第43話
「とりあえずはこの辺でしょうか?」
「そうか」
「……興味なさそうですわね」
ヴィンセント様が国内を歩き回っていた話を聞きながら、花の特徴を聞いて学術書や研究書で調べて行きます。
現状での王都の中庭はすでに色あせているため、1から育てるのではなく植え付けて行く事になります。そのため、マージナル侯爵家領内で育てている観賞用の花をある程度移し替えて行くのですがマージナル侯爵家領内の物ばかりでは他の貴族達からも不評を買う可能性も高く、それなりに購入先も考えなければいけません。
一先ず、めどが立った事に胸をなで下ろすのですがヴィンセント様は未だに先ほどの言葉が気に入らないようで不機嫌そうな表情をされています。
……まったく、もう少し大人になっていただけないでしょうか?
出会ってから何度もお話をしていますがいたずら好きの子供と言う印象もありますのでもう少し態度を改めて貰いたいものです。
男性と女性では考え方が違うとは聞きますので言っても仕方ないと考えるのですがため息が漏れてしまいました。
私のため息を見て、ヴィンセント様はそうだなと小さく頷かれます。
「国内を見て回ってはいたが観賞用の花などより、食糧問題の方が大切だからな」
「それは確かにそうかも知れません」
「別に否定しているわけではない。それに領内で作物を育てるのに向き不向きがある事も理解している」
ヴィンセント様は国内を視察していた間に注目していた物は国民を飢えさせないために必要な物であり、それはこの国を継ぐ者として重要な事だとも思います。
観賞用の花などは衣食住そろって初めて注目される物である事は確かです。ですが、作物を育てられない土地で行える事を探すのも国を継ぐ者として重要な事だと思います。
実際、領地を持っていても作物からの収入が当てにならず、他の物で収益を出している領主様もおられます。
そのような方達の努力も認めて欲しいと言おうとした時、それくらいはわかっていると言いたげにヴィンセント様はため息を吐かれました。
「それならよろしいのですが」
「ルディア嬢が考えているのはそのような土地からなるべく多くの物を買いつけろと言う事だろう?」
「そうですね。マージナル家領内の物を使い過ぎるといろいろと面倒な事になりそうですからな」
私の考えを理解してくださっていたようでヴィンセント様は小さく口元を緩ませます。
人の考えを理解した時に楽しそうな表情をする彼の様子にどこか底意地の悪さが見え隠れするのですが彼の言う通りのため、頷いて見せます。
「確かにそうだな……ただ、それをすると母上の思うつぼだとは思うぞ」
「そうでしょうね。これがアリシア様の私をヴィンセント様の婚約者にするための試験だと考えるのであれば、私は婚約者にならないためにもすべてマージナル侯爵家領内の物を選ぶべきです。ただ、それはこの国のためにはなりませんから」
この国の次期皇帝妃として平等な目を試されている事は理解しています。その試験から落ちるために選ぶ答えは見えてはいます。
ただ、それを行えばマージナル侯爵家や私に中庭の手入れを要請したアリシア様の品位が疑われます。
そう考えると不本意ながらもアリシア様の手のひらの上で踊らされなければなりません。
ただ、なんとなく面白くないため、巻き込まれた原因となったヴィンセント様を睨み付けて起きます。
「そうか……」
「……ヴィンセント様、状況は理解していますよね?」
「ああ。理解している」
「そう考えるのでしたら夜会にでも出席してくださりませんか? ヴィンセント様が王都に戻ってきてからしばらく経ちますけど、1度も夜会に出席したと言うお噂は私の耳には入ってきません」
何度も言うのですが、アリシア様が私をヴィンセント様の婚約者にしようとしているのはヴィンセント様本人が良い人が探してくれないためです。
実際、ヴィンセント様と出会ってから何度か夜会が開かれているのですがヴィンセント様が出席されたと言う話は聞いておりません。
もう少し真剣に婚約者を探してくれませんかと言う意味合いを込めてため息を吐いて見せます。
ヴィンセント様は私の言葉に眉間にしわを寄せると何かを考え込むように頷かれました。
「……ルディア嬢も夜会には出席していないではないか?」
「私は変わり者の侯爵令嬢ですから」
「便利な言葉だな……わかってはいる、ただ、あのような場所は苦手なんだ。誰も彼も自分の家の権力を強くするために血眼になっているような気がしてな」
自分が夜会に出ない事を棚に上げるなと言われてしまったため、笑って誤魔化します。
ヴィンセント様は夜会で伴侶を探している者達には純粋な気持ちよりも俗物的な物が多いと言われます。
確かにその通りです。私はサーシャ様がそばにいましたからヴィンセント様が言いたい事も理解しています。
ただ、それは夜会の中ではなく、貴族と分類される者達が昔から行っていた事であり、むしろ、私やヴィンセント様のような考えを持つ人間の方が異質なのです。
「私はヴィンセント様にはそのような野心のある方が合っていると思いますけどね」
「……冗談は止めてくれないか」
自分達が異質だからこそ、その伴侶には貴族的な考えを持っている人が良いと思う。
ヴィンセント様は貴族の令嬢達が好むような華やかな物を疎遠にするところがあるのですから、それを埋めるべき方を伴侶にするべきでしょう。
そう伝えてみるのですがヴィンセント様は表情を隠す事無く、嫌悪感を露わにします。
「冗談ではありませんわ。お茶会の中には有益な情報もあるそうですので見栄えのあるお茶会を開催されて人を引き付ける能力があるご令嬢を伴侶に選ぶのは当然だとは思いますよ。私はそのような才能はありませんので」
「……」
「女性には女性にしかわからない戦場もありますのよ」
私の言葉にヴィンセント様は眉間にしわを寄せておられますが皇帝妃となれば必要な能力である事も事実です。
次期皇帝としてそれくらいの事を考えて伴侶を探してくださいと進言するのですがヴィンセント様の眉間のしわは深くなるだけです。




