第47話
「……なぜ、そのようなお話になっているのですか?」
「本当に理解できないのか?」
1つ咳をして、状況を整理するために兄様に話を聞くと兄様は眉間に深いしわを寄せながら聞き返してくるのです。
まあ、婚約問題は一先ずは横に置いておいたとしても少なからず、アリシア様には気に入られてしまったような気がしますからね。
マージナル家と縁続きになりたいと考えるのはある意味、貴族として当然の考えでしょう。
「……兄様が婚約者も作らずにふらふらとしているからですね」
「お嬢様、確かにそれも問題ですが、レグルス様がおっしゃりたいのは別の問題です」
ヴィンセント様と婚約などする気もないため、あくまでも私の責任ではないと言う意味を込めてため息を吐いて見せます。
私の言葉に兄様の額には青筋が浮かび上がるとイルムが平然とした様子で話を戻すように言うのです。
兄様相手でも暴言を平然と放つ、私とイルムの様子にラティート様の頬が小さく引きつるのですがあまり気にする必要はありません。
これはマージナル家では日常の光景なのですから。
「ユミール伯爵様はマージナル侯爵家と仲良くしたいと言う事なのでしょうね」
「そのようだ……まったく、わかっていたのだろう。もう少し考えて動けないのか?」
あまり兄様の怒りに火を点けてもいけないため、ため息を吐いてユミール伯爵様のお腹の中について話します。
兄様は小さく頷いた後、アリシア様のお願い事への私の行動の甘さを非難するように言うのです。
ただ、私も私なりに考えた結果で動いているため、兄様に謝罪する気などありません。
「考えて動いた結果ですわ。だいたい、兄様に婚約話がくるのは兄様がいつまでもふらふらとしているのが悪いのです。私には関係はありませんわ。だいたい、私はアリシア様の命で動いているのですからマージナル家に好意的かそうではないかで協力を仰ぐ相手を決めるわけには行きません」
「それは確かにそうなのだが……」
公平に考えた結果であり、兄様に文句を言われる筋合いなどまったくないと笑顔で言って見せる。
公私混同をしていない結果と私の性格を熟知しているためか、眉間に深いしわを寄せて黙ってしまいます。
兄様を黙らせ、本題に移るために一息つこうとイルムの淹れてくれた紅茶を口へと運びます。
「それではラティート様、本題に……あのですね。あまり、怖がられると私もお話がしにくいのですけど」
「す、すいません」
カップを置き、ラティート様へと視線を向けます。ですが、彼女はいつも通り、私から視線をそらすのです。
このままではお話もまともに出来ないため、怖がらせてはいけないと小さく微笑んで見せるのですがなぜか彼女はさらに身体を縮ませるのです。
……サーシャ様はどうやってラティート様とお話をしているのでしょうか? 今後の事を考えると近いうちにご教示していただかないといけないかも知れませんね。
頭が痛くなってきますが、下手にため息を吐いて見せてはお話もまともにできません。
ラティート様が落ち着くまで少し時間が必要と判断して紅茶へと手を伸ばします。
そんな中、私の視界になぜかサーシャ様のお姿が映りました。
「レグルス様、お久しぶりです」
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ。しかし、サーシャ、なぜ、ここに? ……イルム、お前の仕業か?」
自分を止める者など誰もいないと言いたげに平然とサーシャ様はこちらに向かってくると兄様に向かって挨拶をします。
サーシャ様に対して兄様はあまり良い感情は持っていませんがそんな感情を表情に出す事無く、挨拶を交わすと私へと視線を向けました。
それはサーシャ様を招待したのが私かと言う意味が込められているのですが、私にも当然、心当たりなどありません。言葉に発する事無く、視線で自分ではない事を伝えます。
どうやら兄様も私と同じ考えに至ったようでイルムへと視線を向けるが彼女は平然とサーシャ様の紅茶を淹れている。
彼女の態度に推測は確証へと変わるのですが現状、ラティート様とまともに会話の出来ない私にはお話を進めるためにもありがたい事です。
「ラティート、少しは慣れてはどうですか?」
「ど、努力します」
サーシャ様が現れた事で兄様はお仕事があると言って逃げてしまいます。
その様子を見送った後、サーシャ様はため息を吐きながら、ラティート様に声をかけるのです。
ラティート様は彼女の言葉にはすぐに頷いて見せるのですが、怖がられている私としては若干、納得が出来ません。
「ラティートとルディア様の間にこの私を立たせて話を進ませようとは相変わらず、立場もわきまえない侍女ですわね」
「サーシャ様にお褒めいただけるなど光栄です」
予想通り、サーシャ様をこの場に呼び寄せる手配をしたのはイルムのようでサーシャ様は彼女を睨み付ける。
しかし、イルムはサーシャ様の怒りもどこ吹く風でいつも通りの態度で控えているのです。
彼女の様子にサーシャ様は苛立ちを覚えているようですが彼女のペースに巻き込まれる事が厄介だと言う事は自覚しているため、舌打ちをするだけでイルムに毒を吐く事を止めてしまいます。
イルムに勝てないと判断したサーシャ様は私に向かい鋭い視線を向けてきます。それは早く本題に移るようにと言う催促を意味している事は容易に想像が付きます。
「サーシャ様、本当によろしいのですか?」
「あなたにだけ、手柄を取らせるわけにはいきませんわ」
彼女の性格を考えれば私に協力など進んでするわけがない。
サーシャ様の事ですから、当然、私を手伝う事で自分への利益がある事も理解しているのでしょう。
忌々しそうな表情を見せてはくれていますが協力を約束してくださいました。
……私に協力すればヴィンセント様やアリシア様の覚えが良くなると思っているのでしょうけど、お2人からのサーシャ様の嫌われ方は予想以上ですからね。
まあ、そんな事を言って、機嫌を損ねてしまっては時間を無駄にしてしまいますから、口には出しませんけど。




