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性分ではありません  作者: 紫音
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第8話

「……減りませんね」

「お嬢様は時間が経てば何か解決するとでもお思いだったのですか?」


アルフレッド様との婚約が解消されてからお父様の下にはマージナル家と懇意にしたいと考えている者達から婚約者になりたいと言う方達からの手紙や贈り物が届けられています。

私は傷心のため、しばらくは婚約など遠慮したいと引きこもるつもりではあるのですがマージナル家まで出向いて来られる方も多く、顔を合わせずに帰すわけには行かず、学園から戻ると婚約を申し出てくれた方達とお話をする日々が続いています。

そのせいか、ここ最近は大好きな刺繍や畑いじりもできていません。本日も歯の浮くようなお世辞しか言わない方とのお話を終えて自室に戻りました。

減らない婚約話に自室に付くなり、大きなため息を漏らしてしまいます。そんな私の様子に侍女の『イルム』は呆れたようにため息を吐きます。


……それに関して言えば、解決するなどとは思っていません。


私だって、侯爵家であるマージナル家の令嬢です。自分が政略結婚のコマだと言う事は理解しています。

ただ、お世辞しか言わない男性とは婚約を進めて良い物かと思ってしまいます。私の傷心中と言う演技にお父様とお兄様はため息を吐きながらも付き合ってくれているためか、多くの婚約話から興味が湧いた相手がいれば話を受けるようにとおっしゃってくれていますのでしばらくは時間が取れると思いますけど。


「解決するとは思っていませんが」

「煩わしいとお思いでしたら、早急に婚約相手を見つけてください」

「そうできれば良いんですけどね」


イルムは婚約者を決めてしまえば、煩わしい事は終わると言う。それに関して言えば納得はできるのですが、ただ、お話をしてみた限りでは軽薄な方達ばかりでどうしても返事は出来ない。

長くマージナル家に仕えてくれているイルムに隠し事などできるわけがないため、適当な事を言っても仕方ない。

できれば、私の趣味に理解がある男性が良いのですけど……それはわがままなんでしょうか? 自分が変わり者と言う事は理解しているつもりです。


「お嬢様のわがままです。刺繍などはたしなみですが、ご自分で畑に出向くのは止めていただきたいです。侯爵家のご令嬢が土いじりなどされるべきではありません。日焼けを隠すのも大変なんですからね」


……さすがに付き合いの長い彼女には考えている事も読まれてしまうようです。

ため息を吐かれてしまうのですが止める気などはありません。これは趣味だからと言うわけではありません。現状、働き手は多い方が良いのです。

少しでも人手を増やす事で作物やお花の状態を確認して行かなければいけないのですから病気を見つける事ができればすぐに対処できるし、やる事などいくらでもあります。


「……土いじりがしたくて、煩わしい殿方とのお話に付き合いたくないのでしたら、アルフレッド様の下について行けば良かったですのに」

「それはないですわね」

「それは承知しています。煩わしいとお思いでしたら、ご自分の目で婚約のお相手を早く見つけてください」

「これは何ですか?」


これからも土いじりを続けて行くと心に誓っていた隣でイルムはアルフレッド様のお名前を出します。彼女に彼の去り際の言葉を確かに話しましたがだからと言って、彼の下に行くなどと言う事はあり得ません。それは彼女もわかっているようでため息を吐くと私の前に大量の手紙の束を置きます。

手紙の束がお屋敷まで来られない方達から送られて来た婚約の申し入れだと言う事は容易に想像がつきます。ですが、それでも認めたくはないため、イルムに聞いてみます。

彼女は何をいまさらと言いたいのか、呆れたとため息を吐きます。


「……今から、これに目を通さなければいけないのですか?」

「そうなりますね」


正直、うんざりだとため息を漏らすのですがイルムの口から出る言葉は突き放すような言葉です。

どうせ、この中に書かれている言葉も軽薄な言葉や痛い詩などでしょう。私の事を自分が成り上がるためだけのコマだと考えている事はわかるのですが、もう少し、私を見てくれる殿方はいないのでしょうか?


「ご理解をして欲しいとおっしゃられるのでしたら、フォノス様からのご婚約を受けたらよろしいと思います。フォノス様は誰よりもお嬢様の性格を理解されています」

「それはダメよ。マージナル家やバルフォード家のためになりませんわ」

「体裁が悪いと言うのはわかります。それが両家のためにならないのもです。ですが、そう思っているのはお嬢様だけかも知れませんよ」


フォノスが私に好意を向けてくれていたのはマージナル家に仕える者の中で周知の事実です。

彼は昔から私の事を見ていてくれたのですから、私の趣味にも理解があります。ですが、兄がダメだから弟と言うのは体裁が悪いと思います。

それに私にとってフォノスはやはり可愛い弟でしかないのです。そう思い、即座に否定するのですがイルムは聞き捨てならない言葉をため息交じりで吐き出しました。


どういう事でしょうか? まさか、お父様達が私とフォノスの婚約を進めていると言う事でしょうか?

いえ、そんな事をするような方達ではありません。それならばどういう事でしょうか?

お父様達に限ってそのような卑怯な事をするわけがない。ですが、イルムの事です。その言葉には意味があるはずです。

付き合いが長いためか、彼女の言葉には忠告など多くの物が含まれている事が多い。


「……フォノスに何か近づいてきているのですか?」

「フォノス様はバルフォード家の後継者として選ばれたのです。お嬢様は両家の事をお考えですが」

「……ラグレット家はそうではないと言う事ですか?」


そこで私の頭が導き出した答えはフォノス自身に何か危険が迫っているのではないかと言う懸念でした。

私も考えてはいましたがそこまで恥知らずの事はしないと考えていました。ただ、イルムの口ぶりからはすでにラグレット家の魔の手は彼に向かっているようです。

ため息しか出ませんが可愛い弟のために何か手を打たなければいけませんね。


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