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第五話 死にかけるたびに俺達喪男は非モテ力が上がっていくんだ

 女神の間へ戻ると、そこは普段と何やら様子が違っていた。

 普段は何もないただの暗闇なのだが、今はどういうわけか豪華絢爛な宮殿と化している。

 その玉座には女神が座り、偉そうにふんぞり返っていた。

 下を見れば、そこには何かイマイチパッとしない顔立ちの、ハンサムではないが不細工でもない……まあ何だ、無個性な男が立っていた。年齢は大体十五歳からニ十歳ってとこか。服装から見るに学生だろう。


鳥江梨(とりえなし) 兵本(へいぼん)さん、貴方は死にました」

「は、はあ……」

「死因は足を踏み外しての階段からの転落。死後は貴方が隠していたエッチな本や、同人作家を目指してコッソリ書いていたエッチな自作絵が引き出しから発掘されて、ご両親はとても複雑な顔をしています」

「――」


 おい、やめてやれよ。俺はそう言いたくなった。

 エロ本はまあ、彼の年代ならばおかしな事ではない。勿論恥にはなるだろうが、ご両親も納得してくれるだろう。

 だが自作のエロイラストとか、どう考えても致命傷だ。

 見ろよ、可愛そうに……完全に魂が抜けたような顔で呆然としてるぞ。


「さて、本来ならばこのまま記憶を奪って転生コースなのですが、貴方が余りに哀れで惨めなので特別にお情けで転生特典を一つだけ与えて別世界へ転生させてあげましょう」

「て、転生ですか……それなら元の世界に……というか黒歴史を抹消する暇を下さい」

「あ、そういうのは駄目なんですよ。ええとですね、天界規定とかそういう感じの何か面倒なアレで、とにかく無理なんです。なので素直にチートだけ受け取って異世界へGOして下さい」


 天界規定とか初めて聞いたぞ。

 というか、そんなの本当にあるのか?

 俺がいぶかしんでいる間にも話は続く。


「あ、ただし『何でも願いを叶えられる能力』とか『チート能力を作れるチート能力』とか、そういうのは無しです。あくまで一つだけしか認めません。

漫画やアニメのキャラクターの能力とかはありですが、能力一つで何でも出来るような全能系は流石にパワーバランスが崩れるので許可しません」

「え、ええと……それじゃあ、『マジックファンタジーⅥ』に登場した『ハーベスト&ストック』を」

「ああ、あの敵から魔法を奪える狡い能力ですね。確か効果は……」


 少年はフィクションに出て来る特殊能力を特典として望んだ。

 どうも最近のゲームで出てきた能力らしいが、俺にはよく分からない。

 女神の説明を聞くに、何でも敵の持っている魔法などを収奪して自分の物とし、溜め込んでおける能力らしい。

 更に溜めた魔法は任意のタイミングで発射可能で、最大で99発、更に10種類、合計で990の魔法を溜め込んでおく事が可能となる。

 一度の収奪で何発分奪えるかはランダムで、奪った回数に応じた魔法力も敵から奪い取る。

 ただし魔法を収奪された相手は別にその魔法が使えなくなるとか、そういう事はないらしく、あくまで魔法力……つまりMPが減るだけだ。

 なるほど、確かにチートだ。相手のMPを削りつつ、自分の手札を増やせるんだから、ずるいとしか言いようがない。

 能力名は『ハーベスト&ストック』。

 俺にもそういう強力な能力があればなあ、と思わずにはいられない。

 俺、そういう能力何もねえもんなあ……無限転生は能力じゃなくて、女神に送り出されてるだけだし。


「それでは、よき異世界ライフを」


 女神がそう言うと少年は消えた。

 それを見届けてから俺は女神へと話しかける。


「おい、今のは何だ?」

「おや、おかえりなさい。今丁度、貴方と同じ世界に転生者を送り込んだところですよ。

とりあえず彼を主人公のテストケースとして、今後の参考にしようかと」

「サラッと実験動物扱いしてるな、おい」


 こいつ、絶対愛の女神なんかじゃなくて邪神だろ。

 少なくとも、愛と美の女神なんかよりも、よほどしっくりくる。

 まあ、それはどうでもいい。ともかく、こいつには文句を言わなきゃならん。


「ところで、あのトイレはどういうわけだ? 中世世界観なのに、何でトイレだけSFなんだよ。

一体どういう発展の仕方をしたらああなるんだ」

「そんなのご都合主義でいいって言ったのは貴方ですよ」

「限度があるだろ! あんな技術力があるなら、とっくに中世レベルなんぞ脱してるわ!

俺が言ったのは古代ローマレベルの水洗トイレでいいんだよ! 誰がプラネタリウム作れっつった!」


 本当もう、この女神本当アホ。

 そりゃあ、俺だってライトノベルとか見てて思う事はあるさ。

 中世レベルなのに一部だけが近代レベルだとか、砂糖が貴重なはずなのに主人公が当たり前のように甘い菓子を作ってたり、香辛料なんざ中世じゃ金に匹敵する価値があるはずなのにカレーライスが出てきたり……。

 だが、そのくらいならば『まあ異世界だし』で受け入れる事が出来た。

 突っ込みどころをあえて見ないようにしつつ続きを読み進めるくらいは出来る。

 だが、トイレがSFレベルでプラネタリウムが出てきたら流石にスルー出来ない。


「注文が多いですねえ……はいはい、古代ローマレベルっと」

「ったく……しっかりしてくれよ。

ところで話は変わるが、天界規定って何だ? そんなもの、俺は初耳だぞ」


 俺は溜息を吐きつつ、ふと気になった事を聞いてみた。

 天界なんてファンタジーなものは信じてはいなかったが、こうして死んだ後があって、異世界があって、アホとはいえ女神もいる。

 となりゃあ、まあ天界とかいうのもあるのだろう、と考える程度の柔軟さはあるつもりだ。


「え? ああ、あれですか。ないですよ、そんなの」

「はあ!?」

「そもそも、最高神が私ですよ。規定なんて好きに変えれるに決まってるじゃないですか」

「ちょ、ちょっと待て! じゃあ何か、あんた本当はあの学生を元の世界に生き返らせてやる事も出来るのか!?」

「はい、出来ますよ。まあその場合は死人が復活するわけですので、時間やら並行世界やら、その他諸々を色々と弄らなければならないので、非常に面倒ですが。

なので私としては異世界へ行ってもらった方が楽ではあります」


 何て奴だ。

 こいつ、自分が楽をしたいが為に蘇生出来るはずの人間を異世界へポイ捨てしてるのか。

 俺は何だか、あの少年が哀れになってきた。


「とりあえず、ここまでご苦労様でした。

貴方が積み重ねた430の死により、あの世界で必要とされる能力値や、強いとされる基準を測る事が出来ました。

この経験はあの少年にも反映し、とりあえず初期能力値として兵士と同じくらいの身体能力を与えています」


 女神の言葉を聞いて俺は安堵と、同時に虚しさを感じていた。

 俺が何度も何度も死んで、ようやく適応したあの世界にあの少年は最初から適応した状態で送られるという。

 それに対し、ずるいと思う気持ちがある。

 だがそれ以上に、俺が積み重ねてきた物が無駄じゃなかったという喜びがある。

 そして、そんな事に喜びを感じてしまう自分に対する虚しさがあった。


「とりあえず、あの世界で生きていくだけの力を得た貴方には次の役目を与えます。

あの少年の旅に同行し、彼が魔王を倒すのを見届けて下さい」

「そりゃあいいけどよ……今更だが、魔王とかいんのな、あの世界」

「ええ、いますよ。『よくぞ来た。勇者よ』とかドヤ顔で言いながら玉座で排泄してる魔王が」

「それはもう止めたはずだろォ!? 何で魔王だけ玉座が便器のままなんだよ!?」

「水洗式にパワーアップしてます!」

「玉座便器そのものを止めろォ!」


 俺は別に魔王の味方ではない。会った事もないのだから敵も味方もない。

 だが魔王といえばあれだ、ラスボスだ。

 世界を恐怖で支配している悪の親玉なんだから、やっぱ相応の威厳とか貫禄があって欲しい。

 俺嫌だよ、『世界の半分をお前にやろう』とか恰好よく言いながら、ブリブリ漏らしてる魔王なんて。


「一応彼には異世界転生主人公の嗜みとして、女の子に惚れられやすくなる体質もプレゼントしたので仲間には恵まれるでしょうが、何かの間違いであっさり死んでしまわないとも限りません。

それにこの体質の影響で女の子は判断力が猿レベルにまで落ちてしまうので、常識的な行動が取れずに、ただの照れ隠しで相手が死にかねない暴力を振るったりもします。

なので、彼が死にそうになったら貴方が死んででも守ってあげて下さい」

「やっすいなあ、俺の命」

「命なんて安いものです。特に貴方のは」

「知ってるけど、言われると腹立つな」


 反論は出来ない。実際俺の命は安い。五円チョコよりも安い。

 だから死んでも守るってのはいくらでも出来る。

 しかし正直、複雑な気分ではあった。

 だってよ、これから俺は目の前でハーレム形成しながら大活躍する野郎を見守りながら、そいつのピンチには命を捨ててでも駆け付けなきゃならねえんだぞ?

 どんな拷問だよ、これ。


「ともかく、そういうわけで頑張って下さいね」

「おう」


 まあ言っても始まらない。

 俺は女神に見送られ、再びあちらへとリスポーンする事にした。




 リスポーンをすると、近くの川で俺の死体が流れていた。

 足元には喉から血を流して俺が倒れている。

 あ、やっぱ死体そのままなのか。しかも剣で自害した方、頭に付着した汚物がそのままだし……。

 だが俺は同じ過ちは犯さない。まず最初に死体を回収し、一度街の外へ出て地面に穴を掘った。

 そして二人の俺を穴へ落とし、埋める。その際に俺の死体から剣を回収するのも忘れない。服も後で使えるかもしれないので剥ぎ取っておいた。

 死体からの剥ぎ取りは異世界ファンタジーじゃ結構テンプレだけど、まさか自分から剥ぎ取る事になるとはなあ……。

 さらば、前の俺。そこで土に還るがいい。

 そうして俺自身を弔ってから俺は街へと戻り、まずはあの少年を探す事にした。

 没個性な顔で見付けるのは骨が折れそうだが、服装はこっちじゃ珍しい……というか他に見ない学生服だ。多分適当に歩いてりゃ見付かるだろう。


 数十分後。

 街をブラブラしていた俺は無事に少年を発見する事に成功していた。

 だが流石は主人公というべきか。何やら早速トラブルに巻き込まれているようだ。

 往来のど真ん中で少年がチンピラっぽいのを相手に何か言い争っている。

 少年の後ろには座り込む金髪の少女。ショートカットで、少し幼さは残すが整った顔立ちだ。


「やめろよ! 嫌がってるじゃないか!」

「邪魔すんじゃねえ餓鬼! 俺達ァ、ただちょっと、そこの娘と一緒に飲みに行こうとしただけだぜ!」

「俺達は泣く子は放っておけず親を探してやるナンパ兄弟! 可愛い女の子を茶に誘って一緒に飯食うのが生き甲斐なんだよ! 勿論全額俺達の負担さ!」


 何だよ……ただのナンパ野郎じゃねえか……。

 とはいえ、相手が嫌がってるのに無理に誘うのは男としてNGだ。

 見た所女の子は怯えているし、同じ男として気持ちが分からんでもないが、非はチンピラの方にあるな。

 仕方ない、助けに入ってやるか。


「待ちな! ナンパをするなとは言わんが、相手が嫌がってるなら大人しく引き下がるのが大人の男ってもんだぜ」


 俺はポケットに手を入れ、少し恰好つけながらその場へと近付いた。

 言い忘れたが、俺はこれでも結構身長はある。大体185ってとこだ。

 そしてこの世界は食生活の問題なのか、人々の身長がやや小さい。男でも平均165、女なら150くらいしかないだろう。

 なので俺は自然と男達を見下ろす形となり、自然と男達の腰が引けていた。


「な、何だお前は! 偉そうに!」

「俺達と同じ……いや、桁外れのモテない男のオーラを感じる……お前、何者だ!」

「喪男力120000……130000……140000……ば、馬鹿な……まだ上がる……」

「じゅ、180000……お、俺達とは次元が違う……違い過ぎる……!

ま、まさかお前は伝説のスーパー喪男人……」

「モテなくて悪かったなあ!」


 ああそうだよ、モテた事なんかねえよ畜生! 年齢=彼女いない歴だよ!

 度胸なくて、風俗にすら行った事ねえよ!

 友人とかの前では非童貞を気取って『まあ、思ってたよりもいいものじゃなかったよ』とか見栄はってたよ! それがどうした!

 俺は怒りのヤクザキックを放ち、チンピラを蹴り飛ばした。

 舐めるなよ、これでも散々兵士に殺され続けてきたんだ。お前等なんぞ、敵じゃねえ。


「こ、この野郎!」

「邪魔だどけ!」

「ごふっ」


 続けて、残ったもう一人もヤクザキックで仕留める。

 はっ、雑魚共が。兵士一人の方がまだ手応えがあったぜ。

 雑魚二人を倒し、俺は少年と少女へと向き直った。


「よう、お二人さん。怪我はねえか?」

「あ、は、はい。助かりました……その、ありがとうございます」


 少年の方は少し呆気に取られているが、とりあえず礼を言う程度には落ち着いているようだ。

 少女の方はまだ震えており、目をぎゅっと閉じている。

 俺はそんな彼女の目線に合わせるように座った。


「おい嬢ちゃん、もう終わったぞ。目を開け……」

「いやああああ! 近付かないで!」


 俺が声をかけると同時に少女は俺へと手を突き出した。

 どうやら目を閉じていたが為に状況を把握出来ておらず、俺の事をチンピラの仲間と思ったらしい。

 いや、それとも俺の『ヘイト・ギャザー』のせいか?

 ともかく、俺は何故か彼女の攻撃対象となってしまったらしい。

 翳した手からは魔法陣が現れ、光が集束していく。

 マジかよ……。


「ぬわーーー!!」


 俺は光の奔流に飲まれ、絶叫をあげながら爆死した。

 残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!

 

 ――死因その431・魔法で爆死。

【ヘイト・ギャザー】

主人公はチート能力ではないと言っているが、実は(ある意味)かなりのチート性能。

1、誰かの視界内に入った際、問答無用で最優先攻撃対象になる。味方にも有効。いかなる精神耐性でも無効化できない。つまり主人公は死ぬ。

2、主人公以外に飛んだ攻撃を主人公が視認した場合、その攻撃は80%の確率で主人公に吸われて直撃する。その際威力が40%上昇。つまり主人公は死ぬ。

3、ヘイトギャザーで対象変更を行った攻撃は全耐性貫通属性を得る。つまり主人公は死ぬ。

4、ヘイトギャザーで対象変更を行った攻撃は命中率に+90%の補正を得る。つまり主人公は死ぬ。

5、ヘイトギャザーで対象変更を行った際に主人公との間に遮蔽物や他人がいた場合、攻撃は迂回して主人公のみに命中する。迂回出来ない場合はテレポートして主人公のみに命中する。万一にも他の誰かを巻き込む事はない親切仕様。つまり主人公は死ぬ。


久地梨「クソスキル……っ! 圧倒的クソスキル……っ!」

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[一言] 惚れた女の子が猿並みの知能になるって、前前作の後日談でありましたね
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