きれ
ほら
輝きは失ってもいい
どうせ元々はくすんでいたのを
磨いてみたら光ったものだからって
大切にしただけだった
思い出したでしょう
はじめに磨きだす時のこと
小さな手のひらにきれを持って
身に余る巨大なモノを前に
途方にくれながら腕を伸ばしたこと
それがなにかも分からないまま
……分からないのは今も同じだけれど
母さんに教えられたとおり
優しく
やさしく
押しつぶされそうになりながら磨きはじめたこと
泥みたいなところで汚れたことも
硬いところが刺さったことも
放り出そうとしたことも
好みの色じゃなかったことも
みんな思い出したでしょう
綺麗にできたことも
角を丸く取ったことも
追いかけてきてくれたことも
その色が好きになっていったことも
ねえ
嫌いになったらダメだよ
大切にしていたのにって
噛みつくように言わないで
わざと汚れたりしないよ
どうすればいいか分からなかっただけで
そんなに傷をつけていたら
いつか舌を噛みきってしまうよ
間違いたくないなんて
誰が最初に教えたの?
ほら
輝きは失ってもいい
手は大きくなったかもしれないけれど
もう一度きれを持つことはできるよ