26 夜
テーブルの上に教授が創った地図が、広げられている。
「入り口が、見つかりましたね」
ウイスキーのグラスを手に、柴田が言った。
「その先は、ベトナム戦争時のアメリカ軍司令部に繋がっている。そして、近接するホテルを経由してね」
説明する教授は、ワインを口にしながら地図を指す。
「ホテルは将校たち、民間のアメリカ人の住まいとなっていた。今は、司令部の土地と合わせて、ホーチミン大学が建っている。地下道の入口は爆撃と退去の爆破で埋もれている」
「しかし、空気は僅かながら流れていた」
サッコが言うと、教授は頷いた。
「あの入口から司令部跡まで、直線距離で1キロちょっと、メコンが迂回する高台の真下を通る。地下道を掘るには、数ヶ所の立坑が必要だ。今は、ジャングルと化しているが、空気穴が残っているのだろう」
教授は、ワインを口にする。
「そして、大事な事は、中途、それも出口寄りに倉庫となる空間があるはず」
柴田が頷き、教授に目で合図を送り、口を開いた。教授がソファーに沈む。
「敗戦が濃くなると、為政者は脱出路を確保する。南ベトナム軍などどうでもよくなっていた。彼等には、帰る場所アメリカがある。そして、帰るならば略奪があるのは戦争の常で、将校の略奪ならば、兵員のそれとは全く違い、計画的なものになる。それらを、何時でも持ち帰れるように逐次運んでいただろう。その為の集積場所だね。それらを運んだのがサモの祖父さんたちだったんだろうね」
「これからは?」
サッコが聞く。
「急がないよ。ホテルの修繕を進めよう。ビザの取り直し。日本に帰って設計屋を連れて来よう。サッコの会社が発注元になる。施工はうちがやるよ。現地人も入れてね。サモも工事には入れよう」
「私も帰ろう。その前にジャングルを少し歩いてみよう」
教授が立ち上りグラスを持ったまま、部屋を出て行った。
「帰るのは三日後、それまでは観光だ。俺は一人。サッコとミキは何処にでも」
三人が笑う。




