第4話
「まったく、お姉様は何も悪くないのに」
「そう言っていただけると気が楽になりますね」
お昼休みになり、学園に設置されているカフェで昼食です。私はサーシャ殿と違って取り巻きを引きつれて喜ぶ趣味は持っておりません。そのため、私自身は貴族や有力者商家との交友関係自体は広くはありません。
話をされれば答えるくらいです。そのせいか私の事が嫌いな方達はお高くとまっているなどとも言われています。そんな私になぜか妙に懐いているアメリア様なのですが彼女は私の前の席を陣取ってサンドイッチを頬張っています。
彼女の耳にもあの日の修羅場の話は届いているようで彼女は全面的に私の味方をしてくれるようです。
人づきあいのあまりない私の味方をしてくれるのは大変、ありがたいです。笑顔でお礼を申し上げるとアメリア様は嬉しそうな笑顔を見せてくれました。
「だいたい、アルフレッド様がお姉様を裏切ったのが悪いのです。私を始めとしたお姉様親衛隊は全面的にお姉様を応援します」
……すいません。何か聞きなれない言葉が聞こえたような気がします。聞きなれない言葉に顔が引きつるのがわかります。
ですが、アメリア様はぷりぷりと頬を膨らませながらアルフレッド様への文句を漏らしています。
……ここでその私の親衛隊と言う物に付いて聞かせていただけるのでしょうか?
「あの、アメリア様、その私の親衛隊と言うのは」
「お姉様を尊敬する令嬢達が有志で作った物です」
……意味が理解できません。尊敬されるような事をして来た記憶もありません。私は侯爵家であるマージナル家の令嬢ではありますが尊敬されるべき者はお父様やお兄様であって私ではありません。
「私は尊敬されるような事はしていませんよ」
「そう思っているのはお姉様だけです。アルフレッド様やサーシャ様は自分達より、身分の低い者達を見下して自分勝手に振舞っていましたからね。お姉様はそれを良しとせずに私達のような者にもお優しい言葉をかけてくださいました」
自分は何もしていないと言うのですがアメリア様は普段の行いの差だと言われます。
今まで、そんな気は無かったので戸惑ってしまいました。アメリア様はそんな私の表情を見て表情を緩ませます。彼女の表情に釣られるように笑ってしまうのですがやはりどこか納得がいきません。
「それでお姉様はこの後、どうするつもりなのですか?」
「この後ですか……」
私の複雑な思いなど気にする事無く、アメリア様は質問をしてきます。質問の意味がわからないと言いたげに首を傾げてみせるのですが彼女の目は真剣そのものです。
アメリア様が言いたい事はきっと……いえ、間違いなく新しい婚約者の話でしょう。個人的には傷心を装ってしばらく婚約も結ばずに領内に引きこもっていたいのですが侯爵家令嬢としてそう言うわけにも行きません。
ですがこの近隣で言えば年が近くてマージナル侯爵家と家禄が釣り合うような家はありません。それも計算してアルフレッド様の不貞を野放しにしていたわけです。
「お姉様」
「いくつか縁談の話がお父様の下に届いているようですが、しばらくはその気はありません」
心配そうな表情をするアメリア様に笑いかけると彼女は私の言葉に眩しいくらいの笑顔を見せてくれました。
ですが、1つの不安が、アメリア様の言う私の親衛隊と言う物は私に性的な好意を寄せているわけではないですよね?
尊敬されるのは悪い気はしません。アメリア様はかわいらしく妹のように懐いてくれている事に妹のようにも思ってもいます。ただ、私は同性愛に興味はありません。
「あ、あの。アメリア様、1つ確認したいのですけど」
「はい。なんですか?」
「……私の親衛隊に入られていると言うご令嬢達はあの同性愛者と言うわけではありませんよね?」
アメリア様がそのような性癖を持っていればお付き合いの仕方を変えなければいけません。慕っていただけるのは大変喜ばしいのですが私はそのような特殊な性癖は持ち合わせていません。
聞くのが怖いのですが、何かあって襲われては困ります。若干、腰が引けている気がしますが平静を努めてアメリア様に聞いてみました。
質問の意味がわからないのかアメリア様は小さく首を傾げます。
なかなか、答えが返ってこない事に息を飲んでしまいます。まさか、真実に気が付いた瞬間に襲われてはたまったものではありません。
妙な緊張感を持ってしまっているせいか、時間が長く感じられました。その時、アメリア様はようやく私の質問に合点がいったようでポンと手を叩きました。
「心配ありません。お姉様、そのような考えを持つ者達は私達お姉様親衛隊が全力で排除します」
「そ、そうですか」
私が心配する事など何もないと満面の笑顔を見せてくれるアメリア様ですが……どうしましょう。私の親衛隊を名乗っているご令嬢達はかなりの武闘派のようです。
この受け入れがたい現実に脳が拒否をしようとするのですが、何とか自分を落ち着かせるために紅茶を口に運びます。
「でも、良かったです。お姉様とあの勘違い男の婚約が無くなって」
……もう、アルフレッド様の名前を呼ぶ気もないのですね。紅茶を飲んで少し落ち着いた私は彼女のアルフレッド様の呼び方にため息が漏れてしまうのですが彼女が気にする様子はありません。
仕方ありませんね。アルフレッド様はバルフォード家を継がずに小父様の領地の1つを継いで子爵を名乗るはずです。そう考えれば伯爵令嬢のアメリア様に今までのような態度を取る事もできないでしょう。
「お姉様、次の婚約者は私達が納得のいく方をお選びになってください」
「そうは言われましても、政略結婚ですから、私が何か意見を言えるとは思えませんけど」
「大丈夫です。私達には心強いお方がいられます」
「そ、そうですか」
アメリア様は身体を乗り出して次の婚約者にはアルフレッド様のような方を選ばないで欲しいと言います。
それに関して言えば、賛成したいのですが所詮は政略結婚です。私に決定権などはございません。首を振って見せるのですがアメリア様は満面の笑顔で強力な味方がいるとおっしゃってくれます。
……ただ、なぜか不安しか感じませんでした。