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第七話 ゴブリンは結構怖い

 騎士団に捕まってしまった俺は現在、鎧の男に連れられて建物の中を歩いていた。

 恐らくは騎士団の詰所か何かなのだろう。村で見た急ごしらえの建物よりもかなり立派だ。

 煉瓦造りの天井や壁は現代ではそうそう見ないだろう。

 先程の飲食店といい、この地域は煉瓦製の建物が主流らしい。まああの女神の事だから土地や風土を一切考えずに世界観を構築しているかもしれないが……。

 照明はランプが基本なのだろう。壁の至る所にランプが飾られ、淡く道を照らしている。

 逆にあの店にあったような窓はなく、全体的に薄暗いふいんき(←何故か変換出来ない)を漂わせている。

 これは多分、囚人とかが逃げないようにする為だろう。


「この階段を降りた先に尋問室がある。そこでお前の事情を聞いてやろう。

場合によっては無罪として釈放される可能性もあるから、正直に答えておく事を勧めるぞ。

よく考えてみればお前別に何も悪い事してないっていうか、死んでるだけだし」

「まあ俺も死にたくて死んでるわけじゃねえしな」

「まあ、そういった事はここを降りてから話すんだな。

というわけで、いいか? 死ぬなよ? 絶対に死ぬなよ? この階段は逃走防止で結構段差が高めで、囚人が逃げようとしても体力を切らしてすぐに捕まる様になっているが、間違えて降りた衝撃で死んだりするなよ?」

「安心しろよ。あんだけ飛んだり跳ねたりしてたんだ。今更段差なんかで死ぬかよ」


 兵士の心配に、俺は思わず笑ってしまった。

 段差を降りただけで死ぬなんて、スペラ〇カーじゃあるまいし、あるわけがない。

 この世界に来た当初の俺ならばありえただろうが、あれだけジャンプしたり着地したりしていたのだ。

 段差を降りただけで死ぬわけがない。何なら俺の全財産を賭けてもいい!

 俺は絶対に死なん!

 俺は――死なない!



 ――段差を降りた瞬間、気が遠くなるのを感じた。

 ああ…………わかってたさ……。

 スペラン〇ーだって、ジャンプは出来るのに段差を降りたら死ぬもんな。

 どういう原理かは知らんが、どうやら俺も駄目だったらしい。


「お、おい!? 大丈夫か!?」

「だ、大丈夫だ……問題ない……」


 虚勢を口にしながら俺は倒れ、階段を転げ落ちた。

 今回もやっぱり駄目だったよ。俺は人の話を聞かねえからな。

 次の俺はきっと、もっと上手くやってくれる事でしょう。


 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

  

 ――死因その500・ス〇ランカー。




「……で、何で俺死んだの?」

「段差耐性が0だったからです」

「ジャンプは出来るのに段差で死ぬんですね」

「はい、死にます」


 ここは毎度お馴染み、転生の間。

 何度も死んだ俺は最早、ここに実家のような安心感すら感じ始めていた。

 とりあえず女神に聞いてみたが、案の定俺の死因は酷いものだ。

 ジャンプ出来るのに段差で死ぬってお前……俺はゲームのキャラじゃないんだからさ。


「ところでいつまで遊んでるんですか。もう取り柄なし君、冒険者ギルドで登録を済ませちゃいましたよ」

「鳥江梨な」

「とりあえず最初はお約束のゴブリン退治から始めるみたいですね。

貴方も早く復活して盾になってあげて下さい」

「……思ったんだけどさ、あんなチート能力あるんだから俺行かなくてもよくねえか?」


 女神は俺にあの少年の手伝いをさせたいらしいが、俺としては必要ないのではないだろうか、と思う。

 あの少年が貰ったチート能力はかなり便利そうだったし、俺がいてもそう変わらないだろう。

 というか段差降りただけで死ぬ盾とかいらんだろ、常識的に考えて。

 しかし女神はチッチ、と指を振る。


「甘いですよ。いくらチートがあっても所詮は平和な日本で親の庇護下でぬくぬく生きていた子供です。

喧嘩もまともにした事がないのに、いきなり殺し合いなんて出来るわけないでしょう。今はゲーム気分でギルド登録とかしていますが、すぐに現実に打ちのめされます。

それとゴブリンは確かに知能も腕力も背も低いですけど、そこらの石や動物の牙で武器を造るくらいの知性はありますからね?

例えば武器を持った小学生が数十人向かってきたとして、それに勝てる大人がどれだけいるかって話ですよ」

「ああ……そりゃ無理だな」

「というわけで、盾が必要なのです。分かったらレッツゴー」


 女神にグイグイと背中を押され、俺は再び転生した。

 なんだかなあ……。


*


 今回のリスポーン地点は鳥江梨の坊主の近くだった。一応女神も少しは気を利かせてくれるらしい。

 見れば、坊主と名も知らぬ嬢ちゃんは草むらに隠れて洞窟の様子を窺っている。

 そして洞窟の入り口には見張りと思われるゴブリン……らしき緑色の生物が一匹いた。

 身長は140㎝ってとこだろうか。そこらへんの草で作ったような腰みのを身に着け、手には自作らしき槍を持っている。

 全身には毛がなく、眉毛や髪もない。耳は尖っていて、眼は赤い。

 あまり知性や力強さを感じない外見だが、確かに武器を持つ程度の知能はあるようだ。

 そして入り口の見張りの他にもう一匹、洞窟の上に伏せて坊主達を見ているゴブリンがいた。

 なるほど、どうやら入り口のゴブリンは『こいつが見張りだ』と分かりやすく配置された囮で、実際の見張りはあっちの高所にいるゴブリンってわけだ。それなりに考えてやがる。

 ……いや、やべえじゃねえか。いきなり発見されてるぞ。

 どうするんだよ、これ……。


「死ねよやあーっ!」


 高所にいたゴブリンが叫びながら弓を撃った。

 普通に話せるのかよ。

 ゴブリンっていうのはこう、『ゴブゴブ!』とか、そんな鳴き声しか発さないイメージだったのに。

 いや、というかやべえ! 坊主達は反応出来ていない!

 焦る俺の前で無情にも弓は直進し、曲がり、そして俺の眉間へと突き刺さった。


 ……え?

 何で俺……?

 坊主達が無事でよかったが、何か釈然としないものを感じながら俺は地面に倒れ込んだ。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

  

 ――死因その501・見張りの攻撃を吸って死亡。




「弓が曲がったんですが」

「貴方のチート能力のおかげですね。ヘイト・ギャザーは貴方以外を対象とした攻撃を視認した時、80%の確率で貴方へと対象を変えます。

更にその際、攻撃力は40%、命中率は90%上昇し、あらゆる耐性を貫通して、遮蔽物がある際にはテレポートして貴方に当たります」

「ほとんど嫌がらせじゃねえか! せめて遮蔽物を巻き込めるようにしてくれ!

これじゃ敵を間に挟んで同士討ちさせるとかも出来ねえだろ!」

「タンクがそんな戦い方をしていいわけがないでしょう! タンクはそんな万能じゃないんです!」


 女神曰く、どうやら俺は敵のヘイトを集めるだけではなく、攻撃まで吸うらしい。

 しかも俺に対象変更した攻撃は命中と攻撃が上昇した上で、俺だけを的確に狙うのだ。

 なんてこった。ライトノベル愛読者である俺は、どんなクソ能力でも使い方次第で無双出来るという事を知っている。

 一見クソみたいな能力を持った主人公が機転を利かせて活躍するのは定番だ。

 まあ、そういう話って大抵主人公の機転というより能力の解釈が主人公に都合よすぎて、能力自体がチートにされる方が多いが……。

 だが俺のヘイト・ギャザーは違う。

 クソだ。どう使っても俺に攻撃が飛んで俺が死ぬクソスキルだ。

 俺だけを殺すスキルかよ!


「あ、ほら。そんな事を議論している場合じゃないですよ。

取り柄ない君がゴブリンに囲まれているようです」

「やべえ逝ってくる!」


 女神と話している間に、どうやら坊主と嬢ちゃんはピンチになっているらしい。

 俺は慌てて転生の間から駆け出した。

 女神への文句は後だ! 全部終わったらまた戻ってくるぞ!


*


 俺が戻ると、坊主と嬢ちゃんは洞窟の前でゴブリンに囲まれて固まっていた。

 いくら能力があろうと、女神の言った通り荒事に慣れていない子供だ。

 死の恐怖で身体が硬直すれば、満足に動けなくても無理はない。

 俺? いや俺にそんなものはねえよ。何回死んでると思ってるんだ。

 なので俺は躊躇う事なくそこに飛び込み、ゴブリン達を蹴り飛ばした。


「いでえ!」

「何だ!? 新手の冒険者か!」

「ちょっと待て、そいつさっき確かに殺したはず……」


 俺の突撃に混乱するゴブリン達を更に続けて蹴り飛ばす。

 今にして思えば最初に兵士に殺され続けたのは、むしろいい経験だったのかもしれない。

 おかげで、こうしてある程度戦う事が出来る。

 しかし死にやすさは健在だ。後ろからゴブリンに石を投げられただけで俺は地面に倒れ、意識が遠くなっていくのを感じた。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

  

 ――死因その502・投石。




「リスポォォォォン!」

「ひえっ! また来た!?」

「嘘だろオイ!」


 俺は再び転生し、またもゴブリン達の中へと飛び込んでいく。

 倒れている俺の死体を掴み、その場でジャイアントスウィング!

 俺自身を武器として、ゴブリン達を薙ぎ払って行く。

 しかしそうしていると目を回してしまい、やがてその場に倒れてしまった。

 目を回しただけで死ぬとか、この身体ちょっと脆すぎませんかね。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!


 ――死因その503・目を回して死亡。




「ダメージが完全にかいふくするまで身をかくしていたんだ!」

「さがしたんだ……データはんのうもパーツも……なにも見つからなかったから……。

って、ちょっと待てや! いや死んでるよな!? ここで死んでるのお前だよな!?」


 その後も俺は突撃し続けた。

 相変わらず脆すぎてすぐに死ぬ身体だが、死んでもすぐ戻って来れるのが俺の利点だ。

 それを活かして死体の山を築き上げながら俺はひたすらゴブリンを減らし、遂に坊主達の突破口を開く事に成功した。


「今だ、逃げろ!」

「は、はい!」


 坊主と嬢ちゃんが逃げ、その後をゴブリンが追うがそれは俺が許さない。

 積み上げられた俺の死体を投げまくり、その場に俺の壁を作り上げて道を阻んだ。

 そして逃げる。ゴブリン如きに逃げ出す主人公とかちょっと見た事ないが、このままでは坊主達が殺されてしまうので、戦略的撤退だ。


 そして逃げてる最中に転んで死んだ。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!


 ――死因その612・転んだ。

私は最近気づきました。

本編をネタまみれにすると、後書きで書く事が特にないという事に……。

それと ふいんき(←何故か変換出来ない)はそういうネタですので、誤字指摘はしなくても大丈夫です。

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[一言] 死んでも完食する(笑)
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