(涙)ごめん
「もしクロスさんが『病気』という言葉に対して、治るものというイメージを持っているのであれば自閉症は病気ではありません」
ずれたメガネを直しながら真帆先生がいう。
「自閉症とは先天的に持って生まれたものであり、今現在確実な治療法は無いので」
「はあぁ」
クロスがため息のような相槌を打つ。オレは言う。
「一般的に病気ではなく障害って言われているけれど、障害っていう言葉もねぇ」
「マイナスイメージが強いのであまり使いたくないんですけど、とりあえずこの場では使用させていただきます」
「はい」
クロスと真帆先生が正座で対面した。
「自閉症の大きな要因は本当にごく幼い幼児期の前頭葉の異常な発達だと言われています」
普通の子よりも前頭葉の発達が早すぎる時期があるんですよ、と言いながら、魔王を見て「この子には前頭葉があるのかしら」とつぶやいて「失言でした」と頭を下げる。
「ええっと、自閉症の一番大きな障害は社会性の発達の遅れです。すなわち、周りの人たちとの交流に困難さを抱いていて、それに伴い、言葉の遅れを持つ子も多いです。その他、視線の合いにくさ、音の過敏、味覚・嗅覚の過敏や極端な不器用さや運動面での困難を持っている子もいるんですけど、全員に当てはまるわけではありません。今、ポテタくんと魔王くんを見比べてもらってもわかる通り、同じ自閉症といってもまったく同じ印象を感じさせる子はいないんです。そして、ポテタくんは幼児期から療育をしていたというのも二人の違うを感じさせる大きな要因かもしれません」
「リョウイク?」
「はい。自閉症というのは簡単に薬等で治る障害ではないので、幼児期の早期発見と療育といって、社会性の勉強の継続が必要なんです」
「そのリョウイクというのをしなければ治らないということですかぁ?」
「そうとも言い切れないんですけど、今現在他に有効的な方法が無いので、自閉症には療育というのが一般的なトレーニング法になっています」
「はあぁ……、あのえっとさっき先天的って言っていたと思うんですけどぉ」
「はい。自閉症は後天的な、たとえば幼児期にテレビを見せすぎたということが発生要因になるわけではなくて、生まれる前から持っていたものが原因だとされています」
「生まれる前から?」
「はい」
「じゃあ、ボクらが悪いってわけじゃない?」
「はい。もちろん」
「よかったぁ」
そう言うと、クロスは「わぁーん」と大きな声をあげて泣きだしてしまった。