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第六話 異世界の言語がスペイン語とかだったら大半の転生者は詰む

中世ファンタジーの食事?

とりあえずエールと芋と黒パン出しときゃええねん(適当)

 全く酷い目にあった。

 生前にも恩を仇で返された事が無かったとは言わないが、まさか助けた相手に殺されるとは思わなかった。

 これは流石に一言文句を言わなきゃおさまりがつかない。そう思い、俺は先程爆死した場所を目指して歩いていた。

 そして……お、いたいた。都合のいい事に先程の場所から動いていない。

 少女は顔を真っ青にして俺の死体を凝視しており、震えている。

 転生者の少年もどうすればいいか分からないようで、その場で硬直していた。


「ど、ど、どど、どうしよう……私、助けに来てくれた人を、こ、殺し……」


 少女は哀れなほどに震え、歯をガチガチと鳴らしている。

 目からは涙が溢れ、今にも気絶しそうだ。

 一言何か言ってやろうと思っていたが……あの姿を見るとそんな気は失せちまうな。

 殺されたのはそりゃあちょっと納得出来ないが、まあこちとら何度も死んで死に慣れてるし、ここで追い打ちなんかかけたら、俺が大人げないだけだ。

 ここは一つ、殺された事くらいは水に流して大人の対応ってやつをするべきかな。


「反省したか、嬢ちゃん。これに懲りたら後先考えずに魔法なんか撃つんじゃねえぞ」

「……え?」


 少女は俺の声に反応して俺を見上げ、それから何度も死体と俺を見比べた。

 転生者の少年……兵本だったかな。そいつも信じられないという顔で俺を見ている。

 まあ、そりゃそうだな。さっき確かに目の前で死んだ奴が何事もなく戻ってきたらそういう反応になるわ。

 少女は顔を真っ青から真っ白にし、そしてそのまま気を失ってしまった。


「気絶しちまったか。とりあえず、死体をどっかに捨ててから話し合おうぜ」

「え? あ、は、はい」


 俺は気絶してしまった少女と、俺自身の死体を抱えてその場から足早に立ち去った。

 一度街の外に出てから俺の死体はその辺に埋め、持っていた剣と服は回収しておく。

 それから俺達は適当な飲食店へと入った。

 煉瓦……なのかな? 生憎と見ただけで材質なんか分からないから、もしかしたら煉瓦じゃないのかもしれないが、とりあえず煉瓦っぽい何かで出来た建物だ。

 テーブルや椅子は木製で、部屋の隅には観賞用の植物が飾ってある。

 主な照明器具は壁などに立てかけられているランプのようだが、今は光が灯っていない。

 その代わりに窓(窓というか、四角いだけの穴だ。硝子は貼っていない)が多く、日の光が差し込んでいた。

 このランプの出番は夜になってからだろう。

 さて、ここで腹ごしらえでもしようと思ったわけだが、そこで俺は一つの問題に直面した。


「……読めねえ」


 メニューの文字が読めない。全然読めない。全く読めない。欠片も読めない。

 この世界の文字らしきものは、俺の目には謎の記号にしか見えないのだ。

 そうだよな……何故か言葉が通じてたから、勝手に文字も日本語だと思ってたが、そんなわけはないよな。

 だが大丈夫だ、俺は知っている。こういう中世な世界ではそもそも識字率そのものが低いはずだと。

 ならば字を読めない事は決して恥ずべき事ではない。店員に普通に聞けばいいのだ。


「おい、すまねえが字が読めねえ。ここには何があるんだい?」

「もー、お客さんったら冗談ばっかし。字なんて猿でも読めるよ」


 俺は近くを通りかかった給仕に質問したのだが、それに対する返答は無情なものであった。

 いや、こんな中世世界観で識字率が高いはずがない。

 そう思っていたが、よく見ると端っこの方の席には猿が座っていてウキウキ言いながらメニューを読んでいた。

 猿は俺と目が合うと、『え、こいつ字も読めないの? まじでー?』みたいな顔で嘲笑した。

 くそ、あの女神め。トイレは中世そのままにしたくせに、何で字だけ都合よく皆読めるんだよ。


「あ、すみません。俺、何でか分からないけどこれ、読めます」

「マジか」

「はい。多分、転生した時に女神様が何かしてくれたのかと……」


 転生者が転生する時、現地の字が読めるようになっているのは実にテンプレだ。

 だから兵本の坊主が字を読む事が出来ても不思議な事はない。女神が何かしたのだろうと分かる。

 だが女神よ、何故俺にはそれがない。

 ちくしょう、贔屓だ。こんなのってない。


「適当に何か注文してくれ」

「それが……食べ物はともかく、飲み物はエールくらいしかないみたいなんですが……」

「ああ……中世だもんな」


 坊主は困惑しているようだが、中世レベルならば飲み物が酒しかないのは納得出来る話だった。

 どこまで地球と同じなのかは分からないが、中世の頃は水というのは寄生虫やら何やらのせいで飲めたもんじゃなかったらしい。

 いや、中世に限った話じゃない。今でもヨーロッパの一部では飲める水はビールよりも高いらしい。

 降水量は少なく、沼は多いが飲料には適さない。

 長期保存が出来ずに腐る。

 その点、アルコールは保存し易く腐らない。だから子供だろうが酒をガブガブ飲むってわけだ。


「飲み物は仕方ねえ。とりあえず安いのを適当に頼む」

「あ、はい。それじゃあ……」


 坊主が注文をし、しばらくしてからテーブルに酒と料理が運ばれる。

 酒は当たり前だが、温い。冷たい酒なんてこの世界じゃ望むべくもなさそうだ。

 料理は焼いた芋とソーセージ。豪華とは言い難い。

 とはいえ食い物は食い物だ。俺は早速芋を口に放り込んだ。

 味は……うん、まあ、ジャガイモだ。食べなれたジャガイモよりも若干味が悪い気がしないでもないが、普通に芋だ。

 それを一口二口と咀嚼し……俺は吐血した。


「ゴフゥ!?」

「えええええ!?」


 俺の前に座っていた坊主が驚いているが、ぶっちゃけ俺も驚いている。

 え? 何で? 今回死ぬ要素なかったよな!?

 俺は理不尽を感じながらテーブルに突っ伏し、自分の吐いた血の海に沈んだ。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

 

 ――死因その432・毒死。


*


「あの、何で俺は今回死んだんスかね?」

「毒ですね」


 いつもの場所へ戻ってきた俺は、女神に今回の死因を聞いてみる事にした。

 それに対し返って来た答えはまさかの毒死だ。

 毒だと……まさか、俺の存在を危険視した何者かが俺を暗殺したとでもいうのか!?


「いえ、ジャガイモに含まれている毒で死にました」

「え? ジャガイモの毒っていったらアレですよね、芽の部分。俺、そんなの食ってないですよ?」

「そうではありません。いいですか? そもそも世の中に『毒』なんてものはないんです。

どんな物にも成分があり、それが人体に有害か無害かで毒と薬を言い分けているに過ぎません。

つまりどんな物にも毒はあり、どんな物でも薬になります。

有名なので言えば葱ですね。これは人間には薬になりますが、猫や犬には毒です」

「ちょっと待てや」


 俺は思わず敬語を忘れて突っ込みを入れてしまった。

 どんな物にも毒はあり、そして俺はその毒で死んだという。

 それはつまりあれか……俺は何を食べても死ぬって事じゃないのか?


「はい、そうです」

「マジかよ」


 何てこった……こんな所にまで俺の死が転がっていたとは。

 これじゃあ俺は何も食べる事が出来ない。こんな残酷な事があっていいのか。

 かといって食べなきゃ、俺の死にやすい身体はすぐにでも飢え死にしてしまうだろう。

 詰んでいるとしか言いようがない。どうすりゃいいんだ、これ。


「食べて死に続ければ耐性も出来ますよ。頑張って!」

「……ほ、他はねえのか?」


 俺は一縷の望みに縋るように女神を見た。

 そんな俺に女神は見惚れるような笑顔を向け、言う。


「がんばれ♥ がんばれ♥」

「畜生!」


 俺は走った。走って再び転生した。

 こうなりゃやってやるよ! 喰い続けて、食べ物への耐性を手に入れてみせる!



「戻ったぞ!」

「あ。よ、よかった! 俺、どうしようかと……」


 俺が戻ると店内は騒然としていた。

 それはそうだ。何せ客が一人、料理を食って死んだんだから騒ぎにならないはずがない。

 だがそんな事はどうでもいい。俺は俺の死体から芋を奪い取って口に放り込んだ。

 そして血を吐いた。


「ヴォオアアアアア!」

「何やってんですかああ!?」


 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

 

 ――死因その433・毒死。



「まだだ! 俺は一度出された料理を残しはしねえ!

意地にかけて完食してみせる!」

「またきた!?」


 再挑戦。

 俺は再び店に飛び込み、転がっている俺の死体二つを蹴り飛ばして椅子に座った。

 そして芋を頬張り、またも吐血。

 だが……即死はしねえ! 耐性が出来てきたのだ。

 更に頬張り、頬張り……遂に限界を迎えて俺の意識は遠のいた。


「また……来るぜ……」

「もう来るな、帰れ」


 店主の心底迷惑そうな声を聞きながら俺は死んだ。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

 

 ――死因その434・毒死。



「死んでも完食する……それが、食への感謝ってもんだ!」

「むしろ死ぬほど失礼なんじゃないかな、これ」


 またも舞い戻った俺は転がっている俺の死体を掴んで店の外へ放逐し、芋を喰らう。

 よし、大分慣れてきた……。舌は痺れるが問題なく食える。

 続けて酒を飲み――今度はアルコールに耐えきれずに死んだ。

 畜生、今度はこっちか!

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

  

 ――死因その435・急性アルコール中毒。



「ところで今思ったけど、俺等こっちの金持ってねえな」

「そこに気付いたのに食べるんですか!?」


 俺は諦めねえ。

 生前から諦めが悪く、懲りない事が俺の武器だった。

 一度やると決めたら、たとえどんな下らねえ事だろうとやり遂げてみせる。妥協はしない。後退もしない。

 その結果がカルマ値の溜め過ぎで、こんな因果応報な死にまくる役割であろうと、俺は後悔だけはしねえ。いや、嘘、ごめん、やっぱ後悔は普通にするわ。

 店の外に転がる俺の死体は既に四つ。道行く人々は何事かとこちらに目を向けている。

 だが知らん。他者の好機の目などどうでもいい。

 この世界に最初に来た時に全裸で死にまくって色々と見られてはいけない物を見られた時点で恥は捨てた。

 俺は芋と酒をガフガフと喰らい、飲み、そして死んだ。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

  

 ――死因その436・懲りずに毒で死亡。




 その後も俺は挑戦を続けた。

 出された食い物に含まれた全ての成分……つまりは全ての毒への耐性を得る間で死にまくった。

 だが成果はあった。

 俺は遂に毒を克服し、出された食事を完食する事に成功したのだ。


「やったぞおおお!」


 俺は拳を手に突き上げて勝利の咆哮をあげた。

 坊主は苦笑いしながらよかったですね、とか言っている。

 嬢ちゃんは……いつの間にか目を覚ましていたようだが、俺の死にっぷりを見てまた気絶したようだ。

 そんな俺を店主は拍手で暖かく祝福してくれた。人々も同じく手を鳴らし、俺を称えてくれる。

 そうだ、俺は勝ったのだ。この長く苦しい戦いに勝利した。

 そうして勝利の余韻に浸っていると、誰かが俺の肩を叩いた。


 ……兵士だった。


「見付けたぞ。村に現れなくなったから何処にいったかと思えば、今度は都で死にまくっていたか。

お前を捕縛する」

「……お、お久しぶりです」


 俺は有無を言う間もなく縄で腕を縛られ、そのまま何処かへと連行されてしまった。

 あれ? 今度は殺さねえのか?


「だってお前殺しても復活するじゃん」

「いい判断だ」

「だろ?」


 どうやら兵士も馬鹿じゃないようだ。しっかり学習してやがる。

 かくして俺は兵士に逮捕され、坊主と引き離されちまった。まだ自己紹介もしてないのに。

最近は暑すぎて私も主人公のように暑さだけで死んでしまいそうです。

残念! 私の執筆はここで終わってしまった!

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