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④四ッ谷

帰国したミキは柴田とサッコサッコに再会する。柴田は新たなゲームを告げた。

※参考文献(記憶)

NHK その時、世界は。(ベトナム戦争、多分)

④四ッ谷

 四ッ谷のレストランに三人はいる。

 ミキは、フランスで東アフリカ諸国の地勢をテーマとして博士号を得、四ッ谷の母校に助教授として赴任すると言う。

 勿論、ソマリでの一年を元としている。

 その間、サッコと連絡をとる事はあったが、再会は今夜となる。

 挨拶は、あっさりとしているが、嬉しさが隠せない。

「お帰り」

 三人は、ワイングラスを掲げた。近況は互いに知っている。

 フロアのピアノに、オーナーが座った。アズタイムゴーズが流れた。三人が、顔を見合わせる。

 ミキは、顎を両手の甲に乗せ聴いている。映画『カサブランカ』、イングリッド・バーグマンの真似をする。サッコが立ち上り、奥に行った。それから、ピアノに近づく。

 オーナーは困った顔をして、ミキに顔を向ける。

 柴田が笑い出した。知っている客も笑い出す。

 サッコが席に戻ると、拍手が起こり、オーナーは笑みを浮かべながら姿を消した。

「ところで、またゲームをしたいと思っているんだ」

 柴田が言う。

「また、戦争かい」

 驚く事もなく、サッコが応えた。

「戦争をする気はないよ。でも関係はあるかもしれない。要は宝探し」

「どこ」

 ミキが聞く。

「ベトナム」

「ベトナム戦争と関係あるの」

「その様だ」

 柴田は、技能実習生、サモの話をした。


 サモはまだ小学生の頃、祖父と一緒にメコン河に行った。

 祖父は対岸を指差した。

 そこは、平地の中で低い台地になっていた。そこを回り込むように河は流れている。人が行けるような橋も、道もなくジャングル様になっていた。

「サモ、大きくなったら、あそこを掘ってみるがいい。宝が出てくる」

 祖父は、そこは解放戦線の陣地があったのだが、アメリカ軍により奪回、丁度、孤島のような地形は航空戦力を持たない解放戦線から攻撃を受ける事はなかった。解放戦線の戦術は地下に張り巡らすトンネルからの奇襲、ゲリラ戦であったから、その陣地も同様であった。

 戦況はテト大攻勢以降、南ベトナム、アメリカ軍が敗色濃厚となり、末期にはアメリカ軍属やその家族、亡命しようとする将校のヘリポートとなった。沖合いのアメリカ艦船まで運ぶのだ。丁度、孤島のような地形は航空戦力を持たない解放軍から攻撃を受ける事はなかったが、末期に、北ベトナムからミグが飛んでくるようになった。そして、降伏前夜大爆撃を受けている。

 地下トンネルには、南ベトナム軍が人民から摂取した金銀財宝が運び出されずに埋まっていると言う。

 祖父は台地を見続けていた。地下トンネルは深い、死体は取り除かれても、地下を掘る者はいないまま、台地はジャングルとなった。

 そう言い残し、祖父はサモが中学生の時に死んだ。


「サモは掘削機を買おうとしていた。とても無理だと説明したら、こんな話をした。俺は、本当だと思う。違ったとしても、ベトナム戦争の傷痕を見るのも良いかな」

「できそうなのかい?」

「観光気分で」

 柴田が笑った。

「メンバーは」

「サッコ、俺。ミキも、可能なら来て欲しい。そして、サモ」

「金澤さんは?」

「金澤さんは田舎に帰ったが、重機を使う事になったら、呼び寄せよう」

「とにかく、一度行って見るつもりだ。観光でね」

「いつ頃?」

「秋になる。半年先の話だ」

「なぜ?」

「サモの都合だ。実習生の期間は基本的に三年だそうだ。サモの満了は10月。さらに、二年の延長が可能らしいが、その気はないそうだ。満了すれば、別途、60万のボーナスがでるので、途中で帰る事はない。因みに、中途の帰国は自費だそうだし。それまでは、ベトナム、ベトナム戦争について、調べておこうと思う」

「何か、準備するものは?」

 サッコが聞く。

「現地を見ないと分からない。サッコもベトナム戦争について、知った方がいい」

「わかった」

「ベトナムはフランスと縁が深い。戦争も元はと言えば、フランスだ。最初に侵攻したのは、フランスだからね。インドシナ紛争と呼ばれていたんだ」

 サッコとミキは、じっと聴いている。ベトナム戦争は聞いた事はある。中学の社会にも出てくる。ただ、それだけだ。

 それより、二人は柴田の博識に驚いていた。淡々と、知っているのが当たり前のように話している。ソマリでも、そうだった。

 オーナーが現れて、ピアノに座る。そろそろ、終わりのようだ。


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