気付かずに
第三章
二ヶ月が過ぎても、日下と大野に馴染めない。未だ翔太は仕入れ管理、在庫管理、予算管理が出来ないでいる。調理場からは発注品の間違いが多いため好き放題に仕入れが行われた。日下は以前にも増してやりたい放題だ。それを咎める勇気さへ今の翔太には無い。これが、後に大きな問題に成る事は翔太も解っていた。
尾上社長から電話が有り本社に直ぐ来るように電話が有った。
車中概ね予想はしていた。社長室に入れられ中には経理担当常務の中出忠彦も神妙な面立ちで会議テーブルに向かっていた。尾上が開口一番お前の無能さにはとことん呆れた。
仕入れ係りに移動になってから今まで、君のやってきた仕事を後藤君から報告を受けていたが、此処までひどいとは思わなかった。よく此処まで無駄金を使ったもんだ。中出は黙ってうなずいていた、尾上は中出に過去三ヵ月の山口が管理していたデーターを出した。
尾上が、この経過の説明を山口に求めた。翔太は何も言えないでいる、時間だけが過ぎて行きやがて尾上は黙っているならそれでいい、説明が出来る迄俺も此処で付き合うほか無い。流石に中出が救いの言葉をかけた。お前が仕事が出来ない理由も解っている、正直に全ての事を今言わなければ何も解決しないんだよ。この紙に今まで有った事をまとめなさい。やがて翔太は社長室に1人取り残された。
常務も、ああ言ってくれてるのだから箇条書きで事の顛末を書いた。秘書に常務を呼んでもらった。尾上も一緒だった、翔太は出来上がった書類を差し出した。常務はそれを読み無言で尾上に渡した。
この、大馬鹿者がお前は調理が勝手な発注をした、日下、大野が従ってくれない挙句には部下が勝手に許可無くやっている。等々幼稚園児以下の内容だなお前は何故他人の責任にするんだよ!
俺は、初めから成果など求めていない、しかし前任者と決定的に違うのはあいつは全てのプライドを捨て俺に何でも聞いて来た。何度も俺に怒られながらもあいつは未知な仕事を覚えたんだよ。だから、お前にもあいつは冷たくして突き放しているんだ。解るかあいつの思いが?
あの時の日南食品の事あいつはあえて、責任を自分に振らせえてお前を育てようと考えていたのだ。以前からあいつは俺に提案していたことがある。
それはな、これからはプロパーを育てていかなければ行けないとな。外様が何時までも仕切っていたら育つ人材がいなくなると将来を見据えて欲しいと。
俺は、あいつを何様のつもりで物を言っているとけちらした。このホテルも今や道内では大きくなっていた、だがあの頃はあくまでも尾上商店だったんだよ。今でも各ホテルを回って思い通りに行ってなければ、お前の知っているように怒鳴りちらしている。
これは、田中の進言だ。今まで、歴代の支配人達の進言には耳を貸さずにいた結果支配人が定着しない理由だ。ただ、今までやってきた功績とホテル運営システムを作り上げ今のグランディの成功は無かった只、社長には今まで通りの行動は変えないで、ホテル回りを続けて欲しいと言って、君たちが嫌っている事を続けているんだよ。
お前が仕入れに移動になっても田中は、仕入れを修正させ抑制していたのだよ。後藤君と協力してね。
翔太は、そこまで総支配人がやっていたとは思ってもいなかった。あの美和までもが・・・
後藤君は、田中の紹介で、市内一流の料亭に研修に行かせた上、本州の某ホテルで全てを学ばせて、復職させたのだよ。何故か解るか?後藤君は女手一つで小さな子供を育てているのを知って今は田中夫妻の養子と成っているのが、山口お前の子供だよ!お前はその責任も取らずに、他の女に夢中のようだな。どうなんだ、種馬!横田建設があれからリピーターに成って依頼、繭ちゃんに接近していると聞いているぞ。同じ事を繰り返したらどうなるか、覚悟しておけ!
罵声がとんだ。秘書室まで聞こえる怒鳴り声に秘書たちは、今までに無いほどの声に驚いていた。
既に、翔太は繭那と付き合っていた。しかし事実はとても言える事ではなく、とんでもないです、日南食品のお嬢様に私みたいな者が、相手にされるわけが無いと懸命にごまかした。それは通じなかった。
翔太に処分が下された。半年間基本給の五%カットを申し付けられた。そして、何が有っても後藤美和の指示に従う事を絶対条件に付け加えられた。
ホテルに戻る車中、俺は何もかも総支配人の監視下に有ったんだ。かばってくれていたのにも気がつかないで、腹を立て向かっていった事を恥じた。そして、美和の子供が僕のとは知らなかった、それは知るはずもない事だった。あの総支配人が美和の事を守って
よく計らってくれていたとは、自分はなんとお粗末な男だと悔いた。
それは、大きな勘違いに過ぎなかった。
それから、生まれ変わったように翔太は仕事に明け暮れた。解らないことは全て後藤に指示を貰っていた。山口君この頃ようやくやる気に成った様ねと、美和が笑みを浮かべていた。翔太もおかげさまで何とか自信が持てるようになって来ましたと嘗ての恋人に応対している。
総支配人が山口君の時間が空いたら、オフィスまで来るようにと言ってます。ひと段落付けて直ぐに行くように命じられた。なんだろうか?総支配人からもう声すら掛けられなくなっていた自分にと一抹の不安を感じた。
田中のオフィスに入り用件を確認した。久しぶりですね山口君、どうだい仕入れの仕事は?
後藤君から聞いたが、仕事上手く行っているようだね。やっぱり君は私とは違うよ。
私は、もう社長に聞いたと思うが一年掛かったからね。それと、もう一つ社長が言っていない事教えてやるよ。実はね、社長も同じ大学の建築工学科卒業で、あるゼネコンにいたんだよ。勿論、私が在学中には既に卒業してましたけど。あの事件の事君は覚えているよな、当時大きく新聞に出てな、それで、拾われたんだよ。(大嘘である)
それで、恩を返そうと思って今までやって来た。これからは、君達の時代だ、もっと励んで欲しい。苦言も言うぞ、君は仕入れに移動に成って依頼フロントロビーに一切顔を出していないのは何故なんだい?
翔太は、仕入れと無縁と思っていた。そこが君の甘い所だ、お客様をよく見ていると何をこのホテルに求めているか解ってくるはずだ。それから、愁悠の膳の宿泊券の販売状況進んでいないけど、どうするつもりでいるのか君は、これからの販売計画書を明日まで提出してくれ。勿論期待はしてないよ。嘘の報告は必要ない。私は尾上社長のようには騙せないぞ。種馬!何度も言うが必ず繭ちゃんから手を引け、後藤君のようにはいかない事をよく頭にたたき込んでおけ。もう結構下がりなさい。実際、繭那とは別れていないのだ。
何故だ?何もかも総支配人に見透かされているじゃないか、この先俺はどうして行けば良いんだ。考えても、考えても見透かされる理由が解らない。宿泊券の販売計画の作成、そして、それすらも見透かされるのか?他の部署に移動になりたいと願った。
フロントあたりに移動したい、フロントの仕事ならあの、総支配人と美和にここまで言われなくても済む。その日が来るのもそう遠くは無かった。
宿泊券の販売計画を翌日提出した。
これでは、到底販売は無理と判断を下された。君には荷が重すぎたようだ。
元々、期待はしていなかったが予約経験者としては余りにもお粗末過ぎる、君に任せる訳には行かない。私が販売する事にしたと総支配人に判断を下された。俺はもうおしまいだなと翔太は思った。
数日後、人事権の持つ総支配人より人事異動が発令された。
池田和也支配人を解き、総務、仕入れ担当支配人、後藤美和予約、フロント担当支配人兼客室接待指導担当、業務担当支配人河本信一、宴会担当統括マネージャー江藤潤、客室総マネージャー佐藤明子、予約課長北島吉夫、フロント係り山口翔太
翔太の望んでいた通りフロントに移動となった。しかし、上司は後藤美和で有りあの冷たい目から逃げられなかった。待てよ、フロント経験なら俺のほうが美和より経験豊富だ、総支配人も少し俺を甘く見すぎたな。今度こそやり返すチャンスが来たと翔太は微笑んだ。
フロントに移動した翔太は人が変わったように笑顔を振りまき接客している。美和も暫くの間、静観する事にした。
丁度、八月も終わりを迎かえいよいよ繁忙期がやってくる。今年も早々に横田建設の取引先、下請け企業で構成される建友会と言う団体が九月二十八日に総勢九七四名で予約が入っていた。この日は、大宴会場から小宴会場、レストランホール、コンベンションホールと全て横田建設で押さえている。コンベンションホールで会議、会議終了後総会、
小宴会場では、担当工手別の会議となっている。当然ながら、この日は横田建設の貸館となっている。担当責任者に総務仕入れ担当支配人池田、予約課長北島、宴会担当統括マネージャー江藤、業務担当支配人河本、客室マネージャー佐藤明子、最後にフロント係り山口翔太とゲストリストに掲載されていた。
翔太は実績を上げ田中と美和に見返すつもりで何度もイメージングを繰り返した。まだ、当日を迎えるのに充分な日にちと時間もあるこれは程早くも俺の出番が回って来るとは、まだまだ俺にもチャンスが残っていたとは、そして運も残っている、これは絶対逃せない。
尾上社長、総支配人に許されていない繭那との交際を俺はこの手で認めさせてやる。
久しぶりに、繭那に電話を掛けた。
九月二十八日の横田建設の担当、やったよ、僕に成ったと喜んで話しをした。当然、繭那も喜んでくれるものと思っていたが、そうなのと言うだけで、今までの苦渋を飲んで来た事をねぎらってくれる感じもない。あれだけどんな事があっても、応援してくれていた繭那なのに、何かが違う。取り合えず君に報告しておくよと言って電話を切った。
翌日、翔太はこの団体の責任者達を明日、午前十一時に会議室に集合するように社内メールにて送信した。
全員が揃ったところで、北島に今までの詳細お報告を依頼した。
北島は、今までと違い事細かい所まで打ち合わせを済ませていた。会議を翔太が進行していると、誰かがお前何様気取りでやってるんだといいだした。それに続き全員が同調し始めた。無理も無い、翔太はまるで、次々と自分より上の者に対して早急に手短に話をするよういつの間にか命令していた。
お前にはついて行けないよ!と次々と会議室から出て行った。残ったのは北島と翔太だけに成ってしまった。
北島が、山口さん気持ちは解りますよ、貴方が有頂天に成りすぎですもう少し会議のやり方を考えて行かないと、失敗してしまいますよ。幾ら貴方がこの機会を以って成功させても誰も認めませんからね。だってそうじゃないですか?初めから失敗はどんなお客様でも許されないのです。今の貴方は自分の成功しか頭に無い!全員がしっかりこの貸館の日はどんな事が有っても最後に喜んで頂くと言う気持ちは変わらないのです。北島は急に口調を荒げ、自分本位の考え方はすてろ!なんだ、さっきの君の提案は、お客様全員にトラベルセットのプレゼントをしたいとは!そんなので客が喜ぶのか?
何の為に仕入れ係りで勉強して来たんだ!又、在庫の山を平気で築くのか?それとも学習能力が欠けているのか、私には君の考えている事がとても理解出来ないよと言って出て行った。
そんなに・・・・俺が皆に何迷惑をかけた、俺はやるべき仕事をしているだけじゃないか!
どうして受け入れてくれないんだ。これが俺にとって最後かも知れないチャンスなのにクソッ!そこへ、美和がやって来た。会議随分と早く終わったのね?
議事録を拝見させて下さい。初めから議事録なんて記入していなかった。翔太は会議においては必ず議事録を記入する事になっていることを知らなかった。
以前は議事録は無かったのですが?それは昔の事、今は総支配人がホテルの運営のあり方から全てマニュアル化したのよ。貴方フロントに移動になって知らなかったのですかもしかして?
今までと、違って誰も教えてなんてくれませんよ。仕入れ係りにも同じものが有りましたけど。今まで何をして何を覚えてフロント勤務になったのでしょうね?会議内容は、総支配人と私のオフィスに全て聞こえるように成っております。北島さんのおっしゃる通りです。貴方何か大きな勘違いでもしているようですね。当たり前の仕事を当たり前にこなすだけの事で、どうにかなるとでも思っていたのかしら?山口君!
貴方は、いったい誰に自分を認めて貰いたいのですか?誰でもここのホテルはその機会は有ります、貴方にもですよ、貴方だけが特別な存在じゃないんです。
むしろ一番そのチャンスを総支配人から与えられている事を感謝するべきです。次の会議は私が進行してまとめますから、持ち場に戻って仕事をして下さい。それと、日南食品の南原繭那様からお電話が有りまして、貴方の電話に迷惑を受けていますと苦情が有りましたので、余り度が過ぎないように。これは私の中で止めておきます。
何故だ、繭那がそんな事?何故日南食品なんだ?どうしてことごとく俺はこうも運が悪いのだ、俺が誰に何をした!人を傷つけた事もない!今まで真面目にやって来たのに、どうしてなんだ!どんなに嫌な事があっても俺は今までこのホテルを辞めていったやつ達よりもしがみ付きどんなにののしられても耐えてきた自分がこうまで不幸なんだといつしか泣いていた。
尾上は殆どグランディを田中に任せて他のホテルに行くようになっていた。
田中は、尾上に今でも山口をなんとか育てたい気持ちを報告している。山口はこのホテルで唯一のプロパーなのだ。今は辛くても我慢させるしかない、あいつはどんな思いを俺に抱いているのか解っている憎くて仕方ないであろう。俺はそのために此処にいるんだ。
本当のプロに成ってもらいたい。たかが一級建築士に負けていたら駄目なんだと・・・・
何もかも上手く行かなくなった翔太は殆ど会社の同僚達と話しもしなくなっていた。
それでも、時間は止まってくれない。幾ら美和が後は自分でこの一大イベントを成功させる為に仕切るとは言っても、もともと担当は自分なのだ。会議だけでも参加しなければあの二人に何を言われるかたまったものではない。
会議は明日の午前十一時だ。お帰りになるお客様をお見送りしても充分間に合う。
平然を気取っている事にしようと決めた。俺にも発言できる事だって有るはずだ。翔太はとにかくお客様の事を優先して考える事に徹する気持ちになった。ようやく今までの自分の考え方を変える事が出来そうに思えて来た。
翌日、定刻通り会議が始まった。田中もこの中にいた。美和が会議を進行して行った。
一通り北島から打ち合わせして来た内容を各自にプリントを渡した。ほぼ、完璧な内容で有る、後はサービス人員の配置、バックヤード人員の配置をどう決めて行くだけである。
田中がいきなり、何ですかこの打ち合わせは、北島!こんな内容で横田と打ち合わせを済ませたのか。二度、三度と先方に時間を割いてもらってもこの結果なのか?これじゃどんな体制を組んでも失敗するよ。山口君は何か欠落していると思う点が有れば、遠慮なく言ってくれ。翔太は、総支配人が俺に意見を求めてきた。発言できる機会があればと思っていたが、まさかいきなり自分に当てられるとは、ずっと静観していた翔太は、この貸館は横田建設主体の場でしょうか?
取引業者、下請け業者で運営している建友会のはずです、横田建設は招待される立場だと思います。ごく当たり前の事を言っているに過ぎなかったが、幹事でもない札幌支店の総務課長と打ち合わせなど無駄な事と私は思います。多分、総務課長も過去の例でお話をされたと推測出来ます。北島課長には大変失礼ですが、全くずれているのがこの打ち合わせではないでしょうか?本来、横田建設の本社は東京です。代表幹事他数名の幹事さん達は、東京にご在住かと思います。札幌にもおられるかも知れませんが、その情報が全く有りません。たまたま、前回横田建設の研修旅行で当ホテルを利用したのがきっかけで横田建設からの予約になっているに過ぎません。招待される側でも主導を握るのは横田建設です。それで、当ホテルを幹事会社に指定したに過ぎません。うちだって同じじゃないですか皆さん?取引業者の会どうですか?同様です。したがって、先ず代表幹事様に会って、どのような計画を立てているのがお聞きする事が先決と思います。したがってこの詳細は何の役にもならない打ち合わせだったと私は考えます。失礼な事を言っていたならばお許し下さい。北島課長と付け加えた。
その通りだ、山口君少しは成長したようだ。早速、横田建設に連絡を取り建友会の代表幹事様を確認して打ち合わせの日を決めるように、北島と同行して出張も許可する。
田中は、代表幹事は当然ながら知っていた。翔太の意見など本来どうでもよかった。
それを、出来ていない北島に問題があっただけである。田中はもっと違う時限で考えていた。
会議終了後、後藤美和があれでいいのでしょうか?と尋ねてきた。いいんだよとだけ言ってオフィスに戻った。
早速翔太は横田建設総務課長に連絡を取り建友会の代表幹事は誰か確認を取った。
東京の田谷工務店の社長田谷明氏と解った。すぐさま田谷工務店に電話を入れて今回の横田建設建友会の代表幹事であることを再確認をして詳細を詰めたい旨を言って予定を取ってもらった。勢いに乗る翔太は田中に報告を済ませ東京へ出張させてもらう事になった。
翔太は、北島を立てるそぶりも無い。北島は黙って翔太の動向を見ている。これは後藤美和の指示であった。
北島の報告を受けた後藤は又暴走が始まったみたいですね。山口君も困ったものです、北島さん田谷工務店に連絡を取って下さい。この宿泊プランの総責任者としてご挨拶をさせていただきたいので。
田谷工務店に連絡が取れて、後藤は明日単独で東京に行く事にした。勿論田中には了解を貰っていた。約束の午後二時に田谷工務店に着いた。田谷社長と面談を始めた。田谷の方から、確か明日御社の北島さんと山口さんが来社予定のところにも関らず、支配人さん自ら打ち合わせとは我々としても心強いですね。なんと言っても横田建設のご機嫌を損なう訳には行きませんしね。と言って美和と詳細を詰めた。後は、変更事項があれば三日前までならば対応出来る事と、ネームリストも三日前まで送っていただく旨をお願いして日帰りで帰社した。美和の報告を待っていた田中は詰めてきた内容を確認した。後藤君、明日山口達は何時に東京に行く予定か確認した。八時にここを出る前に私のところに寄るように連絡を入れるように指示を出して下さい。今日はもう帰っていいよと言って携帯を手にした。何処に電話をするのか美和は気になった。
相手は、尾上であった。
尾上社長こんな時間に電話を致しまして大変申し訳御座いません。
早速後藤君に田谷工務店に行ってもらいました、やはり心配していた通りでした。
どちらかを外さなければこの一大イベントは失敗して今後横田建設は、グランディをご利用頂けなくなります。今回私は北島を外すのが賢明と判断しました。何故北島なんだ。
山口は必ず成功します。全て私がフォローします。今、彼にこの機会を任せてあげていただきたい。何故そこまで山口にこだわるのだ君は、それは今は言えません必ず今回の事で、その理由が解ると思います。なんとか山口に任せてください。解ったもし失敗をしたら、山口と共倒れになることを覚悟は出来ているな。勿論です。と言って了解を得た。
翌日、後藤、北島、山口が揃って田中のオフィスに来た。
田中は、北島と山口に今日の出張の取り止めを命じた。翔太はいきなりどういう事なんですか?田谷工務店さんとの詳細の打ち合せを取り消すと言う事ですか?私には総支配人の考えている事が全く理解出来ません。昨日の今日でなんで変更出来るのですか!田谷工務店さんに対して失礼極まりない!
解るように説明をして下さいと怒りに任せて田中に食ってかかった。落ち着け山口君、
実はね、昨日、後藤君に東京まで行ってもらい田谷さんと面会してきてもらったよ。
田谷さんお困りになっていたよ。君たちは電話1本主体で打ち合わせをしてお会いするアポを取ったようだね。建友会の今回の主旨、知っているかい?知らないだろうね。目的も確認せずに一方的に当日のバスの手配やら、会議の手配やら、食事の時間、その場所をこうする、ああすると勝手に勧めたようだね。クレームの電話が入ってね。それで急遽後藤君に行ってもらったんだよ。山口、又お前の暴走が始まったのか?北島お前はどんな立場なんだ、山口の暴走も止められないのか?悪いが今回の建友会は北島には外れてもらう。
山口は、後藤君の指示に従って今後余計な真似は絶対にするな。解ったか!
翔太は腑に落ちなかったがそれでも外されなかった事には驚いた。しかし、美和に指示されるのがたまらなく嫌な事だ。美和が復職してからずっと、冷たくあしらわれている。
それは、仕方ない明らかに能力の差が有りすぎるからだ。
北島は、退出を命じられ、代わりに池田支配人を呼び入れ四人で後藤が持ってきた詳細に目を通した。田中はなるほどと納得したらしく池田に当日の人員確保と派遣会社の人材の確保を命じた。後藤と山口は導線をどうするか協議する事を早急に決めて、池田に報告するように命じた。それによって人員の確保が出来る。二人とも抜かりの無いように、そして、備品類が整備されているか確認する事を命じた。田中はあえてもう1件の準備をする事は言わなかった。試しているのである、後藤と山口のどちらがそれに気が付くのかを。
田谷工務店との詳細の大網が出来つつあった。ここで後藤の呼びかけで担当者会議を持った。全員揃っている。後藤の隣に翔太が座っている。美和の指示だ。
後藤は、本日の会議は、山口君の進行で行きます。翔太は早速、先日皆様に改めて配布した、資料に基づき話し始めた。前回は私が一方的に会議を進行してしまい貴重なお時間を無駄にさせてしまった事を詫びた。
それでは、先ず全体的な流れから申し上げます。九月二十六日建友会ご一行様現在九七四名様のご予定で送迎バス二十七台と、社有車二十台、個人車両十五台で午後1時三十分のアーリーインとなっております、人数の変動は直近の三日前までにてお願いをしております。
その後、コンベンションホールにて耐震技術施工方法の議題で会議が十四約二時間の予定です。
会議終了後、十八時からこのコンベンションホールにて建友会の恒例親睦会が行われますが、その前に、横田建設を除く取引業者、下請け業者の定例総会を約一〇分行った後に親睦会の開催となります。今回は横田建設取締役札幌支店長の熊谷様が田谷工務店に社長としてご出向との事で、横断幕は、定例総会と熊谷支店長を迎える会の二種類になります。
ステージでは、歌謡ショーが催しされます。歌手、音響は先方にて手配済みとなっておりまして、誰が来るのかは内緒にされております。この時点で何かご質問は有りますか?と翔太は問いかけたが質問は無かった。
宴会終了後、自由時間になっております。田谷様からのご希望でバーラウンジは幹部専用として利用、他の施設は自由解放として、ご利用額は個人会計とご指示されております。
今回は、コンパニオンは六十名田谷様のご手配と成っていますので、二次会以降個人利用分のみホテルのコンパニオン手配となりました。くれぐれも、ナイトクラブマネージャーはカウント漏れの無いようにご配慮願います。こちらにて、二次会券を用意いたしますので、これを田谷様の方で幹部以外の方に配布されます、確認をして受け取って下さい。その券と実人数が一致するように、合わない場合は当ホテルの負担になります。
翌日、朝食は六時四五分からコンベンションホールとレストランにて召し上がってもらいます。
お食事終了後、九時三〇分よりコンベンションホールにて各担当業者毎に別れ会議が行われます。パーテーションにて分けて各一〇名分のテーブル、椅子を設置する。
会議に参加しない方々は自由行動となります。
会議終了時間は十一時の予定でその後、チェックアウトになりますが、昼食弁当を送迎バスに乗られる人数分をご用意下さい。弁当は一〇名分多く用意と指定されています。
ここまでが、全体の流れですがご質問はと再度促したが何も無かった。
美和からも何も言って来ない為、それでは各セクションにてミーティングを行い、明後日の十一時に各部署にて打ち合わせをした資料ご持参の上集合願います。と言って締めくくった。
全員退出してから、翔太は美和に、支配人どうでしたか今回は?と聞いてみた。別にごく当たり前の事を議事進行したに過ぎないんじゃないんですかと、相変わらず冷めた表情だった。山口君、問題は明後日ですよ、貴方も、自分の持ち場もあるのですからしっかりと打ち合わせする事ね。どうでしたか?などと言っていられないのですよと釘を打たれた。
後藤は、早速田中のオフィスに行き今日の会議の内容の説明をした。田中があえて指示しなかった理由は直ぐに美和は既に納得していた。この会議で・・・・・・・
田中は、流石ですねもう見抜きましたか?私の指示のしなかった事がといきなり言ってきた。ハイ、あのままじゃきっと大失敗は必ず起きます。当日まで、何も山口には言わないように頼むよ。えっ総支配人失敗させるつもりですか?まさかそんなことはさせないよ。
君が、今回の総責任者なのですからね。但し、今言った通り山口には絶対内緒だ。
一方、北島は以前のように物静かでその存在すら社員に忘れられているようだった。
休日を利用して、妻子の待つ自宅に帰っていた。こんな大事な時に三日経過しても出勤して来ない、、予約係りの社員がそういえば北島さん、今日も出勤してないけどおかしくない?と思い、総務担当支配人の池田に報告をした。
池田は、北島の自宅に電話を掛け、今日からご主人出勤予定に成っていますがご在宅でしょうか?と確認すると、主人はずっと帰ってきていませんと言われ、池田が驚き、三日前から休日を利用してお子様の学芸会が有るとの事情で休暇届けが出ている旨話しをした。
内にいても、邪魔なもので何処かに行っているんじゃないですかと余りにも他人行儀で心配するそぶりも無い。池田は呆れてしまった。
今日一日待つ事にして出勤しなかった場合には奥様に捜索願いを出してもらう事にした。会社では北島の事があれ程影の薄かった人物の噂でにぎわっていた。そういえば北島さん、尾上社長からいつも罵声を浴びてたよなと誰かが言うとそうだったな、きっと会社に来るのが嫌になったんじゃないかななど様々な憶測が流れた。
翌日も出勤しなかった為、奥さんに警察に捜索願いを出してもらった。捜索三日目にある河川敷で水死体で発見された。警察は事件性が無いため酔った上での溺死と断定した。
社員誰もが気付いていたこれはパワハラだと。でも北島課長毎日お酒臭かったよな。やっぱり、酔って何かの拍子で川に落ちたのかな、いずれにしてもこれで二件目か調理場のいじめに続いて・・・
葬儀に尾上社長が列席しようとしたが奥方に追い返されていた。気付いていたのであろう。
しかし、大きな企業に太刀打ち出来なく諦めたのだろう。
それでも、調理人の自殺、北島の自殺?誰もが悲しく感じていないのが、このホテルの社員同士の繋がりの薄いところであった。
あの田中でさえ、一度、行方をくらました事が有った。直ぐに見つかり連れ戻されたが。
各セクションのミーティングが終わり、担当者会議が始まった。先日翔太が提出を求めたミーティング記録が提出された。
全て、マニュアル化されていた対応方法で纏められている。翔太はこれで本当に大丈夫なのか疑問を抱いた。接客係りの対応が気になった。この人員でコンベンションホールの切り返しが時間内に出来るのか、そして最大なる問題に気付いた。収容人数三五〇人のところでどんな宴会が出来るのか?
後藤支配人打ち合わせの際、この問題に気がつかなかったのでしょうか?いいえ、知っていましたよ。誰も宴会だからといって座敷でやらなければならないのですか?山口君。その証拠に宴会場スタッフはこの人員で手配をしていると思いませんか?江藤さんどうですか?
私も、そう考えておりました。しかし、田谷工務店は納得出来るのでしょうか?
ご安心下さい。初めから収容人数をオーバーする事を田谷さんに伝えてあります。そのため立食にいたしました。座敷にして先方の手配されるコンパニオン六十名を入れると山口さんは思っていたのですか?それ以前に今頃になってご自分の働く施設について随分と興味が無かったのでは有りませんか?
翔太は又やられたと思った。しかし思いのほか早々に気が付いた事に、美和の方が焦った。
気を取り直し次々と各セクションのミーティング記録に目を通し最後にフロント係りの記録を読み上げた。先ず、送迎バス到着時の混雑の解消、全車両のバスを置く駐車場の確保これは隣にある関連ホテルに置くことで解消、エレベーターの稼動誘導など抜け目は無かった。後藤から1つ確認された。歌手の控え室、及び専用エレベーターはどうするのかと、
先ず、控え室は現在閉鎖しているもう一軒の売店をレイアウトして控え室にします。
専用エレベーターはバックヤードのエレベーターを使用していただく事で如何でしょうか。何時の間にこんな事考えられる様に成ったのか美和には想定外の翔太の提案に自然と頷いていた。
後は、この記録簿を取りまとめ池田支配人に提出をして人員の確保をしていただき、人員の導線をしっかりシュミレーションをして当日を迎える事で今日の会議は終了した。
美和は、早速田中の元に行き今日の議事報告をした。田中は喜んでいるこれでいいんだよ
後藤君、山口も自分で考えられる様に成ったじゃないか。君は不満なのかい、彼を憎むのは自由だ、しかしホテルに損失を与えてまでやる事じゃない。そんな機会この先幾らでも有るよ。但し、ホテルに損害を負わせては今までの君の苦労が台無しに成るからね。
任せておきなさい、私が付いているからな。復習はいつでも出来る!
田中は既に次の計画があった。翔太を一人前のホテルマンにするための・・・・・・・・
詳細を確定する為、美和は単独で田谷工務店に出向き田谷社長と面談をした。
実は、後藤さん横田建設の熊谷さんが急に当社への出向が取り消しに成りましてねと困った様子で話しかけてきた。どういう事でしょう?と美和が尋ねたが田谷もその辺の事情が良く解らないのです。予定通り建友会は実施いたしますが、熊谷支店長を迎える会と銘打って、参加者を集めたのですが、続々と欠席者が増えて来まして今のところ、約五四〇人まで減っている次第です、当会事務局では、本日の十八時まで変更の受付を受けるという事で、各社にメール送信しておりますが、一番の心配は当日キャンセルも有る事も、後藤さんにはご理解していただきたいと思っています。勿論、これは手前どもの勝手なキャンセルですので、料金は最終決定人数分のお支払いを致しますのでご安心願いたい。
田中さんに電話したんですがね、既に後藤さんがこちらに向かったと聞きまして本当に迷惑をかけました。それで、うちの田中は何と言っておりました?
気にしないで欲しいとだけ言って下さいましてねと終始、はげ頭をハンカチで拭いていた。
詳細は、変更無く行うと言う事であった。美和は、これには何か田中の仕掛けが有ると感じていた。あの時、山口への復習は何時でもあると言っていた事に美和は期待したのだ。
翌日、ホテルに戻り、美和は平常心を保ち、田中と会談した。今回の貸館残念な結果になりなりました。
田谷社長は四百五十人を切るとの予想をされております。
空室が非常にもったいないですよね。でも各エージェントにこの日は貸館の旨通知していますし、ホームページにも満室と掲示していますし困りました。いとも簡単に田中は、年に二回開催する、うちの業者会を入れればいいのじゃないか?
しかし、集めるのに日にちが足りません。無理じゃないでしょうか?
そうか、じゃ私が取引先に通知するよ。約百五十人で押さえてくれ。大宴会場の柊の間でね。幹事との打ち合わせは不要、私が全て仕切ります。それなら君も納得出来るだろ。
それから、山口は私に預けてくれ。問題ないね。むしろそう願いたいところですと美和は笑みを浮かべた。じゃあ、早速山口を呼んでくれないかい。解りましたと言って、部屋を出た。
直ぐに翔太がオフィスに来た。山口に今回の建友会の経緯を説明して、その穴埋めにうちの業者会を百五十人で入れる事にした。この責任者を君に任せるつもりだ。集客も会わせて君がやる事に成るが出来るかい?しかし、総支配人集客するにしても日にちが足りません。どうやっても無理な条件です。
君は、仕入れ係りを経験した時に一度業者会をやっているな、何故初めから無理と決め付ける理由がある。業者会は年に二回実施する事になっている事を覚えていないか?
なら、業者も断る理由もない。しかも一二月の忙しい時期にするより業者も助かるからね。
そして、今回は、VIPにはゴルフのコンペを組んでくれ。私の過去の資料を見て確認して、早急にまとめて下さい。忙しくなりますよ。君と、後藤君の能力を存分に発揮出来る時じゃないですか?特に君はゼロからのスタートだよ。各担当者の人選も君に任せたよ。
絶対に、負けるなよ困ったらいつでも来て構わないとまで田中は言った。
翔太もここまで言われてしまえば無理とは二度と言えなく成ってしまい、何とかしますと答えた。
田中は初めからこうなる事を知っていた。業者会の集客も既に手配済みである。山口が慌てないように考えていたのだ。この業者会にはもう1つ理由があった。電話を取り熊谷に連絡をした。予定通り進んでいるよ。これから、頼むといって電話を切った。
一方、美和は田谷の件で拍子抜けしてしまったのか何時に無く精彩を欠いていた。
約束通り田谷から連絡が入り最終人数は、予想外に減ってはいなく四百二十七名で落ち着いた。今度は、田谷の方からホテルに来る事になった。施設見学と詳細の打ち合わせを、担当者共々打ち合わせをしたいとの事であるが、担当者会議に出席されるのは非常に困るのである。ホテル事情もさらけ出す事になるため詳細の詰めだけで済ませてもらうことで何とか了解を得た。
翌日、早速、田谷と副幹事の山下鉄筋の山下社長が来館された。施設内を見学された後、充分な施設と評価をして頂き昼食をとった後、詳細の詰めに入った。
先ず、入館は予定通りの時刻は変更なし、送迎バスは十台、横田建設の車両は5台、個人車両五台、となった。田谷手配のコンパニオンは三十人となり、ナイトクラブ貸切とバーラウンジの貸切の変更は無かったが、ここで大きな問題が生じた、当ホテルの業者会を入れる為、貸切が無理なのである。美和はその事情を田谷と山下に説明をしたが理解は得られない。貸館として手配しているはずだと一歩も譲らない、場合によってはこの企画はキャンセルさせて貰うと言って来た。
美和は困り果て、翔太には説明無しに了解した。本日、お泊りと伺っておりますので、当日と同じメニューにて夕食をご用意させていただいております。レストランホールのVIP席にてお召し上がり下さいませ。夕食時間を確認しお迎えする事で別れた。
美和は翔太を呼び出し、山口君建友会の方なんですけどどうしても、ナイトクラブとバーラウンジは貸切で、うちの業者会はどうしても使えないわ。その旨、業者会の幹事さんに連絡を取ってお詫びして下さい。
それは困りますよ、うちも二次会は必ず利用してますし、どちらかを空けて頂けないと事務局も納得してなんかしてくれません!と強い口調で翔太は言った。
美和は、冷たくそこをどうにかするのが貴方の仕事でしょ。建友会は初めから人数が減っても貸館の変更はしていないのですからと跳ね除けた。
翔太は直ぐに田中に連絡を取った。今あった話を報告した。田中はこう成る事を知っている上でこの業者会を行うつもりなのだ。大丈夫だよ。今回は通常の業者会じゃないんだよ。尾上社長は出席しないし、その他ブレーンの方達も参加しないからね。しかし、業者会会長の南原社長はどうなんですか?勿論欠席だよ。その代りに日南食品の時期社長はご出席されるよ。
多分、君も知っている方だけどね。翔太はまさか、繭那が?と思った。
二次会のナイトクラブもバーラウンジも使えないのにどうするつもりですか?
閉店しているもう一箇所の売店が有るじゃないか?そこだよ。でもとても飲食店になるような作りではないと思いますが?安心しなさい。こう見えても私は一級建築士だよ、レイアウトから設備までもう手配してある。それと、ゴルフコンペ中止にしてくれないかな?
集客どうだ?翔太は自信満々に答えた。急遽な企画でしたので各社にメールにてご依頼していますが、現在既に一二〇名の参加の回答を頂いております。間違いなく今日、明日中に百八十人は越えると思います。
田中は、既に自ら手配しており、百八十人以下に成る事はない、少しでも翔太に自信を付けさせたかったのだ。
それと、山口この業者会の受付は仕入れ係りの、日下さんと大野さんに任せて構わない。
彼らは、ずっと業者会の受付をしているから何処の誰が来たか直ぐわかるからね。
後の担当は、宴会係二名と仲居十名コンパニオン十五名朝食レストラン七名の手配を池田支配人に依頼しなさい。それで準備完了だよ。総支配人横断幕と立て看板はどうするのですか?必要ない。それと、後藤君には朝食会場はこの本会場のレストランは何を言われても譲らない事。建友会には充分すぎる程のホールを提供しているからね。
早速、池田支配人に人員の手配を依頼します。それとな、この業者会の打ち合わせは、いらないよ。ごく普通の団体と同じようにしてくれて構わないと申し付けた。
翔太は、田中は随分とこの業者会の取り扱いを軽く考えているようにしか思えなかった。
田中はこの企画をもって退任する予定なのだ。
九月二十六日、せわしない一日になることで従業員に緊張感が出てきた。普段殆ど、接客に関らない経理、総務担当者もこの日だけは積極的にホールに出ている。
唯一田中が気に入らないのはどんな事が有っても施設係りが応援に人を出さない事だった。
勿論、この日もそうだ。普段から注意している事項に、集客の多いときには特に温泉の温度管理を怠らない事を言い続けている。
施設係は返事はしているが現実は、浴場係りのパートにさせていた。一気に入浴されたら、設定温度を上げなければ必ずお湯がぬるいと必ずクレームが今まで何度もあった。多分この日も、充分予想していたが田中はあえて施設係には何も言わない事にした。
ここにも、田中の計算した今後の人事に大きくかかわる事になる。そんな事も知らずに時ものようにお気軽に仕事をしていた。
何時ものミーティングより早めに、建友会、グランディ親睦会の担当者別の最終ミーティングが行われた。建友会の変更事項は、人数が大幅に減った事により、立食ではなくテーブル席になった事。これで建友会もゆっくりと食事が楽しめるようになった。
さらに、歌手を呼びディナーショーは中止となっておりやや、拍子抜けしてしまった感じもある。
一方、グランディ親睦会は変更事項は全くなく人員の手配も充分であった。双方とも、問題は、チェックインが重なってくる可能性それはグランディ親睦会はいつもながらに、チェックインの時間が二時以降で有れば自由に出来る事と、殆どが個人車両でやって来る為
心配なのは、フロント前の大型バスと個人車両の整理とエレベーターの回転であった。
その他導線は抜け目なく個人の持ち場を再確認して入館に備えた。
翔太は、グランディ親睦会の二時会場となる簡易的なナイトクラブを確認した。
確か、昨日ホテルを出たときに確認していたが、見違えるほどに変わっている。殆ど、普通のナイトクラブの作りになっており、お酒類も棚に並べられていた。
翔太は、田中に確認しに行った。総支配人、売店後の即席のナイトクラブどうなっているのでしょう?何時の間にあんなに変わったのですか?まるで狐につままれた顔で言っていたのが可笑しくて思わず、田中は笑った。あれはね、今回建友会に出席される岡山建設資材に協力願って手配をして深夜に完成させたんだよ。
翔太は、何故にこの人はそこまで出来る力を今でも横田関連に持っているのか不思議であった。何はともあれこれでどちらも問題なく収まりが付く山口今回はとにかく後藤君に負けたら駄目だぞ。期待しているからなと言ってフロントに行きお客様のお見送りに出た。
その時、血相を変えて美和がやって来た。
どうした。施設係りの社員が全員休日になっています。
機電、ボイラーなど管理運行が出来ません。今、普通に稼動しているじゃないか何か問題でも有るかい。美和も翔太と同じように不思議に思った。
実はね、今後、施設部門は外注に任せる事にした。何故なら君も知ってのように彼らはこんな時でも一切の協力をしない、安心しなさい。彼らは夕刻から出勤して皿洗いと浴場を担当させる。嫌なら辞めていくだろうむしろその方がありがたい。その外注先はどこですか?
戸波防災と北海道電気設備に依頼してある。それは今回の建友会のメンバーじゃないですか。両社とも札幌の業者で参加者以外に今日から早速仕事に入ってもらっている。
契約はいつされたのですか?先月の初旬にもう交わしているんだよ。美和も翔太と同じく、何故この人は今でも横田関連に力を持っているのか不思議に思った。
そんな事より必ず成功させて下さい。山口には絶対負けるなと言って、まだ続くチェックアウトのお客様のお見送りを続けた。
午後一時三十分を経過したところで建友会様御一行のバスが続々と玄関前に並んだ。
玄関前担当者が手馴れたように荷物を出して次々と入館させている、フロントロビーはたちまち人の山を築きはじめた。奥のティーラウンジ入り口横ではグランディ業者会の受付があるが全く見えない状態になっている。
やがて、グランディ業者会参加者も入館して来た。彼らは、その中を掻き分け、グランディの受付を済ませて、部屋案内に従いエレベーターに誘導されている。それぞれの、専用エレベーターと掲示しているため想定内の混雑の中で、担当者達は機敏に誘導案内を迅速に済ませた。それを見ている田中も笑顔でお迎えを行っている。
先ずは、これで一通り部屋に通す事が出来全員が安心している。よーし皆良くやった。
田中は大きな声で賞賛した。グランディの宴会までは時間がある。田中は山口を呼び何か指示をだした。
さあ、これからは、建友会の宴会前の研修会が始まる、担当者はそれぞれの持ち場に行き、設営確認、スクリーン等の確認をして待機するように、今度は後藤から指示が飛んでいる。
その間、仲居達は、建友会、グランディ業者会のお膳の確認を調理長と再確認をしている所に、山口が早急の連絡と言って入って来た。ご飯場調理人の中にあの芳川を呼ぶように総支配人からの指示です。
おいおい、山口それ、駄目だよ、あいつは何度行っても柔らかい飯しか作れないいくら総支配人の指示でも、ホテルの顔である料理にクレームが付く。俺は許可しない。と言って山口を追い払った。翔太は早速その事を田中に伝えた。やはりな、仕方ないなと呟いた。
後で、困るのは、調理場なのにな。山口、後藤君を呼んでくれ。やがて後藤は、田中のオフィスにやって来た。
後藤君、建友会のご飯の事だが、調理場には指示は出していたかい?勿論柔らかご飯という事で、業務連絡表を回覧して、確認印も取っておりますが、いやその調理長が反対しているんだよ。
後藤も、何故か理解出来ないでいる。ここは、調理長を立てて通常のご飯で行くかと田中は呟いていた。
建友会の研修が終わり設営担当者達は切り返しでテーブル、椅子、クロスかけ、バイキングテーブルの用意その中でレストラン担当者が食器等の準備と華やかにも見える具合にセティングを完了させた。そこへ手配していないはずの花が届けられた。これは、美和の見えないところの配慮が有った。
後は、バイキングが始まるだけである。
宴会はスムーズに進み飲み物も予想以上に出ている。バックヤードから見ている美和もご機嫌のようだった。
一方、グランディ業者会は特別膳が用意され、何時ものように和やかに進んでいる。
田中の指示で一切ホテル関係者は出入り出来なかった。仲居も外注先からの派遣で行っている。
ここでは、十月一杯で退職する田中の送別会が行われていたのだ。それを喜んでいる業者は少なくない。最後ぐらい花持たせるつもりでの会合なのだ。
山口は中の様子が気になって仕方がないが、そこへ池田支配人と河本支配人が揃ってやってきて、宴会場に入っていった。
多分、翔太は彼らは何かあって呼ばれたと思っていた。確かに用事である。自分の後任の紹介と、新しく開設する部門の紹介とその責任者の紹介であった。会わせて一つだけ業者にお願いをした。これはどんな事があっても十一月一日まで他言しないで欲しい人事であった。
翔太は、宴会場入り口で思いもよらぬ人と再会をした。繭那だ。
思わず翔太は、南原さんではと声を掛けた。間違いじゃなかった。繭那が先にあの時は大変失礼しました。私事で頭が一杯でごめんなさい。何故、繭那さんこちらにいるのですか?建友会はどうなんですかと尋ねると。父が会長に退いて兄が今、社長を継いでいます。
私も、無理やり会社に入れられ横田建設を退職したのですが。そうだったのか?
でも、父があの絵里と結婚してしまい私の居場所がなくて、あの絵里さんが会長と結婚?大変な事だと翔太は思った。
今日は、兄も都合が付かなくて私が急遽出席する事になりました。相変わらずおいしいお料理ですね参加してよかったです、田中さんからとても嬉しいお話も聞けたので大満足です。
ちょっと、これは言えないですけどね。と微笑んだ。それと私、近いうち日南食品を辞める事をようやく父が納得してくれたので、これを機会に参加させて頂き父がこんな盛大な業者会の会長をしていたのを誇りに思いますと言って用事がありますので今日は宿泊しないで帰らせていただきます。翔太さんいい上司さんお持ちですねと言って私も楽しみですと言って帰っていった。
翔太には良く解らなかった。それより、繭那は相変わらず綺麗で謙虚な人でいて安心した。
一方、建友会の方で何やらクレームが起きたようだ。
一部の参加者から、なんで柔らかい飯が用意されていないのかと。調理長が慌てて対応している。あれだけ念をおしていたにも関らず用意されていなかった事が大問題になっていた。土建屋はな、飲んだ最後に柔らか飯を茶漬けにして締めるんだよ。
あれほどまでに担当でない山口が、総支配人の指示を伝え後藤かれも業務連絡を無視した結果このような事態になってしまった。何が、早急に用意するんだよ!怒りがまだ収まらないでいる。
そこへ、芳川が大変遅くなり申し訳御座いませんといってホールにやって来た。言い訳になりますが、どのタイミングでこの柔らかご飯を出していいのか解らずに手まえどもの手落ちでございました。どうぞ、お熱いうちにお召し上がり下さい。と言ってホールを出た。後追うように調理長は芳川を呼び止めどういう事だと確認した。田中さんから至急の指示が有りまして、お前の得意なご飯を炊いて持って来てくれと。
私は、田中さんと古い付き合いですので快く引き受けただけです。大変な問題に成っていたようですね、だけど詳細責任者からの業務連絡と直接の申しつけに対して一方的に跳ね除けたのは問題でしたね。確認だけでもしておけば済む事じゃないですか、お陰でサービス残業になりましたよ。調理長、田中さん人事権を持っている事忘れましたか?と言って帰っていった。残念ながら芳川はグランディに戻る事はなかった。
何とか、落ち着きを取り戻したところで、建友会の宴会が無事終了した。設営担当者とレストラン担当者がそれぞれの仕事をこなしホールを切り返して明日の、朝食会場を作った。
グランディ業者会は定刻を過ぎても宴会が終わらない。バックヤードの従業員も何時に成ったら終わるんだと呟いている。その時突然バックヤードの襖が開き田中が後、1時間延長頼むと言って来た。二次会場の即席のナイトクラブに建友会の一部の者がコンパニオンを連れて飲んでいるとの事だ。コンパニオンには1時間で引き上げるよう指示した。それでも駄目なら居酒屋にでも連れて行けと伝えてある。皆申し訳ないが許して欲しいと言った。そこへ、あの日下が冗談じゃないよ!こっちはねあんた達の指示通り動いている、しかしここで、1時間延長すると困るんだよ!と物凄い形相で田中に吠えている。まあ日下さん落ち着いて下さい。ここは貴方に仕切ってもらってますが、貴方が切れてどうします。
それとも、下まで行ってお客さんを追い払いますか?それが出来るなら日下さんにお任せしますよ。どうです?行って下さい!
少しはこっちの事情を理解しろ!と田中が初めて日下に罵声を飛ばした。もう貴方に用事はない帰れ会社にも、もう必要ない嘱託契約は解除だ。誰もがこんなにまで怒り散らす田中を見た事がなかった。これは、田中の計算だった。実は即席のナイトクラブには誰もいないのだ。常日頃から池田より日下の不自然な行動が目に付き調べた結果の報告を聞いていた。先ずは一方的に切れさせて、様子を見る思い通りの事を言ってきたそして、明日、彼は不当解雇と言ってくると読んでいる。池田さんその時ですよ。大野君にも確認した事実も有りますよと言っておいたのだ。
日下が出た後にグランディ業者会は解散し二次会には二十四名参加した。
田中は何時になく機嫌がいい。そこへ招待客として熊谷を呼んでいた。
これから、何かの縁でお世話になるかも知れないと理由を付けた。世話になる様な事などある訳も無かった。
翔太は、ナイトクラブは担当を外れているので気付く訳も無い。その中には途中退席したはずの繭那もいたのだ。田中はこんな時でもないと今後の打ち合わせが出来ないからだ。早々に熊谷は先に立ち上げを済ませており、田中と繭那を待つだけの状態で既にいくつかの仕事を抱えていた。田中とにかく早く済ませてくれよ。繭ちゃんはもう準備完了しているからな。解ったよ、とにかくもう少し頑張っていてくれ。俺たちの夢かなえような!と熊谷が言った。そばで、繭那も頷きアシスタントとして頑張りますと言った。おいおいアシスタントじゃないよ。君も一人前の一級建築士じゃないかと笑った。むしろ、私の方がアシスタントだよ、と田中は言った。熊谷は馬鹿な事言うなお前は、経営マネジメントが最適だ。その為に、経営コンサルの資格取ったんだろが、建築コンサルも忘れてたな(笑)
翌日、無事にこの二団体のスケジュール全て滞りなく終了できた事を、社員全員を田中は賞賛した。
お見送りも終わり田中はオフィスに戻り、一息を付いていた所に池田が日下を連れて来た。日下は神妙な面立ちで立って昨日は大変申し訳有りませんと頭を下げている。池田に促されテーブルに向かった。
日下はいつも、思った事を後先間がえずに行動してしまう。今回もそうであったが、社員全員が、必死になっているところで虚勢を張ってしまった。池田は資料を持ってきて
嘱託雇用契約書の一部を日下に指し示した。この事項に該当した行為であるため、契約期間中であっても解除出来ますので本日をもって契約は終了とさせて頂きますのでお引き取り下さい。長い間大変ご苦労さまでした。田中は黙ってそれを見ていた。日下は不服そうだったが、何も言わず退出した。
ようやく、彼とけりをつけましたね総支配人と、池田は言ったが田中は終始無言で有った。
何やら寂しそうに見えた。田中はこんな形で退職させたくなかった、仕掛けたのは自分なのに。入社した頃の事を思い出していた。確かに数え切れない程不始末の尻拭いをしてきたが、右も左も解らない自分に仕事を教えてくれたのは日下なのだ。
彼が、変わったのは未だ定年前の正社員だった日下を差し置き自分が、上司に成った事で、会社を辞めると言った頃から変わった。あの時その座を譲ると田中は言ったが頑固者の日下は、拒否した。多分自分も同じ立場であったらそうしたかも知れない。残念な人を失った思いでいた。
未だ尾上社長より退職願いが受理されない。既に九月三十日付にも関らず承認されずに十月中旬が過ぎた。熊谷からもそろそろ、決着付けろと何度も催促の連絡が来ている。繭那と二人では追いつけない、そして大口のクライアントが入っているのだ。
止む無く、田中は尾上に連絡を入れた。思いがけない返事であった。ある程度は予想をしていた。それが外れたのである。尾上社長の事だから、例の宿泊券を例年以上に販売、団体の集客、予算の高い個人客の呼び込み大方そう考えて手は尽くしておいたのだが、
今月中に、閉店にしているもう一店の売店跡をなんとかするようにこれが君の最後の仕事だ、出来なければ君の希望は先送りになるだけだ。建築士であり建築デザイナーなのだから簡単だろと言って電話を切られた。コンセプトも何も言われても言われていないのに、建築デザイナーの問題ではない。只の、引き伸ばしではないか!田中は初めて尾上に怒りを感じた。
数日考えたが何も思い描けない、予約、フロント業務はもうすっかり定着した手順で日々の業務は安心して見守れる迄社員の成長は目覚しかった。定着率も上がっている。
それでも、翔太と美和の不仲、互いの協調性は皆無だった。
ある日、美和がオフィスにやって来た。もう殆ど池田支配人に業務を委ねているので、美和も翔太もここには余り出入りしなくなっていた。
美和が総支配人、ご相談がありまして又、翔太の事だろうと思いうんざりしていたが、実は、あの閉鎖している売店を違う形で利用したいと申し出てきた。田中は思わず身を乗り出した。
それで、どうしたいか遠慮なく話して下さい。と笑みを浮かべた。
あの中に着物の着付け教室を作りたいのです。お若い女性が喜んで頂けると思いますし、目玉になります。勿論無料ですけど。だけど、あれじゃ、外から丸見えで困るのではないですか?
大丈夫ですよ!浴衣の上から着て頂くのですから、むしろ見えないと宣伝になりませんから。そうですか?それは解りました。しかしあのスペースは大きすぎないかい?
ええ、そこなんです困っている所はそれと工事費も掛かりますでしょうからやっぱり無理ですよね、と言って出て行こうとしたが田中は引き止めた。費用については社長に承認を得る。その代りこの企画を導入する事でどんな効果が出るか企画書を提出して下さい。
残りの、スペースは私が何とかしましょう。美和は早速企画書の作成に取り組んだ。
さて、これは思いがけないいい企画だ。田中に希望が沸いてきた、本来の仕事が出来るのが近づいている実感がこみ上げて来た。そして美和があんなに苦労してここまでやって来た事を喜んだ。
後は、どうすればと何時までも考えたが思い浮かばないまま日にちが経過して行く、美和の企画書は大詰めのようだ。各エージェントにも企画を打診している。どのホテルもやっていない企画に同調しているようだ。確か、グランディのコンセプトは若い女性に気軽に泊まってもらいたいのが元々のコンセプトだ、何時しか同業他社と同じような事をして来てマンネリ化している事に気が付いた。そうか、それじゃ後はお客様が何を求めるかだ!
田中は美和をオフィスに呼んだ。
直ぐに美和はやって来た。どうですか進行具合はと尋ねた。各エージェントも興味を持たれています。後は宣伝方法でお客様を誘導出来るかが課題です。絶対成功出来るように頑張らないとね。ところで、後藤君、空いているスペースで料理体験コーナーはどうだろう?
女性だけでなく近頃では男性も料理しますからね、興味を持つと思うんだけどな、君ならどう思いますか?
そうですね、面白いと思いますが、どんな料理が出来るかですよね。そこなんだよ問題は、
如何でしょう、調理長に私から相談してみましょうか?何か良い案が有るかも知れませんし。ただ、お得意のマグロの解体ショーとか蕎麦打ちは駄目ですよと伝え美和に託した。
翔太は、この頃やたらと田中と美和が面談をしている事が気になっていた。
どうせ又、俺が失敗するような企画を出しているんだろう、今の翔太は誰もが認める位仕事の成果を上げている。河本とも上手くやっていた。
何故か、新しい企画は事、自分に情報が入らない、これは美和からの指示で翔太には伏せるように成っていた。明らかに陰湿な行為であった。それでも翔太は我慢をしている。可愛そうな程に。こんな事がいつまで続けられるのかと周囲も気にしていた。なかには、翔太に同情している社員さへ増えて来た、もういい加減にしてもらいたかった。そのために振り回されるのは他の社員だからだ。
翔太は、年内三ヵ月の集客情報を確認した。田中の集客が十月以降何も無いのだ。
美和だけが著しく伸びている。これは、田中がお客様を美和に譲っていると考えた。確かにこの頃、二人で打ち合わせしている事が多い。きっとそうで有ろうに違いないあの女め!
しかし、田中自信他に大口を持って来る予定があるのかな?社長に叱責されるのにおかしい、絶対何か有るのだろうと要らぬ詮索をした。。
数日後、美和は調理長と田中のオフィスにやって来た。美和が先日の課題について調理長とご相談致しましたら、調理長からこんな提案を出されましたと言い書類を田中に見せた。
田中は暫く目を通し、中々いい内容ですね、しかしこれでは食材原価が上がってしまいます。例えば野菜の捨ててしまう部分を使うとかするとご家庭の主婦にはうけるじゃないでしょうか?そのへんを少し考慮したメニューを数点考えて見てはどうでしょう?
何か有ると思いますね。
二人はなるほどと納得した様子で後一両日で再度提案書を持って参りますといってオフィスを出た。料亭にいた美和と調理長の知恵が出る事を田中は確信した。その時、尾上社長から電話が入った。
例の件は進んでいるかの確認であった。概ね企画は出来上がっていますと答えた。
尾上は君はあそこをどうするか私は知らん、どうしても言いといったが費用については認めていない事がけは忘れないで欲しい。明らかに嫌がらせだ、しかし田中には勝算がある。
今まで、多くの建築関係の関連会社を面倒を見てきた、熊谷にもそれなりのこねを使ってもらう事は承知の事だ。マンション建設の際に廃棄した材料などどうにでもなる。ましてやこんな小さなスペースであればパーテーションの仕切り、窓枠の設置からお手の物である。
田中は自信を持って答えた。私の責任に於いてグランディには一切の費用負担はさせません。そんな事を言われた尾上は面白いはずが無い、馬鹿にされた気分である。それから尾上はこう付け加えた。
本日を持って、君の人事権はなくす。今後の人事権は池田に移行すると言って電話を切った。田中は、既に人事発令を執行しておりこれ以上はなにもする気は無かった。むしろ、池田に移行してくれた事に感謝した。オフィスに池田を呼び、今社長から電話が有りまして、池田さんに既に連絡は入っていると思いますが人事権は貴方に託すそうです。
いえ、私には少し荷が重い仕事ですが総支配人の考え方を今後も受け継いで取り組んでやっていきます。これからは思う存分やって下さい。只、前にも言った通り山口の件については当日まで打診しないでください。
彼はどうしても有頂天になる傾向があります。昇格してもいつでも降格はある条件で支配人に任命して下さい。もう一つは、山口と後藤の不和がどうしても解消されなければどちらかを関連ホテルに移動してもらう、グランディとしてはどちらも大切な存在ですが、それも、仕方のない事ですのでお任せします。
それと、忘れていました、芳川さんの事も頼みます。今日から全て池田さんに総支配人として、やってもらいますので、私の所にやって来る社員は池田さんに相談させますので宜しいですか?
勿論、それは構いませんが田中さんは、何をするつもりですか?それは見てからのお楽しみに取っておいて下さい。
尾上は田中の自信に満ち溢れている態度が気に入らない。まるで、グランディを我が物の様に取り仕切っている。しかし退職願を未だ受理できないのは田中を超える人材がこのグランディには存在していないからだ。田中の人材育成能力も認めていた。
このまま、手放せば元のグランディに戻ってしまうのが不安でたまらなくて今回の無理難題を押し付けたのである。費用の負担そんな事辞めて行く人間が自費で賄う筈がない。
何故に、一建築設計士がこんなオールマイティーな業務をこなせるのか未だ理解出来ない。
転職して来たばかりの時はこの先やっていけるのか不安を抱いていたのが此処までやれるものか、尾上も彼の管理能力を認めていた。故に手放せないのである。今まで、鳴り物入りで入社して来た者達は半年も持たずに去っていた。あいつだけはなりふり構わず、どんな厳しいノルマでさえもこなしてきた。辞めさせられない、どうすれば此処に残らせる方法があるのか考えた。いっそ自分が会長職に退き田中に社長職を譲れば彼は納得するのか悩んだが答えが出なかった。
数日後、美和と調理長が田中のオフィス、と言ってももう既に池田も同じオフィスにいる。
池田さん申し訳ありませんが暫くの間席を外してもらえないでしょうか?いずれ、決定したら池田さんにはしっかりと説明しますので。池田は快く構わないですよと言って退出した。
総支配人と美和が切り出した、調理長以下調理場の各責任者を集め意見をまとめこんな企画が出来ましたといい企画書を提出した。題名は、お家で出来る余った食材利用で出来る簡単会席料理とあった。少しタイトルが長いような気がしたが、その企画書を読んだ田中はこれは行けると言った。後出来るなら、和食ばかりじゃ飽きるでしょうから洋食、中華などもいれてもらえればいいですね。
それを、アラカルトにして、和、洋、中、各コーナー毎でやってみてはどうですか?しかしそうなると、調理台、水回り等に工事費用がかさみませんか?と調理長は言うと、此処の隣、ティーラウンジですから、排水にはそう問題は有りません。家庭用のキッチンが有れば、良いですね。なんとかします。何とかしますと言っても、そんな簡単に用意出来ますか?と今度は美和が聞いてきた。大丈夫だよ。中古マンションの解体の際に必ず廃棄される物です。ほんの少し手を加えるだけで綺麗になりますからね。しかし、いずれにしても、費用は掛かりませんか?安心して下さい。私は今でも、横田建設と深いパイプが有りますので、総支配人がそうおっしゃるのなら、いや、私はもう総支配人じゃないよ。田中さんで結構です。
それと、幾ら余った食材と言ってもそうそう出ない物のです。何年私が調理長を勤めているのか忘れたのですか?今や生産者の顔を出して、バイキングテーブルに飾っている時代ですよ。実はその彼らが乗り気なんですよ。別にホテルで余った食材にこだわる必要なんて無いのですよ。農家、肉屋、鮮魚卸屋、皆協力すると言ってくれてます。だってそうじゃ有りませんか、自分の会社、農家等も宣伝出来てしまうのですから。それを分けて貰えば原価も掛からない、この料理を作ればこんな料理に役に立つ、奥様達、いえ若い方も興味を抱くと思います。普段、怖い顔している無口な調理長が此処まで考えて出した案に田中は異論は無かった。
調理長、行けますね!一つだけ注文つけても構わないですか?
料理教室のスタッフはどうしましょう。
これには、美和が答えてきた。お任せ下さい、既に人材は手を打っています。田中さんが紹介してくださった、料亭から期間限定ですが二名派遣していただきます。後は、調理長にお願いをして内から二名とアシスタントを三名選出して頂きました。決して従来の業務に支障をきたす事はありません。これで成功すればあの尾上社長もスタッフを増やして頂けると私は確信を持っています。そうですね。その時は池田総支配人に求人依頼して下さい。
田中はすっかり圧倒された。ここまで良く成長したと心から賞賛した。お二人ともありがとう。じゃ、そのタイトルをもう少し練って下さい。後、エージェントにも確認宜しく。
えっ何を、今頃そんな事言ってるのですか?もう既に打診していますよ。と美和が笑って答えた。
それじゃ、私だけ、お二人より仕事が遅れてますね、参ったなと又笑った。
その頃翔太は、この頃やたらと美和と調理長の打ち合わせが頻繁に行われていた事が、気になっていた。別になにも翔太の出る幕は無いのだ。むしろ、これからが翔太の正念場なのだ。全て、フロントに掛かってくる重圧をコントロールして行かなければならない立場に成るのだから。それにはどうしても美和との確執が消えない限り翔太の立場が危ういのだ。
繁忙期を迎えつつあるとき、フロントと予約係りで問題が起きていた。予約では、神戸の女子高の修学旅行を入れているにも関らず、フロントでは安売りをネットで流してしまった。修学旅行ともなれば大口の団体で、しかも子供たちだから多くのお客様に迷惑を掛けてしまう事もある。こんな時に安売りをしたら個人客も増えて、回せなくなるのだ。
美和と、翔太が普段にも増して言い争っている、どっちに問題が有るかは明らかにフロントなのである。こうなる事を知っていて安売りを許可したのは翔太の独断であった。
今更、引き受けてしまったお客様にどんな言い訳をすれって言うんだ後藤支配人!逆切れだ。やはり、貴方だったのですね、こんな幼稚な事をして、私は少しも困りませんよ。今まで黙っていた美和がそう言った。まあ、フロントで犯してしまったミスも自分達で対応出来ないのでしょうから、ここは予約係がフロント対応しますから貴方たちは責任を持って修学旅行生の対応をして下さい。フロント担当支配人の私が責任を取ります。山口さんは余計な事をしないで只、与えられた仕事だけして下さい。
そこへ、業務担当支配人の河本がやって来た、山口さん貴方はいったい何をしたいのかこの場で説明をしなければ誰も納得しませんよ!
後藤支配人は、北島課長があんな事になってから予約も管理しているのです。貴方は、どうしたいのでしょうか、自分で招いてしまった事の重大さが!後藤支配人を陥れるおつもりですか?
そうだとしたらそれは、それは大変なご苦労をされてますね。貴方には後藤支配人を追い越せる力量があればいいんですが。あの時もそうでしたから・・・・・・・・・・
翔太はあの時って何時なんだ?と未だ築いてもいなかった。またしても余計な事を犯してしまった。
いよいよシナリオが完成した。各エージェントには十一月から美和、調理長の発案通りの内容で企画を出した。
日帰り入浴客も受け入れる事を更に追加した。田中はこれは面白くなるぞ、とにかく社長に申し付けられたことを実行して、後はこの企画が残った池田と美和、調理長そして山口に成功をさせてもらえればいいのだ。後は、自分がお膳立てするだけだ。
早速、熊谷に工事の手配を依頼した。条件は完全にテントを張り誰にも何を作っているのか解らなくさせる事と、三日以内に完成させる様に依頼した。
おい、田中お前も業界から遠ざかったな?なんだよいったい?
これ位のものなら、一日もあれば充分出来てしまうよ。お前俺のところに来たら、やっぱり繭ちゃんのアシスタントでもやる気かと冗談を飛ばされた。そのつもりだけどね、繭ちゃんのアシスタントなら願ったりだよと言い返した。じゃあいつ着工出来るか連絡頼むと言って電話を切った。池田を呼んだ、暫くして池田がきた。池田さんいよいよです、これから池田さんにはどんな事があっても成功の立役者になってもらいたい。そのためにはどうしてもあの二人の仲を何とかしなければどうする事も出来ないのですよ。
すると、池田がそろそろ言う時が来たんじゃないのですか?山口の昇格の事ですか?違いますよ、貴方が山口と後藤君の子供の面倒を見ている事を明かしませんか?駄目だよそれは後藤君を説得して私の養子にしたのですから、もう可愛くてね、私のところは子供に恵まれなかったからうちの奴もうすっかり可愛がっちゃって、私は家に帰る事はたまにしか有りませんが、ちゃんと覚えてくれいてそれがたまらなく可愛くて駄目だよそれは絶対言えない。
年を取ったからなおさらですよ。池田は少し難しい顔をしていた。
池田はそれが一番何よりもの解決策と田中に何度も言い聞かせたが、田中はもう意地を張った子供のように断固拒否し続けた。
あの人もやはり人の子か、池田は少し嬉しい思いになった。ならどうする、田中を安心させて送り出してあげる方法は?いくら考えても答えが出なかった。
翌日、熊谷から工事日の連絡が入った。早速だけど明日、ホテルの方は大丈夫か?
十一時から十三時位で出来るか?お前な三時間じゃ終わらないよ。そうだな、やかましい音を立てる作業はその時間で一度終了して、内装の装飾等は夜間でどうだ。それで構わない、二時でも都合はいいか?OK!
テントはそのままにしておいてくれよ、残った仕上げがあるからね。了解した。
じゃ、明日、予定通り手配するよ。あっそれと明日、繭ちゃん宿泊させてくれないかな?
勿論、大歓迎だよ。お前は来ないのか?そりゃお前のお陰で忙しくて行けないよ。
そうか、じゃあ久しぶりに繭ちゃんと差しで飲むか!お前倒されるぞ!ありゃ笊だな。
楽しみにしているよ、デラックスツインを用意して、馬鹿言ってんじゃないぞ。どうしようかな?と言って電話を切った。
翌日、定刻通り工事業者がやって来た。偶然、この日は尾上が来館していた。田中を呼び、あれは何だと聞いた。勿論社長の御指示された通り閉鎖していた売店後の再築です。
尾上は、何故に此処まで田中がやれるのか問いただした。社長の命令に従ったまでです。
私は、決して裏切りません今までどんなノルマでもやってきたじゃありませんか。
勝手な事をしやがって、直ぐに中止だ。それは無理ですよ。工事費も払ってますので、大嘘である。これは熊谷と田中がむかし面倒を見てきた業者の謝礼なのだ。
尾上は面子をすっかり潰されてしまった。
それでは、聞くがあれは何を作って何の目的なんだ。それは、オープンまで例え社長でも言えません。他に知っている者はいるのか?勿論います、しかし、これは社長ご自身で私にあそこを何とかしろと、ですので協力をしてもらった社員はいます。これは、私の最後のプロジェクトです。教える義務は有りません。全てグランディの為です。
例えそうだとしても何も私が解らなければ使い物にならないではないか。
それは大丈夫です。貴方に知られたら、グランディの元々のコンセプトを失いますので。余計な口を挟まれたら、台無しですからと嫌味を言った。マニュアルも整備しましたし、関る人材も決めています。お前にはもう、人事権は無いんだぞ!正直に申し上げますと、あの売店後は社長に言われる前から、私なりに構想していました。社長に指示された時には既に構想も出来ており人材も決めておりますので、人事権を持っていた時に決定していますので該当しないと思いますが?
勝算はあるのか?勿論です。無ければこんな事はしません。今後、このグランディの目玉になろうかと思います。社長?先程も言いましたがこのホテルのコンセプトは何でしたか?それがヒントです。
又も、尾上は屈辱を感じた。
尾上は血相をかいて田中!今日限りで退職願いを受理するもう貴様に用事は無い、帰れ!それはありがたいおお言葉です。今までお世話になりました。但し、この工事と企画は中止にはさせませんよ。例え社長でも、必ず収益が付いて来ますからね。と言って出て行った。尾上は工事業者をつかまえて作業の中止を言ったが、発注者が田中さんですので、中止は出来ませんといい工事を続けた.くそお、田中のやつめ、失敗したら撤去費用も田中にさせるだけだ。お手並みでも拝見するかと頭を切り替えた。
田中は家に帰り明日から、ホテルには行かない事を妻に言った。ちょっと想定外の事が起きたが大丈夫だ。
これから、正式にオープンするまで、家でミーティングをするが、お前には少し迷惑掛けるけど宜しく頼むよ。ハイハイ。
それと、後藤君がこの企画の責任者だ、折角の機会だから子供に合わせるといいんじゃないか?妻の顔が少し強張った。
無理も無い事だろう、もうすっかり母親なのだ。
翌々日、池田と美和がやって来た。こんなに遅くにすいません。いやいや気にしないで下さい。田中が先に報告を聞く前に確認した。あれから、社長はどうだ?
お手並み拝見だといって、田中が勝手にした事だと言い失敗したら撤去費用は責任を取ってもらうと言ってお帰りに成りました。
それで、どうだい出来具合は?レイアウトまで考慮されていたのには正直驚きました。
あれね、レイアウトを考えたのは私では無いですよ。確か明日、日南食品の南原繭那さんが宿泊する事になっていますね。その彼女がレイアウトしたんだよ。あの子も、建築家でね、頼んだんだですよ。明日、私は客として行くからその時配置を決めればもう私の仕事は終わりだね。美和が妙に落ち着きが無い、どうかしたかい後藤君?いえ別に何も・・・
子供の事だろう、妻が、昨日から実家に行っててね、何もお構いが出来なくて悪いね。
食事まだだろ、そう思って寿司注文してあるから間もなく届くよ。前祝と言いたいところだけど、二人とも車で来ているから、お茶で乾杯だ!美和はずっと寂しそうだった。
いよいよオープンセレモニーがやって来た。各エージェントを招待している。
尾上もこの日ばかりは嫌でも出席していた。その影で田中は序幕をまっていた。翔太もフロンで見ている。各エージェントからどよめきと拍手が送られた。こんな物は見た事がないと言わんばかりの声が賑わっている。あるエージェントに尾上がつかまった。エージェントの社員はこの企画の事実を知りながらも、あえて称えているのである。
尾上社長これは凄い企画を考えましたね。流石、尾上さんだ。やっぱり、コンセプトを大事にしていたのですね。いよいよ、スパホテルのトップの座に君臨出来る時が来ましたね。
ところで、田中さんはこんな大事な時に何処に行ってるのかな全く。社長直々の企画なのに。
困った人ですねと、わざとらしく言っている。尾上は、此処まで俺をお膳立てしていたのか、惜しい奴を手放してしまったと後悔をした。
セレモニーでは、着付けコーナーに美和が指導役とお客として女子社員数名で、料理教室では、指導役に調理長、お客に女子社員数名と男子社員数名でデモンストレーションを行った。それを見ている一般客もじっくりと見学している。今度宿泊する時に利用しょうとか友人に紹介しよう等多くの声で一杯で有る。
尾上は田中の事を忘れたかのように喜んでいる、そしてこれが当ホテルの目指すコンセプトです。ようやく此処までたどり着けたのもお客様皆様からのご意見が反映した結果です。これからも、ご遠慮なくどんどん意見をお出し下さい、皆様に喜んで頂ける新しいグランディを作って参りますのでどうぞ、今後とも御ひいきにどうぞ宜しくお願い致しますと調子のいい事を言っている。
セレモニーも終わり自社ホームページ、エージェント各社のホームページに掲載して、十一月一日より販売となった。見事に問い合わせが殺到して個人客、小団体からの予約が相次いだ。流石に、尾上も社員の募集をするように池田に指示を出した。
結局、尾上はこの工事代金を払う事にした。初めから田中はこう成る事を想定していた。
田中はその日、グランディに繭那と泊まりに来ていた。部屋食で夕食をすませ、池田と美和を部屋に招いた、繭那と美和は初対面とはいえ、繭那が卒業記念旅行で来ているが、互いに覚えているはずも無い。美和はただ、翔太が一時恋に落ちた相手では有るのを忘れる訳が無い。
田中が、紹介するまでも無かったが、一応自己紹介を済ませ本題に入った。池田さん、十一月から我々のいやいや貴方たちの企画がスタートしますね。エージェントの評判もいいですし、応援しますよ。それで、当日は、繭ちゃんも宿泊して着付け教室に参加しますから宜しく頼みます。私は、外から見守ってますので皆さんのご活躍を。
それから、人事異動の件社長は何か意見を言ってますか?それが全くなんですよ。それで構わないと言うだけで、少し拍子抜けしました。あの勢いなら全て撤回する勢いでしたからね。
池田さん、お願いです、僕はやっぱり人を見る目と育てる力にかけていた。二人が話しをしている時、美和と繭那がウェイティングバーにてアイスを食べに行っていた。
やはり、後藤君と山口はどうやってもこの先歩調が合わない。それは明らかに、翔太の力量が足りない事と、後藤君の足を引っ張る事しか眼中に無いようです。
美和から離れる部署に移動させてもらえませんか?その方が彼は未だ将来の有る青年だからこれからその機会はいつでも有ることをしっかり指導して納得さえて下さい。
池田も、同様に思っていた。なんとか配慮して彼が腐らない部署を検討します。
二人が戻ってきた。美和さんあのアイス結構美味しいですね。そ言ってくださって嬉しいわ、でもあのアイスクリームのマシーンの入れ替えも一苦労したんですよね、田中さん!
大した事でもないけどあれには参ったね。(笑う)
池田さん達は何時に仕事終わりますか、たまに温泉街の飲み屋にでも行きませんか?
新規開拓しましょう。解りました、一度オフィスに戻り一時間後に部屋までお迎えに来ます。幸いにして翔太は休みだった。河本君も連れ出しましょう、いいですね。と言ってひとまず部屋を出た。
程なくして、池田は河本と後藤を連れてやってきた。早速繭那に電話をかけてフロントロビーに来るように言った。繭那は大そう着飾ってやって来た。おいおい此処は温泉街だよ、繭ちゃんは、やはり華やかな人だと美和は感じた。嫉妬など無いむしろ交感を抱いた。
それじゃ、早速池田さんの新規開拓したお店にいきますか!
クラブかっぱという店だった。看板を見て田中は笑っているおいおい、
ホステスはかっぱかな?
田中さん驚かないようにして下さいよ!予想を裏切り、揃ってるじゃないかこれ、
池田さんも隅に置けませんね。連れの女性人もそうそう、クラブに行くわけでないので楽しくやっていた。
愚膳にも奥のボックスで飲んでいた翔太が見てしまった。何だ!あの組み合わせ!繭那さんまでも一緒か、やはり田中の野郎、美和を特別扱いにしやがって、よーく解った。おれを此処まで馬鹿にして追い詰めやがって!
繭那まで一枚かんでいたのか、美和と楽しそうにしているのを見て一層腹立たしさを感じた。
翔太の頭の中は復習心で一杯であった。
やあ、池田さん今日は、楽しかったですよ、又、来ましょうといってホテルに戻った。
翔太は何時間ここにいたのだろう、酒も飲み過ぎ、すっかり財布の中が消えてしまった。
翌日、田中と美和はこっそりとチェックアウトした。
ようやく、晴れの舞台の日だ、池田はこの教室担当者はお客様に注目を浴びる、主役は君たちだよ。初めは誰でも緊張するが今までやって来た事をするだけだ、笑顔を忘れないように頑張ろうと言って送り出した。
チェックインが済み、温泉帰りの女性が数名着付け教室に入った。中では賑やかそうに着付けを楽しんでいる。料理教室では以外にも男性客が多く見られた。途中、美和が休憩を取り、込み合う時間の夕方七時からのシフトを取った。予想通り一通り食事を終えたお客様、入浴帰りのお客様と大繁盛であった。その中に友人たちと宿泊に来ている繭那もいた。
美和と繭那が揃って、着付けを教えている。
翔太はチャンスを伺っていた。今日は無断欠勤している、前の日に調理場から柳刃包丁を胸に忍ばせていた。
今だ!翔太は着付け教室に入り後姿の美和に忍ばせていた柳刃包丁で背中を突いた。
周囲は一瞬静まり帰ったが直ぐに悲鳴に変わった。轟然と翔太は立ち尽くしている。
それを見た、料理教室の調理長が翔太を取り押さえた。
倒れ伏している女を見て翔太は、気が狂ったように叫んでいた。それは繭那だった。
その日、人事発令が有り池田は田中との約束を破り翔太をフロント担当支配人と張り出していたのだ。
この企画を最後に田中には内緒で美和から一二月三十一日で退職届けが既に出されていたのである。池田は苦渋の決断で翔太を昇格する人事を発令したのである。それも知らずに又、先走ってしまう運の無い男だった。
十五年の歳月の刑期を終えた翔太は繭那の所に彼女の好きだったカサブランカを持って、そこには、七十歳程の男と自分と年の変わらない女と十八歳ほどの娘が手を合わせていた。
まさか、俺の子か・・・・・・・・
ようやく解った、皆が種馬と言っていた事が、何もかも遅すぎた。愚かな種馬だった。
涙が、流れ落ちた。すまない美和・・・・・・・




