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性分ではありません  作者: 紫音
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第36話

「……結局、どうなってしまうのでしょうか?」


アメリア様からの情報収集は上手く行かず、ただ、時が過ぎるだけでした。

ヴィンセント様もルーニィ様と皇帝妃様の目的を探ろうとはしてくれたようですが自分勝手に国内を歩き回っているせいか、強くは出られなかったようで流されてしまったようです。

結局、何の情報も得られないまま、お茶会の当日になってしまい、お城に向かう馬車の中でため息が漏れてしまいます。


「お嬢様がヴィンセント様の婚約者に納まってしまえば何も問題はないと思います」

「……イルム、冗談は止めてください」


同行していたイルムは呆れたようにため息を吐き、おかしな事を言い放つ始末ですが、ヴィンセント様と婚約など恐れ多いです。

私は領内で趣味だけをして生きて行きたいのですから、そんな面倒な事はごめんです。婚約者になってしまえば、次期皇帝妃としての教育に時間が取られてしまい、趣味に没頭できる時間が無くなってしまうではないですか。


元々、夜会や舞踏会のような華やかな場所が苦手なのです。皇帝妃など胃が痛くなるような場所に立ちたくなどはありません。

私はキレイに着飾ってあのような場所で笑っているより、土をいじっていたいのです。


「どうにかして、そのようなお話に持って行かれないようにしなくては、状況的にはルディア様がヴィンセント様の婚約者に納まるのが1番、良いはずです。そのためには……」

「お嬢様、わがままもそろそろお止めください」


婚約者などになってしまっては趣味に没頭できない。それは死んでいると同じです。

それを回避するためには公爵家のご令嬢のルディア様を婚約者の位置に納めるのが最善だと思います。私がヴィンセント様と婚約すればサーシャ様が騒ぎ立てますがルーニィ様は公爵家のご令嬢なのです。権力に弱い貴族は多い。私が納まるよりは絶対に良いはずです。

そう考えて皇帝妃様を味方に引き入れる策を考えようとした時、イルムは私の考えをわがままと切り捨てます。


「わがまま?」

「そうです。言いたくはありませんがお嬢様はマージナル侯爵家のご令嬢なのです。マージナル家領内の者達だけではなく、この国に住まう者達、すべての生活を守る義務があるのです」


その言葉の意味がわからずに首を傾げてしまうのですがイルムは侯爵家の血に連なる者として必要な事だと続けます。


……話が大きくなりすぎです。


彼女の言いたい事もわからなくはないですし、イルムが私の事を高く評価してくれていると言う事がわかり、嬉しくも思います。ただ、私はお父様やお兄様と違って男性ではありませんし、お2人のように才能に溢れているわけではありません。

才能の無い者が上に立てば必ずと言って良いほど不満が出ます。それが小さなものならば良いですが大きくなれば国が傾いてしまうかも知れないのです。


「……言いたい事はわからなくもありませんが、私よりも適任者がいるでしょう。私はお世辞でも他の貴族の方々と有効的とは言えないのですから、不満が大きくなり、おかしな事が起きてしまってはいけません」

「お嬢様が次期皇帝妃になっておかしな事が起きるのでしたら、身分を隠して公の場にも姿を現さないヴィンセント様が皇位を継承なされてもおかしな事が起きる事は充分に考えられます」

「……」


……ヴィンセント様の正体を知っている人間はわずかでした。


イルムの言葉に眉間に深いしわが寄ってしまいます。

現状、彼は身分を隠して国内を歩き回っており、正式な公務の実績が何1つないのです。

国によっては皇位継承者の身分を隠し、実績を積ませる事で皇帝としての資質を見極めるところもあります。ですが、我が国は建国以来そのような事をやった事はないはずです。

その上、噂ではヴィンセント様はお身体が弱いとされています。現皇帝がお元気なうちは良いでしょうが、ヴィンセント様が皇位を継いだ時におかしな事が起きる可能性は充分に考えられます。


「……現ウィーグラード公爵様は信頼を得られていないと言う事でしょうか?」

「わかりません。ヴィンセント様の行動がどこまで知れ渡っているかにもよりますから」


お互いにその気がなくとも年の近い者が公爵家にいる。

そう考えると現政権の力を強くするためにも取り込むのは間違った手段ではありません。

それなのにヴィンセント様とルーニィ様の関係は従兄妹同士のまま、ルーニィ様にすでに婚約者がいるからと言うわけでもない。

そう考えると何かきな臭い物があるような気がしてしまいます。


「……ルーニィ様のご様子からはそのような事が起こりうるとは思えませんね」

「ルーニィ様の意志とは別の物が動いている事は充分に考えられます。お嬢様、警戒は怠らないようにお願いいたします」


他人の話を聞いてはくれないし、暴走気味のところはありますが嫌いにはなれない。

ルーニィ様の笑顔が目に浮かんでしまい、頬が緩んでしまうのですがイルムは警戒するように言ってくれます。


「お城でそのような事はないとは思いますが」

「……お城以外です。お嬢様はご自分の立場を理解されていないところがありますから」


ヴィンセント様の正体を知らない者達は身体が弱い皇太子様を傀儡にしてしまえばと画策している可能性だってある。

その者達から考えれば婚約者に納まる可能性のある私は邪魔な存在でしかありません。

イルムは私が領内を歩き回る事を控えるように言っているように聞こえますが、そんな事をしてしまえば私がストレスで死んでしまいます。


「そんな事はありませんけど……」

「もし、お嬢様に何かございましたら、大変な騒ぎになる事は間違いありませんから」

「ヴィンセント様の婚約者になるかならないかの前にマージナル侯爵家にケンカを売るわけですからね。ただ、ヴィンセント様の正体を調べる前に仕掛けてくるような相手でしたら、相手にもなりませんわね」


私が簡単に忠告を聞き入れるとは思っていないイルムは真剣な表情で釘を刺してきます。

確かに彼女の言いたい事もわかりますが、国内や王都で流れている噂程度で仕掛けてくるような者達がいるのでしたら逆にこの国の行く末が心配になりますね。


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