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future & bullet  作者: 如月悠
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第0話 夜と魔法使いと(中)

「ふぁ……」

 窓からさす朝日に目を細める。同時に枕元の目覚まし時計を眺める。

 11時を過ぎていた。朝日、というのは少し嘘だったかもしれない。

(昨日は微妙だったな……)

 1回分の料金で40分も居座る客の世話をするのはかなり疲れた。最後は隣の人がなんとかしてくれたっけ。そういえば名前聞き忘れちゃったな。

 まぁ、もしかしたら今日もいるかもしれない。いないこともあるけど……。

 そんなことを思いながら、私は雑にパジャマを脱ぎ捨てて脱衣所に向かった。


――――――――――


 私立、智合ちごう大学。

 歴史だけ長い、多少規模のある街ならどこにでもある私大の1つ。昼の私は主にここにいた。

「おはよ。瑠奈」

 門から少し入ったところを歩いていたら、後ろから声をかけられた。

「遥、おはよ」

「今日も深夜バイト明け? めっちゃ眠そう」

 遥は私の顔を覗き込みながら心配そうに言う。私はうなずいた。占い師をやっている、というのは色眼鏡で見られそうで、周囲にはバイトということでとおしていた。

「わたしも働かずに生きられればいいんだけどね~」

「ちょっと言い方悪くない?」

 遥は少しだけ不機嫌そうに言う。彼女の家はここから歩いて10分くらいの実家。家の方針もあって彼女はバイトをしていなかった。

「ごめん、冗談。ちょっと寝不足で口が悪かったかも」

「じゃあさっさと講義室行って後ろで寝よ。次は日文概論だから出席さえ取られれば何しててもいいし」

 遥は嬉しそうに言う。きっと今日も講義とは関係ない小説がカバンには入っているんだろう。可処分所得が少ない彼女の趣味は古本屋で文庫本を買うことだった。

「じゃ、代返も任せちゃおうかな」

「そのくらいやりなよ!」

 少し怒った遥の言葉を後頭部に受けながら私は少し先を歩く。

 ここには普通の人しかいない。私以外は。

 そんなここが私は好きだった。


――――――――――


「じゃ、おつかれ~」

 講義棟を出た私と遥はお互いにそう言って別れた。彼女は今日も講義時間で一冊読み切って最後の10分寝ていた。あまりに速読だった。

 私はまっすぐ門に向かわず、講義棟をぐるりと裏手に回り、運動部が使うグラウンドへの道へ向かう。この正規ルートは遠回りで使う学生が少ない。そんな道をしばらく歩いて、止まった。

「誰ですか、あなたは」

 私は振り返ってつぶやく。姿はなかった。

 でも私にはわかる。普通の人しか「いなかった」はずのこの空間に紛れ込む魔力の香り。

 落ち着く場を壊されるのは、かなり不快だった。

 もう一度空間に視線を走らせると、突然人影が現れた。姿が消えていたのか? そんな魔法を使える人を私は知らなかった。

「ちょっとその辺に隠れていただけさ」

 そう言う人の姿を見て、私はすぐに思い出した。

「昨日の人」

「まぁ、もう今日だったけどね」

 若干暗いところで見ていたからはっきり記憶はないが、同じ頭巾をかぶっていた。

 自信があるのは昨日、面倒な人を追い払っていたときの強めの声。その声は低かったけど……、多分女性だった。

「あの、なんでこんなところにいるのかは知りませんが、昨夜はありがとうございました」

 私が頭を下げると、向こうがちょっとだけ驚いたのを感じた。

「不法侵入で怒られるとは思っていたけど、まさか感謝までしてもらえるなんて嬉しいな」

「いちおう助かりましたから……。それで、なんの用事なんですか。今日もがんばりましょうって挨拶ではないですよね」

「もちろん。そんな要件じゃない。むしろ逆かな」

 逆……、どういう意味だろう。

 私が頭の上にはてなマークを浮かべていると、彼女が言った。

「今日は、というか今後あそこには行かないほうがいい」

 断定的な、はっきりとした口調で彼女はそう言った。

 こういう人の言うことは素直に聞いておいたほうがよい。そういう経験はあるのだが……。

「なんでですか」

 簡単には引き下がれなかった。あの水晶玉のことが頭によぎったから。

「なにか、私の未来が見えるとか?」

「まさか。私に未来はわからない。君と違ってね」

「……、じゃあどうして」

 私がただの適当な占い師じゃなくて、未来知みらいちだって知っている。途端にこの人の怪しさが増した。

「いやな予感。今はそうとしか言えない」

 煮え切らない答え。私は腕を組む。

「ご心配ありがとうございます。ただ、私にもいろいろと事情があって、占いは続けたいんです。ご忠告に従って、今日はまわりに注意してみます」

 そう言って私は会釈程度に頭を下げる。

「そうか……。わかった、気をつけてくれ」

 そう言うと、彼女は私の横をすり抜けて去っていった。

 変な人。ただ心配してくれて、帰っていくだけ。

 普通に考えれば不審者の声掛け事案なのだが、気になることがあった。

 あの人、魔法使い、なんだよね……。

 少しだけ頭に浮かんだ不安をかき消すように頭を振る。

(今日も仕事、がんばろう!)

 私は少し駆け足で校門にむかう。


 ――、今思えば、ここでこの行動をとったことが正しいのかと思う。でも、ここでこうしたことが私の運命を決めてしまったのは間違いない。


 私はこの日を境に、しばらく大学から姿を消す事になった。

思いのほか、長くなってしまったのでゼロ話から三部構成になってしまいました。

申し訳ありません。

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