第一話 死人に口なし
( ´∀`)人 皆様どうもお久しぶりでございます。初めての方は初めまして。
この度、新しく作品を書く事にしましたので、もしお暇でしたら時間潰しにでも見て行って下さい。
今回は複雑なストーリーや伏線やプロットなど一切ない、頭空っぽにして読める系のお馬鹿な話を目指して書いております。
ちなみに完全な見切り発車なので投稿は不定期です。私の気が向いた時に投稿します。
こんな無駄な作品が一つくらいあってもいい……自由とはそういうものだ。
昔の人は言った、死人に口なし。
何とも皮肉が効いていて、事実を突いた言葉ではないか。
諺というものはどれもこれも言い回しが楽しく、それでいて皮肉とブラックジョークと事実が絶妙のバランスで配合されている。考えた人はきっとセンスの塊だ。
ところで俺の名前は久地梨 士仁。つい先程に心臓麻痺を起こして死んでしまった28歳のナイスではないガイだ。
死んだのに何で喋ってるんだよお前、と思うかもしれない。俺も思う。
俺は確かに心臓麻痺を起こした。これは間違いない。
決して夢でも妄想でもなく、確かな現実であり、締め付けられるような苦しさも、倒れ込んで流れていく視界もハッキリと覚えている。もしかしたら誰かがデスなノートに俺の名前を書いたのかもしれない。
そんな俺だが、どういうわけか意識はハッキリお目々はパッチリ。死んでいるはずなのに、こうしてベラベラと話している。
死ぬ前の最後の走馬燈的な何かだとしては、少し意識が明瞭すぎだ。
そんな事を考えていると、俺の前に光輝く女神が現れた。
何故女神と分かったかというと、本人が『私は女神です』と書かれたたすきを付けていたからだ。
「ようこそ、迷える喪男よ。我は愛と美を司る女神です。おお、しんでしまうとはなさけない」
「所持金0円で半分にするお金ないんですけど、復活出来ますかね?」
「無理ですね」
テンプレ乙。きっと誰もがそう思う事だろう。俺も思った。
君は『またこのパターンかよ』と思ってもいいし、『いつもの』と笑ってもいい。自由とはそういうものだ。
これは所謂あれだ、神様転生の導入だ。
神様転生――ほんの一昔前はネットのアンダーグラウンドな二次創作界で細々と知られていた安直で捻りのないこの導入は、何らかの理由で死んでしまった主人公の前に神様とか天使とかが現れて別の世界に転生させて貰えるという夢と希望と現実逃避に溢れた素晴らしい導入手法である。
そしてライトノベルにおいてもこの導入は増え、今やそんなにマイナーでもないありきたりな始まり方になってしまった。
今や異世界は日本人だらけだ。というかもう、転生しすぎて異世界人の人口を超えそうな勢いである。
適当に本屋のライトノベルコーナーから数冊手に取って導入だけを見れば、多分その中に一つくらいは神様転生をしている作品がある。そのくらいメジャーだ。
そしてこの導入で出て来る神様は大体間違えて人を殺す。そんでお詫びとかでチート能力を授けられるまでがワンセットだ。
という事は俺は間違えて殺されたのだろうか。
「いや、貴方のはただの運命です」
ガッデム。28歳で死ぬのは俺の運命だったらしい。
「ところで俺はこれから異世界に転生するんですかね?」
「説明の手間が省けるのはとても嬉しいです」
神様転生なんて、ライトノベルやネット小説を見ている者にとっては見飽きるほどに見て来たものだろう。
なので俺もグダグダ進行などしない。
さあ、さっさと転生させるがよい。
「ところで貴方は少し特殊で、普通の神様転生ではありません」
「普通の神様転生というパワーワード。どこが普通なんですかね」
「貴方は生前に罪を犯し過ぎたので、罰として一般死者の為のテストプレイをやってもらいます」
「一般死者てアンタ」
突っ込みどころ満載で、しかしネット小説を読んでいるならば特に突っ込み所のない事を言い、アホっぽい女神はコホンと咳払いをした。
「ライトノベルとかでは最早お約束ですが、私は間違えて殺してしまった者を異世界に放り込む事でお詫びとする事にしました。ちなみに人間は一日に大体15万人死ぬ上に総人口が70億もいて、その中から今日死ぬ15万人を選ぶので、処理が死ぬほど面倒臭いです。これでノーミスとか無理ゲーだと思いません?」
「おう」
「そんなわけで私は結構な頻度で間違えます。多分一日に一回もミスしない方が珍しいんじゃないでしょうか。
それで間違えてキルしちゃった人を異世界に放り込んで誤魔化すというライトノベルのグッドアイディアをパクる事にしたわけですが、ちょっと私は自慢ではありませんがとても強いので、どのくらいがその世界で普通に生きる事が出来る強さで、どのくらいがチートなのかがよく分かりません」
「わかれよ」
何か早くも駄女神ぶりを発揮している神様が変な事を言い出した。
まあ、こういう自分は強いんだぞーとか言っている神様って実は大した事ないのがお約束だけどな。
多分この女神も本当は大した事ないんだろう。何かアホっぽいし。
「分からないって事はないでしょう。チートはチートじゃないですか」
「例えば頭の中で念じるだけで無制限に時間を停止させる能力があるとしましょう。これはチートですか?」
「疑いの余地なくチートです」
「ところで、私が以前創った世界では単純なスピードだけで時間停止の世界に入り込んで相手をボコボコにするバグキャラがいました。勿論念じる前に殴るとかも出来ます。
ちなみにその世界には、これには一歩劣りますが、同じような事が出来る化物が少なくとも二桁はいます。
こんなのがウロウロしている世界で時間停止はチートになりますか?」
「なりません」
「ですよね。そういう事です」
酷い世界もあったものだ。
俺は間違えてもそんな世界にだけは転生したくない。
「そんなわけで、貴方には後で転生する主人公達の為に異世界のバランスを図るテストプレイヤーをやって頂きます。
これもカルマ値を溜め過ぎた自業自得として受け入れて下さい」
「あの、俺犯罪とかやってないはずなんですけど。人殺しも泥棒もしてませんよ」
「子供の頃に一日数個ペースでアリの巣をいじめて大虐殺してたじゃないですか」
「あ、確かにやってました」
女神の言葉に俺はぐうの音も出なかった。
子供なら結構な確率で子供の頃にアリの巣に水を流し込んだりして残酷な遊びをすると思う。
俺もそうだった。で、俺は結構それが限度を超えていた。
別に楽しかったわけでも蟻が憎かったわけでもない。
例えるなら、意味もなく鼻の角栓を抜いてみたり髭を抜いたり、包装材のプチプチを潰したりするのと同じだ。何か、やらなきゃ落ち着かなかったのだ。
ある程度成長してからは流石に自重したが、それまでに潰したアリの巣の数は自分でもちょっと数え切れないくらいで、近所の蟻の巣は全部潰したんじゃないかってくらい昔の俺は異常に蟻を苛めていた。
「そんなわけで貴方は最弱状態で異世界に転生し、どのくらいの強さが適正値なのかを細かく測って頂きます」
「レベル1スタートか……とりあえず町の周囲の雑魚を狩ってレベル上げかな。
ところで女神様、スライムとかウサギとか虐殺してレベルアップする勇者ってカルマ値溜まらないんですかね?」
「モリモリ溜まってますね。人の家に入り込んで窃盗をすれば更に溜まります」
「あ、やっぱ罪溜まってたんだ、あれ」
「でも大体世界を救った偉業と相殺されて死後は天国に行きます」
「勇者ってずるい」
「世界を救えずに死んだらただの罪人として処理されます」
「ひでえ」
どうやら罪というのは善行を積めば相殺出来るものだったらしい。
つまり俺もこれから向かう異世界を救ったりすればチート能力ありで転生させて貰える日が来るかもしれない。
そう思うと俄然やる気も出て来た。我ながら単純なものである。
「それでは早速最初の世界へ貴方を送りましょう。
ただし、一々生まれて成長してを繰り返していては気の遠くなる年月がかかりますので、貴方は転生というよりは転移をして頂く形になります」
「転生してイケメンスタートとかはなしですか、そうですか」
「はい。そのイケてないボディのまま頑張って下さい」
「これじゃフラグとか絶対立たないだろ」
「後二年で魔法使いになっていたような人が夢見ても仕方ないでしょう。それでは逝ってらっしゃい」
ままま魔法使いちゃうわ!
俺のそんな文句は悲しくも黙殺され、俺は奇妙な浮遊感と共に一度目の異世界転移を体験するのであった。
*
俺が目を覚ましたのは人々で賑わう村の中であった。
服装や村の建物は、いかにもテンプレな中世ヨーロッパのをベースにしたファンタジーRPGという感じだ。工夫がまるで見えない。
というか俺、この景色知ってるんだけど。
あれだ。イギリスのコッツウォルズ。ハリー・〇ッターのロケにも使われたという有名な村で、中世っぽさを残している村である。
俺的一生に一度は行ってみたい観光地ランキングでも上位に食い込む場所だが、何故異世界でその景色をそのまま再現しているのか。
捻りがないとかいうレベルじゃない。『まるで中世の街並みのようだ』と一行で適当に表現されているラノベは俺も見た事があるが、『イギリスのコッツウォルズそのままでした』なんてふざけた手抜きは流石の俺も知らない。
しかも、よく見たら車まである。これじゃコピペじゃねえか……せめて車は消せよ。世界観に合ってないし、住民も『何だこれ』みたいな顔して通り過ぎてるぞ。
そのような事を考えていた俺だが、次の瞬間にはそのような事を考えている余裕がなくなった。
俺の身体は何かに抑え付けられるように地面に伏し、まるで動かないのだ。
お、重い! 何て重さだ!
この星の重力は容赦なく俺に牙を剥き、俺の身体中の骨を砕いていく。
そのまま俺は開始地点より一歩も動く事が出来ず、重力に潰されて死んでしまった。
残念! 俺の冒険はここで終わってしまった!
――死因その1・重力による圧死。
【久地梨 士仁】
一応本編主人公。
特に取柄はない。
子供の頃、プチプチを潰す感覚で蟻の巣を潰しており、その手際の良さは無意味にプロ級だった。
そのせいでカルマ値がヤバい事になっており、罰として女神のテストプレイに付き合わされる事になった。
とても馬鹿。馬鹿なのでどんな目にあってもへこたれないし、学習しない。
【愛と美を司る女神】
多分本編ヒロインのような何か。別に主人公とは結ばれないしフラグも立たない。
一日に一回、酷い時は十回くらい間違えて本来死ぬべきではない人を死なせている、とても駄目な神様。
人間の事は大好きだが、努力の方向音痴なので彼女の善意は大体相手にとって災厄級の大迷惑となる。
とてもアホ。アホなのでどんなに失敗をしてもへこたれないし、学習しない。