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第22話 暗殺者は研究所に潜入する

 深夜、ワンドの街から少し離れた森の中。セロはアルベールから指定された通りの時間に到着した。


 既にティアとアルベールは集まっており、二人とも事前に渡された資料に目を通していた。


「セロさん、遅いですよ」

「時間丁度だろ」

「行くぞ、お前ら」


 アルベールは短く呟き、一人で歩き出す。道中ティアがぶつくさと文句を言っていたが、セロもアルベールも相手にしなかった。


 移動すること十五分。鬱蒼とした森が晴れると綺麗な草原が広がっており、そこに不似合いな人工の建物がポツンと構えていた。


「あれが第一魔法研究所か?」

「ああ。凪は見たことなかったのか」

「用がなかったらんなとこ来ねぇよ」

「ティアは来たことありますよ! 任務ですけど!」

「天泣の仕業だったか……」

「「?」」


 急によくわからないことを言い出すアルベール。セロとティアは二人して首を傾げた。


「一人の研究員が惨殺された事件があったんだよ。そのせいであそこのセキュリティはそれまでより数倍もキツくなった」

「……ティア」

「だってそうしないと可哀想じゃないですか!」

「可哀想?」


 今度はティアの方から意味のわからない発言が飛び出てくる。


「折角殺されるのに殺す側に気持ち良いとさえ思ってもらえないなんて、悲劇以外の何物でもありませんよ!」

「……そういやティアはイカれたやつの筆頭だったな……」

「こっちからすると淡々と殺すセロさんの方がイカれてますよ!」


 普段はそうでもないが、こういうところでは壊滅的に噛み合わない。セロはわかりきった事実に溜め息を漏らし、アルベールへ視線を向けた。


「で、どうやって潜入するんだ?」

「裏口に素材を運ぶところがある。そこなら今の時間は警備が薄い」

「じゃ、さっさと行きましょう! 邪魔者が居たら殺します!」

「面倒になりそうならその前に俺がお前を殺すがな」

「あれ、今日がセロさんの命日だったんですね! 可哀想に!」

「……良いから行くぞ、凪に天泣。はぁ、何で俺が子守りなんか……」


 そんなアルベールの愚痴は、夜風に攫われて消えた。






 セロ達は特に何事も無く潜入し、やけに手薄な警備を掻い潜って現在地下二階。無機質な白い壁は変に寒々しさを覚えた。


「……何事も無くこんなところまで来れたが、罠なんじゃないのか?」


 かつての潜入任務の経験と照らし合わせると、どうも嫌な予感を覚えるセロはそう投げかける。道中見つけた警備はたった一人で、明らかにいつものものよりも楽だ。


 だがそんな心配をアルベールは全くしていないようで、それどころか当たり前だと言わんばかりに反論する。


「事前に情報があるのに潜入出来ねえようなら裏失格だ。面倒を回避するためには先に用意しとかねえとダメなんだよ」

「なーんかせこいというかみみっちいというか……。ティア、こういうのはあんまり好きじゃありません」

「俺は楽なら特に文句は無いが……、ブローカーの言った通り、優秀なんだな。盗賊の(かしら)

「アルベールって呼べつっただろ」


 昨日に引き続き二度目の忠告。言ってみただけだ、とセロは興味無さげに返す。


 セロ達の眼前に構えるのは大きな螺旋階段。地下二階へ降りた時には情報にあったその下に繋がる物が無く訝しんだが、探索を続けて数分、割と直ぐに見つかった。


「ここからは俺とティアが先頭で行く。良いな」

「構わねぇよ。もとよりそうしてもらうつもりだ、細身」

「……懐かしい呼び名だな」


 それはかつてアルベールと交戦した時に呼ばれた呼称。セロはふと笑う。


「ティアも良いな?」

「勿論。腕が鳴りますね!」


 ティアも異論は無いようで、まるで無邪気な少女のようにふんすと鼻息を鳴らす。


 これが実際は暗殺者の中でもナンバーツーに選ばれる程の手練なのだから、世の中は不思議なものだ。ナンバーワンである見た目は普通の青年のセロは、まるで他人事のように考えた。


 セロ達は警戒しながらゆっくりと螺旋階段を降りていく。カン、カンと鳴る足音は嫌に耳に響いた。


 降りきった先は、闇ギルドを広くしたような、殺風景な空間だった。目が痛くなる程の光が部屋を照らし、また広いため一体の魔獣が中に居てもおかしくない程の広さ。


 そして、手前で仕切られた檻。その奥に何かがいる。


「……ティア」

「はーい。まあどうせ騒ぎになるなら面倒は省きたいですもんね」


 こともなげに応答したティアはその檻を一本ずつ素手で握り、ぐにゃりとスペースを作る。相変わらずの怪力だと、セロは少し羨ましげに眺めていた。


「天泣、噂に違わずバケモンだな……」

「身体能力でティアに勝てるやつはこの世にいない。アルベール、お前はそこで上から来るやつを見張ってろ。最悪殺しても構わない」

「あいよ」


 セロはそう指示を出して、ティアを連れて檻の向こうへ入る。今度はコツコツと靴の音が響いた。


「……ティア。お前、目の前のあの怪物のことは知ってるか?」

「いいえ。魔獣のことならむしろ冒険者をやってるセロさんの方が詳しいんじゃないです?」

「まあ、そうかもしれないが」


 ただ、あんな禍々しい見た目のやつは見たことがない。


 セロの身体の軽く二倍はある巨躯。しかし異常なのは大きさだけに留まらず、その造形にある。


 下半身はまるで巨大な蜘蛛のようで、ドブのような色の脚が怪しげに動いている。


 そして蜘蛛の頭の部分には、どういうわけか人型の上半身が歪に突き刺さっている。


 その頭部には、つい先日見た鋭利な角。


「あいつの魔力核がそのまま、魔族の魔力核ってか……!」


 恐らく研究者によって作り出された異形。およそ生物とは思えない威圧感に、セロはゴクリと唾を飲んだ。

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