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転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
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第23話 荒れそうな海

大変お待たせ致しました、連載再開します

ソロモン諸島における米豪遮断計画。4月末に行われた御前会議では無期延期が決められた筈の計画である。


「宇垣さん、言いたい事はあると思いますが、一先ずは福留君の言い分を聞いてはくれませんか?」


宇垣の異議を察した伊藤は一先ず聞くように宥める。伊藤は福留とは違い、空母という新戦力とその運用方法に理解を示し、連合艦隊の作戦計画にはある程度の理解を示す立場にある。

修正が必要であればまず伊藤から意見を述べ、協議を重ね双方が納得いってから軍令部総長に決済を貰うという流れを自然と作りあげてきたのである。


日頃からの義理がある以上宇垣もそれ以上続けようとはせず承諾する。


「まず、当分の戦況だが機動部隊をまともに動かせなくなったのは我が軍だけでなく米軍も同じである。期間は短く見積っても半年はかかるだろう」


「であればその間は当然米軍は英軍や豪軍に支援を求める。英軍はともかくとしても豪軍は現状縛り付けるだけの艦隊戦力は我が軍には無いし、例え動かせたとしても艦隊が満足に動けるようにする泊地もこの地域には無い」


「ラバウルを拡張して航空戦力を増強したとしても航続距離の問題がある。我が軍の航空隊が出撃しても米軍や英軍が到達してしまっては意味が無い。前線監視としてもっとも適当であると踏んだのがソロモン諸島であるという訳だ」


福留は一旦説明を止める。宇垣も黒島もこれには唸ってしまう。地政学的に福留の言う事におかしな点は見当たらずむしろ最もな事であるからだ。

しかもソロモン諸島でオーストラリアに最も近く、航空基地を整備するのに適正があるのがガダルカナル島なのだから、そこに目をつけるのは当然であろう。


「ガダルカナル島を前進基地として整備すれば更に南のニューカレドニア、フィジーを攻撃出来るようになる他、ニューカレドニアの占領が可能であれば米豪遮断を達成出来る」


つまるところ福留はガダルカナル島はあくまで前進基地、監視島としての意味合いが強く、本願としてはニューカレドニアとフィジーの占領による米豪遮断の確立である。

しかしこれに宇垣も黒島も、更には伊藤までもが難色を示す。


「聞いた事の無い島だな……詳細は決まっているのか?」


宇垣の問いかけに福留は資料をめくる。


「既に派遣する部隊の選定は決まっておる。後日詳細を纏めた資料を送るのでそれを見てもらいたい」


「我々は嫌われておりますな」


福留の言い方に黒島は宇垣に耳打ちする。


「連合艦隊の方では何か計画が?」


空気の悪さを変えようと伊藤が話を振る。これに黒島が答える。


「まだ立案段階ではありますが米豪遮断については連合艦隊としても同意致します。現在連合艦隊としてはダーウィン、シドニーと言った沿岸地域における軍事施設の攻撃によって継戦能力、米軍による支援の受け取りを遅らせる方針で考えております」


「敵も痛手を負っているならば当面の戦力は豪軍のみ。諜報部からの最新の報告によれば豪軍の海上戦力は多く見積って巡洋艦10隻、駆逐艦20隻。航空機はそうですね……幾らか供与されたとしてもこれも多くて200程。英本土ではドイツ軍との大規模な航空戦が勃発したとの情報もありますからこれよりも少なくなっている可能性はあります」


「この程度の戦力ならば六航戦でも封じ込めは可能です。主力艦の動員も許可頂ければ艦砲射撃による攻撃も可能と判断しております」


黒島の計画に流石の福留も考える所があるようで、腕を組み始める。

この時期諜報部からもたらされた情報はかなり正確に近く、事実この時期のオーストラリア海軍は巡洋艦10隻、駆逐艦10隻と到底日本軍を止められるものではなく、イギリスに増援もしくは旧式艦艇の供与を打診していた。

航空機も併せて打診していたが、その時はブリテン島航空戦が勃発しており、むしろイギリスは余裕があればとオーストラリアに航空機を求めた。

オーストラリアは仕方無しとアメリカからの援助を条件にこれに応じる事になる。


結果としてオーストラリアの航空戦力は戦闘機80機、爆撃機50機と数としては不安を抱える事になるが、それでも地理的な条件を考えるならば決して少ない数ではない。

ましてや今日本海軍は空母戦力が満足に動かせず、六航戦の飛鷹、隼鷹の艦載機の数を考えるならば迎撃する数としては十分であると言える。


「主力艦を出すのか……」


「敵による空襲も考えられますので、六航戦による飛行場制圧の後第三戦隊による速度を活かして砲撃を加えればリスクは抑えられるものと考えております」


伊藤はそこまで聞いて一つ提案をする。


「では、お互いに米豪遮断の必要性は認識している事ですので、ガダルカナル島の占領の側面支援という事でオーストラリア沿岸地域への攻撃という形ではどうでしょう?」


福留と黒島両者の面子を保つ案としては魅力のあるものであり、両者は異論無くこれを次期作戦として受け入れる。


「さて次の議題としてはやはりインド洋方面であるが……英海軍の戦力が増しているのは本当なのか?」


福留が話を始めると黒島、宇垣が渋い顔つきになる。


「何度か偵察機を出しましたが3ヶ月前よりも特に巡洋艦、駆逐艦が増えているのは確認しております。加えて輸送船の動きも活発になっており、陸軍と協議した結果これらはインドにおける増援部隊である事が考えられるとなりました」


「加えて新型戦艦がインド支援の為にインド洋に派遣されているという情報も入っております。艦名はこちらに」


黒島の言う資料の中央部分にはイギリス海軍による新たに派遣された艦艇の名前が記されている。


「おいおいおい、これは何だ。最新艦の一括投入なんて聞いた事無いぞ」


「それほどインド防衛に本気であるという事なのでしょう」


この時まだ知らなかったが、イギリスに対して行われているバトル・オブ・ブリテンと後世呼ばれる事になる大空中戦はイギリス側が劣勢の状態であった。


フランスを下したドイツは次の標的をイギリスに定め、まずは航空部隊の殲滅と軍需工場、軍事施設を標的に絞り攻撃を実施していた。史実とは違いこれらの施設を徹底的に叩く為に数ヶ月という入念な偵察を行い、イギリス軍によって増設された偽装までもをほぼ正確に掴む事に心血を注いだ点である。


こうして1941年8月から開始されたバトル・オブ・ブリテンは軍事施設を徹底的に空爆せしめ、最初の1ヶ月で標的の7割を破壊。しかしここで誤算が生じる事になり42年になった今でも攻撃は続いている。


その誤算とはイギリス軍は活発になったドイツ軍の偵察行動に危機感を抱き、奇襲的な空爆を受けた際に被害の分散及び航空機の避難先としてイングランド北部、スコットランドに近い地域にいくつもの飛行場を建設していたのだ。

この存在を知らないドイツ軍は目標よりも遥か北から押し寄せてくる迎撃戦闘機隊に手を焼き、遂には戦闘機隊の殲滅を優先させ泥沼の航空戦が展開されていた。


その間イングランド南部の主要な軍事施設や工場は空爆は受けるもののバトル・オブ・ブリテン当初の様な破壊的な空爆は無くなり、民間と協力しながらちまちまと戦闘機の増産に務めた。


ドイツ軍による作戦開始当初は凄まじいものであった。


戦闘機800機

双発戦闘機400機

爆撃機1200機

急降下爆撃機400機

偵察・哨戒機500機


というとてつもない数を揃えイギリス本土に奇襲を仕掛けた。特にこの時のドイツ空軍の急降下爆撃機のパイロット達は日本海軍の急降下爆撃機のパイロットに劣らない、もしくはそれ以上の実力を持ったベテラン揃いであり、海軍施設は壊滅的な打撃を受けていた。


こうした背景があり、海軍艦艇の被害を抑え、かつ遊兵化しないようにと考えられたのが最新艦によるインド支援だったのである。

既に41年中にはドイツ海軍の驚異であった戦艦ビスマルクを片付けたイギリス海軍には少しばかり余裕が生まれ、航空機によって損害を受けるよりはとこれまで片手間程度でしかなかったインド戦線への支援としてこれらを派遣する事になったのだ。


バトル・オブ・ブリテンの結末は後に語るとして、インド洋に派遣されたこの最新の戦艦こそがキング・ジョージ5世級戦艦である。

何とも大胆な事にイギリス海軍は日本との開戦前に就役した3隻の戦艦をインド洋に派遣したのである。


「ビルマ戦線は膠着状態であると聞いておりますが、もしこれらが本格的に支援に周り、増援がインドに到着しビルマ戦線が崩壊すると必然的に次の標的はマレー、蘭印になります。ここを潰されますと……」


黒島はここまで言って口を閉じる。そこから先はここにいる誰もが簡単に想像でき、もっとも最悪な事態になる。


「これはいよいよ主力艦を動かすしか手が無いな……インド洋となると流石に航空機では足が足らん。機動部隊もまともに動かせるのは六航戦しか無いし、三航戦(鳳翔、大鷹)は海上護衛戦力だから論外だ」


宇垣もいよいよ腹を括り始める。


「黒島君、悪いが主力艦を動かす前提での計画を立ててくれ。インド洋も何とか片付けなければならない長官には後で私から話をして決済を貰う」


「承りました」


黒島は早速と言わんばかりに席を立つと敬礼、早足で会議室から退室する。


「では軍令部としてもソロモン諸島攻略を目的とした作戦計画を立案致します。本件及びインド洋での情勢から作戦遂行は時期が被らないようこちらの方で調整致しますね」


伊藤がそう言うと福留は幾分か驚いた様な表情で伊藤に振り返るが敢えて無視する。戦力が限られている状況で同時進行等愚策であると考える伊藤は連合艦隊にある程度の譲歩をしたのだ。


「有難いです。長官には後程私が」


宇垣がそう言うと席を立ち敬礼。伊藤と福留も答礼で返し、この日の会議を終えた。




「マレー沖では戦ってない……?」


海戦を終え日本へ帰路に着く第一機動艦隊では、やる事の無い彰は自分の知っている歴史とこの世界での歴史の差を確認する為同じく手すきになった参謀らと談笑を交えながら話し合っていた。

参謀らと話し合う際に南雲の許可もあって数人には身分を明かした。未来の日本の土産話を武器に話してみると意気投合し、歴史について話すようになったのである。


「えぇ。インド洋では巡洋艦部隊とやり合いましたが、機動部隊や戦艦部隊は勿論の事、基地航空隊が仕掛けたという話も聞きません」


「それよりもやっぱり我らが南雲機動部隊は最強ですな! 大佐、英軍は巡洋艦を2隻出しましたが部隊はものの30分程でこれらを撃沈したんですよ!」


参謀らは彰は一応南雲より大佐として扱われている為、身分を明かされた時は対応に困ったもののやはり階級は絶対であり、大佐を相手にしているものとして振舞っていたが、彰としては何だかむず痒い空気である。


「セイロン沖海戦かな?それが……うーん、やはり僕のいた世界とは大分違うなぁ……もし皆さんのお手伝いをする事になってもお役に立てるかどうか」


「ですが大佐は米軍の戦い方や性格等はご存知なのでしょう? それを随時教えて頂けるだけでも我々としては有難い限りですよ」


「その通りですな。何か、今話せそうな事はありますか?」


歴史の照らし合わせよりも、少しでも優位に戦えればとの考えから思い出せる限りの事を話していく。参謀らは酒を、彰は茶を飲みながら時折聞こえてくる笑い声は波の音にかき消されるように小さくなり、やがて消えていく。


「インド洋か……荒れそうだな」


彰は誰にも聞こえない声でそうぼやいた

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