第九話 世界がカオスなのは創造主がアホだからである
活動報告でも宣伝しましたが、コミカライズ版3巻が12日発売となります。
表紙絵を見てると、もうアリエスがヒロインでいい気がしてきました。
男ですけど。
「早速死体を一つ献上するとは良い心がけです、我が僕よ。
これからも、このフィリア・クローネに仕える事を許しましょう」
そう言って、金髪縦ロールのお嬢様は偉そうにふんぞり返った。
名をフィリアというらしい彼女は、大勢の俺で出来たピラミッドの上で優雅に寛いでいる。
その一番下にいるのは、つい先ほど女神の落雷で死んで黒焦げになった俺だ。
きっと、今ここにいる俺もそのうちあの中に加わる事になるのだろう。
今更だが、俺という存在は一体何なのだろう、とそんな哲学めいた事を考えるも俺のミニマム脳味噌でそんな難しい事の答えが出るはずもなく、疑問は一秒でどこかの星に瞬間移動した。
きっと今頃は人造人間の自爆に巻き込まれているのではないだろうか。
「誰も仕えるとか言ってねえんだが……それより、これどうするかね。
そこのお嬢様がゴブリン殲滅しちまったから、俺等依頼失敗か?」
「そうですね……いや、でもよく考えたらゴブリンを倒したのは久地梨さん(の死体)ですよね?
なら、久地梨さんは報酬を貰う権利はあるんじゃ……」
俺達はゴブリンを倒しに来た。
そして依頼を達成出来ないと金が手に入らなくて今後暮らせない。
つまりこのままでは詰みだ。
ゴブリン倒せずに詰むなろう系主人公とかちょっと見た事ないな。
俺等どんだけ強さと運がないんだよ。
まあ、俺はいいんだ。ぶっちゃけ餓死しようが病死しようがそこらで刺されて死のうが、どうせ復活するし。
それより問題は坊主である。嬢ちゃんは今までこの世界で生きて来たんだから家くらいあるだろうが、坊主がこのままでは路頭に迷う。
そして日本の恵まれた環境に慣れ切った一般人な坊主では間違いなく死ぬ。
そうして悩んでいると、嬢ちゃんがおずおずと手を挙げた。
「あのー、それなら私の家に来ませんか?
ずっとは難しいですけど、少しくらいなら泊めてあげる事も出来ると思いますし」
「え? いや、それは助けるけど、いいの?」
「はい。ヘイボン君には助けてもらいましたし、そのくらいしかお礼も出来ないので……」
俺は彼女の言葉に染み入るものを感じていた。
ええ子や……ちょっと勢いで俺を殺したり、影が薄かったりもするけど、ええ子や。
坊主もそんな嬢ちゃんの優しさに感動したのか、彼女の手を握った。
ここで異性の手を躊躇いなく握れるのが主人公だよな。
「ありがとう! 助かる!」
「あ……え……」
嬢ちゃんはどうやら男への耐性がないらしい。
顔が茹でたように赤くなり、しどろもどろになる。
ああ……惚れたな(確信)。
あるある、こういうのあるんだよ。何の脈絡も伏線も過程もなく、都合よく唐突に女キャラが惚れる展開ってやつね。
まあ俺は坊主にそういう特典があるのを知っているので別段驚きはしない。
ただ少し腹が立つだけだ。俺が同じ事をすれば『キモイ』と言われてお巡りさん呼ばれてセクハラで牢屋直行コースだぞこれ。
なので試しにフィリアにやってみた。
「キモイですわ」
すると電撃と共にパトカーが突如時空を切り裂いて出現し、中から出て来た警察が手錠を持って走ってきた。
異世界! ここ異世界! 現代ファンタジーじゃなくて異世界ファンタジー!
俺は近くに偶然落ちていた輪のような石を投げた。
すると、登場しているだけで作品ジャンルを変えかねないポリスマン達は石をドーナツと勘違いして追いかけ、そのまま時空の裂け目に消えた。
よかった……あれがアメリカの警察で助かったぜ……。
何とか警察を追い払った俺は坊主と嬢ちゃんを見る。
すると、坊主の頭の上に妙な文字が出ているのが見えた。
誰も反応していないので、俺にしか見えていないのだろうか?
『主人公特性発動。対象の好感度を上昇させます。
これに伴い、対象の知能はサルレベルに低下します』
これマインドコントロールじゃね?
そう思っていたが、次の瞬間そんなチャチなものではなかった事を俺は知った。
そうだ、何せあのアホ女神の造ったシステムだ。マトモなわけがない。
嬢ちゃんは突然煙に包まれ、姿が見えなくなる。
一体何事かと俺達が見守る中で煙が晴れていき――。
「――ウキャ?」
――そこには、金髪のサルがいた。
あんのアホ女神いいいいいい!?
確かにサル並に知能が低下するとは聞いたけど、これそういうレベルじゃねーだろ!?
サル並通り越して、完全にただのサルじゃねーか!
「え? ……フ、フレン?」
あまりの事態にフィリアも茫然としており、口をパクパクさせている。
頭のドリルの回転量がやばい事になっており、彼女の動揺のほどが伺えた。
「ウッキャッキャッキャ」
ただ茫然とする俺達の前で嬢ちゃんが突然走り出した。
彼女は何故か空に浮いていた樽を破壊すると、中から出て来たサイの上に飛び乗る。
畜生、ツッコミ所しかねえ!
このまま行かせてはまずいと俺は咄嗟に嬢ちゃんの前に飛び出したが、次の瞬間にはサイの角で吹き飛ばされていた。
「ア゛ー!」
俺はゴリラに踏み殺されたワニのような、変な断末魔をあげて死んだ。
残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!
――死因その614・サイに接触して死亡。
転生の間を通り、ついでにガチャを回していた女神の頭を一発どついた俺はリスポーン地点から走って戻ってきた。
俺が戻ると場は更にカオスになっており、嬢ちゃんが青い二足歩行のワニを何度も踏みつけて残機アップをしていた。
あの嬢ちゃんは一体どこに向かっているんだ。
いや、この世界はどこへ向かっているんだ。
とにかく、このまま嬢ちゃんが完全に野生に帰ってしまう前に俺達で止め、元に戻さなくてはならない。
「と、止めるぞ、坊主!」
「は、はい!」
俺と坊主は嬢ちゃんを止めるべく走り出した。
坊主が嬢ちゃんに手を翳し、『ハーベスト!』と叫ぶ。
すると嬢ちゃんから光が放たれ、それが坊主に吸い込まれた。
「ファイア!」
そして坊主の手から、嬢ちゃんのと同じ炎の魔法が放たれた。
これが坊主のチート能力か。誰でも魔法が使えるとはとんだインチキ性能である。
しかし嬢ちゃんはこれを側転で易々と避け、軽やかにジャンプをすると坊主の頭を踏みつけた。
すると坊主は目を回して倒れてしまう。
さらに嬢ちゃんは側転で俺に突っ込み、俺も吹き飛ばされてしまった。
「ア゛ー!」
残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!
――死因その615・サルの側転で死亡。
「だらしない男共ですわね! わたくしの死霊魔術を見せてさしあげますわ!」
俺がリスポーンすると、今度はフィリアが挑もうとしていた。
頭の縦ロールが高速回転し、唸りをあげる。
そしてドリルが嬢ちゃんへと向き、そこから二つの竜巻が発生した。
嬢ちゃんはこれをジャンプで避けるが、二つのドリルは素早くフィリアから分離し、爆音を立てて嬢ちゃんへと迫る。
だが嬢ちゃんは偶然そこにあった樽に入り込み、まるで大砲のように発射されてフィリアへ突っ込む。
だがフィリアはこれを、俺の壁でガードしてみせた。
俺ウォールに弾かれた嬢ちゃんへ、ドリルがバーニアを吹かして方向転換しながら再び襲い掛かる。
だが嬢ちゃんはこれを、またしても側転で回避してしまった。
てーか、その側転便利だな。攻防一体な上に移動までするって。
もしかしてあの嬢ちゃん、魔法より体術の方が強いんじゃ……。
「ウキャ!」
嬢ちゃんはまたしても近くにあった樽を担ぎ、フィリアへと投げつける。
だがフィリアはそこから一歩も動かず、飛来して来たドリルが樽を砕いた。
戦況は互角……しかしフィリアにはここから更に打てる手がある。
大勢の俺が一斉に嬢ちゃんを目指して走り出し、それと一緒に俺も走った。
一人一人はただの雑魚でも、寄り集まれば数の暴力となる!
しかし嬢ちゃんは俺の群れを前に逃げるどころか、むしろ前進。
側転で突っ込み、何故か俺を一体倒すごとに加速しながら俺の群れを正面突破した。
ついでに俺も吹き飛ばされた。
「ア゛ー!」×50
残念! 俺の冒険はここで終わってしまった! ×50
――死因その616・サルの側転で死亡(二回目)。
俺がリスポーン地点から走って戻ると、嬢ちゃんが俺軍団を相手にまだ無双していた。
勿論、さっき死んだ俺もその中に混じっている。
もう戦況は互角ではない。
死霊術で動く俺軍団は元々死体なので何度でも立ち上がるが、流石に腕や足が取れた俺は戦力外だ。何も出来ない。
つまり数は減り続けている
一方嬢ちゃんは体力などないかのように相変わらず元気に動き回っていた。
それはまるで、敵にやられるまで永遠に走り続ける事も可能なアクションゲームのキャラクターのようなタフさで、全然止まる気配がない。
「おいどうする、フィリアさんよ。このままじゃじり貧だぜ」
「確かに私の魔力も無限ではありませんわ。このままでは……」
フィリアは腕を組んだまま顔をしかめ、暴れまわる嬢ちゃんを見る。
やがて何かを決意したのか、その瞳は鋭くなった。
「仕方ありません……切り札を使います!」
フィリアは意を決したように言い、何を考えたのかドリルを回収した。
しかし回収したドリルを頭には戻さず、代わりに胸元から別の髪を取り出す。
出したのは……ポニーテールだ。
「ジュワ!」
フィリアはそれを自らの頭に装着し、髪型を変えた。
――その時、不思議な事が起こった。
フィリアの身体が赤いボディペイントでもしたかのように真紅に染まり、その身体は天にも届くほどの巨体と化したのだ。
目元にはいつの間にか金色のサングラスをかけ、額にはランプが付いている。
腹には何故か『7』という数字がでかでかと書かれていた。
「デュワ!」
フィリアは両手の人差し指と中指を立て、額のランプを挟むように構えた。
するとランプから一条の光線が迸り、回避を許さない速度で嬢ちゃんへ直撃した。
「ウキャアアア!?」
「ぬわああああ!?」
これには流石に無敵側転も間に合わなかったのか、嬢ちゃんは悲鳴をあげてその場にダウンした。
ついでに俺も巻き込まれて吹き飛んだ。
倒れた俺と嬢ちゃんを見下ろし、フィリアは満足そうに頷くと空を見上げる。
「デュワー!」
そしてどこかへ飛び去って行った。
…………なあ、いいかな?
俺はこの後すぐに死ぬし、ここは恒例の台詞を言うべき場面なんだろうが、それでも言わせてくれ。
――これ、どこから突っ込めばいいんだよ、畜生!!
Q、この世界なんでこんなカオスなの?
A、例えるならばこの世界は、まだ発表されていない製作途中のRPGツ〇ール製RPGです。
そしてアホな作り手は実験としてあれこれ適当に作っているので、変な部分が大量にあるのです。
あれでも前作はまだ、一応完成された世界だったのです……バグだらけだったけど。
一応擁護すると、テストプレイヤーとして主人公を引っ張り込んだだけ、前よりマシになっているのです。
問題はそのテストプレイヤーも製作者レベルの馬鹿だという事だ。