⑨サイゴン陥落
ホテルに戻り、サッコたちはテラスに並んだテーブルを囲んだ。夕暮れの凪が心地好い。
「誰だろうね。宿無しが住み着くのは手頃かも」
「月日はもう誰も気にしない場所にさせている。宿無しかもしれないが、俺たちと同じ宝探しの人物かもしれないね」
柴田はサッコに応える。
「ベトナム戦争のサイゴン陥落から40年以上経っている。もし、米軍関連の何かが遺されていたとしても、見つけ出されているだろう」
「じゃあ、何故来たの?」
ミキが聞く。
「サモの祖父は、ずっと、あの地を気にし、監視していた。多分だが、その頃は立ち入れなかったのだろう。政府か軍が立ち入る姿も見届け、サモに伝えたのだろう。爺さんは、その絡繰りを知っていたと思う」
「見つけられない何かが?」
サッコが聞く。
「そう、何かがあるはずだ。ベトナムの地中を把握しているものは既にいない。だけど、言い伝えと知る者は他にもいるだろうね」
ベトナム戦争時のアメリカの傀儡政権だった南ベトナムに対する解放戦線ベトコンの主たる戦法が地下トンネルに依るゲリラ戦であり、神出鬼没と米軍に怖れられ、為に米軍がナパーム弾の投下、枯葉剤の散布で地表を露出させ、それに依る殺戮や人体への異常は世界中にバッシングされ、爆発的な反戦活動を巻き起こしたのは、サッコもミキも知っている。
サイゴン陥落の日、米軍は必死に自国民を退去させたが、軍民問わず、ベトナムから隠匿した資産はあった筈だが、陥落は急であり、身一つでの退去になってしまった。