遺書
死ぬほど機嫌がいいよ。
鼻歌交じりに首でも吊ってしまおうか。
僕はとても上機嫌だ。
人の目を気にして、笑顔を絶やさず、東に貧しい人がいたならサッと背中を押してやり、西に豊かな人がいれば、「あなたは僕の神様だ」と。
長いものに巻かれ、媚を諂い、弱気を挫き生きてきたんだ。
巨悪はいつだって倒せないからこそ巨大なのだ。
そうじゃないか。
反抗すると叩かれ、犯され、立ち上がれなくなる。
それならもう一方は、完全に正義なのか、いや違う。
もう一方は傍観する他人か、諂うハエを叩く弱者だ。
とりわけ僕はハエだ。
挫かれた貧しい者たちが、線路や岩場に行き着けなかったらしい。
人の善意を踏みにじりやがって、お前らに道を作ったのは僕じゃないか。
恩を仇で返すとは、僕の道を壊しやがって。
それとも何か、僕が切り貼りしてたのか?
どちらでもいい、商売なら終わったんだ。
僕は死ぬほど機嫌がいい。
気を遣わなきゃいけないあれこれが、今や何もかもないのだから。
けたたましく叫ぶなよ、聞こえてるよ。
窓も庭もドアも壁も、あーもう、めちゃくちゃじゃないか。
見ろよこの怯えきった子供と妻と僕とを、まるで生きた気がしないよ。
こんなに固まっちゃって、ごめんねぇ、痛いよねぇ。
耳も悪くなってるみたいだ、なんせ血がまわってこない。
あーもう、めちゃくちゃじゃないか。
これじゃ僕が悪党だ、畜生ども。
お前らの汚い身なりはどうでもいいんだよ、知ったことか。
僕のスーツも、時計も、切子たちも、無下に扱ってくれるなよ。
あー、死ぬほど気分が悪い。
くそったれめ、僕は死ぬぞ。
顔で選んだ妻と、妻に似た不細工で頭の悪い息子と、あとはなんだ、後に残るのは悪党か?
あー、畜生ども、死ぬのはいつだって中途半端な役目じゃないか。
死に損ないども、見本を見せてやるよ。
最高に気分良くな、目にもの見てろよ。