若い女性としての威厳を保つ事が出来るのは単にスタイルの良さが支えているのである。
彰は女性に対してあまり興味を持つようなタイプではないが、少なくともそのスタイルと童顔という組み合わせは確かにそう見られても仕方ないなと理解する事は出来た。
少し昔の記憶を遡ると、彰の同級生が近いような話をしていた。地雷系とか、ヤンデレ系とか、そういう類のものだったがこれは違うなと振り払う。
しかし妙に何かが引っかかるような物が消えず、気にする事も無いと考える事を辞めるのであった。
「いえそんな、誤解させたようでしたらすみません.......」
その言葉に遂に草鹿は吹き出すも直ぐに真顔を作ろうと懸命になり、南雲は余計に睨みつけてくる。
どうしたもんかと後ろを振り返ると、源田が申し訳なさそうに会釈で返した。
あ、これどうにもならんやつか。
天井を仰ぎながら彰は半ば諦めた。
必死の弁明で機嫌を取り戻せた彰は南雲の命令により艦内の会議室にて源田と草鹿から作戦の詳細及びこの世界での開戦後の動きを少し大きめの海図及び地図を下に説明を受けていた。源田は南雲よりこっそりと彰についてある程度の事情を話されており、疑いつつもこれを渋々了承している。
草鹿からは開戦後、多少のズレや違いがありつつも、ほぼ彰のいた世界での歴史と同じ道を歩んでいる事を確認し、次にMI作戦についての説明を受け始めた。
現在作戦行動中の艦隊は南雲率いる機動部隊と山本の支援艦隊、その後方に上陸を担当する攻略艦隊と三群に分けられていた。
予定では東京時間午前7時に機動部隊より艦載機にて空爆を開始。ミッドウェーの航空戦力を削ぎ、なるべく飛行場を使用不能にする所まで持っていくものだった。
まずそこで彰は疑問に思う。
「すみません。自軍の戦力を教えて頂いても宜しいですか?」
疑問に思ったというのは、南雲艦隊を示す海図上の駒.......空母を意味する少し大きめの駒が六つあるのだ。
「空母6、支援任務の空母が2、甲巡が.......」
空母6。それは彰からすると到底有り得ない数字である。
「度々すいません。空母6というのは?」
「あぁ、今回の作戦には一航戦(赤城、加賀)、二航戦(蒼龍、飛龍)、五航戦(翔鶴、瑞鶴)が参加しています。また制空任務として四航戦(龍驤、瑞鳳)も参加している」
彰は大いに驚いた。
彰の知る歴史では翔鶴、瑞鶴の第五航空戦隊はMO作戦による任務でオーストラリアの珊瑚海にて米艦隊(ヨークタウン、レキシントン)と激突。史上初の視界外における艦隊戦を繰り広げレキシントンを撃沈、ヨークタウンを大破に追い込み翔鶴も大破するという勝利に終わっている筈であった。
女性が戦っている時点で別世界と把握していた彰ではあったがまさか時の流れでさえ変わっているとは思わず、ゴクリと唾を飲み込み難しい表情を隠しきれずにいる。
「何か引っかかる事でも?」
源田に声をかけられ我に戻る。
「いえ、自分の知っている歴史とは違うのでもしかしたら全く別の展開になる可能性が高いのです」
草鹿も彰に対しては疑いの目を向けていたが、上司部下の関係とはいえ開戦から戦い続けてきた同い歳の南雲を信用している。
更には彰本人からも話を聞かされた為に南雲からの協力してやれという願いは聞くつもりではあったが、彰の今の発言には納得がいかなかった。
「大山よ。貴様の知っている歴史や持つ知識と違かったら出来ないのか? 我々は今戦争をやっているんだ。それに先程自分から協力させてくれと言わんばかりに参謀らと話し合いをしてたでは無いか。ここまで来たからには後には引けんのだぞ」
納得は行かなかったものの、参謀職を預かる草鹿としては叱るよりも諭すように彰に説教をする。
彰が本当に未来からやってきた人間だとしたら、戦争を経験していない平和な時代から来た少年であると思っていたのである。
彰は学生である事は伝えていたが戦争は戦後約70年無いとは言っていなかったのである。
「すみません。悪い癖でして.......早くに直すよう精進します」
彰もまた自分で言ったからにはと曲げない根性を持っている。それを感じ取ったのか草鹿もそれ以上は言わなかった。
「無知で申し訳ないですが、東京は空襲されましたか?」
「? 東京は先々月に空襲を受けたぞ。まさか空母から双発機を飛ばすとは思わなかったがな.......」
彰は唸る。この世界でも空母からB-25を発艦させて東京を爆撃したのは彰の知る歴史通りである。
腕を組み考えてみる。当時のドーリットル空襲は相次ぐ米本土への日本軍潜水艦による砲撃等から国民に厭戦感が広がっており、士気を高める事と日本軍に少しでも混乱を起こす事を目的に行われたものである。
それを知った彰は無謀だと思いつつも、日本に対し苦戦しているアメリカとしては突拍子も無い作戦で敵に噛み付きでもしないと考えると何をしでかすか分からないなとも思った事がある。
そんなアメリカからしたら手元には少なくとも5隻の空母がある事になるであろう。
自分が米軍の指揮官ならば? 自らが押されている状況下で、敵に打撃を与えるような作戦を採るとしたらどうするか?
少しばかり考えた後、ある事に思い至った。
「すみませんが、今回の作戦の概要をもう一度教えて頂けますか?」
草鹿と源田は今度は丁寧に彰に作戦概要を説明し始めた。
【MI作戦】
1、機動部隊は艦隊の前衛に位置し、ミッドウェー島の航空戦力及び防空施設を撃破せよ
1、機動部隊はミッドウェー制圧後同島北300キロ地点に展開し敵機動部隊の来襲に備えよ
1、攻略部隊は機動部隊による制圧を確認後速やかに上陸、同島を占領せよ
1、支援部隊は攻略部隊の要請あり次第、これを支援せよ
南雲率いる機動部隊はミッドウェーにて存在を確認した航空隊及び滑走路、地上設備を空爆にて破壊し、攻略部隊が上陸出来る状況を作り出す事が優先されたが、副次目標として敵機動部隊も来襲次第で撃破する事が軍令部より指示されていた。
連合艦隊が計画した目的では敵機動部隊撃破が最優先であったのだが、軍令部は敵機動部隊は来ないとの判断を出している。
当初、このMI作戦にあたって連合艦隊と軍令部でかなり紛糾した経緯がある。即ち目標を敵機動部隊にするのか、ミッドウェー占領にするのかである。
連合艦隊はミッドウェーの占領には概ね同意しているものの、敵機動部隊を誘き出すためのものと考えており、機動部隊を支援任務に優先させる軍令部の意見には猛反発した。
一方の軍令部は、ミッドウェーを占領するにあたってオーストラリア近海で米豪遮断を警戒している敵機動部隊は救援に駆け付ける可能性は低いものと判断しており、主任務を攻略部隊の支援、敵機動部隊は副次目標とするとしているのである。
敵機動部隊か攻略支援か、かなりの時間議論が行われたが、結局軍令部の意見が採択され敵機動部隊は副次目標として設定された。
「二兎を追う事になってしまったよ」
草鹿は作戦会議が纏まった日の夜、源田との会食でそうボヤいたという。
MI作戦の詳細として、6月5日黎明にミッドウェー北西450キロ地点にて空襲部隊を『奇襲』にて発艦させ空爆を開始。同島に展開している航空隊、及び滑走路や燃料タンクを破壊し、制空権を確保するものとしている。
これと同時に五航戦には警戒隊として対艦兵装を搭載の上、敵機動部隊発見に対して対処するように待機となっている。
翌日も、敵情に変化無く敵機動部隊の接近が無い限りは同島への攻撃を続行し残存しうる航空戦力を削り、翌日の攻略部隊到着までに制空、制海権共に確保。
7日午前0時に攻略部隊が上陸し、ミッドウェー占領を成し遂げるというものであった。
他にも細かい所を質問しながら彰は作戦内容を把握していたが、やはりどうしても歴史とのズレに困惑を隠しきれなかった。しかし、現実として空母がこれだけ揃っているならと南雲らとの尋問(面会?)で勝てると浮かれつつあったがそれも消え去っている。
「これ、いくら何でも自分達に有利すぎでは無いですか?」
この発言に驚いたのは草鹿であった。草鹿も開戦以来連戦であり消耗の為この作戦に反対していたのだが、出撃前に行われた図上演習の時から密かに危機感を抱いていたのである。
それは空襲は奇襲である事、敵機動部隊はハワイにおりミッドウェー攻撃後に出撃することに、自軍の計画が漏れているのは有り得ないこととかなり自分達にとって都合のいい様に展開されていたのである。
連合艦隊が策定した作戦計画にも関わらず、ここまでズバリと言うのは肝が据わってるのか、はたまたただの凡人なのか。
興味が湧いた草鹿は何か言いたげに彰を睨んでいる源田を手で制し、質問してみる。
「大山君、君はこの戦いをどう見る?」
聞かれた彰は少し驚きながらも、思った事を言っても?と確認を入れる。草鹿は頷いた。
「僕の時代の話をしてすみませんが、時代に関わらず戦闘において重要なのは情報です。この作戦が決定されてから恐らく皆さんの間で通信による情報交換が行われている事でしょう」
ちらりと草鹿の顔色を伺い、草鹿もそれに同意するよう頷く。
「それならば、空母に爆撃機を載せて東京に飛ばす程の事をする米軍です。互いの海軍戦力に大きな傷が無くとも、僕ならば日本に対して一泡つかせたいと思います。それが自分が苦戦を強いられているならば尚更です」
「情報は戦場では極上の武器です。米軍は多数の人員を日本の暗号解析の為に配置させ、何かしらのきっかけを手に入れて迎え撃つ算段を立てるでしょう.......」
ここまで述べて、一つの文章を草鹿に確認する。
「草鹿.......さん、『AFでは真水不足』か、それに近い文章を何処かで聞いた事はありませんか?」
彰は流石に階級章までは分からなかったので、少し遠慮がちにさん付けで尋ねる。草鹿はそれでいいよと微笑みながら記憶を読み返す。
「確かに、真水不足の為攻撃隊はこれを考慮すべしと伝えられたが.......まさか!?」
彰も頷く。
「米軍はミッドウェーに皆さんが来る事を把握しています。聞いた話では敵の空母はほぼ無傷、それならば多少無理をしてでもミッドウェー近海で迎え撃つでしょう」
このやり取りを見ていた源田は冷や汗をかき始めた。
確かに自軍に都合のいい状況で立てられた作戦ではあるものの、戦艦部隊まで出撃しているこの作戦に油断はならないものの負けは無いだろうと確信していたのだ。
それが、目の前のよく分からない怪しい奴に作戦の欠陥部分を指摘された上に米軍が迎え撃つという考えたくなかったシナリオを簡単に言い出すのである。
源田も山本と同じ航空戦の何たるかを研究し続けてきた航空主兵論の第一人者でもある以上、この作戦においてはなるべく最悪の事態に陥らぬよう計画はしていた。
しかしこれはどうしようも無い事なのではあるが、連合艦隊や軍令部が命令として出した以上はそれに従わずを得ず、命令違反にならない範囲での細かい修正しか出来ないのである。
それを大山彰という怪しい奴がいとも簡単に覆そうとしているのだ。
源田は得体の知れない悪寒に、冷や汗をかいているのである。
「参謀長、お話中にすみません。大山、貴様ならどうやって我が艦隊に攻撃を仕掛けるのだ。これだけの兵力を我々が出しているのだぞ?」
半ばやけになりながらの反論であったが、彰は冷静に答える。
「はい。答えにならないかも知れませんが僕ならやります。敵が多いからでは理由になりません。苦戦しており、このままでは本土に迫るかもしれない日本軍相手に僕なら多少のリスクは承知の上で攻撃を仕掛けます。それに.......」
彰は一呼吸置いてから、言い放つ。
「天気は良くありません。この天候が続くならば、奇襲にはもってこいです」
源田のみならず、草鹿もこの発言に雷が落ちたように立ち尽くした。
それは、連合艦隊も軍令部も有り得ないと言い続けてきた事である。
敵はハワイにいる。オーストラリア近海に展開しているので救援には間に合わない。自軍の情報は漏れていない.......。
これまでの数々の憶測と計画を立てる上での不安点が雪崩のように襲いかかってきている二人は暫く発言出来ずに彰を見つめている。
草鹿も源田もそれなりに実戦は積んでいたし、戦術や経験者からの講習など研究出来ることは研究し続けた身ではあるが、命令という言葉はそれ以上にも重い存在なのである。
それを、怪しい奴とはいえ簡単に打ち壊すような事を言ってのける彰は、二人にとって少しばかり眩しい存在になりつつあった。
「大山、参謀職を預かる身として恥ずかしい限りだが.......」
前置きをしつつも草鹿は問いかける。
「貴様の世界でもこの作戦はあったのか?」
彰はまさか草鹿からその質問をされるとは思ってもいなかった為驚くも、覚悟を決めた表情の草鹿の質問を無下にも出来ず、詳細も含めて素直に答える。
「ありました。戦力こそ違うものの、全く同じような内容でミッドウェー海戦と呼ばれる戦いが起こっています」
「まず、MO作戦において支援部隊として任命された第四艦隊は空母祥鳳だけでは足りず、五航戦による増援を受けています。それを阻止するべく空母ヨークタウン、レキシントンを中核とするフレッチャー少将の第17任務部隊と珊瑚海海戦と呼ばれる海戦が発生しました。ここでは翔鶴が大破、レキシントン沈没、ヨークタウン中破という結果で終わりましたがMO作戦は失敗、撤退しています。ミッドウェーとは関係無いように見えますがこのヨークタウンが重要なんです」
「海戦後、日本のMI作戦の目標であるAFがミッドウェーである事を突き止めこれを迎え撃とうと動きますが、この時米軍が太平洋で動かせた空母はホーネット、エンタープライズの2隻のみ、中破したヨークタウンは応急修理でも2週間かかる損害でした。
これを太平洋艦隊司令長官であるチェスター・ニミッツ大将が直々に損害視察を行い、3交代制で3日で修理させよと突貫工事を命令しました。同時に補給も実施しています。
結果として穴を塞いだだけですが再び戦線に復帰し、以降作業員を乗せたまま航行中も修理作業を行うという行動に出ています。五航戦は損害と搭乗員の喪失から作戦には不参加となりました」
ここまでの説明だけでも彰の持つ知識、情報量もさる事ながら、アメリカの想像を絶する行動力に驚いた。
2週間もかかる損傷を間に合わせではあるが3日で終わらせて戦線に復帰させる等、日本では到底考えられない行動力である。
「ミッドウェー海戦ですが、戦闘の詳細までは申し訳ないですが覚えていません。ですが、作戦途中に米機動部隊を発見した南雲中将は陸用兵装を搭載していた艦載機の対艦兵装への転換を命令。作業中に雷撃隊の襲撃によって直掩機が低空に降り、ガラ空きとなった上空の雲の間から米空母から発艦した急降下爆撃機によって赤城、加賀、蒼龍が被弾し誘爆、手が付けられない火災が発生し炎上します」
「残った飛龍が攻撃隊を放ち、ヨークタウンを後に雷撃処分させる程の損害を与えましたが、飛龍も反撃に出された米艦載機によって損害を受けこれも処分されました。日本軍は参加した空母4隻を失う大敗北で終わっています」
彰が説明を終えると、草鹿と源田は殴られた様に固まってしまっている。
これには無理も無く、彰の丁寧な説明、MO作戦失敗という同じ状況、米軍の行動力、そして自軍に有利な形で展開されている今作戦の想像したくない最悪の場合。
そのどれもが頭の中で実際に見たかのような鮮明な映像となって浮かび上がっているのである。
「.......如何しますか参謀長。もし彼の話が全て本当だとしたら、取り返しのつかない状況が起きないとは、参謀として甚だ無責任ではありますが言い切る事が出来ません.......」
源田はようやくという表情で口を開く。
「.......確かに、大山の言う事が事実だとしたら、同じ状況が我々の身にも起こらないという事は保証出来ない。しかし作戦が開始されている以上は出来うる範囲での作戦修正で対処するしかあるまい。大山、貴様の意見で構わない。貴様ならどうすれば防げたと考えるか」
彰は驚きつつも内心してやったりと喜ぶ。
彰はまだ自覚が無かったが、戦争とは縁の無い現代日本において戦争とは映画であり、ゲームであり、創作物の中の世界であった。
それらを通じて自分ならこう動くな、自分ならこう作戦を立てるなと、想像の世界で戦争をイメージしていたのである。
生命を軽視している訳では無かったものの、彰の中では戦争とは映画やゲームと同列に考えてしまっていた。
自分の知識が活かせるんだと.......。
「このミッドウェー海戦は戦後色々な議論がされましたが、僕ならば敵機動部隊が待ち伏せしている事を前提に作戦に取りかかるべきだと思います。先程も申しました通り情報は武器です。その情報が漏れていた場合を想定すべきだと考えます。
また、敵機動部隊が発見されてから兵装を転換するのは余りにも愚行です。それならば対した損傷を与えられなくともそのまま発艦させて兎に角敵空母に対し何らかの攻撃を仕掛けるべきでした」
これには二人共頷く。
「確かに.......ただでさえ兵装転換は時間がかかる作業だ。それなのに発見してから兵装転換を命令するとは、流石に危険が大きい」
「同感です。それならば、大山の言う通りそのままでも攻撃隊を出すべきでしょう」
草鹿の意見に源田も同意する。
「だが、貴様の話では我が軍も敵軍も空母を損傷または喪失しているとの話じゃないか。貴様の世界ではそうだったとしても我々の世界では違うぞ。どう考えるんだ」
彰は緊張しながらも考えた事を話す。
「はい。まず僕ならば日本軍のこの作戦に対して持ちうる戦力を動員します。この世界のアメリカの動きは分かりませんので保証はしかねますが、少なくとも4隻.......ヨークタウン級3隻にレキシントン、これらならば高い確率でハワイ近海にいると推測します。
敵は依然強大な日本海軍。恐らくこのミッドウェー攻略にも全力でかかるはず、ならば中途半端な戦力では逆に僕がやられます」
そう言って海図の駒をミッドウェー島の近くへと置く。
「自分達が苦戦して、大規模な作戦がハワイに近いここミッドウェーで起こるとしたら、政治的にも国民の士気を高める為にも、そして今後の戦いを有利に運ぶ為にも奇襲を狙って待ち伏せをします。しかもこちらには無傷の空母部隊がいるんだから、僕なら正攻法。つまり艦載機を纏めてから日本艦隊へと差し向けます」
小さめの駒を選んで、艦載機として空母の駒の横に置いてから日本艦隊へとスライドさせる。
「士気も上々、戦力は整ってあり、敵は日本海軍。しかも相手はミッドウェーを攻撃中。タイミングを考慮しても相手にとって不足無しです」
彰が小さい駒を軽く日本艦隊の駒をつついてから海図に戻す。
少ししてから意を決したように、草鹿が彰に向き直る。
「よし特別顧問としての仮の名目は果たせそうだな。今の話を長官にも説明申し上げる必要がある、貴様からも頼む。源田君、君は航空作戦における計画の精査と練り直しを可能な範囲で早速行ってくれ」
「直ぐに取り掛かります」
源田は敬礼すると会議室から急ぎ足で出て行った。彰は会議室待つように命令を受け、草鹿は通りかかった水兵に彰の監視を命じてから南雲の下へと同じく急ぎ足で向かった。
「ミッドウェーか.......なるべく多くの人が死ぬのを避けたいな.......」
彰は未だ現実を受け入れられなくとも、多くの犠牲者を出したミッドウェー海戦を、そして今後の戦いを変えるべく腕を組み考え始める。
運命の歯車は少しずつ動き始めた。
〜おまけ〜
(怪しい奴を監視しろと言われたが、どんな奴なんだ.......?)
(なんだ、海図を見て睨めっこして.......もしかして何か計画を練っているのか? だとしたら失礼かもしれないな.......)
(うーん、僕としては大きい方が好きだけど草鹿さんみたいな美人さんなら胸が小さくてもありだな.......あいつ(同級生)の言っていた事も何となくわかるな.......)