急に話しかけてごめん
「うげぇ……」
オレは浴室の前で絶句した。
浴室に入る気にはなれない。なぜなら、浴室の中には妖気というかなんというか、とにかく今までに見たこともない汚れ(簡単に言えば汚れなのだが、きれいに落ちることを前提として『汚れ』という名称があるならばこれは汚れとは言いたくないわけで)で汚染されていたからだ。
「えっと、これはやっぱりダラダラどろどろ系のあいつ――クロスの汚れだな」
ため息をつく。
脱衣所の時計を見ると、六時三十分(時間にこだわりのあるポテタのために我が家にはあらゆるところに時計が置かれている)。入浴のためにお湯を張るにはギリギリの時間だが。
「まず掃除をせんことにゃ、ポテタもここに入る気になならんじゃろ」
ドッと(気持ちが)疲れて口調が変になってしまう。
「ふぅうー」
はなから期待していないが、少しは手伝いが欲しいと思うときに限って魔物たちは誰も来ない。
「しゃーない。一人でやるか。まずは壁から汚れを落として……うへぇ、排水溝が詰まってるじゃん。パイプスルーあったっけな」
はぁぁとため息をつきながら、階段下の収納庫を見に行くと、収納庫手前の暗がりに魔物がいるのが見えた。
「マジンが……」
「だから、誰がマジンを――」
見ると、よくしゃべるボテ腹の失敗したゆるキャラみたいなヤツと、半魚人みたいな魔物がこそこそ話をしている。
「マジンってなに?」
疲れてるので無造作に聞くと、二匹は文字通り飛び上がった。
飛び上がった拍子にボテ腹の方が階段の出ている部分に頭をぶつけた。
「いたい」
「あ、急に話しかけてごめん」
と言いつつ、階段下の収納を開けて、覗きこむ。
「あ、あった、あった。パイプスルー。こいつを探してたんだよ」
パイプスルーの箱をつかみ上げ、魔物二匹に向き直ると、二匹とも姿を消していた。
「あれぇ? ……もしかして、聞いちゃまずい話だったとか?」
頭をかきつつ、リビングに向かう。
「せんせー、すいません。風呂場がえらいこっちゃになってて、一回掃除をしたいんですけど、もう少しポテタの相手してもらってていいですか?」
「あ、ふぁい。こちらは予定もないので、かまいませんよ」
ポテタは真帆先生と魔王相手におままごとをしていたようだ。
「ハイ、マグロの目玉焼き」
ポテタから珍妙なもの(実際は何も載ってないプラ皿だが)を出されて、魔王はとまどった顔をしている。
「ポテタ、お風呂の時間変えてもいいか? 今日のお風呂は七時十分です」
言うと、ポテタはリビングの時計をしばらくにらみつけ、
「あと、ヨンジュップン?」
と不満そうな様子を見せたが、
「いい?」
と再度聞くと、
「いいヨ」
と応じた。
「あ、そうだ。先生」
「はい」
「マジンってなんだと思います?」
「ええっと……」
ポテタから『イカの目玉焼き』の皿を受け取りつつ、真帆先生は首をかしげた。
「マジンガーZ?」
昭和か。