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転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
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第20話 幸運艦

お待たせ致しました。

松田機から放たれた魚雷は爆弾から回避を始めたばかりのホーネットをしっかりと捉えていた。

ホーネットは船体後部に魚雷を受けるとよろめくかのように揺れる。巨大な水柱が滝のように甲板や銃座に降り注ぎ、薬莢や残骸をを洗い流していく。

兵士らは水柱によるシャワーを浴びながらも母艦を守る為にと必死に機銃を撃ち続けるが、この時ホーネットを狙っていたのは艦爆だけでなく艦攻もである。その重圧は計り知れない。


先頭を行く松田小隊から放たれた魚雷命中に合わせるかのように高橋が投下した爆弾が命中、甲板に大きな爆煙を立ち昇らせる。これを皮切りに、史実でのセイロン沖海戦のような驚異的な攻撃がホーネットを襲い始めた。

艦爆隊は恐ろしく精度の高い投弾でホーネットの甲板に爆弾を命中させていく。その合間合間に艦攻隊も負けじと突っ込んで行った。

しかし、最初の攻撃の出だしは良かったものの、意図しない敵が艦爆隊の攻撃を邪魔し始めた。


先程の松田小隊に続き2個小隊6機がホーネットに狙いをつける。ホーネットは艦爆による攻撃よりも艦攻による攻撃を避け始めたのか、その進路を魚雷を避けるように回頭を始める。

艦攻隊からすれば狙いを定め直さなければならない、というよりも、爆弾を避ける為の機動だったのが魚雷を避ける為の機動になった為狙いやすかったのが本来の攻撃方法に戻っただけである。

これまでの猛訓練と豊富な実戦経験を持つ彼らにとってさほど問題にはならない。

回避される可能性が高くなっただけだ。

6本の魚雷を何とか避けたホーネットだが、再び2群の小隊が魚雷を投下。これらは残念ながらいち早く回避を始めたホーネットによって回避された。


その回避先を狙って再び艦爆によって命中弾を受ける。今度は甲板前部で炸裂。投棄中だった艦載機にも誘爆し真っ黒な黒煙が甲板の大穴より吹き出し始める。

この黒煙こそが艦爆隊を邪魔する、ホーネットにとってはまさにラッキーな事態となった。


艦攻を避ける為に左右に避け続けるホーネットの甲板前部から吹き続ける黒煙が煙幕のように広がり、視界不良を引き起こしたのだ。

これによって艦爆隊はホーネットが煙の中から見え隠れしている状態であり、命中弾を6まで数えたところから至近弾が多くなってしまった。

加えてこの黒煙は船体を覆い隠すように流れている為、艦攻隊からも視認性が悪くなり回避される本数の方が多くなっていく。


だがそんな状況でもまるで体当たりするかのような気迫で日本軍攻撃隊は攻撃を続けた。


艦爆隊の攻撃が低調になりつつある中、1個小隊の艦攻隊が突入を始める。


「くそ、敵さんが黒煙でよく見えんぞ」


この時ホーネットでは黒煙による煙幕効果を期待してダメコン班にわざと消火を止めさせていたが、艦攻隊からすると僅かに見え隠れする船体で凡その位置と進路を予測出来ている。

不運にもホーネットの黒煙は甲板は隠しているものの船体までは隠しきれていなかった。


(それなりに速度が出てるな……この辺りか?)


小隊長は頭の中で凡その速度と角度を見出し、その方向へと魚雷を投下する。ホーネットからの対空攻撃は最早行われていないも同然であり、これを通過するのに緊張感は感じなかった。

むしろ、通過した後の護衛艦からの弾幕にかなり気を使いながら海面スレスレでの退避となった。


小隊長が投下した魚雷は小隊機も含め全て外したものの、これをホーネットの見張りがやや遅れて魚雷投下を報告。

これを受けホーネット艦長はこれを避ける為に軌道を変えたがこれが艦爆隊にとっては上等な贈り物となる。




(何だ? 敵艦さん動きを変えよった……)


狙いを定めて降下中だった艦爆13番機の斉藤二飛曹はホーネットが魚雷を避ける為に直角に、斉藤から見ると目標が腹を見せている様な状態となる。

目標の艦首または艦尾から狙えば余程の事が無い限り、舷側から狙うよりも命中率は上がるのだが、今の様な回避行動で動きが激しい場合は命中率は下がる。


斉藤はホーネットが動きを変えるまではその状態となっており、味方の為に軌道を変えようと捨て弾にするつもりがまさかの好機到来である。

そこまで機体を動かす事無くゆっくりと照準を修正していく。既に照準器には黒煙越しではあるもののホーネットの想像図が浮かび上がってくる。


(恐らく今はこの辺りだろう……行け!)


投下レバーを引き、重りが無くなりフワッと軽くなった瞬間を狙い一気に操縦桿を引き寄せる。強烈なGが斉藤に襲いかかり目の前が真っ暗になりそうになりながらも懸命に踏ん張り食いしばる。

脚に入れた力が徐々に過剰であると気づく頃には機体は水平になっており、ここから他の機と同様に護衛艦からの弾幕を掻い潜りながらの退避行が始まる。


斉藤が投下した爆弾はその予測通りホーネットをど真ん中に捉えていた。

爆弾は再び飛行甲板、第一甲板を貫通して第二甲板で炸裂。そのエネルギーは周囲の船室を吹き飛ばし、格納庫にも殺人的なエネルギーを撒き散らす。

最早消火所では無いホーネットは遂に消火を諦め、浸水箇所の補強等に人員が割かれる事になった。


艦長もまたホーネットの最期を覚悟しつつ、黒煙による煙幕効果に賭け右に左にと転舵を繰り返させていた。魚雷や爆弾の被弾数は上がるかもしれないが、大きな機動によって黒煙が流され船体が敵に曝されるよりはマシであると考えた。


実際その効果は大きく、高橋含め最初の数発は百発百中であったものの、黒煙が酷くなってからはその命中数は著しく下がってしまっている。

これにはほぼ全ての搭乗員がヤキモキしているだろう。

だが五航戦の搭乗員は皆練度は高く、第一群がやられた事もあり士気旺盛、何としてもやり返すという闘志を燃やして攻撃を続けた。


最早入れ食い状態のホーネットは濃い黒煙を吹き出しているにも関わらずその後も攻撃を受け続け、ホーネット自身も浸水や黒煙による視界不良が重なり満足に対空戦闘や回避行動が出来ない。

艦爆による攻撃で次々と甲板が吹き飛ばされる様子を他所に、艦攻隊は護衛艦からのシャワーのような弾幕を掻い潜り次々に魚雷を落としてはそのまま全速で艦隊から離脱していく。

機銃によって落とされる艦攻や艦爆よりも遥かに多くの爆発と水柱がホーネットに立ち上っていく。


最後の艦攻小隊が攻撃態勢に入るが、既にホーネットは満身創痍。黒煙で最早船体は見えなくなり、その行き脚も僅かに5ノットと止まっているに等しい速度しか出せていなかった。

結局、この小隊が放った魚雷3本は全弾命中。ホーネットはなんと爆弾16発、魚雷9本を受け、乗員の脱出も間に合わず15分で海中へと沈んで行った。




ホーネットが滅多打ちになっているのとは真反対に、第16任務部隊の残された空母であるサラトガは奇跡を起こしていた。


サラトガに殺到したのは第17任務部隊と同じ、翔鶴から発艦した艦爆28機、艦攻28機。

その全てが米戦闘機隊にとっては過剰とも言える翔鶴制空隊の援護によって全機脱落無く攻撃態勢を取っていた。


既に攻撃隊の周囲には高角砲による黒煙がぽつぽつと出来上がっており、何機かがその砲弾の破片によって被弾する。

エンジンに命中したのか、1機の艦爆が煙とオイルを撒き散らしながら海面へと不規則な軌道を取りながら急降下していく。


翔鶴艦爆隊を率いるのは大垣中尉。海軍航空隊として支那事変、その後の大陸戦線にも参戦経験があるベテランパイロットである。


「そろそろ頃合いだな……行くぞ! 後ろは任せた!」


「はい!」


ペアの二等兵に声をかけ、返事が帰って来ると大垣は急降下を始める。

高度計がグルグル周りだし、高度が下がるのと比例するかのように曳光弾の数が増し機体の揺れも激しくなる。


「!!」


機体に大きな衝撃が走る。サラトガから放たれた28ミリ弾が大垣機に命中し、火花と破片を操縦席内に撒き散らしていく。

大垣の右大腿部に焼けるような感覚が走る。歯を食いしばりながら確認すると大きな穴が空いており、被弾した事を裏付けるように右脚には感覚が通っていない。むしろ、その威力によって吹き飛ばされ、切断されていないのが奇跡である。


「大丈夫か!? おい、返事をしろ!」


二等兵に声をかけるが返答は無い。それもそのはずで、二等兵は後部座席に飛び込んで来た28ミリ弾によって無惨にも頭部左半分を機体後方へと吹き飛ばされていた。

更に機体に衝撃が走ると今度は出火する。最早これまでと覚悟を決めた大垣は操縦桿を押さえ機首が持ち上がらないようにする。


(野郎……)


機首から炎を出しながらサラトガに突入を試みた大垣だが、無念にも機体が耐えられなくなり、尾翼やフラップが吹き飛ばされた大垣機はサラトガの遥か手前で方向転換し、そのまま海面へと激突、爆散した。

大垣の最期を見届けた艦爆隊員らは一層に闘志を燃やし、サラトガに次々と爆弾を投下するが、艦長の腕が良いのか恐ろしい程に爆弾を回避していく。


しかし、いや、遂にと言うべきか。サラトガは艦爆隊9番機によって捕まってしまった。


命中した爆弾は後部右舷側にて炸裂。周囲の銃座を吹き飛ばし、飛行甲板も一部を破壊せしめる。しかしこれは空母としての機能を削ぐどころかダメージとしては大したものでは無かった。

10番機も続けて爆弾を投下。これは完璧ににサラトガを捉えており、甲板中央部に爆弾は見事命中した。


サラトガでは事前に、最後の攻撃隊を発艦させてから損傷した機体は火種になりうるとして大胆にもその全てを海中投棄していたのである。


その成果あってか、甲板中央部を突き抜け格納庫内で爆発した爆弾は空になった格納庫を爆発のエネルギーが暴れ回り、後ろよりだった為後部エレベーターを吹き飛ばしただけの被害となった。

レキシントン級はアメリカ海軍が保有した空母の中で唯一の密閉式格納庫を採用しており、ヨークタウン級と異なり爆発の威力を分散させる事は不可能である。


よって、サラトガはこの1発の爆弾によって格納庫は使用不可能となり、結果的には戦線復帰に長い時間を必要とする事となってしまう。

しかし格納庫内を事前に空にしていた恩恵は大きく、可燃物となる艦載機が無いため格納庫内の若干の火災と吹き飛ばされた後のエレベーターシャフトからは薄い灰色の煙が立ち上るだけで、対空戦闘に支障は無い。


更には元巡洋戦艦としての34ノットは回避行動に大きく貢献し、次々に投下される250キロ爆弾をものともせず全てを至近弾へと変えていく。

残念な事に翔鶴艦爆隊の攻撃は2発の爆弾が命中しただけとなり、艦爆隊を大いに悔しがらせた。




艦爆隊だけでなく、大いに悔しがったのは艦攻隊であろう。


サラトガ艦長は対空戦闘において、艦爆隊による回避を優先とし、艦攻に関しては可能な限り護衛艦による弾幕での迎撃を指示していた。

サラトガ艦長の狙い目としては、艦攻による雷撃が回避されるのは何も目標の速度だけではなく、波の具合も影響されるだろうと推測していた。

海中を進む魚雷にとっては穏やかな波では大きな影響は無いのだが、サラトガ艦長は護衛艦による四方八方からの弾幕による海面への着弾による阻害効果を狙っていたのだ。


結論から言うとこれらは全て無意味となる。そもそも海面スレスレとはいえ機体を狙う訳だから海面に着弾したとしても波の影響は無い。

だが日本軍の腕前を考えるならば対抗しなければ被弾は必須であるが、これがサラトガに幸運をもたらしたと言えよう。


サラトガは敢えて艦攻隊に攻撃を加えず、護衛艦からの弾幕を頼りにした。正面からは機銃弾が飛んでこないが横からは機銃弾が飛んでくる。

異様とも言えるこの攻撃方法によって艦攻搭乗員は正確な攻撃をする。すると正確故にサラトガの見張りもそれを正確に確認出来るようになる。これが思いもよらぬ副産物となり日本軍から放たれた魚雷を次々に回避。


遂にサラトガは魚雷を1本も受けずに回避する事に成功したのだ。


これを受けサラトガ乗員は歓声を挙げ、翔鶴攻撃隊は大いに悔しがった。




一方のエンタープライズはというと、こちらは残念な事に攻撃をかける機体が少なかった。

駆逐艦4隻に護衛されたエンタープライズは損傷しているものの対空能力は生き残っており、ホーネットやサラトガらに負けない弾幕で応戦。


艦爆8機、艦攻8機では満足の行く数とは言えず、エンタープライズに爆弾2発、魚雷1発を与え、攻撃隊は艦爆3機、艦攻1機を失い離脱する事になる。

先週は仕事が忙しくて更新が出来ず、本日に至っては若干突貫工事的な出来栄えとなってしまいました。読みにくいかもしれません。申し訳ない限りです。


さて、7月27日に21話を更新しましたら、誤字脱字の修正や加筆作業を行う為、8月3日の更新はお休みさせて頂きます。


素人作品でございますが、お付き合い頂けますと幸いでございます。

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