⑬休日
土曜日、サッコがコーヒーを注ぎながら笑っている。
「それでもいいんじゃないか。社長は社長だよ。日本じゃ、肩書きが大事だろう」
高沼から柴田へ、社長の委譲の話を聞いたサッコは、明らかに茶化している。
「それが一番嫌いな事は、分かっているだろう。俺は食えればいいんだ。年をとれば、後は土に還りたい。それが、自然の摂理だ」
「シバタは、仏陀のようだね」
コーヒーの香りが漂う。
いつものように、テーブルには、スポーツ新聞が広がっており、ウイスキーと氷も置かれていた。
「影響はあるね。ガキの頃、小さな小学校に通っていた。分校と言う所だ。子供たちは少ないが、図書はある。そこで本を読む変わった子だったようだね。特に偉人伝を良く読んでいた。その中に釈迦の話もあったな。祖母、母方の祖母だが。その家で育っている。全く、父母がいた記憶はない。でも、気にならなかった。何かを食べたか?多分、貧乏だったのだろう。食べる欲求はなかったな。木々、山の中で暮らす。道端の草でも摘まんで食べていれば、それで済んだ。
空を見上げると、雲が仏陀に見えて、微笑んでいた。子どもは不思議だな。そんなものが見えるんだ。今でも見えたら病院通いだろうけど」
柴田が幼少の頃の話をするのは珍しい。
「キリストを信仰する家の子には、キリストやマリアを見る事があると言うけれど、それは、親や環境の刷り込みだと思う。でも、シバタは自身でそうなったんだね」
柴田は、グラスを口にしていた。
「今は、神も仏もないけどね」
「ところで、また、ベトナムには行くのかい」
「そのつもりだ。教授のメールアドレスはわかった。」




