第45話
「……ユミール伯爵家領内からお花を? やはり、懐柔しようとなさっているではないですか?」
「違います。それでは聞きますがマージナル家の物だけを使えば、サーシャ様は何も言いませんか?」
マージナル家領内からのみ、中庭に植える植物を選んでは良からぬ噂を立てる者がいるため、他家からも集めたいと説明をするのですがサーシャ様はそれを引き抜きと判断したようです。
お怒りの様子が見て取れてため息が漏れてしまいます。元々、マージナル家は私が趣味で土いじりを行っているため、季節に関わらず、多くの花々を育てているのです。他家に頼らなくても王城の中庭を彩る事は可能なのです。
私のため息にむっとするサーシャ様に考えてみて欲しいと言うと彼女は面白くないと言う表情を隠す事無く、少し考え込みます。
「……もちろん、言いますわ。アリシア様の命令を良いように使って自分の利益を追求したと」
「私はそのような風に言われるのは大嫌いですので。そう言われないように懇意にしている方やそうでもない方まで平等だと言われるように選びましたわ」
……私にどうすれと?
考えたうえで出てきたサーシャ様のお言葉はマージナル家が利益を独占したと言う物であり、ある種、予想通りの言葉に眉間にしわが寄ってしまいました。
私とサーシャ様の様子にラティート様を含めたサーシャ様のご友人達が慌て始めるのですがお互いに笑顔で威嚇をしあいます。
「まあ、良いでしょう。それでユミール伯爵領に目を付けたわけね」
「目を付けたと言うのはお言葉が悪いですがそんなところです。申請をしていますから王城からの使者があると思いますので早急に対応できるように伯爵様にお伝え願いたいと思ったのです」
しばらく、笑顔での睨み合いを続けた後、サーシャ様は不本意ながらも納得したと頷かれます。
それに今回の件はあくまでもアリシア様の命令で動いている事なので元々、指定された家に反対など出来るわけがありません。
突然の知らせに戸惑い準備が遅れてはその家の者達が罰せられる可能性もあるため、事前に私が動いているのですと告げます。
サーシャ様は納得されていないようで不本意だと言いたげな表情ですが彼女のご友人達は私の言葉に納得していただけたようで小さく頷いてくれます。
「ラティート様、ご協力お願いできますでしょうか?」
「は、はい。わかりました」
サーシャ様のご友人達の様子に一先ずは一仕事が無事に終えたため、ほっと胸をなで下ろします。
ですがサーシャ様はまだ何かあるようで私を睨み付けたままなのです。
彼女が不機嫌であろうと関係ないと割り切れれば良いのですが彼女とは付き合いも長いため、放っておけば余計に面倒な事になると言う事は容易に想像が付きます。
「サーシャ様、何かご不満でも?」
「そんな事を言ってユミール伯爵の下には使者が現れないと言う事はありませんよね?」
面倒事になる前に彼女に声をかけると予想外の言葉が戻って来ます。
彼女が言うには私がサーシャ様のご友人を嵌めるために使者を通さずに話をしに来たと言うのです。
その言葉に一瞬、呆気に取られるのですが確かにその可能性を疑う事は必要だと考え直します。
「ありませんと言いたいところですが、信じて貰えるかは別ですね」
「……私が言うのもなんですが、良くそんな事を平然と口にできますわね」
私自体は派閥と言う物は好みません。元々、あまり、交友関係も広い方ではありませんので信頼されているかはわかりません。
冷静に分析した結果であり、どうするべきかと首を捻ってしまいます。それなのに私の言葉になぜか問題提起したはずのサーシャ様がため息を吐かれるのです。
「事実でしょう。現にサーシャ様は私の言葉など信じてくれませんし」
「あ、あの、サーシャ様……何でもありません」
どうするべきかと考え始めた時、ラティート様がサーシャ様の名前を呼びました。
彼女が声を上げると視線は彼女に集まるのですがその視線にラティート様は身を縮めてしまうのです。
自分から発言する事が苦手な彼女は言葉を飲み込んでしまいます。
「ラティート、言いたい事があるのなら言いなさい……はっきりなさい!!」
「……サーシャ様、そのように声をあげては言いたい事も言えなくなります」
そんな彼女の様子にサーシャ様は我慢が出来なくなってしまったようで声をあげます。
その声にラティート様はびくっと小さく身体を震わせてしまうのです。このままではサーシャ様の怒りに油を注ぐ結果しか見えず、助け舟を出すのですがそのせいかサーシャ様にしっかりと睨み付けられてしまいます。
「あ、あの。ディ、ディアナ様はそのような事はなさらないと思います」
「……なぜ、そう思うのですか?」
ラティート様は小さな声で私を信じてくれると言ってくださいました。
ただ、その言葉にサーシャ様が不満の声を上げるのです。
再び、睨まれて身を縮めるラティート様の様子になぜ、彼女がサーシャ様の取り巻きの1人をなさっているのかが理解出来ず、眉間にしわが寄ってしまいます。
「サーシャ様、落ち着いてください。ラティート様も言いたい事を言えなくなってしまうではないですか?」
「……」
あまり長い間、時間もかけていられないため、落ち着いて欲しいと声をかける。
彼女は1度、ラティート様へと鋭い視線を向けた後、不満げな表情でしぶしぶ頷かれました。
「ディアナ様はそのような事を出来るほど器用な方では……申し訳ございません」
「いえ、別に怒ってなどいません。ありがとうございます。助かりましたわ」
ラティート様は私がそのような事は出来ないと言ってくださりましたがその言葉には何かが引っかかります。
わずかに表情に出てしまったようでラティート様は慌てて頭を下げます。
何か引っかかってはいますが一先ずはユミール伯爵家からの協力は得られたと考えて気にしない事にしておきましょう。
しかし、ラティート様は了承してくださいましたがサーシャ様の言う通り、私に協力してくださるとは限りませんし、何か方法を考えなければいけませんね。




