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転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
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第16話 被弾

大変お待たせしました。

シード少尉の率いるグリーン中隊のTBD10機(2機脱落)は5機が蒼龍に狙いを定めて50メートルの高度で接近しており、弾幕も一層激しく機体の横を掠めるようになっていた。

既に味方によって空母1隻(赤城)に損害を与えており、蒼龍に狙いを定めるシードはもう1隻と闘志を燃やす。


シードの乗り込むTBDは世代的に古く、話に聞く日本軍機よりも劣っている。

だが空母乗りとして、航空機乗りとして3年近く一緒に戦った愛機を新型であるTBFに交換するのは些か葛藤があった。

そこでシードはせめてこの大事な作戦は乗り慣れたTBDで戦いたいと願い出てそれが受理されたのだ。第17任務部隊にTBFが集中配備された背景にはそういった経緯もある。


吊り下げた必殺の魚雷を命中させれば少なからずの損害を与えられる。


シードは高度50で飛行していたが弾幕を避けたいとの思いから20まで下げて飛龍を狙う。

距離1200。間も無く投下地点。


「行け!」


投下コックを引くと途端に軽くなった機首が浮かび上がろうとするのを何とか押さえつける。高度20を維持したまま全速力で蒼龍を横切り反対側へとすり抜けていく。


「カイル、離脱する! 命中したか確認してくれ!」

「サーッ!」


長年ペアを組んだカイル曹長は飛んで来る火線に恐怖を抱きつつも投下された魚雷の行く末を見守る。

投下した魚雷はまだ命中しないかとヤキモキしていたカイルだが、その意識は突如として衝撃と共に消えてしまった。


離脱中のTBDの正面から駆逐艦から放たれた25ミリ機銃弾がエンジンに直撃。

日本海軍の採用する25ミリ機銃は弾倉式で15発と装弾数は少ないものの航空機からするとその口径は爆発的な威力がある。

その威力がカウルを突破ってエンジンを引き裂き、更に複数の機銃弾が操縦席や主翼の付け根をズタズタに引き裂いて爆発を起こしたのだ。


シードもカイルも、投下した魚雷がどうなったのか見届ける事無く海中へと没した。




「魚雷投下ーーー! 距離1000!」

「取ーー舵ーー!」


蒼龍艦長は取舵での回避行動を命じるが、内心では食らうものとして覚悟していた。

蒼龍を狙う雷撃機は2機撃墜したものの未だに3機が接近しており、回避行動を早めにしなければ3本をまともに食らう結果にもなる。


「雷跡は!」

「見えていまーす、距離600!」


大きく傾きながら回避しようとするが間に合わず、艦中央部に大きな水柱が立ち上がる。

命中した魚雷は船体に6メートルの大穴を開け蒼龍は海水を飲み込み始める。


「右舷注水!」

「損害状況知らせ!」


矢継ぎ早に指示を飛ばしながら傾斜の復旧を急ぐ。飲み込んだ海水によって速度は落ち、30ノットが限界となった。

更に2機が魚雷を投下するも30ノット近い快速を保てたおかげでこれを回避する。一通りの攻撃が終わると見張りが再び悲痛な声で報告を入れた。


「敵機急降下!」

「軸線は!」

「……外れてます!」


全速で回避する蒼龍はすんでのところで爆弾を回避。立て続けに立ち上る水柱は舷側の銃座にシャワーのように流れ込み、対空能力を一時削ぎ落とす。


「艦爆は何処から来た!」


艦長は吼えるが返答する者はいない。

この時艦長は知る由もなかったが、見張りは艦爆が味方高角砲による爆煙で一時見失っており、視界の端に捉えた雷撃機に注意を向けたのだ。

戦場における興奮と緊張で起こったミスであったが、艦長の判断と蒼龍の快速によって救われた形となった。


「飛龍にも艦爆接近!」


「クソ! アメさんやりおる」


蒼龍艦長が見た光景は爆雷同時攻撃のようにも見える見事な連携であり、TBDが狙う飛龍は上空に忍び寄る艦爆に気付いていないようにも見える。

これまでの戦いとは違う、機動部隊同士の激しい戦闘に更に緊張感を深めた。





飛龍を狙う5機のTBDは幸運にも未だに脱落機は無く、纏まって飛龍に接近しており依然として油断を許さない状況となっている。


「取舵一杯!」


「それにしても機銃はちっとも当たっとらんじゃないか、気合い入れるようハッパをかけてこい!」


飛龍艦長が戦闘の様子を見守るが弾幕は充分とは言えず、むしろ弾切れなのかまばらにばらまいているようにも見える。

距離1000程で魚雷を投下した敵機はそのままチョイと高度を上げると甲板を飛び越えて退避を始める。反対側の機銃が命中させたのか、1機炎を吐き出しながら海面へと激突した。

舵が効き始めたのかゆっくりと右に船体を傾け始める飛龍だったが、後部に1本魚雷を食らう。


この魚雷は運の良い事にスクリュー付近ではなく、むしろ中部寄りで爆発し大穴を開けた。

蒼龍と同じように大穴から海水を飲み込み始める飛龍はその量こそ蒼龍よりも少なくすんだが、速度が落ち31ノット発揮出来れば良い方との損傷具合となる。

その状態で更に魚雷を回避して第一波を凌いだ飛龍では安堵の空気が漂う。


それを打ち破るかのように、蒼龍と同じような報告が入った。


「敵機直上!」

「……取舵このまま! 衝撃に備え!」


飛龍艦長も、そして二航戦司令官の山口も突如現れたような存在である艦爆に意表を突かれた状況である。

ただでさえ魚雷を食らった飛龍は心無しか少しばかり速度が落ちたような感覚を覚えており、その遅い感覚にヤキモキした。

2度の衝撃が飛龍を揺らし、衝撃で艦橋のガラスは砕け散り残骸が巻き上げられる。その他の爆弾は至近弾となり飛龍を挟み込むようにして水柱を立てた。


「……損害は!」


「第一格納庫(上部)との連絡不能!」

「艦載機誘爆!」

「中央エレベーター脱落!」


続々と入る報告を聞きながらその都度対応命令を出していく。上部格納庫との連絡がつかない以上ここに優先的に人員を配置して被害の拡大を食い止める必要がある。


「新たな敵機!」


見張りの報告を聞いた飛龍艦長はもうひと踏ん張りと気合いを入れ直した。






少し遡り、蒼龍が雷撃を受けた場面に戻る。


第16任務部隊に遅れて日本艦隊上空に到着した第17任務部隊の攻撃隊を率いるジョン大尉は今まさに眼前において魚雷を1本食らった取り舵で回避中の空母を狙おうと考えていた。

ジョンは艦爆乗りとして実力も経歴も申し分無く、彼の乗り込むエンタープライズでは攻撃隊長を任せられる程の人物である。


日本艦隊は輪形陣を組んでおり、前に大型の空母2隻、その後ろに少し小ぶりの空母が2隻。いずれも回避の為に陣形は崩れ気味であり、特に魚雷が命中したばかりの空母(飛龍)は艦隊から少し離れた位置となっている。

その近くには駆逐艦が2隻守るように追随しているが、攻撃するには格好の標的となっている。


「マルチリーダーよりブラック(エンタープライズ)へ、これより目の前の小ぶりの空母に攻撃を仕掛ける。イエロー(ヨークタウン)、レッド(ホーネット)は前方の大型の空母(一航戦)を狙え!」


「イエローリーダー、了解」

「レッドリーダー了解」


無線から各中隊長の返答が返ると各編隊はそれぞれの標的を狙いに高度を下げる。

ジョンが狙いを定めた飛龍は魚雷が命中したのを確認したはいいが早急に傾斜を回復させたのか特に問題無さそうに戦闘を続行中であり、速度も維持しているようにも見える。

陣形から少々離れ孤立しうる位置にあるとはいえ付近には駆逐艦が付随しており、これを無視しての攻撃はリスクを伴う。

しかし手負いであるのには変わらず、戦果の拡大よりもここで確実に1隻を沈める為に尽力した方が良いと判断。

エンタープライズの攻撃隊はSBD12、TBF4。ただでさえ数の少ない雷撃機であるが、爆弾では精々大破に持ち込むだけの威力の為ジョンはたった4本の魚雷に賭けていた。

雷撃隊の数は少ないもののそれを補う艦爆数である。


最初にしかけたのは艦爆隊。二手に別れた艦爆隊の一隊右舷より高度2000から約50度の角度で降下を始める。各機1本棒になって飛龍の甲板めがけて突っ込んでいく。

途中、2機が機銃によって脱落するもまだ10機が残っている。


高度800で爆弾を投下していく。最早蒼龍の対空能力は完全に麻痺しており、撃ち上げてくる弾幕も薄くなりつつあった。

蒼龍は面舵で回避しようとするも如何せん数が多く、最初の5発を回避したところで捕まった。


飛行甲板後部のエレベーターを貫通し1000ポンド爆弾は下部格納庫で爆発し、そのエネルギーは上に取り残されていたエレベーターを5メートル程浮き上がらせた。

近くに置いてあった艦載機はズタズタに破壊され、作業員を多数殺傷。

そこに更に追い打ちをかけるようにして7発目の爆弾が飛行甲板を突き破って上部格納庫内で爆発。下部格納庫へ残骸を降らせ多数の死傷者が続出。

更に7発目が甲板中央部に命中。甲板の残骸が上空へと吹き飛ばされ、発着艦能力を喪失した。

格納庫内は阿鼻叫喚の状況となり、燃料を抜くのが間に合わなかった機体から次々に誘爆していく。

蒼龍は魚雷1本、爆弾2発を受け大火災が発生する。



イエロー隊、レッド隊に狙われ始めた一航戦は再び激しい弾幕を形成しつつある。

特に赤城は爆弾2発を受け黒煙が甲板を覆っていたためにその狙いは正確なものではなく、どうもまばらに見える。

甲板の応急班はなるべく身を隠せる艦橋付近から放水するも風によって流され満足にいかない。


「来ます! 高度1200!」


彰もまた上空を見上げる。小さい影が次々にダイブしており、タイミングを見計らったのか水平線上にも影が見える。


「取舵いっぱい!!」


号令より少し遅れて赤城がゆっくりと船体を傾けながら回避を始めるが、同時に攻撃を仕掛けてきている雷撃機も気が気でならなかった。

彰は見張りと一緒に艦爆よりも雷撃機の動向を注視する。

弾幕によって1機が前のめりになるようにして海面に突っ込んだが、依然として3機のTBFが距離を詰めてきており、油断は出来ないでいた。


「爆弾投下!」

「軸線あってまーーす!」


見張りの報告で我に戻るとSBDが次々に爆弾を投下して回避機動に移っていた。


「衝撃に備え!」


艦長の指示を聞くまでもなく彰は近くの手すりに掴まり身体を保持する。数秒経ってその衝撃はやってきた。


海戦が始まってから3発目となる衝撃が4万トンの船体を大きく揺さぶる。後部に新たに命中した爆弾は丁度真下に格納されていた艦載機諸共破壊し、酷くなっていく一方だった火災を更に拡大させんとばかりに猛威を奮う。

4発目の爆弾は中央部に命中したようだが、甲板は最早黒煙と残骸で視界が悪くなっており正確にどこに命中したのか分からないほどだった。

しかし、爆炎が他の穴から吹き上がったのを見るところどうやら先程開けられた穴の付近に被弾したようで、応急班の兵員を数名吹き飛ばした。


火災は最早手が付けられないほどに拡大し、遂に艦長は赤城の戦闘能力は失われたと判断。艦隊より距離をとり火災の鎮火に専念する事を南雲以下司令部に報告した。

肝心の雷撃隊はと言うと、こちらは運が良かったのか3本とも回避に成功したようで、むしろ離脱しつつあった1機を機銃で撃墜したとの報告が入る。


「大山君。すまないが我々は旗艦を金剛に移乗する。カッターを用意するのでそのつもりでいて欲しい」


「分かりました」


彰も目の前で轟々と燃え上がる甲板を見て命のやり取りというものを改めて認識していた。

もし自分が甲板にいたら、下手したら自分が死んでいた。

事実爆発により吹き飛ばされた兵員を目の当たりにしている彰にとって、気を紛らわす為に言葉を発する事は出来ず、ただただ現実を否が応でも頭に流し込むしかなかった。


「大山君、これが戦争だよ」


源田は彰の心情を察したのか、励ましか慰めかも分からないが声をかける。


(一番避けたかった空母の全滅、現実はそうはいかず、俺は呆然とするだけ。覚悟を決めたのは決して軽い気持ちじゃなかった。けれどこれは……)


現代日本人が経験することの無い戦争。彰は何とも言えぬ感情を抱きながら応急班の消火活動を見守った。




少し遡り、赤城が攻撃を受けている時加賀もまたレッド隊(SBD12、TBD8)からの攻撃を受けていた。

加賀は元々八八艦隊の加賀型戦艦の一番艦として建造されたが、ワシントン条約によって空母へと改装された経歴がある。

戦艦にしては軽く基準排水量3万トン。巡洋戦艦として建造された赤城は3万6千トン、戦艦長門でも3万9千トンである。


空母としてはもう少し欲しいであろう28ノットで懸命に回避行動を取り続けるも12機ものSBDから完全に逃れる事は出来ず、9機を回避した所で捕まってしまった。

爆弾は立て続けに3発の爆弾を甲板に叩きつけられ、瞬く間に格納庫内は阿鼻叫喚の惨状となり艦載機もまた粉々に分解されるように破壊された。

火災による煙は艦内にまで膨張し、一酸化炭素中毒による負傷者を増加させた。

だがそんな加賀でも運の良い事に、敵雷撃機の攻撃を全て回避に成功したのは不幸中の幸いであっただろうか。




集中して攻撃を受けた一航戦だが、二航戦もまた激しい攻撃に晒されていた。

魚雷のみの命中に留まった蒼龍だったが、まだ30ノットという快速で取舵いっぱいで回避を続ける。8機の雷撃機が蒼龍に集中し、艦爆も避けながらというのは難しく、2本の魚雷を受けてしまう。

流れ込む海水は速度に比例してその量を増し、4ノットほど速度低下を招いた。

加えてタイミングを見計らったのか艦爆はギリギリの高度で投下した爆弾は4発が命中。


こうして、第一群の4隻の空母が被弾した。

ご無沙汰しております、松茸です。

まず、長らく投稿しなかった事について深くお詫びします。早めの投稿をと言った矢先でしたので、申し訳なく思っております。

ここ暫く、リリースされましたウマ娘にどっぷりとハマってしまい、寝る時間と仕事以外は育成に費やしておりました。


ちなみにテイオーちゃんは友人が目の前で引きやがりました。羨ま悔しいです。


今はひと段落着きましたのでまた執筆の方に集中したいと思います。次回までまたお待ち下さい。

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