①土曜日、昼
①土曜日、昼
建設業界も働き方改革とやらで、週休二日が増えている。
柴田は宿舎近くの公園を歩いている。五月下旬、梅雨を前に猛烈と言える暑さが続いている。夏になれば、どうなる事かとテレビでは盛んに喧伝されていた。
まだ昼には早い。公園にある池の側には、休憩場所となる四阿が建っていて側には売店もある。暑さのせいで席は全て埋まり、時折、席を立つ者は売店に向かう。
柴田は売店で、紙コップの生ビールを買い、池沿いのベンチに座った。
池に帆船模型を浮かべ、走らす父子の姿を眺める。父親はリモコンを手にしているが、帆を制御しているのか、モーターでも内蔵しているのか、とにかく水面をゆっくりとスラロームしながら走っていた。
肩を叩かれた。柴田は振り向かずに右手を挙げた。隣に男が座った筈だ。しかし、淡く香水が香った。ゲランのミツコである。古典的だが、その由来もあって、柴田が、唯一好きな香水だった。
柴田は、ゆっくりと、隣を見た。隣に座った女が微笑む。そのまま後ろを振り返った。そして、右の眉を僅かに上げ、微笑む。
「サッコ、ミキが来るのを知らせないのはどうだろう。知っていたなら、山のように花束を抱えて来たのに」
「そうするから、知らせなかった」
サッコが笑って言った。ミキも笑っている。三人、片手、両手と手のひらを合わせた。
そのまま、ミキを間にしてベンチに座る。
今日、柴田はサッコと会う約束をしていた。ゴールデンウィーク以来になる。
「何年だ」
「三年だね」
柴田の問にサッコが応えた。
五年程前、建設会社の宿舎に住む柴田とサッコは、携帯電話の基地局機能を停止させる事、つまり犯罪をゲームとして行った。サッコの故国ソマリの将校も捲き込み、予期せぬ大金を得た。
サッコは最中、ミキと知り合う。そして、その将校からの依頼でサッコは柴田、ミキ、宿舎の住人金澤とソマリに飛んだ。
赤道直下の国で、隣国からの侵略を阻止し、インフラを構築し四人は帰国。
柴田と金澤は、再び建設会社の宿舎に戻り、サッコは、柴田と得た金で貿易会社を立ち上げた。そして、ミキはフランス留学へと、旅立った。
「いつ」
「三日前」
今度は、ミキが応えた。
「ディナーは」
「オーケー、予約しておくよ」
サッコが言い、ミキも頷く。