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第四話 ルイ14世は便器に座って会議していたらしい

※下ネタ注意報※

今回の話では、中世世界観RPGでは基本的にスルーされている暗黙の了解をブチ破ります。

トリビアを見た事がある人ならば予測出来るでしょうが、今回の話はとても汚いです。オソマです。

勿論食べていいオソマではありません。

ですので食事中の方は今回の話は飛ばしましょう。

 あれからも俺は死にまくった。

 死んで死んで死に続けた。

 剣で斬られた。槍で刺された。弓で撃たれた。魔法で焼かれた。転んで死んだ。

 挙句の果てにはリスポーン地点に油を撒かれて火を放たれ、転生と同時に焼死した。

 いくら何でもお前等本気すぎるだろ。

 これは流石におかしいと思って俺は女神に聞いた。これ絶対おかしいよなって。

 で、返答がこれだ。


「だって貴方、世界の難易度を調べるテストプレイヤーですよ? 敵に攻撃されなきゃ意味ないじゃないですか。

なので貴方には私から転生特典としてスペシャルなスキル『ヘイト・ギャザー』をプレゼントしています。

その効果は何と、敵の視界に入ると同時にネトゲで言う所のヘイトがMAXになるというチートなスキルです。

勿論無効化は出来ません。女神パワーで与えたスキルなので、どんな耐性でも問答無用で貫通します。よかったですね、念願のチート能力ですよ」

「ゴッデスシット!」


 何と俺は、何もしていなくても敵から攻撃される体質になっていたらしい。

 つまりはあれだ、敵が俺を見ると『殺さなきゃ(使命感)』となるわけだ。そんなのありか。

 勿論俺は女神に懇願した。これは流石に詰むから勘弁してくれと。

 それに対する女神の返答がこれだ。


「今、ガチャ回してるので後にして下さい」


 と、スマホ弄りながらぬかしやがった。

 本当、何なのこの女神……。

 流石に俺も今回は心が折れかけた。諦めたくなった。

 しかし俺は帰ってきた。既に四百は積み上げた俺自身の屍を乗り越え、あの忌まわしい世界へと。

 ネバーギブアップ! 俺はこの程度で諦めねえ!


「リスポォォォォォン!」

「また来たぞ!」

「迎え撃て!」


 転生と同時にまず俺を出迎えたのは熱く燃える炎であった。

 奴等は俺のリスポーン地点を把握し、そこに油を撒いて火を付けている。

 だから俺は炎への耐性を得るまでの間、何度も何度も焼け死ぬ事になってしまった。大体五十回はこれで死んだかな。

 だがもう俺にこの程度の火は通じない。

 俺は転生と同時に跳躍して炎を振り払い、空を舞う。

 そこに次々と放たれる魔法の雨。これに殺された回数もちょっと数え切れない。

 俺は不安定な空中で身を捩り、魔法に手を当ててその反動で更に跳躍。魔法を足場として空中で翔け回る。

 だが兵士の攻撃は終わらない。補助魔法か何かは知らないが、風を纏った兵士達が次々と空中に躍り出て俺を切り裂こうと剣を振るう。この空中戦闘に対応出来ずに十回は死んだっけな。


「甘い! 遅い! 俺にそれはもう通じねえ!」


 避ける、避ける、避ける!

 何度も斬り殺されたのは伊達ではない。俺の目には最早剣など止まって見える。

 両側から放たれた剣撃を指先でキャッチしてその場で回転。遠心力で兵士を振り落としつつ剣を強奪。

 更に回転の勢いそのままに剣を投擲。弓兵の持つ弓へと当てて二人を無力化した。

 剣を奪い、投げ、弓を落とす。

 それを幾度も繰り返しながらも俺は止まらない。村の出口目指して跳び続ける。

 兵士達も俺の後を追ってこぞって走り、戦闘も終わらない。


「行かせはせん! 我等王国騎士団の名にかけて!」


 武器を失っても兵士は止まらない。

 鎧を脱ぎ捨てて身軽になり、今度は素手で俺に挑んで来る。困った事にこいつらは素手でも普通に強い。

 なので今度は空中で追いかけっこしながらの格闘戦だ。

 景色が後ろに流れていく中で俺は何人もの兵士を相手に格闘をし、蹴り落し、叩き落し続ける。

 休む暇などない。立ち代わり入れ替わり、前後左右上下から兵士が飛び込んで来る。その隙間を縫って魔法も飛んでくる。


「うおおおおおおおおおお!!」


 俺は吠えた。何度目かも分からないが、とにかく叫んだ。

 振るわれる拳、蹴り、手刀、肘打ち、膝蹴り、その他諸々を弾き、弾き、弾き、弾く。

 後ろから魔法! 振り返る事なく後方宙返りして回避!

 回避の最中に兵士が突っ込んで来る! 身を捻って蹴りで迎撃!

 着地と同時に槍が全方位から放たれる! 素早く屈んで回避しつつ水面蹴りで全員転倒させる!

 跳躍して再び空中にエスケープするも、俺を追って数人の兵士が同時に跳躍。再び空中格闘戦が再開される。


「俺はこんな所じゃ終わらねえ! この村の先に俺は行く!」


 いつまでも最初の村で死に続けるRPGとか誰も得しねえんだよ!

 いい加減先に行かせろよ!

 そんな魂からの叫びを発し、俺は兵士達を薙ぎ倒した。

 そして――。


 そして俺は遂に――村の外へと出た。


「おおおおおおおおお!!」


 叫びながら走る。もう障害物はない、相手の地の利もない。

 準備万端な事に外でも待機していた兵士達を抜き去り、俺は遂に奴等を引き離した。

 やった……やったぞ……。俺の心を喜びが支配する。

 俺は遂に、最初の村から出る事が出来たのだ。

 記念すべき冒険の第一歩を俺は今、踏み出した!


「やった……やったぞおおおおおお!」


 俺は両手握り拳を空中へと掲げ、勝利を全身で表した(コロンビア)

 自然と涙が溢れる。これが勝利か、これが生きているという事か。

 永く忘れていたような気がする、生の喜び。

 俺は転生し続け、ようやくそれを取り戻せた気がした。


「ゔー」


 何か、変な鳴き声が聞こえた。いや、鳴き声というか唸り声?

 この勝利の喜びに水を差すとは一体どこの誰だ。そう思って声の方向を見ると、そこには兎がいた。

 ただし、どう見ても普通の兎じゃない。見た目はそのままだが、大きさがおかしい。俺の倍くらいある。


「…………」

「ゔー」


 兎は声帯がないから鳴かないとかよく言われるが、それは間違いだ。兎は鳴く。

 声帯はないのだろうが、鼻を鳴らしてぷうぷう鳴く。

 漫画とかだと『ピィ!』とか鳴く兎もいるが、流石にそれは聞いたことがない。

 それはどうでもいいのだが、2mくらいの兎はぷうぷう鳴きながら俺の方へ向かって跳躍してきた。

 ちょ、おま……。

 俺は咄嗟の事に反応出来ず、兎に踏み潰されて死んでしまった。

 畜生、せっかく村から出れたのに!

 残念! 俺の冒険はこれで終わってしまった!


 ――死因その425・殺人毛玉。




「おかえり」

「おう、ただいま」


 この後、村での逃走劇からやり直した。



 兵士達から再び逃げ切り、俺はフィールドを駆け抜けて次の街へと到着した。

 ここに来るまでに何度か死んだりもしたが、まあそれは語る必要もないだろう。

 辿り着いた街はいかにも中世ヨーロッパという感じだ。

 ゴシック建築の教会なども遠くに見え、建物の造りは美しい。

 建物の多くにはサンルーフが付けられていて、とてもお洒落だ。

 婦人はフワリと広がるようなフープスカートを履き、靴は皆がハイヒールで町全体が上流階級のようだ。

 道を行く誰もが日傘を差し、紳士はマントとシルクハットを付けている。

 これだけならばいい街に聞こえるだろう。実際ファッションや建物は凄くいい。

 ……。

 この街、臭えんだけど!?

 何だ、この臭いは。鼻が曲がって死にそうだぞ。

 まるで掃除されていない公衆便所……いや、それ以下。

 これは糞尿の臭いだ。至る所から糞の臭いがする! というか窓から糞が投げ捨てられている!

 道もあちこちが糞まみれでどこを歩けばいいかマジで分からねえ。

 うっそだろ、オイ。どこを見ても糞が落ちているぞ。何だこの地獄絵図。

 それだけではない。道を歩いていた紳士が突然屈んだかと思えば、その場でブリブリしだした。

 【描写禁止】が何の躊躇もなく地面に慣れ流されている。汚え。食事中の方ごめんなさい!

 近くの川には動物の血や臓物が流れている。あまりにショッキングな映像なのでモザイクをかけてお届けします。

 いや、ねーよ。こんな中世世界観はマジでねーよ。

 きったねえ。マジできったねえ。ここは地獄か。

 そのような事を考えていると、俺の頭の上に何かがぶつけられた。

 …………どこかの家の窓から捨てられた【モザイク】であった。


「……チェンジ!」


 俺は兵士から奪っておいた剣で自分の喉を突き刺した。

 残念! 俺の冒険はこれで終わってしまった!


 ――死因その429・汚さに耐えられず自害。



「あのさあ、女神様よお。あの世界観はマジねーわ」


 俺は女神の間に戻ると同時に女神に文句を言っていた。

 死にまくる事にはもう慣れてきたが、流石にあんな街で冒険したいなどとは思わない。

 汚すぎて、そこら辺の草原で野宿した方がマシなレベルだ。動物だってもうちょい清潔にするだろう。

 だがそんな俺の問いに女神は不思議そうな顔をした。


「え? でも異世界って言ったら大体中世ヨーロッパじゃないですか。

で、中世ヨーロッパっていえば、あんなものですよね? パリを舞台にした有名な少女漫画だって実際は皆が糞尿を投げ捨ててるってトリ〇アで言ってましたよ。

これでも、当時の地球の文化をコピペ……もとい、参考にしたのですから、間違いはないはずです」

「知ってるけどさあ! でも実際に糞尿で溢れてる中世RPGな世界なんて普通ねーよ!?」


 俺だって当時の中世ヨーロッパの不衛生さは知っている。だが違う、そうじゃないんだ。

 ライトノベルにアニメにゲームに漫画。中世ヨーロッパがベースの世界観などいくらでもある。

 時には地の文で街並みが『中世ヨーロッパのような街並み』だけで表現されている事もある。

 しかしそれらの中に、街が糞尿で溢れているものなどない。

 美少女なヒロインが糞の臭いと香水のドギツイ臭いを漂わせている事などない。

 主人公が道の端を歩いていたらチンピラに絡まれる事はあれど、頭上に糞が落ちて来る事はない。

 これは暗黙のルールだ。皆が本当はそういう不潔な世界だと知っているが、それでは物語が台無しになるからとあえて無視している。

 それをこの馬鹿女神、何も考えずリアルにしやがって。


「そこはさあ、トイレだけご都合主義で発達させていいんだよ!

古代ローマにも水洗トイレとかあったんだから、そういうのでいいんだよ!」

「ええー……。でも、それだとハイヒールとか香水とかが発達しなくなりますよ。

ハイヒールなどは街が汚いから生まれた靴ですし」

「だからそういうのはご都合主義でいいんだって! トイレはしっかりしてるのにハイヒールや香水が都合よくあってもいいんだよ! 異世界なんだから!」


 俺は泣いた。

 何が悲しくて、糞まみれの異世界など冒険せにゃならんのだ。

 というか、そんな街じゃ魔王とかも侵略しようと思わないだろ。

 街の前まで来た敵が、あまりの不潔さに泣いて逃げ帰るわ。


「ちょっと考えれば分かるだろ!

ライトノベルとかで主人公が街歩いてたら糞が降って来るとか、嫌すぎるだろ!

角を曲がって、食パンをくわえたヒロインとぶつかれば恋愛フラグが立つかもしれんが、角を曲がった先でヒロインがおまるで【自主規制】してたらフラグがへし折れるだろ!

ヒロインとぶつかって本当なら女の子のいい匂いがするシーンで糞の臭いがしたら嫌だろ!

ハーレム築いてみたらヒロイン全員が臭いとか、どんな拷問だよ!

街を歩いている最中に仲間の一人がおもむろにしゃがんで【自主規制】しだしたらどう思うよ!?

王様と謁見してみたら玉座がトイレになってたり、城の中が糞まみれとか最悪だろ!

現代の価値観を持つ転生者じゃ絶対耐えきれないからな、これ!」

「ちなみに魔王の玉座もトイレになっています」

「余計駄目じゃねーか! じゃあ何だ、この世界の魔王は『ククク、よくぞ来た、勇者よ』とかドヤ顔で言いながらブリブリしてんの!?」

「してますね」

「どんな魔王だよ!? 恰好悪すぎるわボケェ!」


 俺は言うだけ言うと、荒く息を吐いた。

 とにかく、この一点だけは譲る気はない。

 死にまくる事は我慢出来ても、街が汚いのはマジで無理だ。

 女神がこれをどうにかするまで、俺はもうあの世界に転生しないぞ。

 そう言うと、女神は困ったように微笑んだ。


「仕方ないですねえ……人は困難を乗り越えてこそ幸せになれる、という持論を持つ私としては余り無条件に施しを与えるのは好ましくないのですが、まあそういう事なら。

あ、それと今回新しい街に着きましたので、セーブポイントが更新されました。次からはあの街でリスポーンします」


 今回だけですよ。

 そう言って、女神は何かを操作した。

 どうやら街の汚さを何とかしてくれるらしい。

 何だよ……結構話せば分かるじゃねえか……。しかもリスポーン地点まで変えてくれるときた。

 やっぱ、女神様っていい人だわ。いや、いい神様だわ。

 ありがとう、女神様。俺、これからアンタを信仰するよ。

 そう思いながら俺は再び転生をした。



 街は美しくなっていた。もう糞の臭いはしない。街にも糞は落ちていない。

 川にも動物の臓物はなく、清流な水が流れている。

 そうそう、こういうのでいいんだよ。これこそ中世世界観異世界ってものだ。

 しかしこうなると気になるのは、トイレだ。まあローマみたいな感じなんだろうが、もしかしたら現代並みにまで発展させられているかもしれない。あの女神様、ちょっと抜けてるからな。

 そう思い歩いていると、丁度良く公衆トイレがあったので早速入ってみる事にした。


 トイレの中は、何か……その、何だろう。宇宙ステーションみたいな事になっていた。


『いらっしゃいませ。用を足しに来たのですね?』

「お、おう……」

『では、便器にお座り下さい』


 俺がトイレに入ると、機械音声のようなものが響いて個室へと案内された。

 ドアは自動で開き、便座のカバーも機械音を立てて開く。

 俺が無言で座るとドアが自動で閉まった。

 それから、緩やかなBGMが個室に流れて、俺をリラックスさせてくれる。


『当トイレではお客様の一時を快適なものとすべく、様々なサービスを行っております』


 続いて個室の壁が突然透明になったかと思えば、俺は何故か宇宙空間にいた。

 意味がわからねえ……。


『当トイレはプラネタリウムとなっております。宇宙の広大な景色を眺めながら、どうぞ快適に過ごして下さい』

「……おう」


 その後も俺は至れり尽くせりのサービスを受けた。

 テレビが出てきたり、本が出てきたり。

 やがて俺がトイレから出ると、機械音声の声が後ろから聞こえた。


『またのお越しをお待ちしております』

「…………」


 俺は、無言で川に身投げした。

 あんの馬鹿女神! 加減考えろ!

 何でトイレだけ未来レベルになってんだよ!? やっぱあんな奴は信仰しねえ!


 ――死因その430・女神に文句を言いに戻る為に自害。

創造主が気を利かせてくれない中世RPGはこうなる、の巻きでお送りしました。

この女神様、アホだからね。仕方ないね。

前に創った世界ではその世界の住民自身がしっかりしていたので、こんな酷くならなかったけど今回は女神が意図的に地球の中世文化に合わせてしまったので大惨事となりました。

とりあえず連日更新はここまでとし、これからは週1か週2くらいで気まぐれ更新していきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 笑い過ぎてつらいwww
[一言] この女神最初っから最後までネタ枠だよね… いっちばん最初はギリギリなんか強大感あったけどすぐネタ枠になったし
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