第7話
「ご理解いただけましたか?」
「納得がいかない事もあるが……確かに気に入らない人間がいるからと言っても圧力をかけるような女ではなかったな」
アルフレッド様の理性が事実を突きつけられた事で感情を抑え込んだように見えました。
確認してみるとアルフレッド様は私の顔を見て、ため息を吐かれます。
お互いに好意は持っていなくてもさすがは幼なじみな元婚約者様です。若干、バカにされているような気がしますが事実を事実として認識されたのですからのどまで出かかっている言葉を飲み込みました。
「はい。それにバルフォード家の後継者としてアルフレッド様が邪魔なら、追い払って、私はフォノスの婚約者になるはずでしょう。私は当然、断りましたよ」
「だろうな。フォノスは昔からお前を慕っていた。その時はずいぶんと落ち込んでいたのだろう」
私はフォノスから婚約の申し入れを断った事でバルフォード家の領地などマージナル家は欲しがっていない事を説明する。
アルフレッド様もフォノスの私への想いには気が付いていたようですが自分の事を見下しているフォノスが振られてしまい、いい気味だとも思っているように見えます。
この人間性の小ささは直らない物かと思い、ため息が漏れてしまいました。
私のため息はアルフレッド様にしっかりと聞こえていたようで睨まれてしまいます。
誤魔化すように紅茶のカップを口に運びます……しかし、カップの中は空になっています。
「……追加注文でもするか?」
「いえ、必要はありませんわ。それではお話はここまでと言う事でよろしいでしょうか?」
「もう少し付き合っても良いだろう」
カップが空なのはアルフレッド様にも気が付かれていたようです。
先ほどのため息への当てつけなのか、ため息を返されてしまいました。
何事もなかったかのようにカップを下ろすとにっこりと笑って見せる。
私にはこれ以上、アルフレッド様とは話す事はないと言う意味を込めたつもりなのですがアルフレッド様はまだ何かあるのか、店員を呼び寄せてコーヒーを追加する。
これ以上、何を話す事があるのかと言いたいのですが追加注文をすると言う事は長くなりそうです。仕方ないとため息を吐き、私も紅茶を追加します。
「あまり長いお話は勘弁して欲しいのですけど」
新しく運ばれて来た紅茶を1口飲んだ後、不満そうに言う。
これは本心です。私はお屋敷に戻ってお花の世話をしたいのです。
「バルフォード家への融資の件なんだが、引き続き、行ってくれるように小父様に頼んでくれないか?」
「融資の件ですか?」
「……今年もあまり多くは望めないだろう」
後継者から追い落とされたとしても、バルフォード家の行く末は気になっているようでアルフレッド様は頭を下げられました。
挫折でわずかながらの成長が見られたと言う事でしょうか? ただ、先ほどからも主張しているように私はそのような事を進言する立場にはいません。
まあ、お父様はこの程度の事で融資を切るような事はされないでしょう。
「私に頼むのは無駄だとは思いますが、だいたい、婚約破棄程度の事でお父様と小父様の友情にひびが入るとお思いで?」
「……自分で婚約破棄をこの程度と言うのはどうかとは思うが、万が一と言う事もあるだろう。小父様はお前の事を可愛がっているからな」
「お父様はそんな了見が狭い方ではございませんわ」
そんな心配は無意味だとため息を吐いて見せる。
アルフレッド様もお父様と小父様が仲たがいする事はないとは思っているようですがそれでも自分がやった事は理解されているようです。
バルフォード家の財政を理解していたのならばもう少し婚約破棄への持って行き方を考えれば良かったのではないかと思いますが、それほどまでに私との婚約をすぐにでも破棄したかったようです。
嫌われるようにアルフレッド様の耳が痛い言葉を話してはいましたがどうやら間違ってはいなかったようです。
「小父様の事は信用しているが私はレグルス殿の事を信用はしていない」
……どうやら、お兄様やフォノスがアルフレッド様の事を快く思っておられないようにアルフレッド様もお兄様の事を快く思っていないようです。
優秀だと評判なマージナル家次期当主のお兄様と比較される事もあったのでしょう。自尊心の高いアルフレッド様の中ではお兄様と比較されて悔しい思いをされていたようです。
そんなお兄様の実妹が婚約者。嫌われたのはこの辺りにも原因がありそうですね。
別によりを戻す気はありませんがそう考えると少しだけ可哀そうになりますね。
「そうですか? ……すでにこの件は終わっていると思いますが、私からもお話しておきましょう」
「頼む」
すでに融資が無くなる事が無い事はわかっているのですが、アルフレッド様が納得するならと思い、頷いて見せる。
私の言葉にアルフレッド様は素直に頭を下げられます。その様子に少しだけ驚いてしまうのですが表情に出す事はありません。
動揺を抑えるために紅茶を口に運びます。
「……私の言いたい事はこれで終わりだ」
「そうですか……こちらをすぐに発たれるのですか?」
アルフレッド様は頭を上げるとこれ以上の話はないと言う。
頭を下げたもののやはり、自尊心の強い彼は女の私に頭を下げるのは納得がいかないようです。
好奇の視線を受けている事もあり、アルフレッド様は席を立とうとする。
特に留める理由はないのですがアルフレッド様は子爵領をいただいたため、その領地運営を行わなければいけません。そのため、この学園は休学扱いになると言う噂を聞きました。
名残惜しくはありませんがそれでも聞いておくのが礼儀かと思い、聞いてみるとアルフレッド様は驚いたような表情をされます。
「どうかなさいましたか?」
「……お前がそのような事を聞くとは思ってもみなかった。よりを戻したいとでも思ったか? お前のような変わり者は田舎で畑などをいじっている方が良いのだろう?」
「確かにその辺りは魅力的ですが、アルフレッド様とよりを戻す気などまったくありませんわ」
以前にアルフレッド様にバルフォード家に嫁ぐのだから、土いじりは止めろと言われた事がありますが当然、拒否をしました。
その時の事をアルフレッド様は覚えたようです。婚約を破棄されながらも遠方の領地にマージナル侯爵家の令嬢が付いてきたと言う話になれば自分が優秀だと周囲に広める事ができると言う打算的な思惑もあったのでしょう。まるで付いて来いと言いたげに言われました。
ですが、私はこのような性格が合わなかったため、婚約破棄に動いたのですから笑顔で拒否をします。
「そうか」
「はい。アルフレッド様、道中、お気をつけください。いろいろと……」
「そうさせて貰う。お前も気を付けた方が良い。おかしな者達がいるようだからな」
拒否される事は考えておられたようですがアルフレッド様は自分の思い通りにならない事に舌打ちをしました。
その様子が面白くて小さく吹き出してしまいました。アルフレッド様は私の顔を見て苦笑いを浮かべられるのですが私達を遠巻きで眺めていた者達の気配が変わる事に気が付いてしまいました。
気配が変わった事にアルフレッド様も気が付いたようです。それどころか私が先ほどまで知らなかった私の親衛隊の事も知っていたようで忠告をした後に逃げるようにこの場を離れてしまいました。
……本当に私の親衛隊を名乗っている方達は大丈夫なんですかね?