⑮小さなニュース
ミキから柴田に、食事の誘いがあるのは珍しい。当然、サッコも来るのだろう。
時候は、夏も終わりに近づいて、夕暮れには蒸し暑さも消えて心地好い風が吹くようになっていた。
サッコの部屋を叩く。不在であった。柴田は苦笑いをしながら、待ち合わせ場所の浅草に向かった。大提灯の下、ミキとサッコが手を挙げた。
「珍しいね、浅草で食事」
「晩夏の風に吹かれての食事も良いかな」
サッコが言い、ミキは笑っている。
「たまには、浅草もいいね。それで、何処へ」
サッコとミキは歩き出し、柴田も並んだ。着いた先は、路上までテーブルを並べた居酒屋である。土曜日、競馬帰りと観光客で賑わっていた。
「珍しいね」
柴田が笑っている。
「前に一度、来たことがあるんだ」
三人は道に張り出したテーブルに座る。風が通り抜ける。
「ホッピー」
サッコが注文をすると、柴田は笑い出した。外国人の注文に周りの客も笑っている。サッコは気にせず焼き鳥も注文する。
ホッピーで乾杯をする。
「ソマリに行く時、ミキと金澤さんを誘ったろう。俺はミキ、柴田は金澤さん。上野の美術館から、あそこで、御守りを買った。その後、この通りに来たんだ」
サッコは浅草寺を指差した。
「ホッピーの飲み方も教えてもらった」
しばらく、他愛ない話しをしていた。サッコは最初の一杯のままだ。ミキも柴田も同様。一時間程経って、空き席ができた頃、サッコが真顔になって、ホッピーを頼んだ。
「シバタ、教授が亡くなった。ミキに聞いたんだ」
サッコはミキに顔を向ける。
「私は、大学で聞いたの。詳細は知らないわ。フランスでも、小さなニュース、ただ『ベトナムで客死した』と」




