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性分ではありません  作者: 紫音
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第37話

……初めて、お城にきましたが、あまり良い状況とは思えませんね。


お城に到着し、案内の者についてお茶会が開かれる中庭へと向かいます。この国を統べる者が住み、この国の中枢である場所ですが、やはり冷害の影響を受けているようでどこか土気色に見えてしまいます。

マージナル侯爵家領内の状況を見ているイルムも私を同じ事を考えたようで難しい表情をしています。


「イルム、表情が怖いですよ」

「失礼しました。お嬢様、ですが、これがこの国を象徴かと思うと……」

「イルム、何も手を打っていないわけでも無いでしょう」


同行を許されたとは言え、彼女はただの侍女です。皇帝妃様に不評を買ってしまうといけません。

私の言葉に彼女は表情を元に戻すのですがやはり、お城への期待を持っていたのでしょうか、すぐには割り切れないようです。


「言いたい事もわかるけどね」

「……ヴィンセント様、どこから現れるのですか?」

「何を言っているんだ。俺は城に住んでいるんだ。居るのが当たり前ではないか。それではルディア嬢、行こうか?」


その時、背後から聞きなれた声が聞こえます。

それは私やイルムだけではなく、案内の者も気が付いたようでヴィンセント様に視線が集中します。

彼の自由すぎる行動については案内の者も知っているようで反応に困っているように見えますが皇太子であるヴィンセント様には何も言えないようです。

そのため、私が代表して声をかけるのですがヴィンセント様が気にするような事はありません。

それどころかエスコートをすると言いたいのか、案内の者に下がるように指示を出すと私の前に手を出しました。


……確かにヴィンセント様がいるのは当然なのですが、お茶会に顔を出しても良いのでしょうか?


ただ、ヴィンセント様の事ですから、何か良からぬ事……もとい、良い作戦を考え付いたのかも知れません。

エスコートされている姿を皇帝妃様に見せるのは良くないのではと思いながらもここで手を取らないわけにもいきません。


「……何を考えているのですか?」

「おかしな事は考えていない。すぐに疑うのは止めてくれないか。少なくとも今回の件に関しては俺とルディア嬢は共犯者だろう?」

「共犯者と言われるような事を私はしていませんわ……まあ、良いでしょう。ただ、ここに現れると言う事は何か良い策を思いついたのでしょうね?」


案内の者が下がった事を確認し、彼の目的を尋ねます。

私の視線にヴィンセント様はため息を吐かれるのですが、どうしても今までの彼の行動を見ていては簡単に信じる気にはなれません。


「ずいぶんと仲がよろしいようですね」

「……母上、なぜ、ここに?」

「え?」


今回のお茶会を無事に切り抜ける方法を考え付いたのだと思い、その方法を確認しようとした時、背後から女性の声が聞こえました。

振り返った先にはドレスを身にまとった女性が立っています。

その女性はヴィンセント様のお母様であり、私をこの場所に呼び出した張本人である『アリシア=エルグラード』様でした。


「ヴィンセントの事ですから、何か企んでいると思ったの」

「……何も企んでいませんよ。むしろ、企んでいるのは母上でしょう」


アリシア様はにっこりと笑いながら言うのですが、その瞳の奥は笑っているようには見えません。

どこか背中に冷たい物が伝い後ずさりしそうになってしまいますがヴィンセント様は握っていた私の手を握り返してくれます。


「噂に聞いていた通り、かわいらしいお嬢様ですね」

「……かわいらしい?」

「それは誰に対する評価ですか?」

「……お嬢様、その反応はいくらなんでも」


握られた手の温もりに不覚にも胸が高鳴ったような気がしますが、きっと気のせいに違いありません。

私が気の迷いを否定している様子を見て、アリシア様はくすりと笑うのですが私もヴィンセント様も誰の事を言っているのかわからずに首を傾げてしまいます。

ですが、その反応は間違っていたようでイルムは大きく肩を落とし、アリシア様は笑いをかみ殺しています。


「初めまして、ルディアさん」

「は、初めまして、アリシア様」


中庭に移動して、改めて、アリシア様と挨拶を交わします。

中庭には2人分の席しか用意されておらず、ヴィンセント様はお茶の用意をしている侍女に指示を出します。

最初から席が2つしか用意していないと言う事はルーニィ様の名前は私を呼び寄せるために使われたと言う事でしょうか? それとも単純に時間が合わなかったと言う事でしょうか?


……まあ、皇帝妃様のアリシア様からのお誘いを断ると言う事はまず、あり得ませんし、前者と考えるのが妥当でしょうね。


「それで母上、なぜ、ルディア嬢をこんなところまで呼び出したのですか?」

「こんなところとはどういう事ですか?」

「……なぜ、お茶会を開いて、ルディア嬢を呼び出したのですか?」


席が用意されて3人分の紅茶とお茶菓子がテーブルに並ぶとすぐにヴィンセント様が口を開きます。

確かにこのお茶会が開かれた理由は気になりますがお城をこんなところと言うのはどうかと思います。

それはアリシア様も引っかかったようで笑顔で聞き返します。その笑顔にはすべてを黙らせるような迫力があり、ヴィンセント様すらも黙らせてしまいます。


……下手な事を言わない方が良さそうですね。


不評を買えば、マージナル家にも被害が及ぶかも知れません。

下手な事を言わないようにしばらくはヴィンセント様に任せておきましょう。


「お嬢様、日和見をするのはどうなんですか? ヴィンセント様はお嬢様の事を思ってこの場に同席してくださっていますのに」

「そう言われてもお2人のお話の中に割って入るのもなんですので」


ヴィンセント様とアリシア様の様子を眺めながら、いつもとは違う紅茶の味を楽しんでいると後ろに控えていたイルムにため息を吐かれてしまいます。

言いたい事はわかりますが私が口を挟んで良い状況には思えませんから少し様子を見ていようと思いますがイルムは私の言葉で納得できないようで眉間にしわを寄せてしまいます。


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