⑩ホームレス
翌日から、柴田、サッコ、そしてミキは、その高台いた。レンタカーは、大分離れた所に停めてある。
三人は朽ちた台で寛ぐ。観光の風であり、眼下のメコンを眺め、写真を撮っている。午後になり、初老の男が自転車でやって来た。
サッコとミキがフランス語で挨拶をすると、男もフランス語で応えた。小柄で白髪が目立つ毛髪と髭、手入れのない風体様は、かのアインシュタインに似ていた。
男は挨拶もそこそこに、自転車に積んだ鶴嘴とスコップを手に廃墟の中に入って行った。ただ、気になったのは、挨拶がフランス語だったことだ。
男は、大きく膨らんだザックに背にしている。サッコたちを気にする事もない。
廃墟の侵入者は、ホームレス等ではない、明らかに目的を持っている。誰かがいても気にした素振りはない。
「帰ろう」
柴田が言った。
(えっ)と言う表情をみせるサッコとミキに、柴田は笑いかけながら、手を振り促す。
ホテルに帰りディナーの席。柴田は、笑いながら話す。
「ミキさん、今日、会った人を知らないかい」
ミキは困惑しながら、首を横に振る。
「シバタは知っているのか」
サッコが聞く。
「ミキがフランスで学んだ大学の人だよ」
ミキは当然、驚きの顔を見せる。
「肩書きはジャーナリスト、カメラマン、そして教授」
カメラマンと聞いて、サッコとミキは気づく。
二人を見て、柴田は頷いた。
「ベトナム戦争の現実を世界に知らしめた人だよ。分かりやすく言えば、ピュリッツァー賞を取った人だよ。当時、色々な報道写真が世界に配信されたのは二人も知っていると思う。有名なのは、ナパーム騨で背中が焼けただれた全裸の少女が道を逃げ惑う写真や、南ベトナムの将校が、ベトコン兵士とみられた市民の頭にピストルをあて、射殺する写真。後ろ手に殺される男の表情は、『何故だ』と苦悶し泣きそうな、そして同じベトナム人にと。また、後には米軍が殺した反政府軍、ベトコン兵士の死体に、カードのエースをくわえさせたものも公になっている。あの老人は、そうした写真を、撮り続けた人だよ。そして、敗戦間近のサイゴンで今日見た場所から
、軍事顧問、大使館関係者がヘリコプターに乗り南ベトナムから退去する場も写している。もちろん、出国を望む南ベトナム軍の関係者も写っていたが、彼らはその場から旅立つ事は無かった。それを撮った方だよ」
「ダニエル・・・」
ミキが、呟いた。
「ダニエル・ベルモンドだよ」
「確かに、教授一覧に載っていたわ」
ミキが言うと、
「結局、写真に写った人々は見殺しにした、と言って大学から去った」
サッコが続いた。
「とにかく、彼処には何かがあるのだろう。今は、性急に動いて、教授の邪魔をしてはいけないと思う。残る日にちは少ないから、一度、帰ろう」
三人は残る日を観光に費やし帰国した。




