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転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
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第18話 追撃

大変長らくお待たせ致しました。

ミッドウェー近海、0945


旗艦を変更し金剛に乗り込んだ彰ら司令部は艦隊をどうするかで意見が割れていた。

つまり、収容を五航戦に任せて撤退するのか、それとも消火活動をギリギリまで続けて攻撃隊を収容するかである。

というのも、延焼に次ぐ延焼により蒼龍は最早鉄までをも曲げ始めるかの如く大炎上しており最早消火活動は不可能となり、比べて初期対応が上手く行った事により比較的損害の小さい飛龍、火災が落ち着きつつある加賀がもう少し粘れば鎮火出来そうな所まで収まってきている。

この2隻ならば甲板を片付ければ機体は失うものの搭乗員は救える為何とか航空隊を収容できるのではと主に参謀らから出ている意見である。

対して南雲、草鹿、源田や艦長らは戦闘海域にこれ以上留まりたくない、早めに離脱したいという意見である。


特別顧問としての立場にある彰にも参謀らから意見を求められ、彰は判断に迷った。

どちらも真っ当な意見であるように見えるが、平成を生きてきた彰としては多少無理をすれば搭乗員は救えると考えていた。

しかし意見を出そうにもこの場にいる者の中では一番の素人である自分が口を出してもいいものかと悩んでしまう。

加えて米艦隊の動向が分からず、万が一攻撃隊を向かわせていたと考えれば更に被害が拡大する懸念もある(この時米艦隊は五航戦の攻撃を受け航空機云々の状態では無い)。

意を決した彰は意見を述べる前に確認をする。


「草鹿参謀長。被弾した二航戦は現在どのような状況ですか?」


「おお。飛龍と加賀は火災は残ってるものの何とか着艦は出来そうだが蒼龍はダメだ、魚雷で処分するしかない」


言われて初めて知った彰だが、草鹿の言う通り蒼龍は一番恐れていた弾薬庫へ火が周り大規模な誘爆を起こし最早廃艦と大差無い状態まで破壊された。

それでも30分程粘る蒼龍だったが、遂に力尽きたのかゆっくりと海中へと沈み始める。


飛龍と加賀は所々火は出ているもののその勢いは薄れてきており、燻る煙を吐いているものの曳航可能になるまでには落ち着いてきた。

しかし草鹿の希望虚しく着艦不可能と判断され駆逐艦2隻による曳航作業が始まる事になる。


「遅れて発艦した一群の攻撃隊の働きぶりに期待するとして、二群に残されている艦載機全て動員してもう一戦仕掛けましょう。搭乗員にはご苦労ですが、再度部隊を編制し四航戦の艦載機も動員して敵にとどめを刺します」


「報告では敵は2隻大破、1隻炎上。まだ2隻が無傷で残されています。この際戦果を拡大させるよりも、今傷を負っている3隻を確実に仕留めます。幸いにも五航戦の指揮官の英断により敵は被害を集中させられているので、この好機を逃す訳にはいきません」


彰の強気な意見を聞いたのか、南雲も決心を固める。


「よし、もう一戦やろう。参謀長! 至急五航戦に第三次攻撃隊の発艦準備に取り掛かるように命令を出してくれ」


「はっ」


草鹿は南雲が言い終わるとほぼ同時に敬礼して通信室へと駆けて行く。


「航空参謀、貴官は現在の航空戦力の集計を行い報告してくれ」


「既にここに」


源田は待ってましたとばかりにメモ用紙を手渡す。

現在日本軍に残されている運用可能な艦載機は以下の通りとなる。



五航戦 損失機あるも補用機により定数あり

各艦零戦21、艦爆24、艦攻24


四航戦 直掩が主任務の為損失無し

瑞鳳・零戦24、艦攻6

龍驤・零戦21、艦攻6



これに付け加えて第一群から米攻撃隊の攻撃前に間一髪で発艦出来た攻撃隊、偵察から戻っている艦攻も加えて追撃をかけるとしたら十分に敵の空母を沈められる可能性は高くなる。

ただ、航空参謀も源田も口を揃えて同じ心配をしていた。それは時間である。

帰ってきた艦載機に燃料弾薬の補給を済ませて出撃させるのにはどう頑張っても2時間はかかる。現在時刻はもうすぐ12時を迎える頃になるが、準備を始めてから攻撃を終えて帰って来る頃には日没に差し掛かる時間になるだろう。


だがそれでも彰もだが、南雲、草鹿も偶然にも同じ意見でこの反対意見を却下した。


「今はやるべきである」と。


しかしその真意は全くの別物であった。南雲草鹿両名は今後の戦いを有利に進めるためにも叩ける今こそ叩くべきだという考え。

一方彰は元の世界での歴史を参考に、アメリカの工業力ならば1943年中頃から日本は押され始める事を予測し、一刻も早く広がった戦線の整理を行い兵力の一点集中運用を行いたいという考え。


彰はこの一点集中運用に拘りを持っていた。

太平洋戦争では広がった戦線全域をカバーする国力が無いにもかかわらず兵力の分散という形でこれを支えようとした結果、体勢を整えた米軍に各個撃破されてしまう。

そして必ず、兵力の一点集中運用を行う上で絶対に軽視、いや無視してはならない要素が兵站である。

油がなければ弾で、弾が無ければ素手でとは行かない。素手で戦うにも糧食に医療品は必要なのである。

史実日本が軽視してしまった兵站とそれらを護衛する戦力の整理に一刻も早く着手したいのだ。だが戦力が五分五分の状態でこの海戦が終わってしまうと米軍の戦力立て直しは史実よりも早く終わる可能性も否定出来ず、避けたい事のひとつが現実となって襲いかかってくる事も有り得る。


それは艦載機パイロットである。まだこの海戦におけるパイロットの戦死者は分からないが、日本のパイロットは1人1人が名人芸程の腕前を持つ高級品であり、それらと同じレベルまで育成するのに陸上訓練、空母訓練を経て3〜4年。

対する米軍は五大湖に練習空母を2隻配備し一定のレベルまで育て上げた後実戦という過程になる。

練習空母で育てられたパイロットらはそれなりの技術を有しており、早くにベテランとなる。

この差を埋める為には訓練プログラムを変えていく必要があるのだが、その為には時間が欲しい。そうなると必然的に米軍の足を一旦止める必要性がある。それを達成する為には何としてもここで空母の数を減らす必要があった。


話が逸れたが、このベテランパイロットを失うという事はすなわち制空権の確保が出来なくなるということとなる。この先は制空権争いが鍵となってくる。その為に講じなければならない事は数多くあり時間が必要である。


その為にも……


「長官、勝手をお許し下さい」


彰の突然の言い出しと謝罪に不意をつかれた南雲は戸惑いながらも承諾する。


「源田さん、上空直掩機の燃料残量とその補給にかかる時間。また攻撃隊の準備にかかる時間と発艦から敵艦隊に巡航で行く場合の時間等を計算して頂いても良いですか?」


「あ、あぁ。構わないが、何をする気なんだ?」


彰は批判を覚悟しつつ口を開く。


「長官を前に無礼な発言ではありますが、既に我が艦隊は壊滅状態。既に赤城と蒼龍は沈み、飛龍、加賀は大破、重ねてお詫びしますが、わざわざ直掩機を貼り付けて守る価値があるでしょうか?」


この発言に草鹿が何かを言おうとするが南雲が制する。


「それならば、未だ戦力として機能する敵艦隊の空母殲滅に全力を注ぐべきです。敵にはまだ厄介な戦闘機隊が残されているはず。ならばこれを我が艦隊の持てる戦闘機全機で排除し攻撃隊の突破口を作る。そして攻撃隊はその突破口から敵空母目掛けて突入する、安直ではありますが今出来る全力であると確信しております」


突拍子も無い意見に草鹿はおろか南雲も正気を疑うような目で彰を見ている。


「申し訳ありませんが発艦能力を失った空母を戦力としては考えておりません。第一群は壊滅、残る戦力である第二群と第一群の航空戦力を多少無理をしてでも纏めて送り出すべきです」


それでも反論したげな草鹿に対して、彰はワザと自虐的にそれを遮る。


「これ以上無力な艦隊を守るのは戦術的に価値はありません。敵に対する損害を優先すべきです」


戦術的価値、これにピクリと眉を動かした南雲だが、彰の言っている事はあながち間違いでは無い。これまでの海軍の常識ならば空母を守る方が先決。むしろ空母は主力艦隊の補助的な役割であり、空母艦載機でもって敵艦隊を減らすのが主戦術であった。

しかしその空母が真珠湾攻撃を皮切りに獅子奮迅の働きぶりを見せ、戦艦主義の指揮官達を唸らせる程にまで戦力として一目置かれる存在となったのだ。

敵に無傷の空母が残されているならば、それを叩くのも戦術としては有り得る話である。そもそもの話相手は真珠湾攻撃の際に取り逃した空母である、それを思い出した南雲は米艦隊への攻撃を決意する。


「参謀長。至急第二群へ連絡し、第二群残存機と第一群の攻撃機を急ぎ米艦隊攻撃へ向かわせるように催促してくれ」


「主力部隊に報告。我敵機動部隊ノ攻撃ニヨリ空母2大破、2喪失。第一群ヲ後退サセ第二群ヲモッテ敵空母ニ追撃ヲオコナウ」


通信員が手早くメモをとると敬礼した後急ぎ足で艦橋を出ていく。源田は他の航空参謀らと海図に色々書き込みながら距離や味方攻撃部隊の航続距離等の計算をしている。


「して彰よ。貴様ならこの状況どう読み取る?」


彰のほんの少し光った参謀らしい才能を読み取った草鹿が試すように質問する。


「厳しい状況ではありますが決して味方不利ではありません。半減しつつも艦載機は3分の2残っています。最終的には殆どを海中投棄する事も視野に入れてますが、艦載機よりも重要な熟練の搭乗員を無駄に失う事にならないのは我々が今手にする事が出来る最上の武器です。彼らがいればリベンジは必ず出来ます」


未来から来た人間らしい発想。満足したのか、草鹿は強く頷いた。




至急第一群の艦載機を収容し第三次攻撃隊を編成せよとの命令を受け取った第二群の各空母では作業班の兵らがわっしょいわっしょいとかけ声をかけながら艦載機の移動に忙しい。

真珠湾攻撃から始まり、南方作戦では支援任務が中心。

果ては翔鶴が座礁で修理に入った事もあり五航戦は久し振りの対艦攻撃任務となる。搭乗員も含め全艦士気旺盛だ。


「しかし南雲長官も思い切った事を決断されたなぁ、一群の艦載機を収容してくれとは……」


翔鶴型空母はどんなに頑張っても90機以上は格納出来ない。航空機は格納庫に収納する物であって露天するものでは無いとする考えが海軍にはある。その露天をしなければならないのかと考えていたが、大胆にも司令部は「不可能ならば搭乗員収容を最優先、艦載機は投棄を許可」と言ってきたではないか。


「しかし長官。投棄しても良いとなるならば多少強引ではありますが甲板の空きスペースを使えば何機かは救えます。それを見越した上での命令では無いでしょうか?」


原中将の参謀を長く務めてきたシワが目立ち始めてきた初老の佐官が発言する。


「成程な……それならば少しばかりオマケを付けてアメさんに送り付けられるという事か……空母の運用は私にはまだまだだな。そう考えると小沢さんは凄い指揮っぷりだなぁ」


「なんの。空母の運用は敵と同じく我が軍も初めての試み、学ぶ事は多いですが学んで行けば上手くなりましょう」


幼少より軍人として叩き上げられる彼女ら女性指揮官はその教育課程上親との触れ合いは一般家庭と比べたら極端に少ない。そのせいか、原は厳しくも肯定する箇所はしっかりと褒める参謀を親の様な特別な信頼を寄せている。


「ありがとう、少しは気が軽くなるよ」


感謝を伝えられた参謀は軽く会釈で返す。


「航空機接近! 味方の模様!」


見張りの報告が入ると原は首よりかけている双眼鏡で持って報告の入った方角を見渡す。今第二群に接近しているのは第一群の攻撃隊である。


(数が減っているな……こちらばかりやられているようにも見えるが報告では敵にも打撃を与えている。なるほど、長官も思い切った訳だ)


敵機や対空砲によって少なくない損害は出ているものの味方の戦いぶりを聞くに敵も無傷ではない。このまま逃がすよりも多少無理をしてでも数を減らすのが合理的であると判断した南雲の意図を今一度確認する。

見張りが再び味方接近を報告する。よくよく見てみれば確かに後方より航空機の一群が編隊を組み接近中である(五航戦第一次攻撃隊)。


彼らは損傷機を先に下ろし、甲板作業員の判断で損傷機を海中投棄。無傷な機体を優先的に残す事にしたようだ。

要領良く動く兵隊を見て原も覚悟を決める。


(一群の敵討ちだ……絶対に一隻でも沈めてやる……)

大変、大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

リアルの事情により執筆が出来ず、執筆も滞っておりましたが、やっと片付いたので執筆を再開していきます。本当にお待たせしました。


以前と同じように投稿を毎週水曜日夜22時目安、予備投稿日を木曜日夜22時目安でまた更新してまいりますので、お付き合いの程宜しくお願いします。

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