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転移太平洋戦記  作者: 松茸
第一章 波乱の太平洋
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第11話 制圧爆撃

お待たせしました。

空母赤城、0610時


第一次攻撃隊が続々と着艦している甲板上では作業員らが「ワッショイワッショイ」とかけ声をあげながら着艦した艦載機を前方へと押し、前部エレベーターは忙しげに動きながら格納庫の中へと艦載機を運び込む。

今もまた、九九艦爆がドスンと甲板に降りると4本目の制動ワイヤーで動きを止める。搭乗員の表情は朗らかでやったぞとペアの搭乗員と顔を合わせ笑っている。


「どうやら奇襲攻撃は成功したようだね」

「やっと肩から荷が下ろせる思いですよ」


南雲の嬉しそうな声に彰もホッとしたように答える。だがそれでも不安げな表情は消えない。その答えを南雲は知っている。


「優秀な指揮官でさえも小さなミスを何処かでするものだ。君はそれを負い目に感じるだろうが、そもそも君の責任は私にあるんだ。少しでもいいから修正しないといかんだろ?」


彰の不安。それはミッドウェー島である。いや、彰は考えたくなかったのであろうが、単にミッドウェー島という大きな括りで考えているがその奥底深くには人命という躊躇いが残っている。


そもそもミッドウェー島はハワイ諸島に属するサンゴ礁質の石灰岩で形成されたほぼ平坦な島である。1934年、ワシントン条約で本格的な軍事設備を建造出来なかったアメリカだが無条約時代を見越し、中継基地を建設して軍事的価値があるかの見定めを始める。

やがて第二次世界大戦が勃発し無条約時代が到来するとここの軍事設備整備に本腰を入れ飛行艇や防衛の海兵隊を常駐させ、今に至るのがミッドウェー島である。


ミッドウェー島は滑走路のあるイースター島と飛行艇基地のあるサンド島で構成され、開戦前の時の対空設備としては3インチ高射砲16門、28ミリ機銃32挺、12.7ミリ機銃30挺、7.62ミリ機関銃30挺と開戦時よりも増強された為島の大きさの割には十分な設備が整えられていた。


しかし数ある対空設備も第一次攻撃隊によって殆どが標的となり、必殺の250キロ爆弾によって彰達はまだ報告が無いため知らないがほぼ全てが破壊されている。

そして彰の目の前ではその攻撃を終えた艦爆隊が続々と着艦してきており、中には後部座席から血まみれの状態で降ろされる搭乗員も多くは無かったが少なくもなかった。改めて目の当たりにする現実に、頭を殴られたかのような衝撃を感じているのである。


「大丈夫か?」


南雲が声をかける。彰の緊張とは違う表情を読み取ったのだ。


「すみません。やはり僕には覚悟が足りないみたいです」


彰の歯切れの悪い返答に南雲は諭す様に語りかける。


「彰、私達は戦争をやっているんだ。人が死なない戦争を私は知らないし、戦争によって名も顔も知れぬ誰かが死ぬのは私は覚悟を持って認識している。君には酷かもしれないが、一々気にしているようでは君の心がもたないぞ」

「それに、君は仮とはいえ参謀的な役職に就いたんだ。誰かが死ぬ、自分のせいで死ぬ。それは揺るぎのない事実ではあるが、それよりも先ずは目の前の人達と向き合うんだ」


ふと目をやると甲板を歩きながら笑い合う者もいれば、ペアが戦死したのか暗い表情の者もいる。しかし、それらは変わりもしない今を生きる者達の表情であった。


「もう一度言おう。君に万が一の事があっても私が責任を取る、君は今目の前で現実を生きている兵らを死なせない様な戦いを目指すといい。それならばまだ気持ちは楽になるだろう?」


死なせない為の戦い。それは彰の心に大きな衝撃をもたらした。

やはりと言うべきか、彰の知識はこの時代の人からすると大変な価値のあるものだが、彰はその中でも日本軍のマイナスの印象が強くあった。代表的なので言うならば特攻がそれである。


しかし、南雲のいう死なせない為の戦いならば?勿論の事戦争をしているのだから犠牲は大きく出るだろう。それは免れないが、戦い方では犠牲者を減らせるかもしれない。


「.......すみません、一度覚悟を決めたのに。ありがとうございます」


どうやら成すべきことを見つけたようだな。


南雲は感心しながら彰に微笑む。


「第二次攻撃隊の空爆が無事に終われば、前哨戦は終了だな」


赤城の甲板に再び九九艦爆が着艦する。彰は旋回待機中の航空隊を見上げながら自分に何が出来るか、考え始めた。




ミッドウェーまであと10キロ地点まで到達した第二次攻撃隊赤城隊は、彰からの修正指示に従い加賀隊と合同での空爆作戦となった。よって、第一波空爆は赤城艦攻隊隊長が率いる艦攻42機による制圧爆撃と艦爆12機による支援爆撃となる。

本来ならば波状攻撃による人員殺傷(空爆後の消火活動等を狙っていた)を目的としていたが、第一次攻撃隊による無電報告でほぼ制圧と来ていた為変更した次第である。


この報告を受け彰は早速第二次攻撃隊の発艦と後半戦となる敵機動部隊との戦闘に備え第八戦隊から水上偵察機を12機全てを投入して索敵にあたらせた。

例えミッドウェーを無力化出来ても肝心の敵機動部隊を発見出来なければ元も子も無く、ましてや奇襲攻撃を受ける事は断じて避けたい。


現在第一機動艦隊第一群の格納庫には攻撃を終えて整備補給作業中の艦爆が並べられており、そこに奇襲攻撃を受けるとなると史実通りの展開になる。夜明けと同時にミッドウェーを半壊させたとは言え通信設備は生き残っている事を考えると早急に敵機動部隊の位置把握は早急にすべきである。

しかし第八戦隊から偵察隊を出すのであれば夜明け前でも良いのではと彰は思ったのだが、日が出てから少し時間を置かねば上空と海面は暗く索敵が困難と説明を受けた。それ故に索敵が遅れた経緯がある。


ミッドウェー上空に差し掛かった艦攻隊は腹に抱える重い荷物の投下を始める。42発の800キロ爆弾、目標は航空機とその設備だ。

滑走路横の格納庫や駐機場は吹き飛ばされ、そこにあった艦爆やB-17といった爆撃機は粉砕され、爆弾を搭載している最中だったのか一際大きく爆発を起こす駐機場も見える。

艦爆クラスの単発機となるとその場で破砕するものもあれば爆風で吹き飛ばされる事もあり、文字通りひっくり返しになる機体も見受けられる。

しかし、42発の800キロ爆弾では完全に破壊し尽くす事は叶わず、僅かに残った設備を今度は12機の艦爆隊が狙う。


だが高い命中率を誇る艦爆隊でも、地上から濛々と立ち上る黒煙によって視界が遮られ、僅かに2発の命中弾を数えるのみで他は何も無い地面を抉っただけとなった。

指揮官機は爆撃の効果不十分と報告の打電を行い、ミッドウェー上空から撤退する。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



初めて経験する制圧爆撃を耐え抜きながら、司令部外の退避壕から飛行場の様子を伺うシマード大佐だが、どうも数少ない航空機があの爆撃の制圧範囲に入っているようで最早ミッドウェーの航空戦力は絶望的だ。

しかし極上の情報は手に入った。日の出から約1時間後の空爆という事はそう遠くに展開していない事になる。


無論、敵航空機の巡航速度等は分からないが、自軍の航空機を基準に考えるならば300〜400キロの地点に展開しているだろう事になる。

夜間の発艦は不可能では無いが危険が伴う。安全を考慮するならば発艦のタイミングは日の出で間違い無いだろう。

空襲が一段落すると消火と残骸の撤去、航空機への弾薬搭載を命令してから急ぎ通信室へと駆け込む。




「どうだ、何か来たか?」


通信兵に話し掛けるが何もと首を振る。


「ハワイ宛にこれを至急送ってくれ。通信系統はやられていないんだろう?」


「バッチリです。それに最悪の場合は海底ケーブルもありますからそっちでも送れますよ」


そのまま電波で送るように指示すると通信兵は受け取ったメモに目を通しながら忙しげに電鍵を叩き始める。コツコツと心地の良い音と規則性のある電子音が部屋に鳴り響くのを背に受けながら飛行場へと向かう。

かなり叩かれた飛行場だが滑走路はまだ使用可能な範囲での損害であり、気になるのは稼働機数だ。反撃を行うにしても動く機体が無ければ反撃所では無い。


飛行場についたシマードだが、航空機について報告を受けると幾分か安堵する。嬉しい事に航空機の半分程が飛行可能な状態で、補給作業ももうすぐ終了し出撃可能だと言うでは無いか。

確かに格納庫も駐機場にあった航空機も直撃や至近弾となった箇所はもれなく地面が抉られ航空機は残骸となって散乱しており、完全にしてやられた状態だ。


それでも、何とか生き残ったのがSB2U艦爆6機、SBD艦爆4機、B-17爆撃機7機、TBF雷撃機4機、そしてF4F3機にF2A3機である。

当初配備されていた機数から考えるならば戦力は半減どころか3分の1にまで減っている。特に空戦を繰り広げた戦闘機の数には最早落胆せざるを得ない。

しかし先程の空爆で全滅しなかったのがせめてもの救い。早急にこれらを出撃させて少しでも日本艦隊にダメージを与えたいところだ。


そしてシマードにとって嬉しい事はもう一つあり、日本軍は認知していないのか、それとも意図的に攻撃目標から外していたのか。サンド島にある飛行艇基地には1発の銃弾も爆弾も落ちていないという。これは即ち配備されているPBYカタリナ飛行艇31機が無傷で残されているという事になる。

このカタリナ飛行艇。アメリカを代表する飛行艇なのだが、双発機にも関わらず最高速度は時速300キロ程と遅いものの爆弾は最大12発、魚雷は2本搭載出来るという性能を持っている。


シマードはそれらに期待を持ち、準備が整った隊から出撃させるように命令を出した。早速と言わんばかりに準備が終わっていた戦闘機隊がまず滑走路を走り始め、その後ろにはSBD、SB2Uの艦爆隊が続く。

B-17は爆弾の搭載量が多い為に時間がかかっているが、既にエンジンを起動させて暖機運転に入っており、爆弾槽に作業員が慌ただしく爆弾を搭載していく。


だが日本艦隊の位置が未だに判明していない。偵察機も出せず日の出から一方的な空爆を受けている為隙を見て出す事も出来ないのだ。

波状攻撃とは厄介なものだとボヤきながらタバコに火をつける。朝からずっと気を張りつめていたシマードは肺に入り込む煙を堪能してから一気にそれを吐き出す。


「4方向のどこかなんだがな.......」


日本軍が来襲した方角はいずれも北か西のどちらかだった。凡その方角が分かっていても洋上の艦隊を見つけるのは簡単なことでは無い。

加えてシマードには味方機動部隊との連携も頭にあったが、連絡も付かない上に自分達で偵察すらまともに出来ていない状況下で連携等不可能である。


「クソっ、ハルゼーにしては無線封鎖何てらしくもない.......何かあったのか.......?」


シマードは指揮官がハルゼーからフレッチャーの両名に交代していたのを知らされていなかったが、ギリギリまで接近して攻撃を仕掛けたいと願うフレッチャーは無線封鎖を実施していた。

ミッドウェーからしきりに発せられる通信はフレッチャーらは傍受していたが、それらを聞く度に早く日本艦隊を発見しなければならないと焦りを感じている。


シマードもまた、盲目の状態で攻撃隊を出撃させる事に迷いがあったものの、何もせずに空襲で全滅させられるよりはと覚悟を決め、攻撃隊をほぼ丸裸で送り出さざるを得なかったのである。

前提として戦闘機隊は壊滅状態なのだが.......。


シマードに限らず、ミッドウェー守備隊や航空隊は、味方機動部隊が日本軍に一泡吹かせてくれる事を信じ、各々の戦いに身を投じた。




ミッドウェー近海、0600時


日が昇りすっかり青空を眺められる様な時間帯にも関わらず分厚い真っ白なキャンパスが多い尽くしている天候にも関わらず、艦隊からは次々にSBDが発艦して行くのが見受けられる。


いよいよ始まったミッドウェー攻撃に対し、フレッチャー率いる第16、第17任務部隊はミッドウェーからの通信から日本艦隊の存在する凡その海域を割り出し、針路280を中心に扇状に12本の索敵ラインを設定。

今任務部隊から発艦していくSBDは索敵任務を受けた隊である。


先手を打たれたフレッチャーらは当初焦りはしたものの、慎重にミッドウェーからの通信を傍受。4方向から来襲との情報を元に航空参謀や航海参謀らと協議を重ね、これを位置を欺瞞するための策であると見抜いたのだ。

それから機体の性能を仮定しつつ航続距離等を計算した結果、凡その位置を仮定したのである。


この海域から日本軍を見つけ出すために12機のSBDが勇ましく発艦していく。双方の索敵機が、敵艦隊を追い求め上空に翼を翻した。

遅くなりました、お待たせしてすみません。

何時もなら何かおまけ話を〜と思ったのですが、生憎ネタが思い浮かびませんでした。今回はここらで締めさせて頂きます。


作中、誤字脱字等ありましたら是非ご指摘頂けると幸いです。現在私の方でも確認と修正作業をちまちまとしておりますので、お願い致します。

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