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転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
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第13話 空襲

第一群に最初に攻撃を仕掛けたのは上空3500を飛行するB-17爆撃機7機、全機1000ポンド爆弾10発搭載である。

たった7機による爆撃ではあるが、70発の1000ポンド爆弾による制圧爆撃?は空母単艦からすると到底無視出来ない打撃力を有しており、各空母の見張り員はその動向に特に警戒して注視している。加えて低空(500)には雷装の飛行艇が接近中であり、外周の駆逐艦、巡洋艦が激しい弾幕で迎撃するも中々撃墜には至らない。


「敵爆撃機投弾! 狙いは本艦と加賀の模様!」


一回り大きいのが目立ったのか加賀には4機、赤城には3機、そして爆装の飛行艇は二航戦に別れ照準をつけているのか高角砲の弾幕を避けようとせずに直進を続けている。


「艦長! 貴様に託す、頼んだぞ.......」


「はっ、見張り員は投弾の瞬間を見落とすなよ!」


見張りは双眼鏡を備え付けの双眼鏡を通して爆撃機を睨み、その瞬間を待ち受ける。その間にも艦隊左から飛行艇がノロノロと接近しており、味方の誤射を避ける為制空隊はこれには手をかけない。

かと言って上空の爆撃機を攻撃するには高度がもう少し必要であり、もっぱら高度がほぼ同じ3000にいる艦爆を狙い続けている。


「敵機投弾! 投弾!」


「取り舵いっぱーーい!!」


投弾報告と同時に艦長は取り舵号令、操舵手は大急ぎで操舵輪を左へと回す。

大型艦は舵の効きが遅い為早め早めの判断が重要になってくる。


「それにしても敵さん、3500から投下とは.......」


「無謀ですね.......艦船に水平爆撃は効果が薄いのは敵も分かってはいるでしょう.......」


大型艦でも一度投下された爆弾が水平爆撃によるものならば高度にもよるが回避はしやすい。敵は3500で投下した為全弾が回避された。


「艦爆接近、数8、高度2000!」


「人気だねぇこの赤城は」


南雲が笑いながら艦爆の動向を伺う。既に急降下を始めており、赤城も取り舵を取り続け回避に専念する。

艦爆はその攻撃方法の性質上急降下を始めると緩やかな調節は可能だが基本的には調節は効かなくなる。赤城の全力取り舵を先読みして急降下を始めたものの思っていたよりも赤城の速度が早かったのか至近弾2発を与えたのみで艦爆の攻撃も失敗に終わる。


「報告します! 左舷1番高角砲が至近弾により電気系統故障、旋回不能!」


「応急班を組織して損害箇所の修復に当たらせろ。他にも損害があれば随時報告する様に」


「飛行艇接近、距離1200!」


取り舵旋回中である赤城含め艦隊の右側から進入する形となった飛行艇部隊は全22機。制空隊により2機脱落していたがそれでも彼らが抱える魚雷は各機2本、合計44本と北上型に匹敵する攻撃力である。


「大山君、君の知識を借りたい。あの飛行艇の攻撃手段は?」


源田の問いかけに彰も答える。


「あのカタリナ飛行艇は魚雷を2本搭載できる能力を有しています。20機程接近しているとなると40本は確実にこちらに放たれます」


40本。それは現在後方の第一艦隊と共に行動している北上型軽巡にも匹敵する本数である。回避行動で陣形が乱れている現状で放たれたら甚大な被害が考えられる。


「それは不味いな.......直掩機は誤射を避ける為に高度を上げてるし.......機銃と回避で何とかするしかなさそうだ」


「敵魚雷投下!」


見張りの報告に艦橋にいる全員が緊張で表情が強ばった。




飛行艇部隊は4機1個編隊(一部3機)で高度50で接近し、先頭の3機、次の4機が赤城に狙いを定め雷撃を仕掛けた。

赤城はそれを読んですぐ様右回頭。距離は900と離れた地点からの雷撃でこれを回避。

加賀も同様に8機の飛行艇から魚雷を放たれたが、これもまた距離が遠く回避は容易に行えた。


「何だぁ? 敵さん攻撃がなっとらんぞ」


「飛行艇だからでしょうか? それにしても酷いですね」


南雲と草鹿は油断せずとも米軍の戦意の低さに拍子抜けしてしまう。日本軍の艦攻ならば必中距離である600〜500での投下を狙うが、800程の距離ならば回避可能な距離である。

米軍が知らぬ筈無いとは思いつつも余りにも低調な攻撃にそう言わざるを得なかった。


だが彰は先程から冷や冷やして気が気でならない。初めての戦闘で明確な殺意を持って攻撃を仕掛けているのだ。1本ごときの魚雷で沈みはしない事は頭では承知しているものの身体は緊張で上手く動かせない。

それと同時に冷静でもあった。史実では役に立っていないと良く言われる機銃や高角砲、高角砲は自分の知識ではどうにもならないとしても機銃は幾らか改良を加えれば十分に対抗出来る様になるだろうとも考えていた。


そもそもの話として日本軍が採用している九六式25ミリ機銃は弾倉給弾で容量15発と、史実でも有効弾が出る頃には弾切れになると報告が多数挙がっているほど少ない。

彰も少し余裕がある時は艦橋から対空射撃の様子を見ていたが確かに弾倉交換の頻度が高いようにも見える。


(機銃の改良が出来たらな.......)


そう思いながら必死に逃げ出したい衝動を堪えていた。


「敵機、二航戦を狙っています!」

「本艦へ更に4機!」

「加賀にも4機向かってます!」

「敵機1撃墜!」


見張りの報告が矢継ぎ早に入ってくる。彰はもう何が何だかという状態であったが、目の前にいる自分とさして歳の変わらない南雲.......少女は臆すること無く敵を睨み、その部下達も落ち着いている。


(なんてこった.......俺だけビビって、かっこ悪い.......)


恥じる。目の前で戦っている少女がいるのに、自分だけ死にやしないかと震えているのが恥ずかしくてたまらない。

彰は何とか震えを隠そうと海図を眺めるがやはり震えは止まらない。目の前で行われているのは映画の撮影でもなく、純粋なる殺し合いである。

ふと、違和感を感じる。何かがおかしいと思い、ただ眺めるだけだった海図を睨みつけるように頭を動かし始めた。


そんな彰を源田は心配しつつ横目で見ていた。いくら覚悟を決めたとはいえただの少年が戦争に耐えられる訳が無いと。

だが彼は海図を眺め始めた。恐らくは緊張をほぐすためだろう、現実を無理に直視するよりも少しは目を逸らした方が気分が安らぐ事もある。


「敵艦爆急降下始めました!」

「狙いは加賀と本艦らしいーー!」


上空を見ると数少ない艦爆が高度2000から急降下を始めている。余程腕に自信があるのか、機体を少し揺らしながら撃ち上げてくる機銃弾を避ける機動を取っている。

急降下の最中で機体を揺らすのは容易ではなく、加えて狙いも定まらない為普通ならばやらない。だが先頭の艦爆は敢えてそれを行っているようにも見える。


やるじゃないか。


南雲は内心で敵に感心しながら艦爆の動向を伺う。高角砲も機銃も盛んに撃ち上げるも命中はせず、グングンと高度を下げてくる。

高度1000。200程下がったところで艦爆の腹から黒い物体が吐き出されるのが見えた。


「敵機投弾!!」

「軸線は!?」

「外れてまーーーす!!」


まるでドリフトしているようにも思える赤城の急速回頭は緩やかに水平に戻りつつ、直後に離れた海面で凄まじい衝撃と爆音。巻き上げられた海水が赤城の銃座や甲板にバケツをひっくり返したように降り注いだ。

海水は熱くなった機銃の銃身を冷やし、薬莢を散らばせる。配置に着いている兵はその衝撃で海面に投げ出されないように踏ん張って耐えている。

先程の艦爆が放った1000ポンド爆弾は赤城の横8メートル離れた海面で炸裂した様で、かなりの衝撃が赤城の船体を揺らす。

更に後続の3機も先頭に続いて攻撃を仕掛けるが、1機が機銃弾の直撃なのか黒煙を吹き出して真っ直ぐに海面へと突入を始め、残された2機も投弾に成功するも命中弾は得られなかった。


加賀にを狙った艦爆も同様に命中弾は得られず攻撃に失敗した。加賀を狙った3番機であるが、角度とコースが急すぎたのか降下角度を緩め、後方の蒼龍に狙いを定め始めた。

蒼龍もまた飛行艇4機に狙われており、突然の艦爆の攻撃に驚いたものの、ギリギリでこれを回避。飛行艇からの攻撃にも上手く対処しているようだ。


「飛行艇接近してます!」

「雷撃体勢、距離1200!」


爆撃と雷撃の同時攻撃程厄介なものは無い。余程の偶然や運が無ければ両方を避けるのは不可能だ。だが今回は運は赤城の方にあり、艦爆が先に攻撃を仕掛けたりとタイミングがズレている。

赤城を狙う飛行艇は4機、8本の魚雷は先を見据えて避けないと回避は難しいだろう。


「艦長! 慎重にな.......頼むぞ」


南雲が赤城艦長は檄を飛ばす。


「お任せ下さい。セイロンでも南方でも私が喰らった攻撃はありませんよ」


腕をパンパンと叩くと飛行艇部隊を睨みつける。我慢の根比べが終わったのか、飛行艇はやはり距離800で魚雷を発射する。


「取り舵!!」

「取り舵ヨーソローーー」


グルグルと操舵輪が回ると船体も徐々に左へと傾き始める。

南雲は一瞬冷や汗をかきそうになったが直ぐに状況を理解する。飛行艇は艦の右から魚雷を発射しており、これに対する取り舵とは即ち艦尾を魚雷に向けながら回避することになる。

当たりやしないかと不安になったが、どうやら船体は魚雷に対し約45度の角度で左を向いていたようで、これもまた容易に回避出来た。


加賀、二航戦を狙った雷撃も全て失敗に終わり、むしろ損害を出すことに固執したシマードの飛行艇による雷撃は飛行艇の損害を出すことになってしまい、雷撃隊として参加した飛行艇24機中零戦による撃墜7、艦隊の対空火器による撃墜5機。帰還しても損傷放棄2機と14機が喪失となった。




最後に残されたTBFが攻撃を二航戦に仕掛けている時に、海図を睨んでいた彰が口を開いた。


「源田さん。直掩隊に至急確認を取りたい事があるのですが」


「直掩隊に? 何かあったのか?」


彰の問い掛けを南雲も聞いていたのか、海図の元へと寄ってくる。


「飛行艇に爆撃機.......先程見ましたが明らかにボーイングの重爆撃機ですのでミッドウェーから飛来した陸上航空部隊で間違いありません。ですが、ミッドウェーから飛来した彼らは推測ではありますがほぼ博打で我々を発見したと考えられます」


「根拠を聞こう」


南雲も彰の話を聞くべきだと判断する。


「まず我々は日の出と同時に攻撃部隊を出撃させてミッドウェーを叩きました。恐らくこの時の混乱と我々の波状攻撃で敵は索敵機を出せなかったものだと思われます。現にこれまで艦隊上空周辺に敵索敵機らしき機影は確認していませんし報告も入ってません」


「では何故ミッドウェーからの攻撃隊は我々を発見できたのか、何故未だに敵機動部隊からの攻撃隊が来ないのか。これらを解決するのは敵の索敵機の飛来したタイミングだと考えます」


「本来ならばミッドウェーは我々の位置から南東から飛来する筈です。それを東から来たということは一度索敵がてらに北上して、先程ピケット艦が発見した索敵機の誘導を受けてここまで飛来したと考えられます。ではその索敵機はどこのものか? 最早敵機動部隊のものとしか考えられません」


ここまで話して彰は海図の駒を動かしながら再度ざっくりではあるものの説明を繰り返す。彰の推測通り、ミッドウェーの攻撃隊は当初敵の位置を把握していなかった。

だがフレッチャーが放った索敵機がピケット艦を発見したのは前回の通り、ミッドウェーから出撃した攻撃隊は索敵機の報告を傍受しそちらにいると考えた針路を変更したという経緯がある。


「要するに何が言いたい?」


「まだ敵機動部隊の索敵機が付近にて我々と敵の戦闘の様子を見ている可能性があります。そいつを撃墜しないと後方の第二群の存在が露見する可能性があります」


第二群は隠し駒としてなるべく敵に見つかるのを避けたい存在である。

いや、暗号が解読されて味方の戦力は筒抜けであるが、見えない箇所からの攻撃というものは時には敵に大混乱を招くこともある。彰はそれを狙っているのである。


「直掩機に至急連絡。付近にいる敵索敵機を探して撃墜させろ」


「大山君。君ならいつ攻撃隊を出す?」


源田が彰に問いかけると今、即答が入る。


「長官、敵の方向も判明しています。第二群に攻撃隊の出撃命令を出しましょう」


「実は私も何時出すべきか悩んでいたところだ。利根の水偵の期待して、直ぐに出撃命令を出そう」


南雲が決断すると参謀が伝声管で命令を出す。命令を受け取った第二群の五航戦は待ってましたとばかりに攻撃隊を発艦させ始めた。


ミッドウェー海戦の正念場が始まろうとしている。

お待たせ致しました。

いよいよこの世界では軍事史上初の互いの視界外からの攻撃が始まります。

一体どのような結末になるのか、楽しんでいただけると幸いです。


来週の投稿ですがお休み致します。既に投稿されている話の誤字修正等を行う予定ですので、また再来週にお会いしましょう!

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