43 開始
「お早うございます」
柴田たち、三人がホテルの改築現場に着くと、責任者となっている岩井が挨拶に来た。岩井は、英語に堪能だったので、社長の高沼が送り込んだ。大学を卒業して五年目だが、要領は良く、日本から一緒に来た三人のベテラン作業員も素直に動いている。他に、現地のベトナムの建設会社からの人員が作業をしていた。
ホテル跡は、骨格を残して、全て剥ぎ取られている。テラスの柱は、磨かれ純白を取り戻し、ビニールのカバーが巻かれていた。
屋根、壁は改築され、薄い青に統一され、内装が始まっていた。それが終われば、家財、厨房機器が設置される。併せて、庭園も誂えている。予定では、後二ヶ月程で完工となる。
「ご苦労様です」
サッコが労う。サッコの会社が発注者である。
柴田が岩井に聞く。
「誰か、来なかった」
「特には」
岩井が怪訝そうに答えた。
工事現場を周回して、ミキが戻って来た。
「素敵よね。庭園はフランスぽいし、眺めもいいわ」
庭は、幾何学的に区画して、ヨーロッパ調になっている。
「ミニユンボは(小型のバックホー:掘削機)?」
柴田が岩井に聞く。
「あります」
「じゃ、空いた時に借りるよ」
「分かりました」
急ぐ事はない。サッコは、岩井たちに土日は休む様に要望している。
そして、柴田と、サッコ、そしてミキは、土日に誰もいない現場で、地下通路を進む。
壁に擬装した入口は引き戸となり鍵がついている。
扉には大きく『資材倉庫』と漢字の看板があった。