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第12話 暗殺者は経過報告をする

 表のギルドから十分程歩いたところにある小さなカフェ。夜はバーになっているが、CLOSEを掲げているため客は全くいない。


 セロは中に入り、暇そうにグラスを拭いていたマスターへ目を向ける。


「久しぶりだね、セロ」

「ブローカーは?」

「下にいるよ。今から送るけど良いかい?」

「頼む」


 セロがそう言うなり、足元に魔法陣が展開される。サリアのドS魔法と見た目は似ているが、効果は全くの別物。


 転移魔法。ここのマスターだけが使える、先天的な特異魔法だ。ある二地点を繋ぐものらしく、表のバーと地下の闇ギルドを中継している。


 次の瞬間、セロの視界はそれまでのバーのものから一気に変わる。階段もないそこは薄暗く、奥に机が置かれているだけの殺風景な部屋。


「ようセロ。調子はどうだ?」

「特に変わりはねえよ」


 視界の奥。デスクに座りながら声を掛けてきた髭を生やしている中年はブローカー。サリアの護衛につけと命令してきた張本人だ。


「相変わらずしゃがれた声をしてんな、ジジイ」

「おっさんにもなると大体みんなこんな声になるんだよ。あと酒と葉巻」

「早死にするぞ」

「仕事を斡旋する側はする側で苦労があるんだ。これくらい許せクソガキ」


 顎に生えた髭を撫でながらブローカーは毒づく。毎度の軽口なのでお互い気にしてはいない。


「じゃあ早速本題だ。人型魔法兵器、殺せそうか?」

「今のところ暴走する気配はないな。ただ思ったよりも規格外だ。二階建てのでけぇ建物を魔法一つでぐしゃぐしゃに潰したり天災みたいな魔法を使ったりな」

「だろうな。だが対人ならてめえに分があるんじゃねえの?」

「殺されるつもりはない」

「それで良い。今度もよろしく頼む」

「ん」


 セロは小さく答え、報告は終わったと軽く息をつく。さっさと暴走してもらって殺したいなんて、ドライなことを考えていた。




 ──その瞬間、真正面からナイフがかなりの速度で飛んでくる。セロはその柄の部分を掴みナイフを止めた。




「気ぃ抜いててもそれくらいは止めれるようだな、セロ。流石一位の“凪”だ」

「死んだらどうするんだよ」

「その程度のやつだったってことでどっか適当に埋めに行くさ。……いや、俺が行くのは面倒だな。回収班に任せるか」

「言っとけ。……そうそう、その一位ってやつ、案外有名なんだな。今日十位のやつを引き渡したが、そいつに言われてな」

「あぁ!? てめ、何面倒なことしてくれてんだ! アルベールのやつには情報やら盗みやら、てめえら脳筋共が出来ねえことを任せてたんだぞクソガキ!」

「百万の仕事ならそりゃやるだろ」

「チッ、たった百万でアイツを捕まえるとかどんだけ足元見られてるんだよ冒険者は。俺なら一千万は出すぞクソ」


 盗賊の(かしら)はアルベールというのか。セロはその情報をインプットしながら、冒険者は確かに危険に対して割に合わない職業だと思いを馳せる。


 幸いセロ達は受けるクエストのどれもが高難度のため食べることには困らないが、これが力のないD級やE級の冒険者なら早いうちに転職した方が確実に安定した生活を送れる。クエストの張り紙で見たその辺りの報酬はそれくらい微々たるものだった。


「……ん? そう言えば俺達は何でA級のクエストを受けられるんだ? そもそも俺は冒険者ライセンスすら持ってない気がするし」

「多分元看守が自分のと人型魔法兵器の冒険者ライセンスを作ったんだろうな。それがA級ってことだろ」

「フェリスのやつ、そんなことも出来るのか」

「看守の中でもかなり上のやつらしいからな。若いのにやるやつだ」


 ブローカーは感心した様子で頷く。

 あんなドMが……、とにわかには信じ難いが、それでもれっきとした人型魔法兵器の元看守で、現護衛を任せられている人間だ。実はかなり優秀な人材なのかもしれない。


「ま、とんでもないレベルでドMだけどな」

「ほう? 何だセロ、お前元看守と乳繰り合ってんのか? 羨ましいこったな」

「サリア限定のドMだジジイ。サリアもサリアでドSだが」

「何だその変態パーティー」

「おいやめろよ!? 俺は至って普通だからな!?」

「普通のやつが殺しを請け負うわけねえだろ」

「楽しんでやってるやつなんてごく一部だろうが」


 セロにも何人か心当たりがあるが、彼ら彼女らは明らかにどこかねじが外れている。特に二位の“天泣(てんきゅう)”の女はその中でも別格だ。


「今お前が考えてる女が手に取るようにわかるよ」

「……俺の知ってる同業者の中じゃ、ティアが一番ヤバいからな。歳下の女のくせにやることがイってんだよな」


 そう言いながらセロは頭を左に傾ける。


 直後突き抜けたのは刃物のような何か。壁に刺さったそれをよく見ると、魔獣の鋭利な爪のようなものだった。


 セロは渋々振り返る。そこに居たのは、セロより頭一つ分程小さい赤髪の少女。肩あたりに髪の毛を揃え、服は動きやすい簡素なもの。


 その手に持つのは、先程飛んできた魔獣の爪。


「いつの間に来たんだよ、ティア」

「だってセロさんがいる気がしたんですもん! 勘はこんな仕事だと重要ってセロさんも知ってるでしょう?」

「それと爪を投げてくることにどう繋がるんだ」

「やだなぁ、これは挨拶ですよ、あ・い・さ・つ! ティアの気持ちですよ!」

「こんなやつが二位とか世も末だな」

「俺ぁクソガキとメスガキがトップ2をとってることが問題だと思うがな。てめえらの実力は買ってるが、そもそも他のやつらが不甲斐なさ過ぎんだよ」


 けっとブローカーは吐き捨てる。それに関してはセロもティアも何も言えないので、適当に流した。


「セロさんって今ヤバい任務やってるんですよね? いーなーティアもやりたいなー」

「ブローカーが許可を出せば俺はいつでも代わるが」

「良いわけねえだろクソガキ」

「そういうことだ」

「だって人型魔法兵器なんて眉唾を殺すんですよね? うーらーやーまーしーいーなー!」

「話聞いてねえなこいつ……」


 セロはティアの自由奔放さに辟易とするが、何を言っても変わらないのは昔からなので諦めている。


 序列二位、“天泣”のティア。彼女が行った任務の後は、残虐な殺し方のせいで血の雨が降った後のようだと言う。


「俺はそろそろ館に戻る。言い残したことは無いな?」

「とっとと帰れクソガキ。次の経過報告は二週間後だ」

「ん」

「待ってくださいよー! ティアお腹空きました!」

「……はぁ。何か奢ってやるから、とっとと離れろティア」

「さっすが一位! やっぱ太っ腹ですね!」

「クソガキにメスガキ、一応言っておくが馴れ合いは後に身を滅ぼすぞ」


 そんなことはセロもわかっている。だがそれ以上の圧でティアに来られるため、一周回ってとっとと満足させようという考えに至っているのだ。


「ティア、クロウラビット食べたいです!」

「んなもんあったっけな……」


 結局セロが館に帰れたのは、ティアに散々振り回された後のことだった。

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