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性分ではありません  作者: 紫音
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第50話

しばらくマージナル侯爵領でまったりとされていったヴィンセント様はお帰りになる間際に私に報告書を手渡しました。

それもこの報告書について質問をしようとすると先ほどまでまったりとされていた事など知らないと言いたいのか、まるで忙しいだと言いたげに足早に馬車に乗り込んでお城に帰られてしまったのです。

彼の行動にため息を漏らしながらも自室に戻って報告書をぺらぺらとめくって行くとその報告書にはおこぼれに預かろうと近づいて来た者達だけではなく、私が調査していた多くの貴族、有力商家の情報が記されているのです。

それも情報も記されているだけではなく、各家同士の繋がりや領内の特産物などと言った物まで事細かに書かれているのです。


「……助かりはするのですがこれは外部に漏らして良い情報なのでしょうか?」


特産物の中にはアリシア様からの依頼であるお城の中庭を彩るのに充分な植物もあるのです。

それだけではなく、すでに協力を仰ぎ、承諾を得た方達の名前も記されているのです。まるで私が誰に協力を仰ごうとしていたかを知っていたかのようにです。

報告書の出来の良さに読み進めながらため息が漏れてしまう。


……遊んでいるように見えていろいろとしているのでしたら、ご自分で中庭の手配をなされば良い物を。


これだけの報告書を見せつけられればヴィンセント様が優秀な事は簡単に理解できます。

実際、華やかな場に出る事無く、何をしているかもわからないのに皇帝を継ぐ事は揺るいでいないのですから間違いなく優秀なのです。


「……私がアリシア様のお願いを聞く理由があるのでしょうか? ヴィンセント様なら1人でも問題なく、アリシア様のご期待に答えられますのに」

「それはもちろんあります。お2人の初めての共同作業ですから」


頭を抱えていた問題の解決の糸口が見つかったため、肩の荷が下りたと同時にもう1度ため息が漏れました。

そして、私のため息が漏れるとほとんど同時に背後からイルムの声が聞こえます。


「……イルム、おかしな事を言わないでください。後は部屋にはいる時はノックをしなさい」

「お言葉ですがお嬢様、私はいつも入室時にはノックをしております。お嬢様、おかしな事とおっしゃられますが、実際、アリシア様はお2人がそのような関係になられる事を望んでおられるのですから……お嬢様、以前からお聞きしたかったのですがそこまでヴィンセント様がお嫌いですか?」


長い付き合いとは言え、音もなく、部屋の中に入ってくるのは止めて欲しいと非難するようにため息を吐いて見せる。

しかし、彼女は気にする事無く、持ってきたティーポットからカップに紅茶を注ぎ始めます。

ただ、相変わらずの私とヴィンセント様をどうにかしたいと言う考えに眉間にしわが寄ってしまいました。

そんな私の表情を見て、イルムは肩を落とします。


……別に嫌いではありませんがお互いにそう言う気持ちにはなりませんしね。

これが私の率直な気持ちです。


元々、結婚に興味がありませんし、近づいてくる男性はマージナル侯爵家とのつながりが欲しい者達を見ているせいか結婚は家同士の繋がりにしか思えません。

お父様やお母様のように仲の良い夫婦もいるとは思いますが自分にはそのような相手が出来るとは思えない。

そんな中で幼い頃からそばにいたアルフレッド様との婚約は結婚に何の希望も持っていない私には好条件だったのかも知れません。

ただ、お互いに伴侶と思うにはいろいろと足りなかったのでしょう。


「別に嫌いではありません。ただ、好きでもありません。現状では特別な感情などは持ち合わせてはいませんね」

「そうですか」


イルムの質問にふと幼なじみであり、元婚約者だったアルフレッド様の顔が思い浮かびました。

自分がなぜ、彼の顔を思い浮かべたのかわからずに小さくため息を漏らした後、現状では恋愛感情と言う物は持ち合わせてはいないと事を伝えます。

私の言葉にイルムは小さくため息を吐くのですがその表情はまだ何か言いたそうに見えます。


「まだ何か言いたいのですか? 私も忙しいのですよ。先ほどまで邪魔も入っていましたからね」

「以前、お嬢様は私達を裏切り者とおっしゃりましたが、私達もお嬢様が本当にヴィンセント様の事がお嫌いでしたら、お嬢様の味方をしたいと思っています。ただ、皇帝妃であるアリシア様や皇帝様まで動き始めては私達では何も言う事は出来ません。それはご当主様も同様です」


このままイルムが部屋に残っているとヴィンセント様との婚約話に持って行かれそうなため、話を切って彼女を追いだそうとします。

ですが、イルムは私の言いたい事を理解しながらもアリシア様に目を付けられてしまった事で私達の意志は関係なくなってしまったと言います。

彼女の表情には少しだけ悲しげな物が混じっているのがわかります。それに彼女の言いたい事は侯爵家と言う立場である私自身、この国に家名を連ねる者として理解できる物なのです。


「わかっています。もし、皇帝様からの命令が下れば私やお父様、ヴィンセント様も何も言えないでしょう。それくらいは理解出来ています」

「特にヴィンセント様は今も自由になされている分、皇帝様が本気で命令を出せば逆らう事は出来ないでしょうね」


イルムと顔を合わせてため息を吐きます。

どうしてもこの問題はヴィンセント様が今まで勝手気ままにやっていたせいにしか思えないのです。

もっと早くに婚約者を見つけて、次期皇帝として政務を執り行っていてくれていればこのような問題にはなっていなかったはずです。


「……一先ずはこの件はここまでにしましょう」

「そうですね。少し面白くありませんがヴィンセント様から頂いたこの報告書で面倒だった物がいろいろと進みますから」


イルムとの間に微妙な空気が漂います。

ただ、原因が私でもイルムでもないため、彼女は眉間にしわを寄せながらこの話はこれまでにしようと言ってくれます。

全面的に同意のため、頷いた後、止まっていた手を報告書に戻します。


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