第9章
9、梅雨の合間
それは露の晴れ間のある日だった。
わたしはその日の放課後寄宿舎に行って、野梨子たちと遊んでいた。
そして、野梨子と偶然二人だけになる時間帯があったのだ。
野梨子は寄宿舎の裏へわたしをいざない、
野梨子はわたしを見つめて、『先生わたしのこと好き?」といきなり聞いてきた。
『ああ、勿論好きだよ」わたしは極力平静を装ってそう答えた。
しかし、内心はどきどきで足が震えるような感じだった。
『そう、良かった。わたしも大好きだよ。」
『ほら覚えてる?橋のとこで始めてあったとき。
わたしね、今度来る先生はきっとわたしが大好きになるって想像してたんだ。
そしたら本当にそのとおりになったんだ。」
そうだ。わたしもまた、何か予感があった。
きっと、わたしの妖精が現れることを。
わたしは野梨子を抱きすくめたい衝動を必死にこらえた。
そしていつまでもその黒い瞳を見つめていた。
「わたしの家はね、このむこうの福間温泉で旅館やってるんだよ。今度来てね」
『ああそうだね。とまってみたいな。」
「でも、旅館を継ぐのってあんまり好きじゃないんだ。」
『先生は、おとうさん何やってるの。」
「うちはね、ちっちゃい工場をやってるんだよ。僕もそれを継ぐのが嫌でネ。
それで先生になっちゃったんだ。」
『ふーん、そうなんだ。」
そんなたわいもない会話がそれから延々と続いた。しかし、それは心の通うもの同士の
至福の時でもあったのだ。
ああ、このままずっと野梨子と一緒にいたい。
話は途切れることなく続くのだった。
好きになるのに理由なんてない。
会った瞬間にそれは始まるのだ。
ああこの人だ。心が知っている。
見た瞬間,恋は始まっている。
この人にめぐり合うために産まれてきたのだと。
その時心が納得するのだ。
野梨子はまさにわたしにとって運命の少女だったのだ。
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