表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
24/26

第22話 残骸と共に

ミッドウェー近海、1840


米軍による最後の攻撃からおよそ3時間後。

第16、17任務部隊に向けて出撃して行った攻撃隊が艦隊に帰投するも着艦作業は難航した。既に日は沈みかけており、着艦時の事故も複数発生した。

暗闇での着艦は現代の空母ほど誘導装置が発達していない為、例え2000時間クラスのベテランであっても最大限の注意を払わなければならない程至難の業である。


加えて翔鶴が大破しており、瑞鶴、四航戦の3空母に分散させなければならず、更に十数機単位で機体を投棄しなければ収容しきれなかった。


「やられたなぁ、機動部隊再建にはかなり時間がかかるぞ」


「ですが一群の方では搭乗員の大多数が救助されたと聞きます。機体こそ時間はかかるでしょうが、熟練の搭乗員を救えたのが幸いでしょう」


「確かにね。機体は極端な話他の部隊から融通してもらえれば最短で1ヶ月もあれば定数揃えられる。けれど人となるとそうじゃないからね……」


原は水兵から受け取った遅めの昼食、最早夕食となる握り飯を頬張りながら瑞鶴の着艦を見守る。付け合せの沢庵の程よい塩気が疲れた身体に染み渡って行く。

もう暗くなるというのに上空にはまだ50機程残っており、夜間の着艦はなるべくさせたくないなと思っていた。


翔鶴もまた火災は完全に鎮火され薄い白煙が細い糸を紡ぐ様に中央エレベーターシャフトや甲板の穴から流れているだけで、被害の拡大は防げた。

しかし4発もの爆弾を受けた飛行甲板はズタズタに破壊され、応急班も移動するのに一々迂回を強いられる。

手空きの要員は瓦礫を拾っては海中に投げ捨てるを繰り返しており、何とも痛々しい様である。


「米軍にはどの程度打撃を与えられただろうか?」


「纏めた報告では2隻撃沈確実、2隻大破とありますが、これが事実ならばここ最近では大戦果になります」


トラック諸島やニューギニアの拠点において散発的な空襲を受けていた日本軍だが、それでも基地航空隊の反撃によってホーネットを大破させたぐらいの戦果しか無く、活躍面では低調であった海軍。

インド洋でも英軍の補足に失敗しており、指揮官クラスともなると今海戦では撃沈していて欲しいという願いもあった。


事実として米軍は空母を3隻失っているのだが、2隻を失い2隻を大破に追い込まれた味方の状況を見ると五分五分であるとも言える。


「機動部隊は暫くはまともに動けないだろうなぁ……」


「瑞鶴はすぐにでも動けそうですが、戦力的にも厳しそうですね」


参謀は米軍の動きを警戒したが、米軍もかなりの痛手を負っており、実際反撃に転じるまでに数ヶ月を要する事になる。

この時瑞鶴以外で動かせる戦力としては南方方面、フィリピンやインドネシア周辺を担当する第七艦隊の第六航空戦隊(空母飛鷹、隼鷹)がいるが、今現在激しい制空権争いの続くビルマ戦線への航空機輸送やビルマ付近にある英軍飛行場への空爆等の航空支援を行っておりすぐに合流出来る状態では無い。


そうなると必然的に脅威となるのはインド洋のイギリス東洋艦隊であるが、実はこちらの主力艦は戦況の厳しい大西洋、地中海に殆どが引き抜かれておりインド洋の戦力は拠点を守るのに最低限の戦力しかいない。

海軍ではこれを脅威無しと判断した。六航戦のみならずインドネシアには海軍の第二十一、二十三航空戦隊、陸軍の第三飛行集団が駐屯しており、その数約800機。


もし攻撃に転じてくるのであれば第七艦隊の巡洋艦も合わせれば十分に迎撃可能と考えていたのだ。


事実としてインド洋における英軍の航空戦力は200機と少なく、インドにおける航空戦力は全てビルマ方面において戦闘中の為動かせず、英海軍もまた日本軍には手を出さず、攻撃してきたら迎撃するようにとの戦術を建てていた。

現状インド洋を巡る戦いは膠着しており、どちらも手を出さなかったのだ。


「主力が動けん以上暫く戦は膠着するだろうな……南雲先輩の仰ってた特別顧問? が気になるが……」


原も当初は当然の事ながら彰に対して不信感を抱いていた。しかし機動部隊を2個のグループに分け、結果として味方空母全滅を免れたのである。

翔鶴も五航戦も無事では無いが瑞鶴は損害軽微、翔鶴は極端な話消火設備と飛行甲板を直してしまえばすぐに前線に出られる。


その後も原は参謀と今後の展望について話をしていると、通信兵が近寄って来た。


「お話中失礼致します。瑞鶴より、着艦作業終了との事です」


「ご苦労様」


時刻は19時半を過ぎ、日は落ち辺りは暗闇に包まれた。

昼間の喧騒がまるで嘘だったかのように静まり返り、聞こえてくるのは海をかきわける波の音と水兵らが片付けている瓦礫の音、士官らの指示。

開戦して初の空母同士の対決は味方がかなりやられたようにも思える。しかし敵も同じであろうという所まで考え、原はこれ以上色々考えるのは辞めようと溜息をつく。


飛行甲板では一通りの作業が終わったのか、水兵らが談笑しながら各々艦内へと戻って行く。中にはただ黙って歩いている者もいたりする。それ程今日の戦いは厳しいものだった。

原はせめてもの労いとして酒保を開けさせた。搭乗員までも酒を取りに艦内を走り回る。


原も参謀より仮眠を勧められ、言葉に甘える。寝台に横になった彼女は、ここ数日の疲れが睡魔を誘い、深い眠りへと落ちて行った。






第二群より先に海域を離脱していた第一群では赤城に代わり旗艦となった金剛において反省会を表向きにした会議のようなものが行われていた。


「アリューシャン列島では作戦が行われていない……!?」


彰はこの世界における現状を知ろうとあれこれ質問していたのだが、まるで元の世界とは時系列が異なり過ぎて理解が追いつかなかった。


そもそも史実世界におけるミッドウェー海戦とは軍令部の太平洋における支配権を確立する為アリューシャン列島を制圧するAL作戦、サモア諸島を までを制圧し米豪遮断を達成、オーストラリアの攻略を目指すFS作戦、対して米機動部隊の撃滅とハワイを制圧するMI作戦を統合したような作戦において生起した戦いである。


戦術的、戦略的な点では素人同然の彰でもミッドウェー海戦だけは念入りに調べた為に軍令部の言う支配権を確立するという意見は真っ当であると理解していたし、同時期にアリューシャン列島にも攻撃を仕掛ける事で米機動部隊を炙り出そうとした事も理解していた。


だがこちらの世界ではそれが無い。日本海軍のほぼ全ての戦力がこの海域な集まり、それを迎撃しようとする米艦隊もまたこの海域に戦力を集めた。


「なるほど。つまりそちらの世界ではアリューシャン列島にも攻撃を仕掛けて米軍を炙り出そうとしたのだな……」


草鹿が呟くと南雲は思い出したように話し始める。


「そう言えば長官が軍令部と大いに揉めたよって愚痴を言ってたよ。貸し一つでミッドウェー攻略の許可が降りたって言ってた」


「貸し、ですか」


「うん。この作戦が終わったら米豪遮断計画の為の支援任務と引き換えにしたって」


米豪遮断というキーワードに違和感を覚えながらも彰は続ける。


「話が変わりますが、こちらの世界では本当にMO作戦は行われていないのですね?」


「あぁ。インド洋で英軍と交戦中だったからな、護衛につける部隊が第十七戦隊(軽巡天龍、龍田)ぐらいしかいなくてな。米機動部隊が出現した時点で作戦を中止して引き返している」


パプアニューギニアにおける展開は概ね史実と同じ様に推移していると考えられる。大陸戦線では暗黙の停戦状態、ビルマ戦線の膠着と航空戦、ニューギニアにおける低調な作戦行動。

全く違う世界で全く違うような動きであるにもかかわらずほぼ史実と同じである状況に彰は本当に別世界に来たんだなと改めて自覚するしか無かった。


「君の世界ではどうだったんだ? この辺の戦線に何か思い当たる節はあるのか?」


無言で黙りこくる彰に草鹿が問い掛けるも、彰はどうしても避けたい戦いがもう2ヶ月後に迫っている事に恐怖を覚える。

いや、実際にこの世界でその戦いが発生するのかは分からない。ニューギニアでは進展が微妙であり、何より別の世界線。起こらない可能性だってある。彰は自分の鼓動が早くなっていくのを感じながら質問をする。


「すみません……草鹿さん。海軍ではソロモン諸島のガダルカナル島に拠点を築いていたりしませんか?」


ガダルカナル島。それは太平洋戦争における激戦地の一つであり、彰は個人的に絶対に回避しなければならないと考えていたガダルカナル島の戦いの舞台である。

ガダルカナル島については今は割愛するが、草鹿はこの問いに首を傾げる。


「いや、そんな名前の島は聞いた事が無いなぁ……長官は何か伺っておりますか?」


「ううん、私も何も知らないかな。ごめんね」


南雲もこれには申し訳なさそうに謝罪する。もしかすると別の世界線だからそこまで無謀な事はしないのだろうかと希望を持ち始める。

事実として今回の海戦においては完全に余所者である怪しさ豊富な彰の提案、空母を二分割するという事を南雲は受け入れた。結果としては両方の空母群に攻撃をかけられてしまつてはいるが、米空母による最初の攻撃で空母が全滅、損傷によって第二次攻撃がかけられないという事態は免れたのだ。


この世界では戦いすら起こらないのかもしれない。MO作戦で第十七軍とその護衛艦隊が無理せず引き返した事を考えれば可能性はあるかもしれない。微かな希望を持ち始める。


南雲は考え込んでいる彰に申し訳なさそうに話を切り出す。


「話を変えて申し訳ないのだけれど、彰君の今後について正直に話すと私ではどうにも判断出来ない。よって帰港後私と共に連合艦隊司令部まで同行を願いたいのだが、どうする?」


彰はある程度の信頼を得られている事をこの時に理解した。ただの不審者ならば今この時にどこか適当な部屋に閉じ込めておく事も出来ただろうし、日本に帰っても強制的に連れて行く事も出来る。

しかし南雲は敢えて強制はせずこちらの意思決定に委ねようとしている。草鹿は横で彰を怪訝そうに見てくるが、彰としても今後どう生きていけば良いのか分からず、目の前には唯一のコネがいる事になる。

こうなると手段は一つに限られてくる。


「ここまで来たら行くとこまで行くしか無いですね……私にも行かせて下さい」


南雲は本心から、手荒な事はしたくないというような表情で彰の返答を歓迎した。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




日本、軍令部、0100


深夜にも関わらず軍令部のある一室には明かりが灯っている。広い会議室には4人の人物が資料を見ながら話し合いをしていた。


「本作戦において空母群が大打撃を受けたと言うが、どういう作戦指導をしたらこうなるのだ?」


会議室内の空気は悪く、3人の女性に対し1人だけの男性指揮官が問う。


「はっ、連合艦隊としましては全て許容範囲内の損害であり、むしろ想定していた最悪の場合からしますとむしろ幸運だった方かと判断しております」


嘲るような視線をものともせずにただ事実を淡々と答える人物。

連合艦隊司令部の参謀長にして史実において非公式となりながらも最後の特攻を行った人物。

宇垣纏中将、生名は(つむぎ)である。


「連合艦隊では当初敵空母においては多くて3隻と見積りましたが、暗号解読が間に合い5隻と全力でもって我が軍を迎え撃ちました。参謀としまして最悪全滅を覚悟しなければならないと考えておりましたが、結果として2隻喪失、2隻大破は善戦した方でしょう」


そう答えるのは連合艦隊の首席参謀として史実では山本の子飼いの参謀として4年間手放さなかったという黒島亀人大佐、生名は(りん)


「確かに損害だけ見ればそうであろう。敵戦力の見積もりもそうだが航空機も300機近く喪失したと聞く。君達が自信を持って敵艦隊を叩くと豪語して我々もそこまで言うならと認可したが、これでは暫く艦隊は動かせないのではないか?」


厳しい口調で問い詰めるのは軍令部第一部長の福留繁少将。

軍令部における部長・課長クラスでは数少ない男性であり、作戦の立案を担当しているが彼は生粋の大砲屋であり、空母戦力を二の次に考えている節があり山本ら実戦部隊の指揮官からは嫌われている。


「無責任を承知で発言しますが、どの戦においても完勝は余程の事が無い限り有り得ません。まだ報告は届いておりませんが2隻撃沈確実と報告は届いております。こちらが劣勢になった訳ではありません」


宇垣は反論するも福留の罵声にも近いような批判を受けてそれ以上の反論は取りやめる。


そもそも敵は来ないと言い張ったのはお前だろうが……。


宇垣は内心福留を酷く罵倒したい衝動に駆られている。


「少将、その辺にしておきましょう」


静かだが激しいように聞こえる応酬に仲裁を入れたのは軍令部次長の伊藤整一中将、生名は(かえで)


「軍令部としましては連合艦隊は暫く行動不能になると踏んでおりますがお二人もそれは承知ですよね?」


黙って頷く二人。


「だとすれば暫くは基地航空隊を中心とした戦力でもって今の支配地域の防衛網を確実なものにし、いずれ反撃に移るであろう米国に対して楔を今の内に打っておこうと考えております」


そう言うと伊藤は新しい書類を宇垣と黒島両名に渡す。

その表紙には【ソロモン諸島における米豪遮断計画】と書かれていた。

お待たせ致しました。お休みを頂きありがとうございます。

……と言いたい所なのですが、残念な事に流行病に罹ってしまい、執筆所ではなくなってしまいました。結構しんどいものですね……。

間に合えば24日、遅くなると31日が次の更新日になると思います。

どうかお待ちくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ