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性分ではありません  作者: 紫音
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第39話

「いないかしら?」

「心当たりはありませんね」

「そう、それは残念ね」


サーシャ様を薦める事が失敗してしまったため、アリシア様の言いたい事を無視してあくまでも私に紹介してくれないかと聞かれている体で答えます。

私の返事にアリシア様は目を細めた後、表情を和らげます。


……口では理解してくれたようですが、本当に納得してくれているとは到底思えません。何か対策をしておかなければなりませんね。


これから始まるであろう長い戦いに気を引き締めなければいけません。


「腹をくくってくれたら良いですのに」

「本当にね」


私が気を引き締めている姿にすでに完全に裏切っているイルムとアリシア様が談笑をしています。

元々、敵地に入り込むとは思っていましたがお付きの人間に後ろから刺されるとはまったく思っていませんでした。


……イルム、覚えて起きなさい。


「お嬢様、私の雇い主はマージナル侯爵家ご当主様です」

「何を言っているのかしら」

「ルディア嬢、身内での睨み合いはマージナル家に戻ってからにしてくれないか?」


屋敷に戻ってから、イルムに何かしらのペナルティを与えようと思っていたのですが付き合いの長い彼女には私の考える事などお見通しのようで笑顔で返されてしまいます。

負けずに笑顔で返すとヴィンセント様は睨み合いを見て、呆れられたようでため息を吐かれます。

確かにアリシア様の前であまり恥を晒すのはマージナル家のためにも良くありません。視線で合図を送り、一先ず、この場を収めます。


「噂以上に楽しい娘さんね」

「……母上がルディア嬢についてどのような噂を聞いているかが気になるのですが……」

「どんな噂でしょうね」


アリシア様は楽しそうに笑ってくださるのですがヴィンセント様は疲れた様子です。

そんな彼の様子を見て、アリシア様はくすくすと笑うのですがその姿はなぜかヴィンセント様を挑発しているようにも見えます。

アリシア様の表情にヴィンセント様も私と同じ事を考えたのかムッとした表情をされます。


……面倒な母子関係にも見えなくないですね。


ヴィンセント様の表情が変わる度に楽しそうな表情をするアリシア様の様子にヴィンセント様をからかうためだけに呼び出されたような気がしてきます。

それならばむしろ大歓迎なのですが考えている事が……そんな事を考えていた私に向かいアリシア様は微笑みかけます。

ダメです。完全に思考が読まれている気しかしません。


「良い噂だと良いのですけど」

「そうね。悪意のある噂もたくさんありますからね。まったく、本人が気に入らないからと言って悪意のある噂を流すのはどうなんでしょうね」

「そうですね」

「その分、ルディアさんの良い噂はルーニィからたくさん聞いていますよ」


このまま、アリシア様に主導権を握られていると婚約話を進められそうなのでどうにか主導権を取ろうと画策します。

自分で言うのもなんですが私は変わり者の侯爵令嬢。そんな人間に付いてくる噂。あまり良い物ではなさそうです。

皇帝妃様になると悪意のある噂を流される事もあるのでしょう。アリシア様は深いため息を吐きます。

同調するように頷くと満面の笑みを見せて頷かれてしまうのですがその後に続いた言葉に背中に冷たい物が伝いました。


……ルーニィ様、アリシア様に何を吹き込んでいるのでしょう。


盲目的なところが見えるルーニィ様ですから、良い事を言ってくれているにしてもかなり誇張されていそうです。

それがこのお茶会の原因である可能性は充分に考えられるため、頭が痛くなるのですがまさか悪い噂より、良い噂のせいで頭を悩ませるとは思っていませんでした。


「大丈夫ですよ。私達は悪い噂をそのまま信じるような愚かな人間ではありませんから」


……私ではなく私達と言う言葉に引っかかるのですが、ここでは追及しない方が良さそうです。

聞きようによってはアリシア様が私を励まそうとしているようにも聞こえるのですが、どうも裏がある気がしてなりません。


「疑われているわね」

「申し訳ありません。アリシア様、お嬢様は疑り深くなっているようで」

「まったく、ヴィンセントがルディアさんを大切に扱わないから」

「……なぜ、俺のせいになるのですか?」


……完全にイルムはアリシア様側ですね。

私の考えている事を察したイルムがアリシア様に頭を下げるのですがなぜか矛先はヴィンセント様に向かいます。

ヴィンセント様は自分に向いた矛先に眉間に険しいしわを寄せるのですがアリシア様は楽しそうです。


「当然でしょう。あなたの領内を見て回りたいと言うわがままを聞いたせいで女性の扱い方もわからない息子が出来上がったんですから」

「次期皇帝として当たり前の事でしょう。民の生活や領地運営をしている者達の裁量もわからずに国を動かして行く事はできません」

「確かにそれも皇帝として必要な能力ですが世継ぎを作るのも重要な事です。今まで何もしてこなかったから、現状でルディアさんにご迷惑をかけているんですからね」

「め、迷惑などかけては……」


ヴィンセント様に向けられた矛先は真っ直ぐに彼に向けられたまま、動く事はありません。

向けられた矛先を何とかかわそうとするヴィンセント様ですが、アリシア様の視線に言葉が続きません。

この状況で私の性格を知っていると反論など出来なかったようです。


「とりあえず、この話はここまでにしておきましょう。私達もルディアさんの良い噂も悪い噂も耳に入れていますし、本題に移りましょう」

「ほ、本題ですか?」


ヴィンセント様を完全に黙らせたアリシア様は私の顔を見て、にっこりと笑います。

次に続く言葉に声が震えます。私の頭の中で危険を知らせる警笛が鳴り響いているのです。


「ルディアさん」

「はい」

「あなた、植物に詳しいようですから、お城の庭の手入れに協力してくれないかしら」


……はい? 


絶対に婚約話が飛び込んでくると身構えていた私に向けられた言葉は予想外であり、完全に呆けてしまいます。


「協力してくれないかしら?」

「はい。喜んで!!」

「ありがとう。嬉しいわ。それじゃあ、よろしくお願いしますね。手配しておきますから」


呆けている頭は確認された際に欲望に従って返事をしてしまいます。

すぐに下手を打った事に気が付くのですがもう遅い。

完全に罠にはまったと気が付いた時には手遅れでした。


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