37 老婆
ランクルは順調に巡航する。舗装が切れても問題はない。寺院跡に近付き、分岐を強引に侵入する。車幅より狭い、殆んど獣道を突き進んだ。3キロ程、道は急に開け、尚、進むと小さな建造物が見えた。近づくと、丁度、正倉院を低くしたような建物が建っており広い敷地が覗いている。車を停めた。
「此処か」
車を降りた柴田が呟いた。
一棟ある建物は、綺麗だった。木造ながら、白蟻に喰われる事もなく鎮座していた。
しばらく、四人は周回し、感嘆している。柴田の予想では、米軍のナパーム弾により、全て潰えているはずだった。
眺めていると、突然老婆が現れた。
「あんたら、誰だ?」
小柄な婆さんが、柴田らを見ていった。
「婆さんこそ、誰じゃ」
千田が言うが、日本語では、通じない。運転手のホーが婆さんに「唯の観光客だ」と言う。
「此処は、寺の跡かい」
ホーが伝える。
「跡じゃない。今も有難い寺じゃ」
「誰か、いつも居るのですか」
サッコが背を屈めて言う。
「此処は、今でも寺じゃ。みんな拝みに来ておる。あんた方も此処で願をかけるがよい。何処でも同じじゃ」
柴田は笑って見ている。
「ここは、新しく建ったのですか」柴田が聞いた。
「新しいと言えば、新しい。去年の話しだ」
「坊さんはいないのですか」
「いる。もっと先に本堂がある。古いが」
小さな子供が走って来た。老婆が手招きした。
千田が、車からビニール袋を持ってきた。
「婆さん、これ食うか」
たこ焼きを少女に差し出す。
「何じゃ、そりゃ」
「日本の食い物だ」
老婆は、1つつまみ口にすると、少女にもあげる。
少女が口にすると、微笑んだ。
「美味しい」
「寺が好きなのかい」
「ええ」
「坊主に会うか」
「できたら」
老婆は少女の手を繋ぐと歩き出した。四人は後に続く。
細い道が続く。20分程だから、1キロ程だろうか。古びた伽藍が現れた。近くには、真新しい小屋が建っていた。
老婆は、遠慮なく小屋に入った。しばらくして、袈裟に似た着物を着た老人が出てきた。
「珍しいの。日本からじゃと」
柴田を頭を下げた。
「お坊さんは、ずっとここに?」
「ずっとと云えば、ずっと。子供の頃は、ここでいつも遊んでいた。大きくなると、師は、いろんな事を教えてくれた。仏陀の生涯や教えは当然だが、国の成り立ち、フランスの統治に関わるヨーロッパの動き、もちろん、大戦中には日本の事。それから、ベトナム戦争に係る、アメリカと共産主義も」
サッコは頭を垂れ、聞いていた。
坊さんは柴田の顔を見つめ、言った。
「お前さん方は、あの土地を探っている方じゃろ」
柴田を除き、驚くが、柴田は頷いた。
「あそこは、私の弟子が視ている。フランス人に危害を加えたのも知っている。弟子には、怒り、諭した。すまなかった」




