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歌舞伎の森

作者: 歌舞伎の森


疲れた。でも私がいれる場所はここしかない。ここでは人間関係全てにおいてお金がかかる。恋愛をするにも会話をするにも優しくされるのも。友情なんてない。孤独感だけがつきまとう。その獲物を狩るハイエナ達。集団で金を巻き上げる。心を奪い心を売る。ギリギリのグレーゾーン。傷付け傷付けられる。でもなぜかいつもここに戻ってきてしまう。寂しいから。ここには毎日たくさんの人がいる。とりあえず今夜もヒトリにならなくてすむ。明るいネオンに誘われ暗闇に埋もれる。

親が厳しく真面目だった私は家にひきこもりがちで世間知らずで常識もない。好奇心だけが1人歩きして、高校を卒業し逃げるように上京した。勉強をずっとしてきたせいか知識を得ようとする気力も湧かず、明るさしか取り柄がない私が出来る仕事と言ったらキャバクラしかなかった。最初は手に入れたこともない大金に興奮と喜びを覚えた。話すだけでお金が貰えるなんて夢のようだった。でもそれも最初だけ。好きでもないおじさんに笑顔を振りまきご機嫌をとるのは決して楽ではなかった。体も求められる。想像していた自由は塀の中と一緒で何も変わらなかった。大学を卒業した後も、職を転々とし結局私は新宿にいた。出会いカフェに入り浸りお店にさえ縛られたくなかった。しかしお金を貰える事は少なく限界を感じていた。失恋をし自信もなくし整形をする為にお金は必要だった。ホテルでお金を盗むようになり、出会いカフェさえ出禁になった私は、立ち子をし友達を売るようになった。夜な夜な飲み歩き、友達の心を管理した。友達が体を売るのも酒に溺れているのも見たくはなかった。性で乱れたこの街で冷酷で憎しみの目でしか人を見れなくなった自分も嫌だった。この生活から抜け出せず、止まらなくなった私は捕まった。人生終わっていると思った。檻から出ると私を迎えに来た母は泣いていた。それでも実家には帰りたくなかった。うざかった。嘘ばかりつくようになり汚れた。キャバクラの体入を繰り返しそこで出会った風俗の経営者と付き合う事になった。やっと出来た彼氏。失恋から立ち直れると思った。昔の彼を早く忘れたかった。でも相手は見えない部分がたくさんあった。でも自分も言えない事をしている立場。何も言えなかった。そして今度は彼が捕まった。ヤクザに雇われていたと知った。彼には会う事も触れる事も長い間できなかった。出て来てからも、彼は何もせずただだらだらと毎日を過ごし、残ったのは借金だけだった。

私は彼の為に本格的にキャバクラをはじめた。ナンバーワンになったが、心も体もボロボロになった。生きる目的もない私は、彼にさえ捨てられる事が怖かった。もっと綺麗になりたくて痩せたくて何も食べなくなった。もっと痩せるまでと思い続け、自分から会う事も辞め自分を追い込んだ。遠回りは苦しかったけど自分を痛めつける事に快感さえ感じていた。私は麻痺し、幻覚を見るようになり幻聴も聞こえるようになった。現実と幻覚の境目も分からなくなり家に鍵をかけた。完全に世界をシャットダウンする事でますます現実がわからなくなった。私は痩せ細っていた。このまま死のうとした。目をつぶる。涙が止まらなかった。私はひとりぼっちだった。


騒がしい。気付くと救急車の中にいた。私はそのまま病院に隔離された。母親を憎んだ。彼と幸せになるどころか誰にも会えなくなった。死んだ方がましだった。来る日も来る日も一日中天井を見つめるだけの生活。私は生きながらえる事が惨めだった。


私は実家の天井を見つめていた。彼はもういない。歳だけ老い、私は孤独だった。何十年も生きたはずなのに何もない人生。気付けば生きてきた証も積み上げてきたモノも何もなかった。産まれてから時が止まっていた。何も進んでいなかった。幸せになりたかっただけなのに、周りも自分も傷付ける事しか出来なかった。


家出をした。失ってきたものがあり過ぎて奪い返したかった。

私はまた新宿にいた。怖くはなかった。次こそ自分を見失わないように自分らしく生きてみたかった。私は繊細過ぎる。孤独と向き合う為にトゲを持った。

私は適当に昼間のバイトをしながら夜な夜なホストの初回荒らしとバーをはしごし新宿を自分の庭のようにさ迷った。

ある日、私は恋をした。彼はキャバクラの年下のボーイ。店の前でいつも立っていた。私は毎日店の前を通った。彼を少し見るだけで満足し、嬉しくなりドキドキした。何回か顔を会わせ話すようになり、付き合う事になった。


妊娠をした。お金の面で彼を困らせたくなくて仕事を辞めさせおじさんからお金を貰う生活を続け、同棲をはじめた。

喧嘩をした。私は車庫のゲートにしがみつき動かなかった。私は何も変わってない。また一人になる。そう思った。ゲートは冷たく居心地が良く暖かかった。私には鉄格子がお似合いのようだ。

冷たくなった体に彼は上着をかけてくれた。

「さあ帰ろう。」



二人で散歩する。森を見つけた。都会の真ん中にあった。今までちっとも気がつかなかった。とても気持ちが良かった。大きな木。根っこには新芽の赤ちゃんがいた。呼吸をした。芝生に寝転んだ。チクチクする。空が大きい。花が咲いている。池には鯉がいた。口をパクパクさせている。風の音がする。小雨が降ってきた。雲の切れ目にビルが見えた。もっと森の深い方へ。涙が出る。愛を感じる。私はここにいる。寒くて暖かい。ここは楽園だった。


翩人


社会。昼の世界も夜の世界も馴染めない私。住む世界はない。私は傷付きやすくどこに行っても灰色な焼け野原に立っている。

家族。心配したりされるのも疲れる。傷付けたくないのにぶつかり。好きだから邪魔になる。

かき乱される世界。翻弄され無くなりたい。

太陽。他人同士の間に産まれ、家族になったみんなを照らし、私を輝かせる。それだけで幸せ。バランスのとれた生活。私は何も出来ないがもう大丈夫。子供は無償で愛してくれる。夫にも日々愛をもらう。家庭を築く事が私の意味になる。


家路


夫は目標、夢、希望を持って頑張っているのに自分は社会に溶け込めないという劣等感や隔たり、格差に寂しさを感じた。その時はまだ妊婦であり子供がいなかったせいもある。悲観的で自分を追い込むのが好きなM気質。夫が少し飲み会で遅くなっただけなのに、元他人同士だった時の距離を感じた。部屋を暗くし、毛布にくるまり意地を張って出迎えた。ドアが開いた瞬間、安心感と恥ずかしさで涙が出た。恋人として過ごした時が短いがゆえ、夫とは恋愛をしていない。妻として用意した冷え切ったご飯が惨めだった。夫の行動を見守る。夫はご飯には手をつけず、弁当箱を水に浸し、毛布にくるまってきた。子供じみた事をして嫌われるのは分かっているけれど心配されたくて家を出た。静かな夜だった。家を飛び出すといつだって同じ風景同じ気持ち。知らない人が一層知らない人に見える。ずっと孤独でいるのも汚れるのもダメ。家にも居場所がなくなる。生きがいがないと生きてるだけで辛くなる。無力な自分が余計嫌になるだけ。何かする事に辛さしか感じない。世の中頭が良いか悪いかで分かれる。頭が良い方には入れない。頭が悪いと悪い事しか出来ない。女は高時給な仕事がある。それ以外の環境で働くのは過酷過ぎる。男という動物とも上手くやって行かなければならないし、可愛いと尚更動物は興奮し色目で見てきて生きづらい。女は弱い。いつだって男が中心なのは変わりない。料理しかできない私は失敗したら存在意義が無くなる。

水商売の男と女が高笑いをして通り過ぎて行く。私には家庭がある。こんな奴らとはもう違う。だけど傷付いても笑って生きてるあいつらは輝いて見えた。

家を出て一時間半が経っていた。途方もなく歩き続け体も疲れていた。このまま家に帰って何事もなかったかのように終わるのも腹が立つ。こうやってうじうじ考えているのもバカらしく思えてくる。何も出来ないくせに迷惑ばかりかけている。昔と変わらない。自分のやりたくない仕事でも頑張って社会に出てみよう。遊びと仕事は違う。殻から出て、刺激と我慢も適度に。でも私はそれが出来ない。

夫から電話がかかってきた。恵まれているのに欲ばかり酷い。


巡り


原理を分かっていても不完全。常にバランスを保とうとしているが保てない。常に不安定なローテーションのループ。何をしてもメリットデメリット。正解はない。信頼出来る人が少ないと一見偏っているようだが影響力は大きいから自信を持つ事でまかなえる調和と協調性。基礎的な人を基盤に必要な人を取り込む。みんな病気が普通で不変が普遍。答えが分かっていても答えは違う。そして無でゼロに戻る。意味を持たない。人を惹きつけるけど私は病気で未熟児な大人の赤ちゃん。

春は魔法にかかる。春は人を馬鹿にする。目が醒めると正常という言葉に戸惑い、自分がどう見られているのか怖くなる。自分はおかしいのか何が正しいのか錯乱する。全て私を健常者かどうか調べているトリップに感じる。与えられたもの人の行動全てを疑う。バランスが崩れると次元が歪んでみえる。

コントローラーがないとバランスが崩れる。一気に見え過ぎると景色が追いついて来ない。

コントローラーの調子が悪いとバランスを失う。私の薬だから。

コントローラーが離れて死角ができると見落とすもの見えないもの気付かない事が沢山ある。


色んな人から同じモノを吸収し吐出したモノを形成する。


神秘


私の赤ちゃんが産まれた。垂れた母乳を我が子にそっと擦りつける。体にいた時の事を体全体で感じ思い出す。人生で一番満たされた。体も変化し新しくなった私。我が子の息に安心する。お腹の中にいるみたい。ミルクとオムツとヌクモリの三点セット。違う星から来た宇宙人で頭は発信機。自分の嫌な所も我が子が持っていると好きになれた。何かを伝えようとして泣いている。自分の感じるままに通じた。サイクルが一緒だった。バランスを補い合い体を寄せるとポカポカした。遊んで欲しくて逆に起こしたくなった。同じ目の高さで瞳を覗き込んだ。赤ちゃんには気を使わない。会話がないから興味深い。

早くから自分の事を認識して欲しくて、産まれる前から赤ちゃんに名前をつけていた。


泥酔


私達夫婦は夫の収入だけなので乏しかったが、彼は育休と言う名の休みを取り、ニートの荒んだ日々を送るようになった。入院の面会時間もいつの間にか赤ちゃんをほったらかしにして二人で喧嘩をしていた。産まれた日に二人で握った小さな手も弱々しく冷たくなっていた。私のバランスも崩れた。力を合わせてお互いの人生が良くなると思っていたのに彼は変わってしまった。彼は自分に甘えている。私は片親だが父に捨てられたトラウマを思い出し傷付く。人が信用出来なくなったあの時と同じ感覚。壊れた。私は感じ過ぎた。歪んだ愛を持った私は物事を複雑に見てしまい理想の形に結びつけて見てしまうので何も分からなくなる。自分をさらけ出していい境界線が分からなくなった。全てさらけ出すのは単純で楽だが裏がない世界なんてない。結局バランスはとれない。物事のタイミングの良さに計画性を感じ幻覚を見てしまう。

春は人を狂わせる。疲れると感情が止められない。痛みと緊張と母としてのプレッシャーもあり疲れていた。夫は私に気を使って来たがニートの夫に要介護者のように扱われて余計に腹が立つ。自分の事は自分で出来る。心配されるのはお前の方だ。期待し過ぎて何も知らなさ過ぎた。


彼は寂しかった。養っていかなければならないという責任を感じていた。私は私で負担に思って欲しくなかった。


温もり


生きがいのなかった私は赤ちゃんが生きがいになり必要とされ必要としている。自分の存在意義をはじめて感じた。私は挑戦していける。自信を持てた。病む事は一つの個性で武器になる。証明したい。人より感じやすく気付くことがあるから。

生きるという意味すら忘れていた。出会った場所は歌舞伎町。悪い方ばかりに行ってしまった。これからは明るい世界で胸を張って生きていきたい。進んでいるから泣いている。離れたくないから一緒に頑張れる。母親も祖母も祖父も私の赤ちゃんを愛おしく思い、小さな事にも喜びを覚えた。私への重圧も分散して行った。結婚して夢を追う方が気持ちに余裕ができた。


みんな寂しい。

強いから繊細。

真実の悪は優しい。

くるりくるり。きっと前に進んでいる。

私とあなたは似た者同士。

私は守る 守られているから


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