服よ ごめん
「あのぉ……、お風呂いただきました」
肩をトントンと突かれる。
「あ、うぃっすって、お前だれ?」
「さっきアキラさんが言っていた『ダラダラどろどろ系』のやつですよぉ」
「あ、そっか」
と応じつつ、オレは目の前のヤツから目が離せなくなった。
絶世の美女が目の前にいた。
絶世の美女が、オレの服を着ていた。
「うん? お前その服どこにあったやつだ?」
「えっと、お風呂の脱衣所の近くにあったやつですけどぉ。まずかったですか?」
「普通まずいだろ。それ洗濯前のやつだぞ」
「え、でもぉ、ぜんぜん臭いませんし、汚れもないみたいですし大丈夫ですよ」
そっかぁ?
オレは目の前のヤツを見て、ふと奇妙な気持ちになった。
「お前、名前は?」
「えっとぉ、名前は一応ありまして、クロスともうしますぅ」
「じゃあ、クロス。えっと、クロス」
「はい」
「お前、性別はどっちだ?」
「はい?」
「だから、男か女かどっちかって聞いてんの」
「えっとぉ、人間界の性別はあれでわかるからぁ」
と言いつつ、クロスはオレのラガーTシャツの首元から中を覗いて、次にハーフパンツの股間を撫でた。
「たぶん、今は女だと思います」
「今は?」
「ええ、ボクらはターゲットとか近くにいる人間の欲望によって体が変わりやすいのでぇ」
「でも、そのビジュアルだったら、男でも女でもオッケーですよね?」
真帆先生がいう。
「先生、生徒の前で不謹慎なことは言わないように」
「あ、そうですね。おほほほほ」
真帆先生が高笑いをしながら引き下がる。
「あのぉ、今聞こえちゃったんですけど、うちの魔王はなにか病気なのでしょうか?」
クロスの質問にオレと真帆先生が顔を見合わせる。
ここは先生に質問を譲る。